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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第1章 料理人アタッカー誕生編

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第16話 ギルドのもう一つの活動

 ――数秒の沈黙。


『気にしなくていいよ。ミコトなら、言いふらしたりしないと思うし』


 俺の焦りとは対照的に、当事者であるクマサンの声は落ち着いていた。

 その静けさに、少しだけ救われる。


『……こんなこと聞くのは失礼かもしれませんけど……本当にクマサンが熊野彩さんなんですか?』


 疑うのも無理はない。

 逆の立場なら、俺だって信じられない。

 でも、証明って言われたって、どうしたらいいんだ?

 俺が戸惑っていると――


『……これで、証明になるかな?』


 次の瞬間。

 響いたのは、いつもの渋いクマサンの声ではなかった。

 甘く、透き通る。

 凛として、それでいて柔らかい。

 紛れもない――熊野彩の声。


『――――!!』


 ミコトさんの息を呑む気配が、チャット越しにも伝わってくる。

 あの声を知っている者なら、間違えるはずがない。

 声そのものが、何よりの証明だった。


『……本当に、熊野彩さんなんですね。ショウさんは、前から知っていたんですか?』


「いや。俺も、最近知ったばかりだよ」


 最近どころか昨日――いや、正確には今日だ。

 だが、それを言えば経緯まで説明することになる。

 さすがに、そこまで話す必要はないだろう。


『声優さんまでこのゲームをやっていたなんて驚きです。しかもこんな身近に……。あ、でも熊野彩さんって確か……』

『……うん。いろいろあって、今は声の仕事はしてないんだ。だからこそ、こうして毎日ゲームを楽しめてるんだけどね』

『そうなんですね……。熊野さんと一緒にゲームができるのは嬉しいです。でも、あの声がアニメやゲームで聞けないのは、やっぱり寂しいです』

『あははは、ごめんね』


 社交辞令ではない。

 ミコトさんの声には、確かな「ファンの響き」があった。

 その気持ちは、俺にもわかる。


『また声優業に復帰するつもりはないんですか?』

『んー……この世界は新しい子がどんどん出てくるからね。それに、私の場合はああいう辞め方だったし。元の事務所はもちろん、ほかもなかなか難しいかな』


 軽く笑ってはいるけれど――その奥に、まだ消えきらない想いが揺れているのがわかった。

 昨日は、ここまで踏み込んだ話は聞けなかった。

 それでも今、こうして正直に話してくれている。

 それだけ、俺達を信用してくれているのか。

 それとも――まだ傷が癒えきっていないからこそ、ふと零れてしまう本音なのか。


『なるほど。だから、さっきのVチューバーの話になるんですね』

「いや、それは俺が思いつきで言っただけだから、気にしないで。クマサンの声をまた聴きたいって思いだけで、突っ走っちゃったんだ。そもそも、プログラムは多少わかっても、Vチューバーの運営なんて知らないし、アバターを作る絵のセンスもない。それに、クマサン自身にその気がなきゃ意味ないし」


 言いながら、自分の無計画さに気づいてしまう。

 顔がじわりと熱くなった。


『はいはいはーい! 私、絵、描けます!』


 忘れてほしい流れなのに、なぜかミコトさんが元気よく名乗りを上げた。

 ……姿は見えないけど、きっと今、全力で手を挙げているに違いない。


「いや、ミコトさん。絵が描けるって言っても、そのまま使えるわけじゃないから。取り込みとかモデリングとか、いろいろ工程があるし。俺もグラフィック方面はそこまで詳しくないし、第一センスが――」

『そのくらい私だってわかってますって。これでもパソコンで絵を描いてるんですよ。もちろん趣味のレベルですけど』


 そういえば、ギルドシンボルを決めるとき、短時間であれだけのものを描いていたっけ。

 趣味のレベルと言いながら、そのセンスはなかなかのものかもしれない。


 ……いやいや。

 そもそもクマサン本人にその気がなければ、何の意味もない。


『ごめん、クマサン。俺が余計なこと言ったせいで、なんかミコトさんまで巻き込んじゃって。迷惑だったよな。俺がクマサンの声、また聞きたいなんて言い出したばかりに……』


 詫びるしかなかった。

 彼女が声優を辞めるに至った事情を知っているだけに、無神経だったのではないかという不安が胸をよぎる。


『ショウは……そんなに私の声を聞きたいんだ……』


 ん? クマサンが何かつぶやいた気がするけど、声が小さくて俺にはよく聞こえなかった。

 ……俺に対する文句だったらどうしよう!?


「クマサン、今なにか言った?」


 聞き返すのは少し怖い。

 でも、そのままにしておく勇気もなかった。


『ううん。たいしたことじゃないよ。……それより、二人は私がミコトの描いたキャラに声をあてたら嬉しい?』

『もちろんです!』


 俺が答えるより早く、ミコトさんが即答する。

 今日の彼女は、やたらテンションが高い。


『ショウは?』

「え……。それはもちろん……」


 急に振られて言葉に詰まる。

 こういう時に、ミコトさんみたいに素直に返せないのが俺の悪い癖かもしれない。


『なんだか微妙な反応だね。実はそこまででもない感じ?』

「いやいや! クマサンの声がまた聴けるなら、めちゃくちゃ嬉しいって!」


 思わず前のめりになる。

 数秒の間。

 そして――


『そうなんだ。……じゃあ、このギルドのゲーム外の活動として、ちょっとやってみようかな』

「――――!」

『やったぁぁぁ!』


 ミコトさんの歓声が弾ける。

 俺は声も出せず、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 ――とはいえ、浮かれてばかりもいられない。


 クマサンの声は本物だ。実績もある。

 だが、その器となるアバターが中途半端なら、企画は一瞬で崩れる。


「ミコトさん、喜ぶのはいいけど、肝心のアバターとなる絵は本当に大丈夫なの? 厳しいことを言うようだけど、ギルドシンボルとは勝手が違う。動くし、見られるし、評価もされる」


 言い出しっぺとして。

 そしてギルドマスターとして。

 ここは、はっきり言わなければならない。


『わかってますよ! 本気出します! でもキャラのイメージはくださいね? クオリティのダメ出しなら受けますけど、『イメージと違う』で却下は怒りますから』


 それはもっともだ。

 まずは三人で方向性を決める必要がある。

 クマサンが声をあてるのは、どんなキャラクターか。


 少しの沈黙のあと――


『……私はクマがいいな』


 ぽつり、とクマサンがつぶやく。


「クマサンがクマ好きなのはわかった。でもさ……やっぱり可愛い女の子にしようよ。クマよりは女の子のほうが一般受けするし、クマサンの声にも合ってると思う」

『でも、クマぁ……』


 未練たっぷりの声。

 キャラクターに声という魂を込めるのはクマサンだ。その彼女が納得できないのなら、俺の意見を押し通すわけにはいかない。

 でも、クマはなぁ……。


『それじゃあ、女の子にクマ要素を入れるのはどうですか? クマ耳とか、クマモチーフの衣装とか』


 ミコトさんの提案。


『んー……それなら、いいかな』


 少し弾む声。

 どうやら折衷案で落ち着きそうだ。

 ナイスだ、ミコトさん。

 しかもクマ要素を活かすなんて、ハードルの高いことを自分から言い出すとは……本気だ。


『じゃあ女の子のイメージ、教えてください。ショウさん、言い出したからにはあるんですよね?』

「ん? そうだなぁ……」


 考えるまでもなかった。


「髪は黒で、少し短め。目は大きくて黒目がち。鼻は小さくて整っていて、口元は、笑うとたまに八重歯がのぞく感じで――」


 言いながら、頭の中に浮かんでいるのはたった一人。


『……やけに具体的ですね』

『ショウ、それって……』


 その反応で、俺はようやく気づいた。

 俺が描いていたのは――昨日会ったばかりの、現実(リアル)のクマサン。

 熊野彩、その人だった。


 でも――

 クマサンの声に合っていて、最高に可愛い女の子って言ったら、やっぱりこの姿しか思い浮かばない。


『だいぶイメージが湧いてきました。これなら絵にできそうです』

『ちょっと待って。Vチューバーってキャラが大事なんだよね? 本当にそのイメージでいいの?』

「ああ! もうそれしかない。――今のが、俺の知ってる一番可愛い女の子だから」


 即答だった。

 嘘はない。

 迷いもない。


 数秒の沈黙。


 クマサンは何も言わない。

 怒ったのか。

 照れているのか。

 呆れているのか。


 わからない。

 けれど――否定は返ってこなかった。


『じゃあ女の子のイメージはそれで決まりですね。どうせなら、名前も決めちゃいましょう。名は体を表すって言いますし、イメージと名前が固まれば、キャラ像も一気に明確になります』


 そういうものなんだろうか。

 絵の描けない俺にはよくわからないが、キャラデザ担当が言うならきっと重要なんだろう。


『それなら、名前にクマの要素は入れてほしいな。たとえば、クマっ子とか』


 一番に提案してきたのはクマサンだった。


 ……クマっ子。

 悪くはない。

 悪くはないが――俺の頭の中にいる「あの子」とは少し違う。

 対案を出さなければ。


 リアルのクマサン――熊野彩。

 クマノアヤ。

 クマアヤ。


 ……クマーヤ。


 これだ!


「じゃあ、クマーヤなんてのはどう?」


 思いついた瞬間、そのまま口に出していた。


『いいじゃないですか』

『クマが入ってるし、私もいいと思う』


 ――よし。

 由来まで掘られなくて助かった。

 たぶん今は「クマ」の部分に意識が向いているのだろう。


「じゃあ決まりだな。クマーヤで。ミコトさん、いける?」

『大丈夫です。イメージ固まりました! さっきのショウさんの説明にクマ要素を足した女の子、描いてみます。もしそれを見て二人が『熊野彩さんの声を乗せる価値がない』って思ったなら、そのときは潔く引きます』


 その声には、はっきりと覚悟があった。

 テストを受けるつもりなんだ。

 俺達の、遠慮のない評価を。


「わかった。忖度はなしだ。正直な評価をさせてもらうよ。クマサンもそれでいいよね?」

『うん……。でも、そこまで厳しくなくても……』


 ほんの少し、やわらかい声。

 ミコトさんを気遣うような響きだった。


「いや、ダメだ」


 自分でも驚くほど、きっぱりと言っていた。


「クマサンが声を当てるんだ。中途半端なキャラにはしたくない。……俺は、妥協したくない」


 マネージャーでも何でもないのに、俺は何をえらそうに言っているのだろうか。

 だけど、それでも、譲れない気持ちがあった。

 自分から言い出した以上、クマサンの声の価値を下げるようなことだけは、絶対にしたくなかった。


『大丈夫です。私だって熊野彩さんに声という命を吹き込んでもらえるんです。生半可なキャラを作るつもりはありません。二人とも、私の本気を見ていてください!』


 ミコトさんの言葉は、まっすぐだった。

 一切の妥協を許さない覚悟が伝わってくる。


『ところで、キャラが描けたらどうしたらいいですか? ゲームの中に画像は持ち込めませんし』

「俺がメールアドレス教えるから、そこに送ってくれる? クマサンには俺のほうから渡すよ」

『わかりました』


 ミコトさんを信用していないわけじゃない。

 でも、クマサンはあんな事件の直後だ。余計な接点は、できるだけ減らしたい。

 その点、俺とクマサンは事件の件もあって連絡先を交換している。俺が間に入れば済む話だ。


『気合入ってきました!』


 ミコトさんの声は、いつも以上に弾んでいた。

 さて――どんなクマーヤが生まれるのか。


 こうして、三つ星食堂ギルメン三人による、半ば勢いから始まったVチューバー計画は、静かに、しかし確実に動き出したのだった。


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