第57話 メロディアの六姉妹
三人のご機嫌を取りながら、俺達はクエスト開始地点の家へ向かった。
本当なら新しい街をぶらつくのも楽しいが、今回はメイが場所を把握している。寄り道はしない。
海沿いに建つ一軒家。白い壁に青い屋根。
背後には紺碧の海が広がっている。
どこにでもありそうな、絵に描いたような家だ。
「メイ、この家か?」
「ああ、ここのはずだ。ネットの情報では、ソロで来ると家の人が『三人以上で組んだ冒険者が来てくれればなぁ』みたいなことを言うらしいが、その条件を満たした状態で入ると、すぐにクエストが始まるらしい」
「じゃあ問題ないな。行こう、みんな」
三人の頷きを確認し、俺は扉を開けた。
視界にシステムメッセージが浮かび上がる。
【クエストを開始しますか? はい/いいえ】
俺は迷わず「はい」を選んだ。
メッセージが消え、世界が動き出す。
家の中には六人の女の子がいた。
そのうちの一人、一番背が高く、おっとりした顔立ちの青みがかった長い髪の女性が、優雅な足取りで近づいてきた。
「旅の冒険者のかたがたですか? どうですか、この街は?」
彼女の声は、まるで囁きのように柔らかく響いた。
「『吟遊詩人総選挙』が間近に迫っていることもあり、街中が賑やかでしょう? 実は、私達は六姉妹も、その総選挙に出ようと思っているんです」
普通なら、いきなり他人の家に押し入れば通報されてもおかしくない。
だが彼女は穏やかな笑みを浮かべ、歓迎するように話しかけてきた。
ゲーム世界らしい寛容さだ。
俺は何か言葉を返そうと口を開きかけたが、その前に、閉じたはずの扉が激しく開く音がした。
驚いて振り返ると、金髪縦ロールを揺らし、やや釣り目の女の子が立っていた。
「あなた達、まだ『吟遊詩人総選挙』に出ようだなんて考えているの?」
一瞬、俺に向けられた言葉かと思った。
だが彼女は俺を見ていない。
視線の先にいるのは、この家の六姉妹だ。
「確かに、あなた達の母親はかつて街でも有名な吟遊詩人だったかもしれない。でも、今のあなた達にはその才能は受け継がれていない。街で誰もあなた達の歌にも演奏にも耳を傾けないのが、その証拠よ! 総選挙の優勝者は、名門ブリジット家のキャサリン様、つまり私に決まっているのよ! あなた達は恥をかくだけなんだから、さっさと辞退しない!」
自らキャサリンと名乗ったその女の子は、言いたいことだけ言い放つと、嵐のように去っていってしまった。
「なんなんだ、今のは……」
俺は呆然と呟き、仲間達と顔を見合わせる。
「……派手な登場だったな。あそこまで言うってことは、よっぽど六姉妹を意識してるんだろ」
メイがどこか呆れ気味につぶやいた。
「ライバル心、ですかね。でも、わざわざ言いに来るあたり、根は寂しがりなのかもしれませんよ」
ミコトさんはそう言って、小さく笑う。
クマサンは何も言わず、ただ、キャサリンが去っていった方をじっと見ていた。
そんな俺達に、姉妹の内の、青みがかった長い髪の女の子が、申し訳なさそうに声をかけてくる。
「……彼女はキャサリン。若き天才吟遊詩人と呼ばれています。昔は、私達姉妹とも一緒に演奏するような仲だったのですが、いつの頃からかあんなふうになってしまって……」
メイ達が言った通りライバル的なキャラということだろう。
どうにも空気が重くなってしまったので、とりあえず俺は、姉妹達に励ましの言葉をかけることにする。
「そうなんですか。でも、何もあんな言い方をしなくてもいいでしょうに……。負けないで、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。でも、彼女はただでさえ才能があるのに、名だたる先生がたに教わっていて、『吟遊詩人総選挙』の大本命と言われています。それに比べて、私達は早くに両親を亡くしており、ちゃんとした先生のもとで音楽を学ぶこともできません。せめて、経験豊富な冒険者のかたが協力してくだされば、可能性も出てくるのでしょうが……」
そう言いながら、彼女は上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
音楽のことなんて全然わからないと言いたいところだが、彼女の方から「経験豊富な冒険者」を求められれば言い訳はできない。
俺は彼女に答える前に、仲間の顔を見る。
三人とも力強く頷いてくれた。
「どこまで役に立てるかわかりませんが、俺達でよければ協力させてもらいますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
彼女は目を潤ませ、胸の前で両手を合わせた。
ここで拒否すればクエストキャンセルになるだけだ。
挑戦しにきた俺達に、拒否の選択肢はない。
「それでは、まずは私達の自己紹介をさせてもらいますね。私は長女のアリサです」
アリサが名前を名乗ると、後ろに控えていた五人の女の子達も俺達を見つめ、順に口を開いていく。
「次女のイングリッドです」
「三女のウェンディです」
「四女のエルシーです」
「五女のオーロラです」
「六女のカレンです」
六人の女の子は、姉妹というわりに髪の色も雰囲気もバラバラだ。それぞれ父親が違う――なんてことはなく、ゲーム的なキャラ付けゆえのことだろう。
「冒険者のみなさん、お願いします。どうか、それぞれ、私も含めてこの六人の中から、最高の吟遊詩人――ディーヴァに選ばれるに相応しいと思える者を選んで、導いてください」
六人の女の子が俺達に真摯な瞳を向けてくる。
いよいよきたわけだ。自分が担当をする女の子を選ぶ、その時が。




