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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!  作者: グミ食べたい
第15章 タッグイベント編

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第264話 最悪の相手?

 ルシフェルの姿を見た瞬間、俺は思わず頭を抱えた。

 クマサン、ミコトさん、メイ――この三人のうち誰かが理想だった。

 それが無理でも、「ヘルアンドヘブン」のシアやミネコさん達でもよかった。

 正直、まともに話したことがなくても、「異世界血盟軍」やマテンローのメンバーでも構わなかった。


 ――けど、「片翼の天使」だけはダメだ。

 その中でもギルドマスターのルシフェルだけは、絶対に避けたかった。

 俺のほうに恨みなんてないはずなのに、向こうが俺を敵視しているのは周知の事実。

 そんな相手と手を組みたいなんて、思うはずがない。


「よりによって……」

「何か言ったか?」


 小声で漏らした愚痴を、鋭い声が拾う。

 ルシフェルが鋭い視線を向けてきた。


「いや、何も……」


 俺は慌てて誤魔化す。

 ……まぁ、たぶん向こうも俺と同じ気持ちだろう。

 ここで無駄にギクシャクしても仕方がない。

 呉越同舟という言葉もある。タッグという同じ船に乗ったのなら、ここは協力し合うしかない。ギルドマスターをやっているくらいだ、それくらいの理屈はわかっているはずだ。


「……俺は『三つ星食堂』のギルドマスター、ショウ。……よろしくな」


 握手を求めて右手を差し出す。

 会うのは初めてじゃないが、こうして正面から話すのは初めてだ。

 互いに顔くらいは知っているだろうが、礼儀として自己紹介から始めるのがスジってものだ。


 ――ただ、普段ならわざわざ「ギルドマスター」なんて名乗りはしない。

 けど、相手が三大HNMギルドの頂点の一人となれば……つい、対抗心が顔を出してしまった。


「こちらこそ、よろ――」


 ルシフェルの手が伸びてくる――が、俺の手に触れる寸前でピタリと止まった。

 一瞬、俺の手と顔を見比べるように視線を往復させると、なぜか慌てて手を引っ込める。


「……私はルシフェルだ」


 一応、名乗りはしてくれた。

 だが、今の反応は地味に刺さる。

 ここはゲームの中だ。手が汚れてるわけでもないのに……。

 気になって手のひらを確認してみる。

 ――うん、ちゃんと綺麗。

 どうやら、単に握手すらしたくないほど嫌われているらしい。


 ……地味にダメージくるな、これ。


 昔の俺ならここで心が折れて、これ以上の会話を放棄したかもしれない。

 だけど、今の俺は違う。

 クマサン、ミコトさん、メイという仲間を得て、俺は強くなったし、精神的余裕も生まれた。このくらいでめげたりはしない。


「……てっきり真インフェルノ攻略のために動いているのかと思っていたけど、そうでもないんだな。『ヘルアンドヘブン』や『異世界血盟軍』のメンバーも、このイベントに参加しているし」

「……この街でアイテムを補充して、新エリアに向かうつもりだった。フィジェットやソルジャー達も、そのためにここへ来ていたのだろう」


 お、無視はされなかった。

 握手は拒否されたけど、会話には応じてくれる。

 ……もしかして潔癖症なだけで、実はそこまで嫌われてないんじゃ?


「そうなのか。この前、真インフェルノに惨敗してたから、気晴らしでもしに来たのかと思ったよ」

「……そう言えば、この前の戦闘のとき、私達の戦いを見ていたな」


 ――あっ。

 ルシフェルの眼光が鋭くなったような気がする。

 迂闊なことを口にしてしまったかもしれない。

 ギルマスターとして、負け試合を見られるのは屈辱だろうし、HNM戦の動きを「観察された」となれば、なおさら気分が悪いはずだ。


「いや、決して盗み見していたわけでは――ないこともないんだけど……」


 ルシフェルの視線がさらに鋭くなった。

 共通の話題で少しでも打ち解けようと思ったんだが、完全に逆効果だ。

 こうなってはもう気さくに会話できる雰囲気ではない。

 俺はため息を一つつき、視線をシステムウィンドウへ移した。


 ――今はまだ「準備時間」か。

 普段ならマイルームでしかできないサブ職業や装備の変更が、ここでも可能らしい。

 ランダムで組み合わせが決まる仕様を考えれば、このタイミングでの調整は妥当だ。

 さすが運営、バランス感覚はなかなかのものだ。


 説明をさらに読み進める。

 イベント中は、全プレイヤーのステータスがレベル50に統一。

 今回の参加者は全員が50以上だから、全員一律でステータスダウン補正ってわけだ。

 もし50未満がいた場合はステータスアップ――なるほど、フェアな仕組みだ。

 ただし、レベル51以降で覚えたスキルは使用可能。

 つまり、ステータスは並んでも、スキル数の分だけ高レベル組がわずかに有利になるようにできている。

 公平に見せかけて、ちゃんとこれまでの努力による差は残してるってわけだ。

 ……運営、わかってるな。


 だが、そうなると、俺達も互いにサブ職業などを今のうちに調整しておかなければならない。雑談はもう諦めたが、イベントに勝つため、立ち回りも含めて、ルシフェルとは最低限の話をしておかねばならない。


「……開始時間まで、あまり余裕がない。サブ職業も含めて作戦を立てよう」


 ルシフェルの方から何も言ってこないので、こちらから切り出した。


「作戦……か」

「ああ。一緒に行動するんだから、意思統一くらいはしておかないとな」

「一緒だと!?」


 ルシフェルが目を見開いた。

 ……いやいや、当たり前だろ。二人一組のタッグ戦だぞ?


「私と……お前が……一緒に……!?」


 なんだ、その人生最大の衝撃みたいなリアクションは。

 反応が、なんかもう、一周回って、告白された乙女みたいなんだけど。


「い、一緒になんて行動できるわけがないだろ! 私は一人で行動させてもらう!」


 ヒステリックな声を上げながら、ルシフェルは顔をそむけた。

 おいおい、これがミステリー小説だったら、最初に死ぬキャラのセリフだぞ。

 まさかここまで嫌われてるとは思わなかった。

 さすがに落ち込むぞ……。

 とはいえ、ここで売り言葉に買い言葉で応じたら泥沼になる。

 俺はぐっと堪え、できるだけ冷静に言葉を返す。


「……このイベントは個人戦じゃない。タッグ戦だ。互いにフォローし合うのが基本だろ。一人で動くメリットなんてない」


 努めて淡々と。

 感情を交えず、理屈で説く。

 ギルマスターを務める人間なら、これで理解してくれる――はずだった。


「私はこのサーバー1のアタッカーを自負している。一対二なら、ちょうどいいハンデだ。……お前は、そうではないのか?」


 その声は、さっきのヒステリックさが嘘のように、落ち着いたものだった。

 挑発でも皮肉でもなく――純粋に「事実を語っているだけ」といった口ぶり。

 だが、そのほうが俺の心を刺激する。


 ――こんにゃろう!


 静かに、胸の奥で火がついた。


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