第263話 組み合わせ
「さてと……」
俺は一つ息を吐いて、気合いを入れ直した。
初めてのイベントだし、とりあえずは楽しむつもりでいた。
だが、この参加メンバーを見ては、そんな悠長なことは言っていられない。
なにしろ相手は、三大HNMギルドのトッププレイヤー達。……マテンロー達もいるけど。
HNM狩りには参加していなくても、優れたプレイヤーはいるんだというところを見せてやりたい。もちろん、その優れたプレイヤーというのは、クマサン、ミコトさん、メイも含めての話だ。
とはいえ、二人一組で戦うとなると、誰と組むかが非常に重要になってくる。
俺がアタッカー特化であることを考えれば、タンクのクマサンとは相性はバッチリだろう。気心も知れているし、ゴールデンコンビと言っても過言ではない。
だけど、相棒としてはヒーラーのミコトさんも魅力的な選択肢だ。盾役は不在だが、強力な回復力がある分、長期戦ではクマサンとのコンビよりも強力かもしれない。
メイはメイで、サブ職業を回復職にしてもらえばサポーターとしては十分に機能してくれる。何より彼女はゲームというものをよく知っている。生き残りのサバイバルゲームではなく、ポイント稼ぎの勝負となれば、単純な戦力よりも立ち回りが重要になるはず。そうなれば、メイの視野の広さや読みの鋭さは、その力を大いに発揮するだろう。
正直、この三人なら誰と組んでも、フィジェットやソルジャーが相手でも十二分にやり合える気がする。
――だけど、俺のことだけを考えちゃいけない。
俺が誰かと組めば、残った二人がペアになる。勝負が始まれば敵同士になるとわかっていても、ギルドマスターとしては、そっちのバランスも考えなければならない。
たとえば、クマサンとミコトさんの組み合わせになれば、タンクとヒーラーのコンビになり、生存能力は高いが、完全に火力不足だ。敵を倒せないということは、相手のポイントを奪えないということで、戦略に大きな縛りを受ける。どれだけスターが街に散らばっているのかわからないが、「スターを集めてとにかく生き残る」なんて戦術しかとりようがないだろう。
かといって、クマサンとメイ、ミコトさんとメイといった組み合わせも、火力に関しては心もとないし……。
さて、どうしたものか……。
「みんな、タッグの組み合わせだけど……どうする? まずは希望を言い合ってみる?」
一旦、みんなの希望を聞いてみることにした。被らないようなら、組みたい者同士が一番だ。
けど、もし三人ともが俺と組みたいなんて言い出したら……嬉しいけど、それはそれで困ってしまうな。
そのときは心を鬼にして誰かを選ぶしかない。
いや、ホント、求められる男ってのは辛いけど、しょうがない。
などと内心で少しニヤけかけていた、そのとき――
「希望ですか? でも、組み合わせはランダムで決まりますよね?」
「……え? ランダム?」
ミコトさんが小首をかしげながら、さらっと言い放った。
その瞬間、俺の思考が一瞬止まる。
「ルール説明に書いてありましたよ? 組み合わせはランダムに決定されるって。好きな人と組めたら良かったんですけどね」
……マジか。
慌ててクマサンとメイを見ると、二人とも当然のようにうなずいている。
どうやら俺だけ、最後までルール説明を読めていなかったらしい。あるいは、途中で見落としをしていたのか……。
とにかく、ギルドメンバー同士で組むという目論見は、もろくも崩れ去った。
「だが、これでもしタッグを組んだら――運命だな」
落ち込みかけていた俺の耳に、クマサンの静かな声が届く。
その言葉に、思わず息を呑んだ。
そうだ。ランダムといっても、俺がこの三人の誰かと組めないと決まったわけじゃない。
ランダムという理不尽を超えて繋がる絆――俺達にはそれがあるんじゃないだろうか。
もしかしたら、今回のことは、俺が誰と一番強い繋がりを持っているのか、それを知るチャンスなのかもしれない。
「運命、ね。……確かにそうかも」
メイが腕を組み、口元に笑みを浮かべる。
その隣で、ミコトさんが小さくため息をついた。
「もう……そんなこと言われたら、誰と組むのか余計気になってくるじゃないですか」
二人の視線が同時に俺へと向かう。
いや、俺だって、めちゃくちゃ気になってるんだよ……。
でも、もし組む相手を選べるのなら――
【タッグの組み合わせが決まりました】
【各タッグをそれぞれのスタート地点に転送します】
自分の希望を考え始めた瞬間、システムメッセージが現れた。
そしてすぐに、視界を光が包み込む。
――光が消えると、周りの景色が変わっていた。
ついさっきまで街の入口にいたはずなのに、今は巨大な大聖堂のすぐ脇に立っている。
ここはベルンの街の中央からやや北寄り――どうやら、これが俺のスタート地点らしい。
「……さて、俺の運命の相手は、一体誰なんだろうな」
俺の視界にはまだ誰の姿もない。転送にタイムラグがあるのかもしれない。
現れるのは――クマサンか、ミコトさん、メイか。
あるいは、シア、ねーさん、ミネコさんの可能性だってある。
胸の鼓動が、少しずつ速くなる。
「運命の相手? 何をおかしなことを言っている」
声はすぐ後ろからした。
慌てて振り返る。
「げっ!?」
「なんだ、その不満そうな顔は! それはこっちの反応だぞ!」
俺の後ろに立っていたのは、緑のローブを纏った、長い金色の髪、切れ長の青い目、そして何より特徴的な尖がった長い耳をしたエルフの男――「片翼の天使」のギルドマスター・ルシフェルだった。




