49話 清掃おじさん、最強の双子と戦う②
「⋯⋯え?」
空さんが固まった。
多分、今のが『爆破』だったのだろう。
この感覚⋯⋯ダンジョン内で一度、黒川さんに『固定』を使ってもらった時と同じ感覚だ。
生物に直接効果があるスキルは、殆どにおいて『魔素量に絶大な差がある場合、効果を発揮しない』というものがある。
たとえば黒川さんはゴブリンなら1分でも止めていられるが、ベヒーモスの時はほんの一瞬しか止めることができなかった。
そして、俺の際は一瞬も固定することができなかった。
つまり——空さんの『爆破』も同じ、ということか。
「⋯⋯なんか、すみません」
「⋯⋯何で謝るのよ!」
「いや、何となく⋯⋯」
空さんが俺の腕から手を離す。
自分の掌を見て、もう一度俺を見る。
「もう一回」
「え?」
「動かないで」
再び腕を掴まれた。
何かが入ってくる。しかし——何かが消える。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
二人に沈黙が生まれた。
「もう一回」
「いや、何回やっても多分同じですよ」
「うるさい!」
三回目も、やはり何も起きない。
「姉さん⋯⋯」
「何!」
「無理だと思う⋯⋯」
「分かってる!」
怒られた。
海さんが少しだけ肩をすくめた。
「なんやそれ!反則やん!」
獅子堂さんが大笑いしている。
「能力そのものを消しているわけではなさそうですね。空さんの爆破は魔素量の差による耐性、海さんの交換は清掃で魔素を消すことによって対処した——。お二人にとっては、かなり相性が悪い相手ですね」
白峰さんが冷静に分析する。
「まだ終わってないわよ」
空さんが俺から離れた。
その顔から、さっきまでの余裕が消えている。
「私たちの能力があなたに直接効かないだけで、勝てないわけじゃない」
それは俺も同意見だった。
海さんは魔素を込めることで即交換ができる。
空さんも外から爆発を当てることはできる。
能力を完全に封じたわけではない。
むしろ、ここからどう戦うかがS級探索者の本領なのだろう。
「海」
「うん」
海さんが手を伸ばす。
次の瞬間海さんの姿が、何度も消えた。一瞬で位置が変わり見失った隙に、また位置を入れ替えて近付いてくる。
すぐに清掃を発動するが、関係ないらしい。
よく見ると、海さんのガントレットからも空さんのように何かが出ている。
恐らく針くらいのようなものを、魔素を込めてから射出し、位置を交換しているのだろう。俺が清掃を使うより、針に魔素を込め射出し、交換する方が速い。物体同士の交換はほぼ完封できていると思うが、海さん自身の瞬間移動を封じることができない。
幸い清掃スキルのおかげで、魔素込の針が訓練場中に散らばり、縦横無尽に瞬間移動されるということは無い。
一方、空さんも爆弾を連続で撃ち込んでくる。
さっきまでより明らかに速い。
俺を能力で直接どうにかすることを諦めて、純粋に二人で連携して攻撃してきていた。
だったら、俺もいつまでも逃げているわけにはいかない。
「喰らって」
「っ!」
海さんが目の前に現れ、すかさず拳を避ける。
今度は追わなかった。
海さんが交換できるのは、自分の視界にある対象だけ。
そして交換対象は、掌部分から直線上に射出された魔素の込められた針。
なら——さっきわざと追わなかった際に射出した針の位置。そこと交換するはず。
振り向くと、海さんが現れる。
「え」
驚いた海さんの腕を掴んだ。
そして手をチョップの形にして、軽く海さんの頭に当てる。
「はい、俺の勝ちです」
「海!」
空さんが叫ぶ。
爆弾が飛んでくる。
俺は海さんから手を離し、一気に空さんへ走った。
空さんの目が見開かれる。
俺は敢えて爆弾に突っ込んだ。何故なら、あのままだと爆弾が海さんにも当たりかねなかったからだ。
ワイシャツがまた焦げた。だが止まらない。
「ちょ——」
空さんが後ろへ跳び、さらに爆弾が飛んでくる。
避けるより、前へ出た。
一発が肩で爆発したが、そのまま距離を詰める。魔素を込めれば、なんて事ない痛さだ。
そして遂に空さんの目の前に来た俺は、拳を握る。
「——っ!」
空さんが身構えた。
俺はその顔の横を通り過ぎるように拳を振った。
風圧が空さんの髪を大きく揺らす。
拳は当てていない。
海さんの時のようにチョップの型を取り、そのまま横に手を動かして空さんの首を横からトン、と押す。
「⋯⋯これで、俺の勝ちですね」
空さんは動かなかった。
俺の拳と、俺の顔を交互に見る。
後ろでは海さんが起き上がっていたが、こちらへ来る様子はなかった。
少しして、審判役の職員が声を上げた。
「そこまで!勝者、田中和彦!」
力を抜く。
「はぁ⋯⋯疲れた」
⋯⋯なんとか勝てた。
能力の相性が俺にとってかなり良かったのも大きい。
もし俺自身まで海さんの『交換』で好きな場所へ飛ばされていたり、空さんの『爆破』で体を爆発させられていたら、まともに戦えた気がしない。
それでも、日本のS級探索者二人を相手に勝つことができた。
「うっわ、マジか!」
獅子堂さんが大笑いしながら近づいてくる。
「ほんまに勝ちよった!しかも二人まとめて!」
「相性が良かっただけですよ」
「相性良くてもS級二人やぞ!」
そう言われても、俺自身が一番信じられない。
白峰さんもこちらへ歩いてきた。
「お見事でした。途中から海さんの移動先を読んでいましたね」
「神崎さん——師匠に似たようなことを教えてもらってたので。まだ全然ですけど」
「それを実戦で使えたなら十分ですよ」
「神崎⋯⋯福岡の神崎って、あの孤高の王かいな!?そら読みが鋭いわけや!」
「あはは⋯⋯」
褒められると少し嬉しい。
俺が二人と話している間も、空さんはその場から動いていなかった。
海さんが隣まで歩いていく。
「姉さん」
「⋯⋯何」
「負けたね」
「分かってる」
「二人がかりで⋯⋯」
「分かってるって言ってるでしょ!」
相当悔しいらしい。
まあ、S級になってから二人まとめて負けるなんて経験は、そう多くないのだろう。
俺としては、もう一回やれと言われても困る。
「田中さん」
空さんに呼ばれた。
「はい」
こちらを向いた空さんは、まだ納得していないような顔をしていた。
「⋯⋯あなたが強いのは認めるわ」
「ありがとうございます」
「でも次は負けないから」
「次もあるんですか?」
「当たり前よ。勝ち逃げなんて許さないわよ」
⋯⋯⋯⋯勘弁してほしい。
「姉さん、負けず嫌いだから」
「海!」
少しだけ空気が緩んだ。
これで終わった。——そう思ったのだが。
「なあ、おっちゃん」
背後から声をかけられた。
振り向く。
獅子堂さんが、ものすごく楽しそうな顔をしていた。
「⋯⋯何ですか?」
「俺ともやろうや」
嫌な予感はしていた。
どうやら今日は、まだ帰れないらしい。
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