第四十四話 「魔界の情勢」
演説をしてから三日経った。
この三日間、俺は様々なことを知った。
まず、軍関係のスライム達に会うところから始まった。
軍関係と言っても、参謀や部隊長などの、お偉いさん達と会っただけだ。
参謀は三人のスライムがいて、それぞれの意見を出し合いながら、よりよい方法を見つけるのが仕事らしい。
部隊長はそのままだな。魔王軍は部隊がいくつも別れており、その部隊にはそれぞれ部隊長がいる。
部隊長の下には小隊長、その下が普通の兵士だ。
部隊についても、説明を受けた。
魔王軍の主力となっているのが、歩兵部隊だ。
地上で戦う部隊で、スライムの数が最も多い。
歩兵部隊の中でも、戦闘部隊、足止め部隊、後方支援部隊など、細かく別れている。
他には、獣部隊と呼ばれる部隊があるそうだ。
サイやガルーダなんかを調教して、移動用として使えるようにする部隊らしい。
魔界には、俺の知らない動物がたくさん存在している。
それらを移動用や戦闘用に調教するらしいのだが、今のところ、戦闘用は成果が出てないようだ。
さて、ここからが少し驚きなのだが……。
魔王軍には、水部隊と呼ばれる、海軍のような部隊も存在しているそうだ。
水部隊の任務は、水の確保と、海からの敵の侵略阻止らしい。
何が驚きって……、魔界に海があることに驚いた。
色々と聞いたのだが、どうやら俺の知ってる海と変わりはないようだ。
魚介類が生息していて、波がある。そう説明された。
今度、機会があったら見に行こうと思う。
海について聞いた後は、魔界について色々と聞いた。
俺は、魔界について知らないことが多すぎた……。
まず、魔界というのは、海に囲まれた一つの大きな大陸らしい。
と言っても、他に大陸や島があるわけでもなく、この世界には一つの大陸しかないようだ。
では、人間はどこに住んでいるのかというと……、謎だそうだ……。
人間が魔界に来るときは、異次元の扉と呼ばれる穴が出来るそうで、その先が人間界だと考えられている。
ちなみに、異次元の扉が出現する場所はランダムのようで、一番新しく出現したのは、スライムの街にある、演説広場らしい。
もちろん今は存在していない。数十年前に消え去ったそうだ。
魔界について色々と聞いていると、ふと、カイザーに聞いたことを思い出した。
魔界には、魔王が何人もいる。
それぞれの種族に魔王が存在していて、それぞれの領土を統治していると……。
それについても色々と聞いたので、少しまとめようと思う。
魔界の主要な種族について。
スライム族。
これは説明する必要はないだろう。俺達の種族だ。
魔界の北東部分が領土になっているそうだ。
鳥獣族。
これも大体は分かっている。
獣族、鳥族、鱗族、獣耳族のことを、総称して鳥獣族と呼んでいる。
スライム族の領土の、南西側を領土としているようだ。
植物族。
植物系の魔物で、草木を愛する種族らしい。
鳥獣族の領土の西側、魔界の北部に大森林と呼ばれる森があるそうで、そこを領土としているらしい。
鳥獣族の領土に近いため、鳥獣族といざこざが起きているそうだ。
悪魔族。怪人族。
悪魔族は、角や翼が生えた魔物が多いらしく、悪魔のような見た目の種族らしい。
俺の知ってる悪魔と同じかどうか分からないのだが、そう説明された。
怪人族は、所謂、天狗や河童のような、人間っぽいけど、人間ではない種族らしい。
この二種族は、現在、同盟関係にあるらしく、悪魔怪人連合軍として、魔界の南部を領土にしているそうだ。
物質族。
岩石などの、生命体ではない物質に命が宿り、魔物となった種族らしい。
これに関しては、見ないと理解できないと言われた。
まあ、なんとなくは分かる。
ドラ○エにも、そういう敵が登場してたし……。
領土は、魔界の南東だそうだ。
アンデッド族。
人間や魔物が死んだ後、ゾンビやスケルトンのような不死者になり、意志を持った種族らしい。
彼らは軍を名乗っており、アンデッド軍と呼ばれている。
魔界の南西を領土にしているそうだ。
竜族。
ドラゴン系の魔物を総称して、竜族と呼んでいるそうだ。
小さなドラゴンから、大きなドラゴンまで、様々な種類がいるらしい。
最強の種族らしいのだが、種族としては数が少なく、多くても千頭ぐらいだと予想されている。
魔界の北西部を領土としているそうだ。
スライム族、鳥獣族、植物族、悪魔怪人連合軍、物質族、アンデッド軍、竜族。
魔界は、この七種類の種族や軍によって、領土が分かれている。
それぞれの種族や軍には、もちろんトップの魔物がいるわけで、そいつらが、魔王と呼ばれているそうだ。
それぞれの魔王については、殆ど分かっていない。
ただ、魔王になるほどの者ならば、相当に強いと予想されている。
種族に関しては、このくらいだ。
次は、現在の魔界の情勢について聞いたので、まとめようと思う。
現在、七種類の種族や軍は、領土争いを行なっているそうだ。
何のために、領土を奪い合っているのかというと……。
それぞれの種族の魔王は、大魔王を目指しているらしい……。
そう、全ての魔王は、俺と同じ目標を掲げているのだ。
さて、ここで一つの疑問が生じた。
そもそも大魔王とは何か……。
自分で目指すと言っておきながら、俺は大魔王とは何なのかを知らない……。
そこで、大魔王についても聞いた。
魔界全土を支配するほどの、圧倒的な力とカリスマ性を持つ、魔界の絶対的支配者。
それが大魔王の定義らしい。
だが、これはあくまでも定義だ。
実際には、魔界を統一すれば、大魔王と呼ばれるそうだ。
まあ、魔界を統一するってことは、魔界全土を支配するってことで、その時点で、圧倒的な力とカリスマ性があるので、定義としては間違っていないだろう。
全ての魔王は、魔界全土を支配下に置くために、領土争いをしてるって訳だ。
俺も大魔王を目指しているが、やはり生半可なことでは為し得ないのだ。
領土だけではなく、圧倒的な力とカリスマ性が必要だ。
俺は、今以上に強くならなくてはならない……。
カリスマ性に関しては……、後からつくことを祈ろう……。
次に……。
これが一番深刻な問題なのだが……。
鳥獣族の領土に潜入しているドバイン師匠と、連絡が取れなくなったそうだ……。
潜伏場所からスライムの領土までは、どんなに遅くても五日もあれば到着するらしい。
だが、最後に連絡があったのは戦争の直前らしく、今から二十日ほど前になる。
間違いなく、何かが遭ったと考えるべきだ。
俺としては、今すぐにでもドバイン師匠の捜索を始めたい。
だが、鳥獣族の領土に潜入できるスライムなんていない……。
スライムでは目立ちすぎるのだ……。
この三日で知ったのは、このくらいだろう。
――
俺は今、会議場と呼ばれている場所に来ている。
円卓があるだけの部屋なのだが、ここで色々と情報交換が行なわれるらしい。
「では、軍議を始めます」
参謀の一人がそう言って、軍議が始まった。
議題は、今後の鳥獣族との戦いについてだ。
「今後の防衛について、魔王様の意見が聞きたい」
部隊長の一人がそう言った。
「えーっと……、防衛に関しては、今まで通りで良いと思いますよ」
俺はそう答える。
防衛と言っても、湿地帯の前線基地に数百のスライムを待機させているだけだ。
何かあれば、すぐに魔王軍に連絡が届くようになっているので、現状のままで良いだろう。
「では、魔王様は、今後の鳥獣族との戦いに関しては、何もなさらないと?」
先ほどの部隊長が、そう言ってきた。
「いえ……。俺の考えとして、まずは情報を集めようと思っています」
「情報ですか?」
「はい。戦いにおいて、それが小規模だろうが大規模だろうが、情報は絶対に必要です。情報が無くては戦えません」
「ふむ……。では、密偵を増やすと……?」
「はい。ドバイン師匠と連絡が取れなくなった今、我々は、情報戦において、圧倒的に不利な状況にあると思います。そこで、鳥獣族の領土へと潜入しようと思います」
これしか方法がない……。
ドバイン師匠が行方不明で、情報が圧倒的に不足している……。
「ふっ! やはり新たな魔王様は、短絡的すぎる!」
部隊長が、俺を小馬鹿にしたようにそう言った。
「どういう意味でしょうか?」
「そこまで説明しなくては、分かりませんか? 潜入と言っても、誰を向かわせるのです? スライム族が鳥獣領に入れば、目立ってすぐに殺されるのがオチですよ?」
部隊長はそう言いながら、俺を見下すような目で見てくる。
どうやらコイツは、俺のことを認めたくないようだ。
まあ、良いけどさ……。
「話を聞いていなかったのですか? 俺は、潜入しようと思う、と言ったのです」
「はい? ですから、誰を向かわせるのかと、聞いているのですが?」
「もちろん、俺がですよ」
その瞬間、会議場の空気が凍った。
「ば、バカなことを!! 魔王様が何故そのような任務を!!」
参謀の一人が、驚きながらそう叫んだ。
「ハッハッハッハッ! やはり新たな魔王様はバカだ。バカすぎる!」
先ほどの部隊長がそう言った。
「はい。俺はバカです。ですので、演説のときに、皆様にご協力をお願いしました。まあ、この案が却下されるというなら、どうぞ却下して下さい。その代わり、更に良い案を出して下さいね」
俺がそう言うと、スライム達は黙ってしまった。
スライムに潜入が無理なのは、最初から分かっている。
だからこそ、ドバイン師匠が潜入してくれたんだ。
だが、そのドバイン師匠が行方不明になった。
だったら、まずはドバイン師匠の捜索をするべきだ。
何があったのか分からないし、生きているのか、死んでいるのかも分からない。
捜索するにしても、やはり敵地の情報は必要になってくる。
スライム族の誰もが無理ならば、俺が行くしかない。
鳥獣族の身体を持つ俺が……。
「あの二人はどうなのでしょうか……?」
参謀の一人がそう呟いた。
あの二人というのは、もちろんサーラスティとガルディウスだ。
二人も俺と同じく、鳥獣族の身体を手にしているので、何の問題もなく潜入できる。
そう考えたのだろう。
だが……。
「無理ですね」
俺はそう答えた。
あの二人ならば、問題ないだろう。
だが、任務としては危険すぎる。
仲間を敵の領土に送るなんて、俺には出来ない。
「何故ですか? あの二人ならば、鳥獣族として紛れ込むことは容易のはず」
「あの二人には、別の任務を与えます」
「別の……?」
「はい。あの二人には、街を守ってもらいます」
俺がそう言うと、スライム達は不思議そうな顔をした。
「街ですか? 街に危険があると?」
「はい。誰も気付いていないようですが、今、スライムの街は何者かに狙われています」
これは、俺の予想でしかない。
半分はハッタリ。
だが、もう半分は、演説のときに感じた殺気だ。
あれがどうも腑に落ちない。
上空から殺気を感じたことは、誰に言っても信じて貰えなかった。
だからと言って、気のせいで済ませる訳にもいかない。
万が一、鳥獣族が攻めてきたら、魔王軍が出張るだろう。
だが、それでは被害も大きくなるはずだ。
そこで、サーラスティとガルディウスだ。
二人は転生してから、かなり強くなっているはず。
魔王軍と連携して戦えば、被害をグッと抑えることも出来るはずだ。
「それは、どこからの情報ですかな?」
またも、部隊長がそう言ってきた。
「神官カイザーの情報ですが何か?」
カイザー、すまんな。
名前を借りるぞ。
カイザーは神官様と呼ばれるほどの有名人だ。
それに、ゴブリン魔王の元ライバルとしても名前が売れている。
それなりの説得力があるはずだ。
「なるほど……、神官様の……」
部隊長はしょぼんとしながら、そう呟いた。
「では、俺が潜入するということで、よろしいでしょうか?」
「うむむ……。ですが、魔王様自らが……」
まだ何かあるのかよ……。
さっさと決めてしまって、すぐにでも情報を集めに行きたいのだが……。
俺がどうするべきか悩んでいると……。
「失礼するぞ!」
そう言って、会議場にゴブリン魔王がやって来た。
「ぜ、ゼウス様!」
スライム達が一斉に声を上げた。
「ハッハッハッ! パントロ! いや、魔王様! 軍議はどうだ?」
ゴブリン魔王がそう聞いてきた。
「えーっと、どうと言われましても……、皆さん、俺の意見が気に食わないようで……」
「ハッハッハッ! どうせ無理難題を吹っ掛けたのであろう?」
「はあ……」
その後、参謀や部隊長が、ゴブリン魔王に今までの軍議について話し出した。
そして全てを聞いたゴブリン魔王は……。
「なるほどな。では、魔王様、鳥獣領へと潜入なさるがいい」
「ぜ、ゼウス様!? 一体何を!?」
ゴブリン魔王の意見に、全員驚いているようだ。
「魔王様が留守の間、先代として、私が代わりに業務を行なってやる。それで問題なかろう?」
ゴブリン魔王がそう言うと、スライム達は黙ってしまった。
「あ、あの? 俺のために、そんな……、ゼウス様はよろしいのですか?」
「ハッハッハッ! 私は認めた男を補佐してやるつもりでここに来たのだ。代わりを行なうくらい当然だろ!」
俺の質問に、ゴブリン魔王はそう答えてくれた。
有り難い……。
これで心おきなく、ドバイン師匠を捜せる。
「では、そう言うことで、皆さん、よろしいですか?」
「了解致しました」
参謀がそう言い、次々と了解を得ていった。
だが……。
「私は納得できません」
部隊長がそう言った。
「何故でしょうか?」
「ゼウス様は、もう外部のお方、今更……」
ああ……。
元魔王でも、そんな扱いになっちゃうのか……。
「では、ゼウス様に、魔王軍最高司令官の地位を与えます」
「なっ!?」
本来なら、魔王軍最高司令官の地位は、俺のものだ。
だが、俺はそんなものいらない。
魔王という肩書きだけあれば、俺はそれでいい。
「俺の代わりに働いてくれると言うのだから、それくらいの地位は必要でしょう?」
「ふむ……」
参謀達が何かを話し出した。
そして……。
「分かりました。そのように手配致しましょう」
「部隊長も、それでよろしいですね?」
「わ、分かりました……」
参謀達が決めたことなので、部隊長もようやく納得してくれたようだ。
「では、改めて、俺が潜入する作戦について、話し合いましょう」
こうして軍議は、暗くなるまで続いた。




