第四十五話 「山中の目撃」
軍議を行なった次の日。
俺は今、サイに乗って山の中を移動中だ。
湿地帯まではサイで移動し、その先は、徒歩で鳥獣族の領土に向かう予定になっている。
そう、俺はこれから、鳥獣族の領土に潜入するのだ。
一人で出発するつもりだったのだが、湿地帯まで俺を送ると言って、仲間達がついてきた。
サーラスティとガルディウスには、街を守る任務を与えたのだが、一日くらい留守でも大丈夫だろうと、ついてきてしまったのだ……。
「パントロ! あたし達が居ないからって、浮気したら承知しないからね!」
サーラスティが、俺の腕に抱きつきながら、そんなことを言い出した。
「浮気って……、これから任務に行くんだぞ? 仕事だ、し・ご・と!」
ニートだった俺が、仕事だと言える日が来るとは……。
なんか、少しだけ恥ずかしいな……。
「ふ~ん? そんなこと言って、鳥獣領に可愛い獣耳族が居たら、襲っちゃうんじゃないの?」
どうやら俺は信用されてないようだ。
「パントロちゃん……。浮気はダメなのぉ……」
「だから、そんな事しないから!」
ユカリスにまで、疑われている……。何故だ……。
俺は、そんなに信用できない男に見えるのか?
獣耳には慣れたし、サーラスティを超えるような、美少女の獣耳族が居るとは思えん。
浮気を心配する必要なんて……。
ん? サーラスティって、ぺったんこだよな……。
セクシーな獣耳族が現われたら……。
いやいや、ダメだ! ダメ!!
俺は何を考えているんだ!
「ホントかしらね……」
「ねぇ……」
二人が疑いの眼差しを俺に向けてくる。
ま、マズイ……。
邪な心が読まれた気がする……。
「か、カイザー、助けて……」
「ふぉっふぉっふぉ。浮気はいかんのう。ふぉっふぉっふぉ」
くそっ! カイザーに助けを求めても無駄か。
じゃあ……。
「り、リンジー」
「ふぁ、ふぁい!?」
リンジーは話しかけられて驚いたのか、素っ頓狂な声を上げた。
「どうした? そんなにビックリしたか?」
「ち、違うよ? 驚いてなんかいないよ? あ、そうだ! パントロくん! が、頑張ってね!」
「え? お、おう……、頑張るけど……」
リンジーの様子がおかしいな……。
あれか? 秘密が原因か……?
俺は、未だにリンジーの秘密について知らない。
ここに来るまでの道中で、何度か秘密について聞いたのだが、教えてくれなかった……。
俺が魔王になったら教えると言ったのはリンジーだ。
それなのに、何故か秘密を教えてくれないのだ……。
「あ、あのさ? 秘密のことなんだけど……」
「ああ! 今日は良い天気だね!! 見てよ! 雲があんなに高いところにあるよ!!」
これでもかってほどに、話を逸らしてくるな……。
ダメだな……。
これ以上しつこく聞くと、信用を失いそうだ……。
「分かったよ……。リンジーが話したくなったら、話してくれ……」
「え? あ……、う、うん……」
そう言うとリンジーはショボンとしてしまった。
何故か涙目になっている……。
「もう! リンジーったら!!」
「サーちゃん……、リンちゃん可哀想だよぉ……」
サーラスティやユカリスは、何か思うところがあるようだ。
「ん?」
「ガルディウス? どうした?」
ガルディウスが空を眺めている。
俺も釣られるように空を眺めた。
「なあ……、アレって……」
「鳥族だな」
鳥族の集団が見える。
ここは山の奥だ。
戦うにしても、地形が悪すぎる。
「どうする?」
「どうするって言われてもな……」
ガルディウスに意見を求められたが、俺的には無視しても良いかと思っている。
鳥族の集団が向かっている先は、スライムの街の方向じゃないし、この辺りは地形が悪すぎて戦いにくい。
つーか、魔王軍は何をしてんだ? スライムの領土に完全に入り込まれてるじゃねーか……。
「ふむ……。ボルドもつれてきた方が良かったかのう?」
「いや、ボルドは、特訓があるから……」
そう、ボルドはここには居ない。
ボルドは、魔王軍歩兵部隊と一緒に、特訓をしているのだ。
これは、ボルド自身が言い出したことで、なんでも、不甲斐ない自分を鍛え直すらしい。
どの辺りが不甲斐ないのか分からんのだが、俺に特訓を頼んできたのだ。
だが、俺はこれから鳥獣族の領土へと潜入する任務がある。
その為、ボルドの特訓には、魔王軍歩兵部隊の精鋭をつけたのだ。
今頃、鍛錬場で特訓をしているだろう。
「ふふん! あんな連中、撃ち落としちゃえばいいのよ!」
「サーラスティ……、場所を考えろよ……」
「そう? こっちには四人も魔法の使い手がいるんだから、大丈夫でしょ?」
四人……?
サーラスティ、ユカリス、リンジーの三人じゃ……?
ん? ああ、後一人はカイザーか。
カイザーが戦ってる所を見たこと無いから、忘れてた……。
「でも、あの敵を全部、撃ち落とせる訳じゃないだろ?」
「ふふん! 見たところ五人くらいでしょ? 余裕で撃ち落とせるわよ!」
そうは言ってもな……、
撃ち落とす前に襲われたら、ここじゃ戦いにくいし……。
「ちょっと待て」
ガルディウスが何かに気付いたようだ。
「どうした?」
「アイツら、降り始めたぞ」
「え?」
空を確認すると、鳥族の集団は山の向こう側へと降りていくのが見えた。
そして、そのまま俺達の視界から消えていった……。
「あらら……、行っちゃった……」
サーラスティが、残念そうな声を上げた。
「いや……、あの場所って……」
「うむ。湿地帯じゃな」
やっぱり……。マズイな……。
今日は確か、200人くらいのスライム達が居るはず……。
数的には有利だが、戦えば確実に被害が出る……。
全員無事だと良いが……。
そんな心配をしつつ、俺はサイに揺られながら移動を続けた。




