第四十六話 「魔王の力量」
途中で視点変更があります。お気を付け下さい。
俺は今、軽くパニックになりそうだ。
サイに乗って移動していると、上空から殺気を感じた。
仲間達に警戒するように伝えて、そのまま進んだのだが……。
俺達が湿地帯に入った途端、山の陰や草木の陰から鳥獣族の集団が急に現われ、あっという間に、乗っていたサイを囲まれた。
咄嗟にサイから飛び降りると、チーター野郎が俺に向かって突っ込んできた……。
あまりにも唐突なことだったので、必死に攻撃を避けていたのだが……。
気がつくと……、いつの間にか、仲間の姿がどこにも無かったのだ……。
意味が分からない。
上空から感じた殺気は、空から一人の鳥族が降りてきたので、そいつが原因だと予想はつく。
だが、チーター野郎がここにいるのも、仲間が全員いなくなったのも、今の俺には理解できていない。
しかも、空から降りてきた鳥族が、チーター野郎に何かを言ったと思ったら、何故かチーター野郎は動きを止めた……。
何が起きてるのか、サッパリ分からん……。
「お前ら! 一体何なんだよ!!」
俺は訳が分からないまま、そう叫んだ。
「パントロおおおおお!!」
チーター野郎が、もの凄い剣幕で俺を睨んでくる。
睨みたいのはこっちだ。
勝負の途中で逃げたくせに、今更何しに来たんだよ。
「方翼のパントロ! トッパーの仇を討たせてもらうぞ!!」
鳥族の男がそう言った。
トッパーの仇?
あの鳥族は、何を言ってんだ?
「トッパーって、誰だよ?」
俺はそう言いながら、周りにいる鳥獣族達の位置を確認した。
前方には、チーター野郎と鳥族の男。
右側には、小柄なキツネ顔。
左後方には、小柄だが、少し大きめのキツネ顔。
「貴様あああああああああああああ!! トッパーを忘れたと言うのか!!」
鳥族の男が、そう叫んだ。
だが、本当に俺は知らない。
「忘れたも何も、俺はそんなヤツ知らん!」
俺がそう言うと、鳥族の男はわなわなと震えだした。
どうやら、かなり怒っているようだ。
「貴様の、その身体は! トッパーの命を奪って手に入れた身体だろうが!!」
鳥族の男の叫びが、山々にこだました。
俺の身体……?
ん? トッパーって、鳥野郎のことか?
ああ……、なるほど、鳥野郎の仇討ちに来たのか。
「あいつ、トッパーって名前だったのか! 知らなかった! すまんな!」
何故か謝ってしまった。
カイザーの仇だと思って、鳥野郎を殺してしまったが……、実際は違った。
若干だが、悪いことをしたと思っているので、そのせいで謝ってしまったのかも知れない……。
だが、敵であることも事実だ。
何をしに来たのか知らんが、スライムの領土に入ってきた鳥野郎が悪い。
基本的にはそう思っている。
「し、知らなかっただと……? 鳥使いのトッパーだぞ!? スライム族の間でも有名だろうが!!」
いや、知らんし……。なんだよ鳥使いって……。
ん? ああ、そういえば、カラスみたいな鳥を使って攻撃してきてたな。
なんか、懐かしいな……。
「タタルド……、いい加減、おしゃべりは終わりだろ……、俺様はパントロを殺す!!」
「そうですね……。もう良いでしょう……。方翼のパントロを殺りましょう!!」
なんか、チーター野郎と鳥族の男が、物騒なことを言ってるな……。
キツネ顔の方からも、もの凄い殺気を感じる……。
さて……、どうするかな……。
前に、魔法を使ってきた、キツネ野郎が居たからな……。
魔法を使われると厄介だし、最初はキツネ顔だな。
考えがまとまった俺は、地面を蹴飛ばした。
俺の得意技の一つ、高速移動が始まったのだ。
――――タタルド視点――――
バカな!? 消えた!?
先ほどまで、前方にいたはずの方翼のパントロが消えた。
ピーリー様から話は聞いていた。
方翼のパントロは、ピーリー様と同じくらいの速度で移動すると……。
だが、これは異常だ。
消えた。
そう表現するしかない。
辺りを見回したが、姿どころか影すら見えない。
「パントロおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ピーリー様が、叫び声をあげながら突っ込んでいった。
ピーリー様には、パントロの姿が見えているのか!?
「く、くそっ!!」
俺は咄嗟に、空に向かって飛び上がった。
上空から地上を観察し、パントロの居場所を特定するのだ。
「え……?」
信じられないことが起きた。
まず、魔法を撃とうとしていた、セチュラの首が飛んだ。
何もないのに、急に首が飛んでいったのだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
次に、パンパスが叫び声をあげた。
咄嗟にパンパスを確認したが、パンパスの腕が無くなっていた。
いや、斬り落とされていた。
そして、次の瞬間……、パンパスの首が飛んだ……。
あっという間に、二人の仲間が殺されたのだ……。
「そこかあああああああああ!!」
ピーリー様が突っ込んだ先で、ガギンッと、金属がぶつかるような音が鳴り響いた。
次の瞬間、ピーリー様の目の前に、パントロが現われた。
パントロは爪を使って、ピーリー様の爪を防いでいる。
「ど、どうなっている……、なぜ、急に現われた……?」
パントロの高速移動とは、これほどまでに速いものなのか?
いや、ピーリー様は、自分と同じくらいに速いとしか言ってなかった……。
だが、明らかに、ピーリー様よりも速い速度で移動してやがる……。
どうなってる……? この短期間の間に、そこまでの修行を重ねたというのか?
いや、王になったばかりで、そんな修行なんて出来るはずがない……。
そもそも、アイツは怪我をしていたはずなんだ! それなのに、何故だ!?
俺は頭を掻きむしりながら、方翼のパントロの動きについて考察していた。
あの動きを捉えられなければ、トッパーの仇なんて討てない。
いや、それどころか、こちらが全滅する可能性まである。
――――パントロ視点――――
くそっ!
チーター野郎に、高速移動を止められてしまった!
やっぱり、コイツに高速移動は通じないのか!?
「おらららららららららららああああああ!!」
チーター野郎の、連続攻撃が始まった。
蹴りを放ったり、爪を振り下ろしたりと、蹴りと爪攻撃を混ぜながら攻撃を仕掛けてくる。
俺は近距離で、チーター野郎の攻撃を避け続ける。
チーター野郎の攻撃は、少し遅く感じた。
いや、正直に言おう……、かなり遅く感じる……。
なんだ? 手加減しているのか?
何のつもりだ?
「おらああああああああああああああああああああ!!」
チーター野郎が、大振りで爪を振り下ろしてきた。
「よっ」
俺は、その場で回転するように爪を避け……。
「おらああああああああああああ!!」
そのまま流れるように、爪を振り下ろした。
「うりゃあ!!」
チーター野郎は爪を使って、俺の爪を防ぐ。
こいつはバカか?
アレを忘れたのか?
バキンッという音と共に、チーター野郎の爪が折れた。
「なっ!? バカなっ!?」
何を驚いているんだ?
前と同じことが起きただけだろ?
そう、俺は爪を硬質化していた。
俺もチーター野郎も、爪が武器だ。
相手の武器を奪う術があるなら、誰だってそうするだろ。
「おらあああああああああああああああああああ!!」
俺は驚いているチーター野郎に向かって、再度、爪を振り下ろす。
もちろん、爪は硬質化したままだ。
「くっ!?」
チーター野郎は、俺の爪攻撃を避けるように、一気に後ろへ飛び退いた。
さすがに、爪を使って防ごうとは思わなかったようだ。
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そしてそのまま、雄叫びのような声を上げながら、チーター野郎は走り出した。
「逃がすか!!」
俺は地面を蹴って、チーター野郎を追う。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
チーター野郎は、俺から距離を取るように走り続けている。
だが、距離は離れていない。
むしろ、近づいている。
チーター野郎は、本気で走ってないのかも知れない。
すぐに追いついた俺は……、
「おらああああああああああああああああ!!」
高速移動したまま、チーター野郎の背中に爪を振り下ろした。
「があああああああああああああ!?」
チーター野郎は、叫び声をあげながら、足をもつれさせ、凄い勢いで転んだ。
俺は地面を削りながら止まり、チーター野郎を睨み付ける。
何のつもりだ?
本気で攻撃をせず、本気で走らず、そのままダメージを受けている。
チーター野郎は何がしたいんだ?
俺がそんなことを思っていると……。
「クッケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
俺に向かって、鳥族の男が空から突っ込んできた。
そのまま俺に向かって、爪を振り下ろしてくる。
遅すぎだろ……。
マジで何なんだよ?
コイツら、何してるんだ?
鳥族の男の爪攻撃は、もの凄く遅い。
チーター野郎の爪攻撃が10の速度だったとしたら、3くらいの速さだ。
こんなもの、俺が避けられないはずがない。
俺は少しだけ身体を横にして、ギリギリのところで爪攻撃を避ける。
そして……。
「くらえっ!!」
そのまま流れるように、翼を狙って、爪を振り下ろした。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
鳥族の男は、もの凄い悲鳴をあげながら地面を転がっていく。
片方の翼を斬り落としてやった。
鳥族の男は、俺と同じような方翼になったのだ。
「さて……」
鳥族の男にトドメを刺そうと思い、俺はゆっくりと近づいていく。
「ぐらあっ!!」
チーター野郎が、声を上げながら飛び起きた。
俺は咄嗟に、チーター野郎の方へ注意を向ける。
鳥族の方は後だな……。
チーター野郎が本気で来たら、かなりマズイ……。
そう思いながら、俺は、チーター野郎の様子を窺う。
「パントロぉ……。てめえ、一体何をしてやがった……?」
「はあ?」
チーター野郎から、訳の分からん質問が飛んできた。
「まさか、そこまで強くなってるとはな……、俺様を超えたつもりか?」
チーター野郎は、俺を睨み付けながらそう言った。
強くなっている……?
俺が……?
え? どういう事だ?
俺って、強くなったのか?
チーター野郎の言っていることが、俺は理解できていない。
確かに、以前に戦ったときと比べると、俺の魔力操作は上達しているので、その分は強くなっただろう。
だが、今の戦いでは爪を硬質化したくらいで、特別な何かをした訳じゃない。
以前と同じく、高速移動、爪攻撃、掌底、このくらいしかやっていないのだ……。
それなのに、何故か、チーター野郎は俺が強くなったと言った……。
意味が分からないのだ……。
「どういう事だ? 俺が強くなった? お前が手加減してるからだろ?」
「俺様が手加減だと……? ふざけんじゃねーぞコラッ!!」
チーター野郎は怒りをあらわにして、そう叫び、両腕を広げて突っ込んできた。
「ちょっ!?」
あの体勢なら、おそらく爪攻撃だ。
けど、片方の爪は折れているし、やっぱり動きが微妙に遅い……。
どうするつもりだ……?
そう思いながら、俺が構えた直後。
「ぐらああああああああああああああああああああああ!!」
突っ込んでくる途中で、チーター野郎は両腕をクロスに振り下ろした。
その瞬間、見えない何かが飛んできた。
いや、見えていないので、そう感じただけだ。
「くっ!?」
俺は咄嗟に横に跳んで、見えない何かを回避する。
フォンッ! と、何かが、俺の横を通り過ぎるような音が聞こえた。
「ぐらあああああああああああああああああああああああああ!!」
若干体勢を崩した俺に向かって、チーター野郎が蹴りを放ってくる。
「ぐっ!?」
俺は何とか、蹴りを両腕で防御した。
だが、蹴りの勢いが凄まじく、俺は、押し出されるように吹っ飛ばされた。
くそっ!!
俺は吹っ飛ばされながらも、体勢を立て直す。
空中でバク転するようにして、何とか着地したのだが、湿地のぬかるみで足を滑らせてしまい、片膝をついた状態で止まってしまった。
「うらああああああああああああああああああ!!」
チーター野郎は、そんな状態の俺に向かって突っ込んでくる。
そして、そのまま爪を振り下ろしてきた。
「おらああああああああああ!!」
振り下ろされた爪に向かって、俺も爪を振り上げる。
両者の爪がぶつかり、バキンッという音が鳴り響いた。
チーター野郎の爪を折ったのが、伝わってくる感触だけで分かる。
「おりゃああああああああ!!」
お構いなしと言わんばかりに、チーター野郎は蹴りを放ってきた。
「おらあっ!!」
その蹴りに向かって、俺は爪を振り下ろす。
「ぎっ!?」
チーター野郎の右足のスネに、俺の爪が食い込んだ。
そのまま足を切断するつもりで、全力で腕に力を込める。
「いっっけええええええええええええ!!」
俺の爪は、チーター野郎の右足を切断。
だが、チーター野郎は止まらない。
「があああああああああああああああああああ!!」
チーター野郎は、その場で一回転して、そのまま切断された足で蹴りを放ってきた。
「ぶふっ!?」
俺は何も出来ずに、蹴りが顔面に直撃。
だが、俺のダメージは大したことはない。
顔が横に振られた程度だ。
片足を失ったチーター野郎は、残った片足で飛び跳ねながら移動し……。
俺から少し離れた場所で、前のめりに倒れた。
「ふぅ……」
おし……。
これは俺の勝ちだろ。
爪は両方折ったし、右足も切断してやった。
もう、チーター野郎は何も出来ないはずだ。
「ぐうううううううううううううう」
チーター野郎の、うめき声が聞こえる。
痛みに耐えているような、そんな声だ。
俺はゆっくりと立ち上がった。
そして……。
「俺の勝ちだな」
そう一言だけ言い、チーター野郎にトドメを刺すべく、近づいていった。




