第三十九話 「久々の特訓」
あれから更に五日経った。
俺は今、サーラスティとガルディウスと一緒に、鍛錬場に向かって移動中だ。
移動用のサイは、カイザーが使っているので、歩いて向かっている。
俺の怪我は、ほぼ完治したと言っても良いだろう。
右腕は自由に動かせるようになったし、痛みも全くない。
精霊の水のおかげだと思うのだが、こんなにも早く回復したことを、カイザーは驚いていた。
自由に動けるようになった俺は、ガルディウスを特訓に誘った。
二人で組み手をやろうと思い、ガルディウスを誘ったのだが……。
何故かサーラスティもついてきた……。
サーラスティを、除け者にする気は無いので、別に構わないのだが……。
俺は今、少しだけサーラスティと、距離を置きたいと思っている。
理由はいくつかあるのだが、一つはデートが原因だ……。
戦利品を物色するというデートをした次の日から、俺は事ある毎に、デートと称して街中を連れ回された。
行った先は、雑貨店だったり、水を売ってるレストラン的な場所だ。
俺は金を持っていないので、何かを買ったときなどは、サーラスティが払っていたのだが……。
男として、情けなく思えてくる……。
だが、仕方がない……。俺は金の稼ぎ方を知らないのだ……。
兵士になれば、給金として金を貰えるらしいのだが、俺は未だに、ただの一般人だ。
それに、何よりも、許嫁だということが、未だに納得できていない……。
いや、納得というか、信じられないのだ……。
「はぁ……」
思わず、ため息がこぼれた……。
「ため息なんてして、どうしたの?」
サーラスティは、俺の顔を覗き込むようにして、上目遣いで俺を見てきた。
やっぱり何度考えても、この猫耳少女が、俺の許嫁だとは思えん……。
俺は可愛い子が大好きだ。それは認める。
だが、俺はロリコンではない。
そっち系の趣味はないのだ。
「いや……、何でもないんだ……」
「そう? あ、分かった! あれでしょ? 久しぶりに身体を動かすのが、心配なんでしょ?」
そう言いながら、サーラスティは胸を張る。
胸に付いている、大きなリボンが少し揺れた。
この胸のリボンは、サーラスティが頭に付けていたリボンだそうだ。
何でも、転生した後、頭に装着しようとしたらしいのだが、上手くいかなかったらしい。
そこで、服の方に、リボンを付けることにしたそうだ。
服と言っても、サーラスティは何着も服を持っている。
戦利品で手に入れた服を、縫い直し、新たに服を作っているのだ。
その服の全てに、リボンが付いている。
リボンがトレードマークだと言っていたが、今でもそれは変わらないようだ。
「な、何よ? あたしの胸なんか見て……」
サーラスティはそう言うと、胸のリボンを掴み、綺麗に見えるように直し始めた。
許嫁……。
ぺったんこが……。
いや、子供が……。
「ああ、リボンが可愛いなって思ってさ……」
「ふふん! そう? やっぱりそう思う?」
サーラスティは嬉しそうに笑顔を見せ、くるりと振り返り、俺達の前を歩き出した。
すまん……。
ぺったんこって思って、本当にすまん……。
だが、俺は大きい方が好きだ……。
俺がそんなことを思っていると……。
「ふっ。パントロは、サーラスティの胸の小ささが気になったのだろう」
ガルディウスが暴走した。
「ちょっ!? 変なこと言うなよ!!」
ヤバイ……。
くるりと振り返ったサーラスティは、静かな表情をしていた。
だが、その目からは、明らかな殺気が……。
「ち、違うよ!? た、確かに俺は、小さいより、大きい方が好きだけど――」
『ウォーターボール!』
サーラスティは、俺に向かって水の玉を発射した。
「ぶぼっ!」
俺は、避けることも出来ずに、モロに顔面に水の玉が直撃した。
水浸しになってしまった……。
冷たい……。
「ふん! その内、大きくなるはずだから、少しは頭を冷やしなさい!」
サーラスティは、怒りながらそう言い、くるりと振り返って、また歩き出した。
水浸しで済んだのは、サーラスティが手加減してくれたからだろうか?
だが、胸については、言ってはいけないことが分かった……。
気をつけよう……。
つーか、ガルディウスが変なことを言うからだ……。
まったく……。
――
しばらく歩き、俺達は鍛錬場へと到着した。
「よし、じゃあ、簡単な組み手をやってみるか」
「ふっ。そうだな」
「ふふん! 武器は有りにするの? それとも無し?」
武器か……。
サーラスティは、ナイフを腰にぶら下げている。
ガルディウスは、大剣を背中に背負っている。
どちらも、戦利品の中から、革製のベルトのようなものを手に入れたらしく、それを上手いこと使って、武器を持ち運んでいるのだ。
「俺の目的は、身体を動かすことだ。武器は止めておこう」
「ふっ。そうだな。急に実戦向きの特訓を始めたら、死ぬ可能性がある」
「ふふん! そうね。じゃあ、武器は一旦置きましょう」
そう言いながら、二人は武器を地面へと置いた。
一応、俺には爪という武器があるが、当然、爪を使う気はない。
仲間に大怪我されては困るからな。
「じゃあ、最初は……」
「ふふん! パントロとガルディウスがやりなさい! あたしは合図を出すから」
「お、おう……。じゃあ、ガルディウス、行こうか」
「ああ」
俺とガルディウスは、草原のど真ん中へ向かって、歩き出した。
初めての組み手で、しかも、久しぶりに仲間との特訓だ。
そう思うと、少しだけ緊張するな……。
そんなことを思いつつも、草原の真ん中へと着き、俺とガルディウスは向かい合った状態になった。
「ふふん! 二人とも、準備は良いかしら?」
少し離れた位置から、サーラスティが聞いてきた。
「おう!」
「ああ!」
俺とガルディウスは、サーラスティに向かって返事をする。
「では、始め!!」
サーラスティの合図で、組み手が始まった。
「オラッ!」
合図と同時に、ガルディウスが突きを放ってきた。
思ってたより、速度のある攻撃だ。
ガルディウスも、新たな身体に慣れたと言うことだろう。
だが、速度があると言っても、正直言って大したことが無い。
ドバイン師匠と比べると、まだまだ遅い。
「よっ!」
俺は突きを避け、ガルディウスに向かって蹴りを放つ。
蹴りは、あまりやったことがない。
当然のように、ガルディウスに避けられた。
「ふっ! その程度か?」
ガルディウスは、連続で攻撃を放ってくる。
突きの連打に蹴りを混ぜながら、様々な角度から、連続攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ほっ! はっ! おっと!」
俺は攻撃を避け続ける。
だが、ガルディウスの攻撃は全く止まらない。
ガルディウスの表情が、少し苛ついているように見えてきた。
これだけ当たらないと、さすがに苛つくか。
だからって、当たってやる訳にもいかないしな……。
つーか、長いな。いつまで攻撃を繰り返す気だよ?
そんなことを考えながらも、俺は攻撃を避け続けたのだが……。
「これでどうだ!」
ガルディウスが、異常に速い突きを放ってきた。
その瞬間、俺の身体が反応した。
腕が円を描くように動き、ガルディウスの攻撃を捌く。
「なっ!?」
ガルディウスが、驚いたような声を上げた。
俺はそのまま、流れるように蹴りを放つ。
「ぐっ!」
ガルディウスは咄嗟に、両腕で蹴りをガードしたが、少しバランスを崩した。
今だ!
「くらえっ!!」
俺は掌底を放つ。
狙いはガルディウスの、超絶イケメンな、顔面だ。
「くっ!」
だが、ガルディウスは、屈むようにして俺の掌底を避けた。
マジかよ。
あのタイミングで打っても、避けられるのか。
これって……。
俺は思うところがあったので、一旦、後ろへと大きく飛び退いた。
「ん? 逃げるのか!」
ガルディウスは、そう言いながら突っ込んでくる。
「ちょっと待って! 一旦、止め!」
俺がそう叫ぶと、ガルディスは止まってくれた。
ガルディウスは、不思議そうな顔をし、歩いて近づいてきた。
「なんだ? 何故止めた?」
「あのさ……、俺が誘ったんだけど……、この組み手って、意味があると思うか?」
「ん? 意味?」
「俺がそうなんだけど、ガルディウスも、俺の攻撃が見えてるだろ?」
「ああ。そうだな」
「避けるのはいいが、攻撃が当たる気がしない。これって組み手として、どうなのよ?」
俺達は、避ける特訓を散々やった。そのおかげで、避けることに特化している。
だが、そのせいで、互いに攻撃が当たらないのだ……。
「それも組み手の一つだろ? 互いの力が拮抗しているのだから、いい特訓になるだろ?」
「う~ん……。そんなものか?」
「そうだろ? 攻撃が当たらない相手に、どうやって攻撃を当てるか。そういう特訓になる」
そう言われれば、確かにそうかも……。
ガルディウスの言うことは、もっともだな……。
「そうか……。そうだな。じゃあ、もう一つ、聞いても良いか?」
「なんだ?」
「さっきの異常に速い突きは、あれは魔撃だよな?」
「やはり、気付いたか?」
やっぱり……。
仲間に魔撃を打つって、容赦ないな……。
俺、怪我が治ったばかりなのに……。
だが、これで謎が一つ、解けたかも知れない。
戦争中、牛顔と馬面の攻撃を自然と捌いたのは、魔撃が原因だったみたいだ。
おそらくだが、アイツらは魔撃を俺に向かって打った。
その魔撃に、俺の身体が自然と反応して、捌くことが出来たのだろう。
自信の魔力量が上がれば、他人の魔力に気付くことが出来る。
そうドバイン師匠に教えて貰った。
魔撃が来ることに、自然に気付き、自然と回避しようとして、身体が勝手に動いてた。
そうとしか思えん……。
「どうした? 何か考え事か?」
俺が急に黙ったので、ガルディウスが不思議そうに聞いてきた。
「あのさ? 魔撃で連続攻撃って出来るか?」
「ん? 当たらなければ、一応出来るとは思うが……?」
魔撃を当てると言うことは、魔力を相手に叩き込むと言うことだ。
魔力を放出してしまうと、それはただの突きや蹴りになってしまい、魔撃ではなくなる。
ガルディウスの言った、当たらなければ、とは、魔力を放出しなければ、と言う意味だ。
「じゃあ、避け続けるから、魔撃で攻撃してきてくれ」
「ふっ。オレの魔撃なんて、大したこと無いと言いたいのか?」
ああ……。そういう風に思っちゃうか……。
違うんだよな……。
「違うから。そんなんじゃないから。ちょっと試したいことが、いくつかあるんだよ」
「ふっ。パントロ、貴様の命もこれまでだな」
「おい……。殺す気でやるのは、やめろよ……」
「貴様が言ったことだろ。じゃあ、いくぞ!」
「おう!」
俺は、ガルディウスに魔撃を打ってもらうという、特訓を始めてみた。
――
魔撃を打ってもらってみて、分かったことがある。
やはり、俺の身体は、魔撃に異常に反応する。
自分の意志とは無関係に、自然と身体が動くのだ。
だが、何発も打ってもらい、大体の感じが掴めてくると、自然に身体が動くことは無くなっていった。
少しずつだが、自分の意志で身体が動き、きちんと捌けるようになったのだ。
それからは、魔撃をどうすれば捌けるのか、どうすれば回避できるのか、あらゆる方法を試している。
結果的に、回し受けが一番良いことが分かった。
魔撃は、拳の先から魔力を放出する。
拳の先が身体に当たらなければ、魔撃を回避することが出来るのだ。
「そろそろ、反撃するぞ!」
「ふっ。避けるのに慣れてきたか? だが、これならどうだ!」
ガルディウスはそう言いながら、蹴りを放ってきた。
ただの蹴りではなく、もちろん魔力を乗せた、魔撃だ。
ガルディウスは今まで、突きで魔撃を打っていた。
ここに来て、急に蹴りの魔撃を使ってきたのだ。
「くっ!」
俺は、両腕で蹴りをガードする。
だが、これでは魔力を叩き込まれてしまい、魔撃を回避したことにならない。
俺は咄嗟に、あることを実行に移した。
「ふっ。オレの魔撃の威力はどうだ?」
ガルディウスが、ガードされた蹴りを下ろし、俺に聞いてきた。
やはり、ガルディウスは気付いていない。
魔撃が成功したと思っているようだ。
だが、俺の身体はピンピンしている。
俺は、魔力を叩き込まれる瞬間、その魔力を弾くように、こちらから魔力を放出した。
一瞬で、核から魔力を出し、魔力を腕へと移動させて放出したのだ。
魔力操作の練習をしていた甲斐があった。
かなり難しいことを一瞬で出来た。
「残念。魔撃、失敗したぞ」
「バカな!? オレの魔撃は完璧だったはず!?」
「蹴りが来たときは焦ったけど、一応、防ぐ方法を見つけたんだよ」
「な、なんだと!?」
ガルディウスが驚きつつも、俺にアレコレと聞いてきたので、組み手は一旦終了となった。
サーラスティを交えながら、俺は魔撃を防御する方法を二人に教えることにした。
――
色々と話したり、試したりして、数時間が経った。
何を話していたかというと、主に、魔力に関しての話だ。
俺の得意技の高速移動について話したのだが……。
どうも、サーラスティとガルディウスには、理解できないそうだ。
サーラスティは、俺達とは戦闘スタイルが違うので、仕方ないとしても……。
ガルディウスになら、理解できるかと思ったのだが、無理だった……。
なんでも、全身に魔力を溜めることが、出来ないらしい。
スライムだった頃に散々やったと思うのだが、転生してから上手く出来なくなったそうだ。
そこでガルディウスは、腕や足の先に魔力を溜め、魔撃を使うことにしたらしい。
本来、それが普通の魔撃だと思う。
ドバイン師匠も、俺のように全身に魔力を溜めていた訳じゃない。
そう考えると、俺は、かなり変なことをしているのかも知れない……。
ガルディウスの話を聞いた俺は、腕や足の先に魔力を溜めようとしたのだが、上手くいかなかった……。
全身に溜めることに慣れすぎて、一カ所に溜めることが出来ないのだ。
足全体や、腕全体には、魔力を溜められる。
だが、拳の先や、足の先などには、無理だった……。
俺がそんなことを試している間、二人は、魔力を全身に溜めたり、魔力の操作など色々と試していたようだ。
そんな訳で、俺達は互いに色々な事を試していたので、時間がかなり経ってしまった。
「そろそろ、帰った方が良いわね」
サーラスティがそう言い出した。
まだ明るいのだが、帰りも徒歩だと言うことを考えると、そろそろ出発するべきかも知れない。
移動用のサイが無いと、ここまでの道のりも、結構掛かるのだ……。
「そうだな……。今日は帰るか。明日はどうする?」
「ふっ。明日以降は、歩きながらでもいいだろ」
「ふふん! そうね! じゃあ、歩きながら、これからのことを話し合いましょう」
俺達は、明日からの事を話ながら、街へと帰ることにした。




