第323話 インフェルノブレス
ダメージ1825。
俺達の体力はせいぜい1000を超えた程度。
運が良ければ助かるなんて希望を持てる攻撃じゃない。
二人目の犠牲者が出たという衝撃もさることながら、絶対死の攻撃があるという絶望がみんなのうえに影を落としたのがわかる。
だけど――俺までうつむいてしまうわけにはいかない。
「あんな攻撃が何度も撃てるはずがない! 怖がるな、やることは変わらない! 真インフェルノを地上に堕とすぞ!」
氷の魔法スクロールを奴に向けて放つ。
「お、おう」
「わかりました」
みんなも多少は冷静さを取り戻したのか、いつのまにか止まっていた手を再び動かし始める。
さっきの攻撃が「猛き猪」の「猪突猛進撃」のような一回限りの技の可能性もある。
だが、それに賭けるわけにはいかない。
出させないか、出されても避けるか――対処法を見つけるしかない。
「せめて地上に落とせれば……」
あの技が空限定の技の可能性はある。それならば、空にいる間さえ耐えればなんとかなる。
地上なら俺の火力も活かせるし、とにかく今は奴を堕とすことを最優先するしかない。
「いつまでも上から見下ろしてられると思うなよ!」
【メイは真インフェルノに攻撃 ダメージ555】
組立式重装砲の一撃が真インフェルノの翼を貫いた。
翼に刻まれた傷がまた一つ増える。
そして――奴の翼の動きに変化が生じる。
「翼を潰したか!?」
期待を込めて見つめるが、そういうわけではなかった。
単に翼の羽ばたきを緩め、地上へと降下を始めただけだった。
だが、それでも状況は大きく変わる。
俺をはじめ、近距離アタッカーが本来の火力を発揮できる。
それに、地上にいる間はあのブレスも来ないかもしれない。
また空に上がられれば危険なのは変わらないが――それでも戦いやすい。
「いくぞっ、ここからは俺達のターンだ!」
「おぅ!」
「はいっ!」
みんなから返ってくる声も、さっきとは明らかに気合いが違った。
誰一人折れていない。
【ショウは真インフェルノにみじん切り ダメージ705】
【ソルジャーは真インフェルノに血刃乱舞 ダメージ450】
【シアは真インフェルノに凍界崩星閃 ダメージ224】
【ダモクレスの剣の追加攻撃 ダメージ224】
【ミカエルは真インフェルノに聖断滅却 ダメージ218】
【ダモクレスの剣の追加攻撃 ダメージ218】
【アシュラは真インフェルノに修羅乱舞 ダメージ426】
近接アタッカー陣が最大級の技を後ろ脚へと叩き込んだ。
二回の強化でダメージはかなり落ちている。
それでも、俺だけはその影響が少ない。
俺が、料理人のこの俺が――みんなを引っ張ってみせる。
「よし! このまま畳みかけるぞ!」
ねーさんのような破天荒にも映るほどのカリスマも、ルシフェルのような冷静な指揮力も、ソルジャーのような戦術眼も、俺にはない。
天性のものは、いくら憧れたって届かない。
しかし、俺にはこのダメージがある。
ゲームシステムとしてたまたま俺に有利に働いただけのものだとしても、何もない俺にとってはそれで十分だ。
この力が少しでもみんなの力となるなら――
【ショウは真インフェルノに乱切り ダメージ600】
「さすがショウさん! 負けてられません!」
「お前ばかり目立たせるわけにはいかん!」
「ウリエルの仇、取らせてもらいます!」
「これはバッファローの分!」
戦いの中、みんなの視線を感じる。
もし俺の攻撃でみんなを勇気づけられているのなら――正直、嬉しい。
真インフェルノの体力は、もう残り二割を切っている。
――いける。
そう思った、その瞬間だった。
【真インフェルノは標的を探している】
奴の首が動き、奴の視線が周囲を巡る。
――空中だけの技じゃなかったのかよ!
そうじゃない可能性は当然考えていた。
むしろ、地上でも使ってくる前提で挑んでいた。
それでも、思った以上にショックを受けている自分に気づく。
心の中では、空だけ脅威であることを願っていたのだと思い知らされる。
そんな中、奴の目が俺を捉えて止まった。
――俺を狙う気か!?
ゲームだとわかっているのに背筋が震える。
抗えない死への恐怖は、疑似体験だとしても本能が反応してしまうかのようだ。
だが――
【真インフェルノはアシュラに狙いを定めた】
標的は俺じゃなかった。
ホッとしてしまった自分に腹が立つ。
それより――
俺とシアとソルジャーは右後ろ脚。
ミカエルとアシュラは左後ろ脚についている。
このままだと自分の脚ごと焼くことになるが、それでも構わずに撃ってくるのか?
アシュラを逃がすべきか、ミカエルを移動させるべきか――
判断の猶予は、ほとんどない。
「ミカエル、お前は向こうの脚へ行け。俺はギリギリまで攻撃を続ける」
俺が口を開くより先に、アシュラ自身が叫んだ。
ミカエルは一瞬の逡巡さえなく、弾かれたようにこっちに向かってくる。
【アシュラはリミットスキル地獄連撃を使った】
それは、絶え間なく攻撃を叩き込む代わりに、SPを急速に削り続ける二刀流剣士の切り札。
死がもう避けられないのなら――最善の選択。
インフェルノブレスを奴自身に巻き込めるかどうかの検証もできる。
アシュラは死に直面したこの状況で、瞬時にそこまで判断したことになる。
――迷いは、一切なかった。
そうだ。
ここにいる連中は、ただ命令にしたがって戦うだけのプレイヤーじゃない。
それぞれが高度な判断力と果敢な行動力を持っている。
そして、そのうえで忠実に指示に従って動いてくれているんだ。
……リーダーというこの立場の重みを改めて感じる。
そして、アシュラの地獄連撃によるダメージログが嵐のように流れる中――
【真インフェルノはアシュラにインフェルノブレス ダメージ1955】
【アシュラは死亡した】
彼の死亡ログで、嵐はやんだ。




