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十四冊目の嘘  作者: 風蔵渚彩


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第四章 ノートの中で息が詰まる

恋には、音がある。


着信音でも足音でもない。

返事を待っているあいだ、胸の内側で鳴り続ける、聞こえない音だ。


それを知ったのは、四冊目のノートに入ってからだった。


交換日記は順調に増えていった。

一冊目は告白の勢いで終わり、二冊目は嬉しさで埋まり、三冊目には触れたいだの会いたいだの、十五歳なりの欲望が顔を出した。


四冊目から、少しずつ別のものが混じり始めた。


―今日、昼休みに誰と話してた?


最初は何気ない一文だった。


私は、クラスの男子にプリントを渡しただけだと書いた。


―ふーん


それだけの返事。

なのに、その「ふーん」は妙に薄く、冷たかった。


彼の文字は機嫌で変わる。

私はもう、それを読むことに慣れていた。


次の日。


―なぎさって、ああいう明るい男子の方が合うんじゃない?


冗談めかしている。

でも冗談に見せる人ほど、本気で傷ついていることがある。


私は慌てて書いた。


―そんなことない。私はあなたがいい。


その一文を書きながら、

私は少し気持ちよかった。


必要とされている。

嫉妬されている。

誰かの特別になっている。


十五歳の承認欲求は、だいたい恋と見分けがつかない。


それから彼は、よく質問するようになった。


―帰り、なんで先に帰ったの?


―今日、俺のこと見てた?


―なんで朝あいさつしなかった?


―俺のこと好きだよね?


最後の一文だけ、私は何度読んでも胸が熱くなった。


好きだよね。


確認されるたび、

私はもっと好きにならなければいけない気がした。


ノートの返却が一日遅れた夜、私は眠れなかった。


夕方、いつもの下駄箱に入っていない。

放課後、剣道場にもない。

帰宅しても机の上にない。


たったそれだけで、呼吸が浅くなる。


事故にあったのでは。

私に冷めたのでは。

誰かに見つかったのでは。

別の女の子に行ったのでは。


十五歳の想像力は、たいてい不幸の方へよく伸びる。


夜十一時を過ぎても眠れず、天井の木目を数えていた。

すると窓に小石が当たった。


こん、と乾いた音。


私は飛び起きた。


カーテンを開けると、家の前の電柱の影に彼が立っていた。


ジャージ姿で、自転車を押している。

手にはノート。


私は心臓を置き忘れたみたいになって、階段を駆け下りた。


玄関をそっと開ける。


「なんで……」


「ごめん。部活長引いた」


息を切らしながら、彼はノートを差し出した。


「今日中に返したかったから」


私は受け取った。

ノートは彼の体温で少しあたたかかった。


「来なくてよかったのに」


本心ではなかった。


来てほしかった。

来てくれたことに、泣きそうなくらい嬉しかった。


彼は少し黙ってから言った。


「なぎさが、待ってると思って」


その言葉は、夜の空気より静かで、

私の中の何かを決定的に変えた。


待ってると思って。


私はこの人に読まれている。

私の寂しさも、癖も、依存しやすさも。


それが嬉しかった。

怖いとも思わなかった。


部屋に戻り、布団の中でノートを開く。


最初のページに書いてあった。


―返事が遅れただけで、なぎさが誰かに取られる気がした。


次のページ。


―こんな自分、重い?


その問いに、私はすぐ返事を書いた。


―重くない。うれしい。


あれが嘘だったのか、

それともあのときだけ本当だったのか、

今でも私には分からない。


ただ確かなのは、

人は自分で開けた扉の蝶番の音を、あとになって呪うことがある。


翌朝、学校ですれ違った彼は、いつも通り他人の顔をしていた。


でも私だけが知っていた。


昨夜、この人は私の家まで来た。

私の眠れなさを、喜びに変えに来た。


そう思った瞬間、私はますます深く沈んだ。


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