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第十七夜 僕、副音声付きでお送りします。

前夜:いつの間にかいなくなったエルフを探すためマジックショップ『猫の目』に立ち寄る自警団組。接客をしていた栄太はついにユズたちに身体の紋様を見られてしまった。

「ええっと、ダークエルフさんのことですね?」


 店主のプロントさんは四人の珍客の質問にたじろぐ。


「そうだ。我々はダークエルフを探している(何としても夕刻までに連れ戻さねば)」

「彼女ちょっと厄介事に巻き込まれてね(署長なんで全裸で倒れてんだよ)」

「取り調べを受けている最中にどっか行っちゃってさ(例のアンデッドの一部紛失してんだよな。早く見つけないと)」

「詳しくお伺いしても?(そういえば昨晩来ていなかったような)」


 次々に質問が飛んでくる。自警団は焦っているようだ。


「ねぇ、スポンサーってきいたんだけど、彼女の名前とか居場所とか詳しいこと知らないの?(あのエルフが持ってったなんてことないよね。生首だし)」

「エルフに個人的な質問はご法度です。ご存じでしょう?(男性に言い寄られでもしたのでしょうか)」

「では名も知らぬ者のために全身に付呪を施したと?(あのエルフに触ったのか。うらやましい……)」

「エルフからの協力は拒めませんよ(女性の身体に触ったことは秘密にしたい)」


「そうは言っても素肌に魔法を付呪できるくらいの仲なんだろう?(ひょっとしてこのコボルトとも……あのエルフ見境ねぇのか?)」

「いえ、私は彼女にお願いされてやったまでです(既婚者が若い娘さんの素肌を触るのは迂闊でしたか。ん? ひょっとして私は疑われているのでしょうか?)」


 プロントさんも焦っているような、いつもの穏やかな感じじゃない。何かあったのかな?


「『猫の目』の宣伝も兼ねていると聞いたぜ(オンナの身体にマーキングするなんて、このコボルトなかなかのスケベだな)」

「それも彼女からの提案です。これはちゃんとした取引です(エルフの商業利用はやりすぎか)」

「取引ということは契約書があるはずですよね? 確認しても?(それにしても、アッシュくんはかわいいな)」


 契約書なんてないぞ。一か月は試験期間のはずだ。正式な契約なんてしていない。どうしよう、契約の話はなしか?


「いえ契約はまだしていません。一ヶ月を試験期間として、宣伝効果があると私が判断したら正式な契約という運びです(契約の話はなしにしますか? しかしこちらから一方的に手を切るというのは後が怖い)」


「まだ付呪を施して三日目ですからね。しかし、すでに自警団の方に知られることになるとは。やはり、エルフは偉大ですね。次にお会いしたときには正式な契約を結びましょう(エルフをぞんざいに扱うというイメージは避けたいですね。逆にこちらの陣営に引き込む方が有利でしょうか。リスクはふんだんにありますが)」


 お? まだ日が経っていないのに正式採用か? プロントさん話が分かる。


「『見張り猫アッシュくん』はご存じですか?(あれがあれば、誘拐されることもなかったのに)」

「なんですかそれ?(ん? そのような商品はないはず。……いや、それだ!)」

「エルフさんが言っていました。痴漢変態軟派撃退グッズです!(あれがあれば私もエルフさんみたいに撃退できたはず)」

「あ、あの! 長くなりそうなのでお茶を用意してきます」


 出まかせで言った嘘の商品がプロントさんにばれてしまった。ここは戦略的撤退、いや転進だ。


「待った! そっちの兄ちゃんにも聞きたいことがあるんだよ」

「アタシたち昨日ダークエルフと一緒にお風呂に入ったんだけどさ、そのとき見たのと同じ箇所に同じ紋様を入れているんだよね(特別な関係じゃないとそこまでやらないでしょ、フツー)」


 一同の視線が僕に集まる。なんて言い逃れしよう。


「そちらの方がおっしゃったとおり、お店の宣伝も兼ねておりまして。この男性店員にも協力してもらっているのですよ(付呪がエルフだけではないことをアピールすれば疑いも晴れるか)」


 え? ひょっとして僕をかばってくれてるのか。 


「ご存じのとおり、私も娘もコボルトで全身が体毛に覆われています。なので彼にもお願いして広告塔になってもらったのですよ(すまない! ここは口裏を合わせてくれ)」


 プロントさんはこっそりと僕にウィンクを送った。やっぱりかばってくれたんだ、なんていいひとなんだろう!


「では! やはり『見張り猫アッシュくん』は販売されるんですね!?(これがあればもう怖くない)」

「ええ、現在は量産化に向けて鋭意制作中です。しばしお待ちください(商品開発という名目で不特定多数に付呪を行えばごまかせるか)」


 なおもプロントさんは僕に合図を送る。なるほど、商品化の嘘を見逃すかわりに僕も一枚噛めばいいんですね! お安い御用です。


「ちなみに彼女への付呪は僕がさせていただきました」

「ああ? そうだったかな。そうだったね(自ら人柱になるとは! 君の犠牲は無駄にしない)」

「え? そうなんですか?(付呪してもらうとしても、男の人に触られるのはちょっと……コボルトさんならまだよかたのに)」


 マルリの顔がさっと曇る。ええ……そんな嫌がらなくても……


「本当に君がやったの?(魔法に長けたエルフがなんで他種族の男に付呪を依頼するかな? こいつ怪しいな)」

「あーやっぱり商品化の予定はあったんだ。じゃあさ、ヴァン隊長うちらにもそれお願いしようよ(隊長が猫のマークの鎧着るとか最高にウケる)」

「うむ、そうだな(前からアッシュくんのグッズが欲しいと思っていたのだ。ナイスだぞ、カルラ)」


 おお! しかもなんか大口の顧客を掴めそうな予感! これはいい方向に話が進んでいるぞ。


「じゃあさ、店員さんはあのエルフとは何の関係もないの?(他種族との接触を嫌うエルフがわざわざ異性にお願いするかな? 結構きわどいところにも紋様あったよね)」

「もちろん! お店以外では一度も会ってません」


 接点はないと答えたほうがいいだろう。これ以上疑われるのは勘弁だからな。


「ふーん(明らかに狼狽えてんじゃん。こりゃクロだな。さて、どうやってあぶりだすか)」

「へー。あっそ(まぁこんな冴えないもやし野郎にわざわざ意識するわけないか)」

「そうですよね(エルフさんに一般常識が欠如しているとしても、このような影の薄い男性は視界にも入らないはず)」

「ところでそこの君、どうした?(さっきからこちらを伺う者がいるが……)」


 ヴァンが店の奥に声をかける。そこにはそっと様子を伺うアンナちゃんがいた。


「おや、アンナ。どうしたのかな?(しまった! 娘に気が付かなかった。父親が女性の身体を触っていたと知られるのは娘の教育に悪い)」

「……(あのかっこう知ってる。自けい団さんだ。お手伝いさんがケダモノの変たいさんだからつかまえに来たんだ)」

「よぉ! なんか辛気くせぇツラしてんな。どうした(親そっくりじゃねーか。ウケる)」

「何か話したいことがあるのかな?(ひょっとしたらエルフとの関係を知っているのかな?)」

「……(ぬいぐるみみたいでかわいい)」

「……(ぬいぐるみみたいでかわいい)」


 アンナちゃんはじっと黙ったまま動かない。身体の調子が良くないのにどうしたんだろう?


「……あのね。私見ちゃったの(これはお手伝いさんを正気に戻すチャンスなの。チコちゃんわたしに勇気をちょうだい!)」

「うん? 何を見たんだい?(まさか! 私が半裸のエルフの身体を触っていたところを見てたのか!?)」

「わたし! しょうこがあります!(そう、これは正しいことをしているの!)」


 証拠? 一体何の? そういとアンナちゃんは奥に引っ込み、またすぐに戻ってきた。あれ? それ僕の鞄。


 アンナちゃんが僕の鞄を抱えてよちよちと歩いてくる。そして、鞄を逆さにすると中身を床にぶちまけた。


「これは!?」


 一同唖然とする。そして僕も。だってぶちまけられた中に、あのエグい下着が上下覗かせていたんだから! しかも女王さまからもらったマスク付きだ。一気に全身から血の気が引いてゆく。


「ええ……? なんでこのひと女性の下着持ち歩いてるんですか……(気持ち悪い!)」


 マルリが心底軽蔑したように身を引く。あちゃー完全に嫌われたな。


「む、下着泥棒か?(この下着どっちが前なんだ?)」

「待って、この下着見たことある(ドン引きしたけど、本人がいる手前黙ってたんだよね)」

「お? このえげつない配色は!(徹底したスケベだってドン引きしたんだよな)」

「これエルフさんのつけてた下着と同じですね。更衣室で見たときドン引きしたので覚えてます(常識に欠ける方はこんなのも平気で着るのかとドン引きでした)」


 やっぱり女性にも不人気なのかこの下着。女性陣の顔が引きつっている。急転直下。最悪の事態になってしまった。


「この下着はエルフさんにお譲りした一点物の商品です。どうして君が持っているのですか?(君はもしやあのエルフと……)」


 プロントさんが不安そうな顔をする。いや違うんだ。ええっと、確かにそれは僕のだけれど、ちゃんとした事情があって……


「これは例のダークエルフの下着なのか?(全体的に透けているのだが、どうやって洗うんだろう?)」

「昨日見たばかりだから間違いないっすよ(こんなエグイのふたつもあってたまるか)」

「うーん。不思議だよね。これ彼女に貰ったの?(刑務所内だと女の忘れ形見として持ってるって聞くけど、そういうた類なのかな)」

「(気持ち悪い)」


 どうしよう。これ以上自体が悪化するのは避けたい。どこまで信じてくれるかわからないが、本当のことを言おう。


「あの、実はですね」


 緊張のあまり誰の顔も見られない、けれど、みんなが僕に注目しているのを肌で感じる。


「僕、女王さまに……」


「女!(ムチでバシバシしばくやつだ!)」

「王!(ヒールでぐりぐり踏まれるやつだ!)」

「さま!(気持ち悪い!)」

「!?(最近生傷が絶えないなと思ってたけど、やはり君にはそいう趣味が……)」


 僕の告白が途切れそれぞれが驚きのリアクションをとる。ヴァンとアンナちゃんはいまいちピンときていないようだ。そうだよな、夜を支配する月の女王さま、とか言っても普通はびっくりするか、何言ってんだこいつって顔するよな。完全にイッちゃってるやつの話だもん。


「……いや、もういい。もういいんだ。君の個人的な趣味についてとやかく口を出すつもりはない(知らないところでふたりはそんな関係に)」

「だけどよ、あんたやっぱりあのエルフと特別な関係だったじゃねーか(あのダークエルフはエロいエロいと思っていたが、そこまで突き抜けてるとは思わなかったぜ)」

「……(身体中にデバフの魔法をかけたのって、やっぱり、やっぱり、そういうプレイをしたいから……密着デバフプレイって、エルフさん不潔ですっ!)」


 なぜか皆したり顔で頷いている。え? わかってくれた? んなわけないよな?


「嘘をついていたことは謝ります。ただ、僕としてもおいそれと話せる内容ではないので……」

「アタシは理解しているつもりだよ。もうそこには触れないでおくからさ(恋人関係かと思ったらそれを上回るなんて)」

「いやいや、ずいぶん濃厚な関係じゃねーか。詳しい話は署で聞こうか(こりゃ面白いネタ見つけたぜ)」

「(気持ち悪い)」


 なんかみんな僕を憐れむような目で見てる。これ絶対誤解うけてるよね。


「ヴァン隊長どうします? エロエロ罪でしょっ引きますか?(今度あのエルフ見つけたらイジってやろ!)」

「(やっぱり変たいさんだから捕まっちゃうんだ……バイバイ)」

「まあ待てカルラ。そうだプロントさん、取引をしませんか? 自警団の武具にその開発途中の『見張り猫アッシュくん』を付呪してもらいたい。代金はもちろん相応分払います(エロエロ罪?)」


 僕に弁解を挟む余地なくヴァンは商談を持ちかけた。


「その代わりに私は何をすればよいでしょうか?(おお! 一時はどうなることかと思ったが、大口の契約を結べそうだ!)」

「そこの店員からダークエルフの所在を掴みたい。ただ我々も表立って動くことはできぬ特殊な事情を抱えている。自警団に出向という形で彼をお借りいただければと(彼ならあのエルフの居場所を知っているはず。エルフ自治領との間に波風は立てたくない。できるだけ穏便に済ませなければ)」


 ええ!? 僕、変態の烙印を押されたまま自警団に引き渡されるの? それに付呪なんて使えないよ。


「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり付呪の魔法を使えって無茶ですよ」

「彼の言うとおりです。付呪には準備が必要なんです。それに私の店も人手が足りなく。昨日も私一人ではとうてい店が回らくて……(彼は付呪が使えない。すぐにバレてしまう)」

「私がお手伝いします!(あのひとがいないなら安心)」


 巨大な胸を揺らしマルリがピンと手を挙げる。


「いいの? マルリって喫茶店で働いてたよね(アタシたちはエルフさえ見つけれればいいのに。なんでそうなるかな……)」

「いいんです! これもひと助けですから!(付呪の魔法を覚えたら、ヴァンさんともっとお近づきになれるはず)」


「……わかりました。それでは彼を出向させましょう。では、そちらの責任者を交えて契約の取り決めを行いたいと思います(できるだけゴネて時間を稼ぐしかない。その間に彼に付呪の魔法を習得させるか)」

「承知した。我々は付呪の知識がないため、大まかな説明を彼にお願いしてもよろしいか(ひとまずエルフを呼び出させなくては)」

「ええ!? 今からですか?」


 これ逮捕と変わらないんじゃ。


「悪いがこちらも急いでいてな。できれば今から自警団署に来てもらいたい」

「仕方ないですね。じゃあ、行ってらっしゃい。私はそちらのミノタウロスさんにお仕事を教えますから」


 勝手に話が進んでいるが冗談じゃない。


「異議あり!」

「「「却下!」」」


 なおも抵抗する僕にそっと近づくとプロントさんは耳打ちした。


(破談になってもいいので、金額はできるだけ高く吊り上げなさい)


 ええ……商売する気マンマンじゃないですか。またあそこに戻るんですか……僕は情けない顔をしていたのだと思う。プロントさんの目を見つめながら、異議を唱える暇もなく自警団へと連れていかれた。

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