第78話 そして30日目へ
正直、俺にはカレンがどこに行ったのか見当がつかない。一緒に行動してきたミコトさんの方が詳しいだろう。
「ミコトさん、カレンが行きそうなところって心当たりはある? よく一緒に行動していた場所とか」
「そうですね……。音楽学校や街頭パフォーマンスをよくやってましたけど……」
「わかった。だったら音楽学校には俺が行くから、ミコトさんは街頭パフォーマンスしていた場所を探してみて」
「わかりました!」
こうして俺達は手分けしてカレンを探すことにし、俺は音楽学校へ向かったわけだが――
「……休みか。街中でライブイベントをやってるんだ、当然だよな。ミコトさんの方が当たりだといいんだけど……」
喧嘩したとはいえ、カレンのことを一番理解しているのはミコトさんだ。
俺がいろいろ考えるより、彼女に任せた方がいい気さえしてきた。
「もし相手がエルシーだったら、俺はどこを探しただろうな……」
ふいにそんなことを考えてしまう。
ミコトさんと違って、俺とエルシーは私室で練習することが多い。音楽学校なんて選択肢はまず出てこない。
……ん、そうか! みんなだってそれは同じか!
当たり前すぎて忘れていたけど、俺達と六姉妹で一番関わり深い場所なんて――あの屋敷しかないじゃないか!
俺がその考えに至ったとき、ミコトさんから音声チャットの申請が飛んできた。俺はすぐに許可する。
『ショウさん、そちらはどうでしたか? こちらには見当たりませんでした』
「こっちはそもそも学校が休みだった。誰もいなくて静まり返ってる」
『そうですか……』
「でも、諦めるのはまだ早いぞ。屋敷に戻ってみよう。カレンにとって、一番ミコトさんとの思い出深い場所は、あの屋敷に違いない。喧嘩をしてもカレンがちゃんとミコトさんのことを想っているのなら、きっとそこにいるはずだ!」
『カレンが私のことを想ってくれているのなら……。わかりました! すぐに屋敷に向かいます』
「ああ! 俺も行くよ」
そうして俺は音楽学校を離れ、屋敷へと走り出した。
――もし、ここにもいなかったら。
その考えが頭をよぎる。
さっきまでの自信が、わずかに揺らいだ。
――俺が揺らいでどうする!
ミコトさんを支える俺がしっかりしないでどうするんだ。
気持ちを切り替え、踏み出す足に力を込めた。
俺が屋敷に着くのとほぼ同時にミコトさんも到着した。
彼女の顔には不安の色が浮かんでいる。
「ショウさん、もしカレンがここにもいなかったら、私……」
ミコトさんの声は小さく、まるで迷子の子供のように震えていた。
そんな彼女を見て、俺は自然と彼女の頭にポンと手を置いた。
「きっと大丈夫だよ」
ミコトさんは一瞬驚いたように俺を見上げた。
けれど、すぐに張り詰めていた表情が少しだけ緩み、安心したように微笑んだ。
「行こう」
「はい」
二人で屋敷に入る。
張り詰めた空気の中、応接室を覗くと――
俺が予想した通り、ソファでカレンが膝を抱えてうずくまっていた。
「……カレン」
ミコトさんの呼びかけでようやく俺達の存在に気づいたカレンが顔を上げる。
「……ミコト」
その声は、怯えるように震えていた。
今のカレンの顔を見れば、ミコトさんと喧嘩して飛び出したあと、ひどく後悔しているのがわかる。
「ミコトさんが思ってること全部ぶつけてくればいいよ」
俺がミコトさんの背中を押すと、ミコトさんはそのまま勢いよくカレンに飛びついていった。
ここからは二人だけの時間だ。
俺はそっと扉を閉めて応接室を出ると、そのまま屋敷を離れた。
ミコトさんならきっとすぐに仲直りをする。そして、今からでも二人でライブを再開する――俺はそう信じて疑っていない。
「ずいぶんと時間を取ってしまったな。エルシーを長い時間一人にさせていて、戻ったら怒られそうだ」
俺はエルシーのいるライブ会場へと急いで向かった。
俺がいない間に何かトラブルが起こって、ライブが中止にでもなっていたら目も当てられない。今までのイベントを見ていると、そういうことが本当にありそうなだけに少し不安にもなる。
「待ってろ、エルシー! すぐに君のもとへ行くからな!」
そして、会場へと戻った俺の目に、ステージで今まで見た中でも一番高く飛び上がり、眩しい輝きを放つエルシーの姿が飛び込んできた。
まるで、すべてを振り払うように。
「……心配無用ってわけか。さすがエルシーだよ」
俺は残り時間、ステージ脇でエルシーを見守った。
――こうして、28日目の20箇所同時ライブイベントは終了した。
ミコトさんは無事カレンと仲直りしたようで、途中からだがライブを開催し、それなりの観客を集めていた。
続く29日目も、カレンは精力的にライブイベントを行っていた。
二人の仲は以前よりも深まっていたようにさえ見える。
メイとイングリッドは、例の黒い噂のせいで大音楽劇場を使えるコネクションを失ってしまったらしく、29日目は中音楽劇場でのライブを精力的にこなしていた。20箇所同時ライブで懸命に演奏するイングリッドの姿に多くの人が心を打たれたようで、中音楽劇場での彼女のイベントはどれも満員になっていた。
意外なのはクマサンとウェンディで、孤児院の件が発端でできた貴族との繋がりをいつの間にかうまく広げていたようで、彼女達は大音楽劇場を使うコネクションを得ていた。
そのおかげで、29日目に大音楽劇場でライブ開催と、この終盤にきてスパートをかけていた。
なかなか油断できない。
そして、俺とエルシーだが、俺達は29日目に7日目のイベントで手に入れた無料使用チケットを使い、最初で最後の大音楽劇場でのライブを開催した。
クマサンもラストの夜のライブを狙っていたようだが、チケットのおかげで俺達が夜の使用権を得て、クマサン達は午後の方へと回った。
何千人もの人がエルシーのライブを見るためだけに集まり、彼女のパフォーマンスに心を奪われ、熱狂していた。
ここまでの苦労が報われたと思えるようなライブだった。
これで俺達ができる行動はすべて終わった。
そして、運命の30日目が訪れる――




