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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第1章 料理人アタッカー誕生編

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第8話 ギルドシンボル

 ミコトさんは満面の笑みで、期待に満ちた目を向けてくる。


「……今、俺がギルドマスターって聞こえた気がしたんだけど、気のせいだよね?」

「いえ。そう言いましたよ」


 真顔で即答された。

 冗談だと言ってくれ。


「えっと……さっきの流れだと、ミコトさんが作るって話じゃなかったっけ?」

「私は前のギルドでサブマスター経験がありますから、サブマスターをやります。サブマスターは二人まで設定できますし、クマサンもサブマスターで。フォローは私がします」

「いやいや、人望と経験で言ったらどう考えてもミコトさんがギルドマスターだよね?」

「そうですか? 私はショウさんが相応しいと思いますけど?」

「……俺もショウがいいと思う」

「クマサンまで何言ってんだよ!」


 完全に外堀を埋められている。

 六人パーティも組めない、三人だけのギルド。

 しかも俺がギルドマスター。

 メンバーは、無口で不愛想だが、誰より責任感が強くて頼りになる重戦士のクマサン。

 そして容姿も実力も一流で、ハズレ職業の俺を一度もバカにすることもなく、昔から親しく接してくれている巫女のミコトさん。

 ギルドを作ったところで、できることは限られている。

 特別な目的があるわけでもなく、ただ三人でくだらない話をして、笑って……。


 …………。


 それって……めちゃくちゃ楽しいじゃない。

 さっき俺は、ミコトさんの理想を幻想だと思った。

 でも――


 この二人となら、その幻想を現実にできるかもしれない。


「……俺がギルドマスターで、本当にいいのか?」

「もちろんだ」

「ショウさんがいいんですよ」


 二人の表情には、仕事を押しつけるときのあの打算的な笑顔はない。

 あるのは、ただ信頼だけ。

 ――ああ。

 人に期待されるって、こういうことなのか。

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「……やってみるか」


 気づけば、自然にそう言っていた。


「さすがショウさん! そうこなくては!」

「でも、俺、ギルドの作り方とかよくわからないんだけど……」

「大丈夫です! 私が教えますから!」


 その頼もしい言葉に背中を押され、俺はギルドウィンドウを開いた。

 これまで無縁だと思っていた画面だ。

 少し緊張しながら、ミコトさんの指示に従って設定を進めていく。

 途中で何度も思った。


 ――ここまで詳しいなら、ミコトさんがやればいいのでは?


 でも、言わない。

 二人が俺を選んでくれたのだ。

 なら、最後までやる。


「はい、そこでギルド名を登録してください。一度決めたら変更できませんから、慎重に考えてくださいね」

「ちょっと待って。そんなこと、急に言われても……」


 俺は助けを求めるように二人を見る。


「……二人は、どんな名前がいいと思う?」

「ショウに任せる」

「私もショウさんが決めた名前なら何でも構いませんよ」

「丸投げかよ!」


 思わずツッコミが出た。


「どうせなら、三人で考えたいんだけど?」

「まぁ、その気持ちはちょっとわかりますけどね」


 くすっと笑いがこぼれる。

 その空気の中で、クマサンがぽつりと呟いた。


「……だったら、食堂って名前を入れてほしい」

「いいかもしれませんね! 私達が出会った場所ですし。ショウさんの食堂に名前があれば、そのまま使えたんですけど……まだないんですよね?」


 残念ながら、この店はNPCから借りているだけだ。

 自分で購入した店舗でなければ正式な店名はつけられない。

 表示されているのは、ただの「ショウの店」。食堂という単語すら入っていない。


「ああ、自分の店じゃないからな」

「だったら、代わりにギルド名を『ショウの食堂』にするのはどうだ?」

「やめてくれ。ギルド名にギルマスの名前を入れてるとか、一番恥ずかしいやつじゃないか」

「じゃあ、『みんなの食堂』っていうのはどうですか?」

「……町内会感がすごいな」

「なら、『アナザーワールド食堂』は?」

「未知の食材を平然と出してきそうで怖いんだけど……」


 くだらない。

 でも、楽しい。

 そんな空気が一度、ふっと落ち着いた、そのとき――


「……三つ星食堂」


 クマサンが、静かに呟いた。

 俺のまぶたが、ぴくりと反応する。

 三つ星――ミシュランの星評価だ。食堂を名乗るのならミシュランの三つ星は、一つの到達点。

 けれど、クマサンの言う「三つ星」は、きっとそれだけじゃない。

 俺と、クマサンと、ミコトさん。

 猛き猪を倒した、この三人。

 名前をそのまま並べるのは照れくさい。

 だが――こういう形なら、三人を刻める。


「いいじゃないですか!」


 ミコトさんが、ぱっと表情を明るくして親指を立てる。


 二人の視線が、俺に集まる。

 最終決定は、ギルドマスターである俺の役目だ。

 胸の奥が、少しだけ熱い。


「俺もいいと思う! ――俺達のギルド名は『三つ星食堂』だ!」


 登録ボタンを押す。

 ギルド設立完了。

 俺の名前の横に、真っ白な円のシンボルが表示された。

 初期設定だと、ただの白い円なのか……。


「じゃあ、私とクマサンをギルドに誘ってください。『ギルド勧誘』を選べば招待できます」

「わかった」


 ミコトさんの指示に従い、二人に勧誘を送る。

 すぐに了承され、ギルドウィンドウのメンバー欄に三人の名前が並んだ。


 ……本当に、この二人とギルドを作ったんだ。


 三人の名前を見つめる。

 ただそれだけなのに、胸の奥がじわりと温かくなる。


「次に『サブマスター設定』を選んで、私とクマサンをサブマスターに設定してください」

「了解」


 二人をサブマスターに設定する。

 解散権限こそないが、運営のほとんどを任せられる立場だ。万が一、俺が急にログインできなくなっても、このギルドは続いていく。


「じゃあ、あとはギルドのシンボルマークですね。後からでも変更できますけど、真っ白なままはさすがに味気ないですし、とりあえず何か作りましょうよ」


 ミコトさんの言葉に、俺はうなずく。

 実は――前から少し憧れていた。

 彼女が以前つけていた、青い五角形に二本の剣が交差するシンボル。あれは本当に格好よかった。

 剣、魔法、ドクロ、ドラゴン……他のギルドのマークを見るたび、羨ましく思っていたのだ。


 さて。

 いざ自分で作るとなると――

 魔法もいい。ドラゴンも捨てがたい。

 けれど、やっぱり純粋な格好良さなら武器だろう。

 違う武器同士がぶつかる瞬間。

 たとえば、剣と槍が火花を散らす構図。

 シンボルにするなら、そういう男のロマンを刻みたい。

 そんなことを考えていると、クマサンが口を開いた。


「街の食堂をイメージしたシンボルはどうだ? 店の看板みたいなやつとか」

「ダメダメ! 俺のイメージはそういうのじゃないから!」

「なぜだ? 『三つ星食堂』なんだぞ?」

「名前はそうだけど! シンボルまで食堂感全開にしなくていいだろ!」

「いや、むしろ統一感が大事じゃないか?」

「統一感より格好良さだ!」


 しばらく真剣に言い合う俺達。

 その間、ミコトさんはほとんど口を挟まず、宙に向かって何度も手を動かしていた。

 俺と同じように、自分のウィンドウを開いて、何かを操作しているらしい。何をしているのかまでは、わからないが。

 やがて、小さく息を吐く。


「……試しに作ってみました。ちょっと見てもらえますか?」

「え、今の間に作ってたの?」

「はい。こういうの、好きなので」


 俺とクマサンは顔を見合わせた。


「こんな短時間で? すごいな。見せてくれ」


 クマサンの言葉に、ミコトさんは少し照れたようにうなずく。


「フレンド同士なら画像共有できますから、少し待ってくださいね」


 数秒後――


「へぇ……いいじゃないか」


 クマサンが素直に感嘆する。

 二人してうなずき合っているのは微笑ましいが、ギルドマスターを放置しないでほしい。


「……ミコトさん、俺にも」

「はい。今共有しますね」


 ミコトさんからの申請を承諾すると、目の前にデザインが表示された。

 白い円形の盾を背景に、片刃の剣と三又の槍が交差している。

 ミコトさんが前につけていたギルドマークに似た構図だが、洗練されているのはこちらだ。

 線は細く、均整が取れ、無駄がない。

 シンプルなのに、力強い。

 素直に――格好いい。

 とてもこの短時間で作ったとは思えない完成度だ。

 ミコトさん、こんな才能まであったのか。


「これ、いいじゃないか!」

「ありがとうございます! そう言ってもらえると嬉しいです。クマサンもこれでいいですか?」

「ああ。俺も気に入った」


 満場一致。

 ……の、はずだった。

 ふと、違和感が走る。

 もう一度、じっと見る。


 片刃の剣と三又の槍。

 ――に見えたそれは、形が微妙に違う。

 攻撃性よりも、扱いやすさを重視した曲線。

 武器にしては少々丸みを帯びた先端。


 これは――

 フォークとナイフだ。


 そして、背景の円形の盾は――どう見ても、ただの白い皿。


 剣と槍と盾だと思っていたものは、ナイフとフォークと皿だった。

 完全に、食器。

 思わず口を開きかける。

 いや、ちょっと待て。これは……。


「三つ星食堂にぴったりだと思いませんか?」

「ああ。さすがミコトだ。食堂らしさが見事に表れている」


 二人の顔は、本気で嬉しそうだった。

 その表情を見た瞬間、俺の中のこだわりは、すっと引いていった。

 我慢したわけじゃない。妥協でもない。

 俺の自己満足よりも、二人が楽しそうに笑っていることのほうが、ずっと大事だと自然に思えた。

 ただ、それだけだ。


「……いいな。三つ星食堂らしくて、最高じゃないか」


 俺がそう言うと、ミコトさんは照れながらも、花が咲いたように笑った。


 こうして、新たなギルド「三つ星食堂」が誕生した。

 その象徴は――

 白い皿を背景に、ナイフとフォークが交差するシンボル。

 戦うための武器ではなく、誰かを満たすための道具。

 それが、俺達の印になった。


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