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第四十話 「魔王の条件」

 久々の特訓が終わり、家に帰った俺は、カイザーに意味不明な事を言われた。


「魔王決定戦?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ、魔王決定戦の出場登録をしておいたのじゃ」

「出場登録って、俺を……?」

「そうじゃ。パントロ、お主が次の魔王になるのじゃ。ふぉっふぉっふぉ」


 意味が分からない……。

 魔王決定戦ってなんだよ?

 魔王って権力者の肩書きだろ?

 それなのに決定戦って……。


「いや、意味が分からんから……。それより、魔王決定戦ってのは、何をするんだ?」


 選挙的なものか?


「もちろん、戦うのじゃよ」

「戦う? 誰と?」

「決定戦に出場登録した者じゃ。それ以外におらんじゃろう?」

「はあ? 魔王って権力者の肩書きだろ? なんで戦うんだよ?」

「強い者が魔王となり、権力を持つ。当然じゃろ?」


 魔王決定戦に出場して、勝ち残った奴が魔王になるのか?

 どんな大会だよ……。


「えっと……、魔王って、そんな風に決めるの?」

「そうじゃ。四年に一度、大会が開かれ、その中から魔王が決まる」


 四年に一度の大会って……。

 ワールドカップとか、オリンピックみたいだな……。


「あのさ? スライム族の魔王を決める大会だよな?」

「もちろんじゃ」

「出場者は? どれくらいの人数が参加するんだ?」

「今のところ決定しているのは、魔王様とお主だけじゃな」


 魔王と俺だけ?

 二人しかいないのか?

 本当に大会なのか……?


「場所は? どこでやるの?」

「闘技場じゃ」

「闘技場? そんなのどこにあるんだよ?」

「街の端に、大きな建物があるのじゃが、見たことは無いかのう?」

「ん? ああ……。外周を走ってるときに見たことあるけど……」

「あれが、闘技場じゃ」


 確かに、バカデカイ建物があった。

 だが、中は見たこと無いし、入り口がどこにあるのかも知らん。

 いや、それより……。


「出場者は増えるんだよな?」

「はて……? それは分からぬのう……」

「え? だって大会だろ? 二人だけって事はないだろ?」

「ふぉっふぉっふぉ。毎回、魔王様しか出場しないからのう」


 は? 魔王しか出ない?


「え? どういう事? ゴブリン魔王が一人で出場して、そのまま魔王が決定してたの?」

「うむ。魔王様には勝てぬと、誰もが諦めておるのじゃ」


 マジか……。ゴブリンのくせに……。

 いや、確かにスライムとゴブリン、どっちが強そうかと言われれば、ゴブリンだが……。

 だからって、誰も出ないってことはないだろ?


「英雄は? えっと……。名前忘れたけど、ガルディウスの親は? 出てないの?」

「英雄フォンディウスか……」


 あれ? カイザーが暗くなった。

 なんだ? どうした?


「え? その、英雄フォンディウスは……、何? 何かあったの?」

「英雄フォンディウスは、もうこの世におらん……」


 え……?


「マジで……?」

「うむ……。ガルディウスが生まれる数日前、命を落としたのじゃ……」

「う、嘘だろ……?」

「ガルディウスから、聞いておらぬのか? 鳥獣族との戦いでな……」


 マジっぽい……。

 どういう事だよ……。


「詳しく、聞いても良いか……?」

「うむ……」


 そこから少しの間、英雄フォンディウスについて、説明してくれた。


 英雄フォンディウスは、鳥獣族が攻めて来るという情報を掴み、前線基地よりも先にある、砦へと向かったそうだ。

 スライム族の領土の端に位置する、その砦では、ほぼ毎日のように戦いが起きていたらしい。

 そして、その日は、本格的に鳥獣族が攻めてきたらしく……。

 鳥獣族が百、スライム族は二百という、絶望的な状況で戦わなくてはならなくなったそうだ……。


 英雄フォンディウスは、その窮地を凌ぐため、自らの命も省みずに戦い……。

 そして、最後は自爆技を使い、この世を去ったらしい……。


 自爆技の詳細は分からない……。

 そんなことを聞ける雰囲気じゃなかった……。


 その戦いで、鳥獣族は全滅、スライムが生き残ったのは、たったの一匹。

 その一匹が、事の顛末を伝えたそうだ……。

 生き残ったそのスライムは、全てを報告後、軍を引退して、今は隠居しているらしい。

 もう戦えないと、そう言ってるそうだ……。



「そんな事が……」

「ガルディウスは、母から、父のことを沢山聞いたじゃろう……」


 ガルディウスは英雄の息子なのに、自慢の一つもしない……。

 理由を考えたことは無かったが、まさか、もう既に亡くなっていたとは……。


「でも、ガルディウスは強くなったからな。きっと親御さんも喜んでるだろ……」

「うむ……。そうじゃな。これも、ドバイン殿のおかげじゃ」


 本当にそうだ。

 ドバイン師匠のおかげだ。

 ん? そう言えば……。


「あのさ? 話を、かなり戻すけどいいか?」

「ふむ……。なんじゃ?」

「ドバイン師匠は、今までの魔王決定戦に出てないの?」

「うむ。ドバイン殿が協力してくれるようになったのは、三年前からじゃからのう」


 なるほど……。

 四年に一度の大会だから、前回はまだ、スライム族の味方じゃなかったのか……。


「今年は出るかな?」

「どうじゃろうな? 監視の任務があるのじゃから、勝手に戻っても来られぬじゃろうし……」

「まさか……、ゴブリン魔王が、魔王の地位を譲りたくなくて、ドバイン師匠を遠ざけたんじゃ……」

「コラッ! 失礼なことを言うでない!」


 だってなあ……。

 どう考えても、ゴブリンよりも、虎の獣人の方が強そうだろ……。


「まあいいか……。で、魔王決定戦って、いつやるんだ?」

「明日じゃ」

「は? 明日?」

「うむ。明日じゃ」


 明日って……。

 いや、ガルディウスとサーラスティも、明日は用事が……、とか言ってたな……。

 まさか、魔王決定戦のためか?


「出場登録って、明日も出来るんだよな?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。大会が始まる直前まで受け付けておる」

「じゃあ、ガルディウスとサーラスティも、出場する可能性が……」

「ふむ? それは無いぞい」

「え?」


 無い? なんで?


「二人は明日、ワシと一緒に見学の予定じゃ」

「え? なんで? なんで俺だけ出場する流れになってるの?」

「何故って、パントロ、お主が大魔王を目指すためじゃろ」


 は? 大魔王を目指すため……?


「意味が分からんのだが……?」

「ふぉっふぉっふぉ。大魔王になるためには、まずは魔王になるべきじゃろう?」

「え? ああ、そうだけどさ……」

「その為に、サーラスティとガルディウスは、今回は辞退すると言っておったのじゃ」

「辞退? なんでだよ?」

「じゃから、お主が万全の体勢で、魔王様と戦う為じゃろうが」


 意味が分からん……。

 ダメだ……。理解が出来ない……。


「あのさ? 魔王決定戦で勝ったら、魔王になるんだよな?」

「うむ。その通りじゃ」

「別に魔王になんか……」

「なんじゃ? 魔王になりたくないのか?」


 いや……、なりたいか、なりたくないかで言えば……。

 なりたいな……。

 一応、権力者だ。

 魔王という地位は魅力的に思えるし、金も稼げるようになるかも知れん……。

 だが、俺のような小物が魔王になっても良いのか……?


「ふぉっふぉっふぉ。では、ワシはもう寝るとするか」


 俺が一人で悩んでいると、カイザーはそう言い、自分の部屋へと行ってしまった。

 一人残された俺は、すぐに自室へと行き、現実逃避するように早々に眠りについた……。



――


「うお!?」

「ふふん! パントロ! おはよう」


 俺が目を覚ますと、目の前にサーラスティの顔があった。


 ビックリしたが、顔に触れられた感覚は無かったので、良かった……。

 もし、お目覚めのキスとか言うものを、この猫耳少女にされたらと思うと……。


「さ、大魔王への第一歩、魔王になりに行くわよ!」


 サーラスティは俺の腕を掴み、俺を引き起こそうとする。


「ちょっ、ちょっと待って! 魔王になる必要ってある? つーか、俺、戦える状態じゃないし!」

「え? 怪我は完治してるでしょ? どうして戦えないのよ?」

「あ、いや……」


 咄嗟に訳の分からん嘘をついてしまった……。

 昨日、ガルディウスと組み手をやっておきながら、戦えないなんて、子供でも分かる嘘だ……。


「ん? ああ……。そう言うことね。鎮めてあげましょうか?」

「え?」


 サーラスティの視線が、俺の下半身に注がれている……。

 俺も釣られるように、自分の下半身を見たのだが……。


「ち、違うから! これは、あの、その……、とにかく、朝だからこうなってるだけで、違うから!!」


 俺の大事な部分が、ハーフパンツを貫きそうな勢いで、天に向かってそそり立っていた。


 つーか、サーラスティは、どこでそんなことを知ったんだ!?

 鎮め方とか知ってんのかよ!?


「ふふん! 良いから、任せておきなさい!」


 そう言いながら、サーラスティは手を伸ばしてきた。


「だから違うって!! そう言うのは、もっと大人になってからだから!!」


 俺は咄嗟にサーラスティの手を掴み、なんとかサーラスティの暴走を止めた。


「もう! 何よ! 鎮めてあげるって言ってるのに!」


 何故かサーラスティが怒ってる。


 だが、これで良かったはずだ……。

 こんな猫耳少女に、そんな汚らわしい事はさせられない……。


「と、取り敢えず、起きるからさ、先にリビングに行ってて……」

「もう! 早くしてよ? 闘技場って結構遠いから、早く行かないと、席が無くなるかも知れないのよ?」


 そう言いながら、サーラスティは俺の部屋を出て行った。

 俺はその姿を見送った後、牛を解体した時のことを思い出す。

 あのグロイ光景を思い出しながら、鎮まるのを待つのだ。


 ほどなくして、動けるようになった俺が、自室から出ると……。

 何故か我が家のリビングに、仲間達が勢揃いしていた。

 カイザーは当然として、何故か、サーラスティ、ガルディウス、ユカリス、リンジー、ボルドが、いたのだ。


「みんな……、お、おはよう」


 俺が挨拶すると、みんな、それぞれの挨拶を返してくれた。

 だが、その言葉の中には、俺が魔王になるのを期待しているというのも含まれていた……。

 マジで、どうなってるのか分からない……。

 俺みたいな小物が魔王になって良いとは思えないのだが、みんなは何を期待しているのやら……。


「ふぉっふぉっふぉ。では、皆の衆、そろそろ行くぞい」


 カイザーの号令の下、俺達は家を出て、闘技場を目指して移動を始めた。

 俺は抵抗する気も起きず、何故かみんなと一緒に闘技場へ向かっている……。


 その移動中……。


「ぱ、パントロちゃん……」


 ユカリスが話しかけてきた……。

 何か思うことがあるのか、涙目になってる……。


「ど、どうした? なんで、泣きそうになってんだよ?」

「サーちゃんに聞いたんだけど……」

「ん? 何を……?」

「わたしのこと、捨てないでねぇ……」

「え? あ……」


 サーラスティがグイグイ来るので、忘れそうになっていたが……。

 ユカリスも、俺の許嫁の一人なのだ……。


「あ、あのさ? ユカリス? ユカリスは、俺で良いのか……?」

「う、うん……。サーちゃんが一緒だし……、そ、それに、パントロちゃんも、好きだし……」

「そ、そうか……、あ、ありがとう……」

「えへへ……」


 そう言うとユカリスは、サーラスティの近くへと移動した。

 サーラスティは、ユカリスを抱き上げ、二人でヒソヒソと何かを話し出している。


 好きって、初めて言われた気がする……。

 もちろん、人間だった頃も含めて……。


「ふっ。パントロ、魔王になっても調子に乗るなよ?」

「そうなのである。パントロ殿は、少し調子に乗りやすいのである」


 ガルディウスと、ボルドが寄ってきて、そんなことを言い出した。


「いや……、二人とも、冷静になって考えろよ……。俺が魔王になんかなれるはず無いだろ?」

「そ、そんなこと無いよ! ボクは絶対、パントロくんが、魔王になるって信じてる!!」


 横から、リンジーが唐突に話に割り込んできた。


「いや、だってな? リンジーだって分かるだろ? 俺はそんな器じゃないだろ?」

「そんなこと無いよ! パントロくんは、強いし、器が大きいよ!」


 いや……。器が大きいはずがない……。

 自分でも思うが、俺はクズだし、ちっぽけな存在だし、ただの小物だ……。


「ふっ。パントロ、貴様が何を言おうとも、強さが魔王の条件だ」

「そうなのである。強ければ、後は何でもいいのである」

「そうだよ! スライム族で最強の男は、パントロくんだよ!」


 リンジーが、俺を最強と言ったのに、ガルディウスがツッコまない……。

 何故だ……。

 いつも、俺に張り合うガルディウスが……。


「その、ガルディウス……?」

「ん? なんだ?」

「あ、いや……、その……、頑張ろうな……。色々と……」

「なぜ、泣きそうな目をしている? これから戦いの場に行く男とは思えんぞ?」

「いや……、なんだろうな? 自分でも分からん……」


 そう言ったのだが、本当は分かっている……。

 ガルディウスの顔を見ていると、昨日聞いた、英雄の話を思い出してしまったのだ……。


「ふっ。今はパントロ、貴様の方が上だ。だが、俺はこの身体を極め、すぐに貴様を抜くからな!」

「お、おう!」


 どうやら、ガルディウスは昨日の組み手で、俺の方が上だと思ったようだ。

 実際は、大差ないと思うのだが……。


 そんな会話をしながら、俺達は闘技場へと向かった。




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