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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第1章 料理人アタッカー誕生編

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第15話 チャット

 警察の事情聴取に長い時間を費やし、ようやく家に戻った俺は、肉体的にも精神的にも疲れ果てていた。

 まるで意識を失ったかのように深い眠りに落ち、目が覚めたときには、すでに夜になっていた。


「一応、ログインくらいしておくか」


 俺にとって『アナザーワールド・オンライン』は、もはや生活の一部だ。

 サービス開始以来、一日も欠かさずログインしてきた。

 このままログインせずに一日を終えるのは、なんだか落ち着かない。


 俺はベッドに寝転がったまま、ヘッドディスプレイを装着する。

 視界が切り替わり、現実の自室よりも見慣れた、ゲーム内のマイルームの景色が広がった。

 そういえば、販売用の料理を作ろうとしていたところで、クマサンからSOSを受けたんだった。


 ……クマサン。


 リアルのクマサン――熊野彩のことを、つい思い出してしまう。

 ゲームの中で、ずっと信頼してきた相手だった。無口で、何を考えているかわからないところもあったけれど、その芯の強さや、仲間を思う優しさに、俺は何度も助けられてきた。

 同じ男だと、思っていた。

 その相手が、あんなに可愛い女の子で――昨日、あれほど近くで、心の内まで打ち明けてくれた。

 女の子と、あんなふうに真正面から向き合ったのは、初めてかもしれない。

 学生時代でさえ、なかったことだ。


 ふと気になり、ギルドメンバーリストを開く。


 ……ログインしている。


 彼女も疲れているはずだ。きっと俺以上に。

 狙われたのは彼女で、精神的な疲労は俺の想像を超えているだろう。

 そっとしておくべきかもしれない。

 それでも、指は勝手にチャット申請を送っていた。

 気分が乗らないようなら、そのまま無視してくれて構わない――そんな逃げ道を用意しながら。

 だが、申請はすぐに承認された。


『ショウ! よかった、来てくれたんだね! あんなことがあったから、もうログインしないんじゃないかって、少し不安だったよ』


 耳に届いたのは、いつもの渋いクマサンの声。

 そのトーンの明るさに、俺は思わず胸を撫で下ろす。

 とはいえ――

 声はいつものクマサンなのに、話し方は昨日の熊野さんそのものだ。

 正直、違和感がすごい。


「それはこっちのセリフだよ。クマサンこそ、もう来てくれないかもしれないって、俺も不安だったし」

『そんなわけないよ。だって、ここは私の居場所なんだし!』


 ――居場所。

 その言葉が、じんわりと胸に染みる。

 俺にとっても、この『アナザーワールド・オンライン』は生活の一部だ。

 クマサンも同じように感じてくれている。その事実が、ただ嬉しかった。


『でもよかった。ショウが本当の私を知ったら、引くか怒るかするんじゃないかって、不安だったんだ。でも……いつも通りでいてくれるんだね』

「そんなの当たり前だろ。俺にとってクマサンは、クマサンだ」

『ショウ……』


 そのつぶやきは、どこか大切なものを確かめるように、静かに噛みしめられていた。

 俺としては本心をそのまま言っただけだ。けれど、クマサンにとっては、それだけじゃなかったのかもしれない。


「それより、クマサンこそ大丈夫? あの男は当分出てこられないだろうけど……」


 警察の話では、あのストーカー男はこのまま勾留される見込みらしい。単なるつきまといではなく、実際に俺達に危害を加えている以上、簡単に釈放されることはないという。仮に保釈が認められたとしても、クマサンには連絡が入り、警察も巡回を強化してくれるそうだ。


『うん、大丈夫。夜には一人で出歩かないようにするし』

「そっか。もし夜に出かける必要があったら、俺でよかったら一緒に行くけど……」


 言った瞬間、少し踏み込みすぎたかもしれないと胸がざわつく。

 あんなことがあった直後だ。かえって重く思われたらどうしよう……。

 不安が胸をつくが――


『ホント? ショウが一緒なら安心だから、嬉しいけど……』

「えっ……?」


 予想外に素直な返事だった。

 その「嬉しい」が、どういう意味の嬉しいなのか――考えようとして、うまく働かない頭に、心臓だけが、どくんと鳴った。


「俺でよかったら、いつでも言ってくれ。できることなら何でもするから。ボディガードはもちろん、もしクマサンの声を活かして何かするなら、その手伝いだってするよ」

『ショウがボディガードしてくれるなら心強いよ……ありがとう。……でも、声かぁ。事務所はもう辞めちゃったからなぁ』


 礼を言ったあと、ほんのわずかに沈む声。

 そこに、消しきれない未練の影を感じた。

 俺は声の仕事に関しては門外漢だ。

 軽々しく「手伝う」なんて言ったものの、具体的に何ができるのかはわからない。


 ……いや、ひとつある。


 Vチューバー。

 それなら顔出しは必要ない。

 あのときのように、容姿で傷つくこともない。

 それに――俺は元プログラマーだ。

 配信環境の構築や、モデルの設定、システム周りのサポートくらいならできるはずだ。

 声そのものを守ることはできなくても、彼女が安心して立てる場所を作ることなら、俺にもできるかもしれない。


「ねぇ、クマサン。Vチューバーとかやってみる気はない? これでもプログラマーやってたから、裏方なら役に立てると思うんだけど」

『Vチューバーかぁ。それは考えたことなかったなぁ』

「クマサンのあの声を、このまま眠らせておくのはもったいないよ。一度聴いたら耳から離れない、少し甘くて、それでいて凛として涼やかな……あの熊野彩の声。俺は、また聴きたい」


 無責任な言葉かもしれない。

 それでも、俺はあの声に心を奪われていた。

 あの声が、このまま世界から消えてしまうなんて――それは、あまりにも惜しい。

 ……と、俺がしみじみ浸っていた、そのときだった。


『えええええええぇぇぇぇぇぇ!? 熊野彩って、クマサンがあの声優の熊野彩ってことですか!?』


 鼓膜を貫く絶叫が響く。

 クマサンの声じゃない。

 俺の声でもない。

 でも、聞き覚えのある声――


「ミコトさん!? どうして!?」


 反射的に叫び、周囲を見回す。

 だが、姿はない。

 当然だ。ここは俺のマイルーム。他のプレイヤーは入れない。

 それにこれは一対一専用のボイスチャット。第三者が割り込めるはずがない。


『言い訳みたいになりますけど、盗み聞きしてたわけじゃないんです! ギルドチャットの申請がきたから普通に許可しただけなんです! でも、まさかいきなりこんな話が始まるなんて思ってなくて……!』


 ……あ。


 血の気が引いた。

 どうやら俺は、個別チャットを送ったつもりで、ギルドチャットを申請していたらしい。

 ギルドチャットは全メンバーに通知が届く。

 リストを見ると、ミコトさんはログイン中。

 ギルドマスターからの申請なら、重要な話だと思って受けるのは当然だ。

 彼女に落ち度はない。


 完全に――俺のミスだった。


「クマサン、ごめん! 俺、間違えてギルドチャットにしてた……! 勝手にバラす形になって、本当にごめん!」


 取り返しはつかない。

 わかっている。

 それでも、謝ることしかできなかった。


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