第26話 鍛冶師の役目
俺はパーティチャットでみんなを呼び集めると、三人を長老のもとへ向かわせ、一人で宿屋に残った。
この話は、全員が直接聞いておくべきだと思ったからだ。
「……ふぅ」
一息ついてベッドに腰を下ろし、あの毛針攻撃を思い返す。
あれは理不尽な全体攻撃だと思っていた。
だが――全員に毛を付けるための仕掛けだったとすれば、話は違う。
あの理不尽な性能も理解できる。
「……おかしいと思ってたんだよな」
あれは「なんでも力技で解決できるわけじゃない」というメッセージだったのだろう。
そんなふうに思っていると、三人が宿屋へと戻ってきた。
「ショウの言う通りだったよ」
メイが三人を代表するように言い、皆が俺の前に座る。
「それじゃあ、全員揃ったところで、これまでの情報を整理しようか」
俺の言葉に皆がうなずいた。
俺がこのパーティのリーダーというわけではないが、いつの間にか、俺が話をまとめる役になっていた。
「もともとヌシはこの村の守護者としてあの山の洞穴に棲み、村人はヌシを模した記念碑を洞穴の前に建てて、代々敬意を示してきた。しかし、いつの間にかその伝承は途絶え、記念碑も風化によって壊れ、今では見る影もなくなっている」
俺の説明を頷きながら聞いていたクマサンが、話を引き継ぐように口を開く。
「俺は山を再調査してきたんだが、確かにショウの言うように、洞穴の前には砕けた石の塊があった。言われてみれば、石像の跡にも見えた」
その補足に、俺は胸中で最初に洞穴に行ったときのことを思い返す。
俺はあのとき、砕けた石に気づいていた。
もう一歩踏み込めていれば、戦わずに済んだルートも、あったのかもしれない。
そんな悔恨を胸の奥にしまい、俺は話を続ける。
「最近ヌシが現れ、『ヒ ヲ ササゲヨ』と告げたのは、感謝を忘れ、記念碑が壊れたことにさえ気づかない村人への警告だった。つまり『ヒ』は火じゃない。碑だ」
みんなが静かにうなずくのを見て、俺は言葉を続ける。
「だけど、伝承は途絶えて真実を知る者もいなくなった。長老の記憶も失われていた。業を煮やしたヌシは、家畜を襲って再び警告し始めた。村人を直接襲わなかったのは、まだ守護者だからだろう。このまま何もしなければ、ヌシは村を見捨てて山を去るんじゃないかと俺は思う」
ミコトさんが真剣な顔で、言葉を継ぐ。
「そうですね。私もショウさんの言う通りだと思います。あのヌシなら、きっと何も言わずに去っていくでしょう。戦闘をした時も、追いかければ私達を倒せるのに、簡単に逃がしてくれてましたし」
「だとしたら、私達がすべきことは、村人にヌシがこの村の守護者であることを伝え、再び記念碑を建てさせることか」
メイの言うことは理にかなっている。
だけど、俺の胸には引っかかるものがあった。
それで終わり――のはずなのに。
胸の奥に、違和感が残る。
何かが、足りない。
……このクエストは、メイのものだ。
それなのに、まだメイが何もしていない。
――あ。
点と点が、一本に繋がった。
「メイ……その記念碑」
俺はゆっくりと顔を上げる。
「作るのは、君じゃないといけないんじゃないか?」
俺の言葉に、クマサンとミコトさんがハッとした顔を浮かべた。
「なるほど」
「確かに、そうですよね」
だが、メイはすぐに頷かなかった。
視線を落とし、わずかに眉を寄せる。
「……確かに記念碑は鍛冶師が作れるものの一つだが、国王の記念碑や伝説の騎士オーディンの像といった『決められたもの』だけで、自由に作れるわけじゃない」
「…………」
……あれ?
今の、外したか……?
格好よくメイに言ってみせたのに……間違ってた?
言われてみれば、俺の料理だってなんでも自由に作れるわけじゃない。
スキルが上がれば増えるのは、あくまで決められた料理だけだ。
……なら、鍛冶師だって同じか。
「スキルレベルが上がった時以外にも、鍛冶製作百個達成、モンスター百体討伐、そうやって何かを達成すれば、マイルームに飾れる趣味的記念碑を新たに作れるようになるが、それにしたって、デザインは決められていて、好きに作れるわけじゃないし……」
「ちょっと待ってくれ。それって何か条件を満たせば、新しい記念碑が作れるようになるってことか?」
「ん? ああ、そうだが?」
――そうか。
俺は一つの可能性に思い至る。
ヌシの毛針攻撃を受けたことで長老の反応が変わったように、イベントの進行に応じて鍛冶師の製作メニューに変化があってもおかしくない。
「だったら、このイベントをここまで進めたのなら、ヌシの記念碑が作れるようになっているんじゃないのか?」
「なるほど!」
メイの表情が、一瞬で明るくなった。
――その顔は、もう答えに辿り着いた職人のものだった。
レベル上昇以外にも、イベントで作れるものが増える。
それは料理人の俺が何度か経験してきたことだ。
同じ職人であるメイも、そういった経験を思い出したのかもしれない。
「じゃあ、早速作れるかどうか試してみてくれ! あっ、もしかしてメイの店まで戻らないといけないか?」
「いや、それは大丈夫かもしれない」
「どういうことだ?」
「この村の外れに、使われなくなった鍛冶場があるんだ。このクエストが終わるまでは鍛冶をするつもりがなかったから気にしてなかったが、あそこが使えるかもしれない。……いや、きっと使えるはずだ。こんな村に鍛冶場があるのも、きっとヒントだったんだ。鍛冶師としてそれに気づけなかったとは……」
メイは小さく息を吐く。
「まだまだだな、私は」
そう言って、メイは小さく笑った。
サーバーの鍛冶師なんて言われれば、傲慢になりそうなものだが、メイからは感じたことがない。
彼女はきっと、さらなる高みを目指している。
「俺達職人ってさ」
俺は笑う。
「終わりがないよな」
「ああ」
「だから、面白いんだろうけどな」
「ああ、そうだな!」
メイの表情は、もう迷っていなかった。
――ああ、これならいける。




