第56話 人気者?
メロディアに到着した瞬間、俺は思った。
これは本気で音楽の街だ。
広場に足を踏み入れた途端、どこからともなく演奏が聞こえてくる。
通りを行き交う住人達までが鼻歌交じりだ。
「まるで街全体が音楽を奏でているみたいだ」
メイは耳を澄ませ、感嘆の声を漏らす。
理屈っぽい彼女にしては、ずいぶん詩的だ。
……知らない一面を見た気がした。
「噂を聞きつけてか、プレイヤーの数も多いですね」
たしかに、広場は人で溢れている。
新エリアで、しかもこの賑わいだ。集まらない方がおかしい。
そうやって周囲を見回していると――
「あのぅ、すみません」
声をかけられ、思わず身構える。
イベントかと思ったが、違った。
二人ともプレイヤーだ。
「どうかしましたか?」
俺が応じると、茶髪ポニーテールの女の子が、恥ずかしそうに口を開く。
「もしかして、あのインフェルノ討伐動画のショウさんですか? 1stドラゴンスレイヤーで、料理人アタッカーの?」
「――――!」
息を呑む。
あの討伐動画とバグ疑惑で名前が広まったのは知っている。
だが、こうして面と向かって呼ばれたのは初めてだった。
「……ええ、多分、そのショウです」
どうにか絞り出した一言だったが、彼女達にはそれで十分だったらしい。
「わぁ! やっぱり!」
「動画よりも格好いいですね!」
動画と同じ見た目なんだけど。
でも、悪い気はしない。
「いや、そんなことはないと思うけど……。えっと、二人とも動画を見てくれたんだ、ありがとう」
「私達、あの動画を見て、ショウさんのファンになったんです!」
赤髪ロングの女の子が、両手を合わせながら、嬉しいことを言ってくれた。
「え、そうなの? いやぁ、嬉しいなぁ」
この時の俺は、相当にやけていたらしい。
あとで記録動画を見返したら、ミコトさん、メイ、クマサンが、とんでもない目で俺を睨んでいた。
もちろん、即、再生停止した。
「ここで会ったのも、何かの御縁だと思うんですよ~」
「そうそう! なので、よかったら私達とフレンド登録してもらえませんか?」
「――――!」
女の子からフレンド登録なんて、ほとんど経験がない。
……思い返せば、そうしてくれたのはミコトさんくらいだ。
断る理由なんて、あるはずがない。
「俺でいいの? 俺は全然構わないけど……」
「わぁ、やったぁ!」
「ありがとうございます!」
こうして俺は、二人をフレンドに追加した。
「それじゃあ、いつかパーティ組みましょうね~」
手を振りながら、二人を見送る。
……背中に、刺さるような視線。
「あ……待たせた?」
振り返る。
三人の目が、笑っていない。
「いえ、別に時間はいいんです。時間は」
「問題なのはショウの浮かれぶりだな」
「大抵ああいうのは、ドラゴン戦で使えるアタッカーが欲しいだけだ。人柄に惚れたわけじゃない」
なぜだろう? 街に入ってきた時は、三人ともあんなにもにこやかだったのに……。
もしかして……焼きもち?
……いやいや、そんなわけない。
多分、動画には四人とも出ているのに、声をかけられたのが俺だけだったからだ。
その気持ちは、わかる。
だから、俺は三人に頭を下げた。
「すまない。みんなの気持ちを考えてなかった」
「……これは多分、まだわかってないですね」
「何しろショウだからな」
「ゲームでは勘が鋭いのに、こういう時は鈍いんだよな」
心を込めて謝罪したつもりなのに、三人の言葉は辛辣だった。
……俺、そんなに悪いことしたか?




