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幕間 情報交換

 新キャラ視点です。

 鳥獣族側の話で、ほぼ会話だけですので、お気を付け下さい。

 

 空は綺麗だ。


 俺は、この空を飛ぶのが大好きだ。

 だが、それも一旦お休みだ。


 俺は翼を休め、ゆっくりと地上へ降りていく。

 地上に降りた俺は、一つの洞穴の中へと入った。


 ここは薄暗く、湿気も強い。

 ここに来るのは二度目だが、何度も来たくない場所だ。

 だが、俺はここに来なくてはならないのだ。


「ポッポか。スライム共に、見つかってないだろうな?」


 そう言ったのは、この洞穴の主、タタルド。

 鳥族の戦士の一人だ。


「当たり前だろ。それよりタタルド、この場所を変えろよ」


 俺はタタルドに向かって文句を言う。


「別にいいだろ。ここなら、スライム共にも見つからないし、何より、外に出れば、食料が豊富だ」


 やはり、受け入れて貰えなかった。だが、それもそのはず……。

 タタルドは今、スライム領に潜入して、情報を集める密偵の仕事をしているのだ。

 ここは、スライム領の端にある、山の中。

 仕事がやりやすい場所を決めるのも、タタルドの仕事の一つなのだ。


「だからって、何も、こんな薄暗くてジメジメした場所を選ばなくても……」

「クックックッ。そんな文句を言いに来たんじゃないだろ? 早く、情報をよこせよ」


 そう。俺の目的は、タタルドとの情報交換だ。

 鳥獣族の情報をタタルドへ伝え、タタルドにスライムの情報を聞く。

 それが、鳥獣軍諜報部隊の一人である、俺の任務だ。


「はぁ……。まあいいや……。じゃあ、情報な。ピーリー様が、軍を退いて、逃げ帰って来たぞ」

「やっぱりな……。あの人、スライム如きに何やってんだよ?」

「まあ、聞けよ。スライム領に攻め込んだのは、領土を奪うためだと思っていただろ?」

「は? それ以外に、何か理由があんのかよ?」


 やはりタタルドも知らなかったみたいだな。


「実はな、アレ、囮の戦いだったらしいぞ」

「は? 囮だと?」

「そう。囮だ。裏切り者を捕まえるために、仕掛けた戦いなんだってよ」

「裏切り者……?」


 タタルドが、不思議そうな顔をしている。

 裏切り者という言葉に、反応したみたいだ。


「そうだ。ドバインって名前の、獣族を知ってるよな?」

「ドバインって、あのドバインか? 達人の?」

「そうだ。あの達人ドバインだ。しばらく行方不明になってただろ?」

「ああ……。まさか! スライム側についたのか!?」

「そうらしい。俺達を裏切り、鳥獣族とやり合うつもりだったみたいだ」

「本当かよ……。あの達人が……」


 達人ドバイン。

 若い世代の間では、伝説とまで言われるほどの、凄腕の達人だ。


「その、達人ドバインを捕まえるために、わざわざ戦争を仕掛けたって話だ」

「なるほど。攻め込んでると見せかけて、スライム領にいる、達人ドバインを捕まえに行ったのか」

「いや、それがな、違うんだよ」

「は? 違う?」

「達人ドバインは、スライム達に情報を送るために、鳥獣領に居たんだよ」

「はあ?」

「カルドの街の近くに、手入れされてない森があるだろ? あの森に潜伏してたらしい」


 カルドの街というのは、鳥獣領の端にあり、スライム領に最も近い場所にある街だ。

 タタルドも場所くらいは知ってるだろう。


「ちょっと待て、鳥獣領に居たなら、どうしてスライム領に攻め込む必要がある? 無意味だろ?」

「いや、カルドの街周辺に居るという情報は掴んだが、潜伏場所を特定出来なかったらしい」

「ん? じゃあ、その場所を特定するためか?」

「そうだ。達人ドバインの潜伏場所を特定するために、わざわざ千人も連れて、スライム領に攻め込んだんだ」


 俺の話を聞いたタタルドは、頭を掻きながら、何かを考え出した。

 コイツは、考えるときに頭を掻く癖があるのだ。


 おそらく考えているのは、潜伏場所を見つけた方法だろう。

 答えは簡単だ。カルドの街周辺からスライム領に行く道は、二つしかない。

 その道を見張っていれば、千人の部隊が動いているのだから、その内、達人ドバインが現われる。

 後は、スライムに情報が渡ろうが、潜伏場所まで尾行すればいいだけだ。

 すぐにタタルドも気付くだろう。


「う~ん。まあいいか……。それで、達人ドバインは、見つかったんだよな?」

「ああ……。見つけて、捕まえたらしいが……」

「らしいが? が、って、なんだよ? まさか逃げられたのか?」

「いや……、逃げられてはない……。だが、424……」


 言葉が詰まってしまった……。

 俺の任務は、情報を伝えることだ。

 しっかりしよう……。


「は?」

「424人が死んだ」

「死んだ……?」

「そうだ。達人ドバインを捕まえるために、424人の鳥獣族の同胞が死んだんだ」

「はああああああああああああああああ!?」


 さすがにタタルドも驚いてるな。

 でも、事実だ。


「二千人の軍で、達人ドバインを捕まえに行ったそうだ」

「に、二千人って……」

「その内、424人が死亡、840人が大怪我をした……」

「達人ドバイン……。バケモンかよ……」

「たった一人捕まえるために、それほどの被害が出たんだ……」

「鳥獣王様は、お怒りなんじゃ?」

「いや……、全ての作戦を考えたのは、鳥獣王様だ。犠牲を出したことより、捕まえたことを喜んでいた」


 鳥獣王様の考えは、俺には分からん。

 それほどの価値が、達人ドバインにあるのかどうか……。


「ん? ちょっと待て、全ての作戦って、どういう意味だ?」

「あ、ああ。当初の作戦では、攻め込んだ囮部隊が、そのままスライム領を奪う予定だったそうだ」

「ん? 達人ドバインを捕まえるだけの作戦じゃなかったのか?」

「ああ。領土を奪いつつ、達人ドバインを捕獲する。一石二鳥だろ? いや、潜伏場所の特定を考えると、一石三鳥か?」


 まあ実際は、達人ドバインの捕獲が第一目標だったからな……。

 囮部隊の士気も相当低かっただろう……。

 そう考えると、負けたのは当然だったのかも知れない……。


「クックックッ。鳥獣王様らしい、豪快で適当な作戦だな」

「ああ……、あと、これは囮部隊からの情報なんだが、裏切り者が、もう一人見つかった」

「なんだと!?」

「方翼の鳥族だ。パントロって名前の鳥族らしいんだが、知ってるか?」


 方翼のパントロ。

 今、鳥獣族の間で、一番危険視されている奴だ……。


 名前を知るのは簡単だった。

 戦争中にスライム共が、裏切り者の鳥族の事をパントロと呼んでいたのを、数人の兵士達が聞いたらしい。

 名前はパントロで間違いないだろう。

 その後、ピーリー様に聞いて、方翼の鳥族だと言うことも分かった。


 だが、そのパントロという名前は疎か、方翼の鳥族のことを、鳥獣族の誰もが知らない……。

 方翼なんて滅多にいないので、かなり目立つと思うのだが……。


「ん? ああ……。パントロか、アイツは裏切り者じゃない」


 裏切り者じゃない!?

 タタルドは、パントロのことを知っているのか!?


「ど、どういう事だ!?」

「クックックッ。今度は、こっちからの情報だ」

「ああ、頼む!」

「パントロって奴は、神官の息子だ」

「神官? 鳥族に神官なんていたか?」

「いやいや、違う。スライムの神官だ。知ってるだろ? 神官カイザーって奴を」

「バカな!! 神官カイザーと言えば、スライム族の厄介な奴の一人だろ!? パントロは、鳥族だぞ!?」


 タタルドは、俺をバカにしているのか?


「クックックッ。そう、スライムの息子なのに鳥族だ。普通はあり得ない」

「ああ」

「アイツは転生したんだよ」

「転生……?」


 転生って……。

 まさか……!


「そうだ。トッパーを殺ったのは、おそらくアイツだ」

「バカな! トッパーはスライム軍にやられたと、タタルド、お前がそう報告しただろ!!」

「そう、オレはそう思っていた。いや、そう思うしか無かった。だって、スライム領に居たんだぞ? そこで、急に行方不明になったなんて、スライム軍に殺されたと思うのが自然だろ?」

「だが、タタルド、お前が……」

「聞けよ。あの時の報告だって、オレはちゃんとしたぞ? トッパーがスライム領で行方不明になった。おそらく、スライム軍にやられたと思われる。ってな」


 確かに、十日前に来たとき、そう言ってた……。


「じゃ、じゃあ、トッパーは、一匹のスライムに殺されたってのか!?」

「ああ。しかも、それだけじゃない。四日前、スライムの街で祭りがあった」

「祭りだと?」

「戦争に勝って、浮かれてたんだろうよ。街を挙げて、大騒ぎの祭りがあったんだよ」

「あ、ああ……。それで?」

「そこでな、スライムの王が演説をしてやがった」


 スライムの王……。

 ゴブリンに転生したという、スライム族の中でも厄介な奴の一人だな。

 だが、あいつは王だ。

 演説くらいしても不思議ではない。


「それがどうした? 普通の事だろ?」

「その演説中、三人の鳥獣族が壇上に上がったんだよ」

「三人だと……?」

「一人は、方翼の鳥族、さっきのパントロだ」

「ああ……」

「残りの二人は、獣耳族だ。サーラスティと、ガルディウスって名前だったかな?」


 獣耳族だと?


「なぜ、獣耳族が……」

「それだけじゃないって、さっき言ったろ? スライムのくせに、鳥獣族を一騎打ちで倒したんだとよ」

「そんな、バカな事が……」

「本当さ。じゃなきゃ、獣耳族の裏切り者が、二人も出たって事になる」

「確かに、そんな話は聞いてない……」

「二人はパントロと同じく、転生したんだ」


 そんな事があり得るのか……?

 スライム如きが、一騎打ちで鳥獣族を倒し、転生したなんて、信じられん……。


「二人が裏切り者ではなく、転生したスライムだと、確証はあるのか?」

「スライムの王が演説で、二人は転生したと言ってたが、それが確証にならないか?」

「そ、そうか……」


 裏切り者であれば、普通にスライム達の協力者と言えば良いだけだ……。

 わざわざ、転生したなどという必要は無いか……。


「オレの情報が信じられないなら、裏切り者かどうか、調べ直してみればいいさ」

「まさか……。タタルドの情報収集は、いつも完璧だろ」

「クックックッ。まあな」


 タタルドの情報収集能力は、鳥獣族の中でも、ずば抜けている。

 ホークアイと、ラビットイヤーという、魔法に近い技を使い、地上からは見えないほどの上空から、地上の様子を見て、音を聞くことが出来る。

 誰にも見つからずに、情報を集めることに特化した能力だ。


「他に、スライム族に変わった動きはあったか?」

「そうだな……。もう一つ、情報というか、提案がある」

「なんだ?」

「攻め込むなら、今だ」

「は? 逃げ帰ったばかりだぞ? どんな理由があるんだ?」

「パントロは、怪我が治っていない。アイツは今、満足に戦えないはずだ」


 なるほど……。

 最も危惧すべき相手は、方翼のパントロだ。

 ヤツが動けないなら、今か……。

 だが……。


「無理だな……」

「何故だ?」

「ピーリー様が、やる気になっている」

「クックックッ。逃げ帰ったくせに、今更かよ?」

「ああ……。ピーリー様はバカだけど、強いだろ? 負けたのが、相当悔しかったらしくてな」

「ん? ちょっと待て、ピーリー様が負けた?」

「あ、言ってなかったか? あの人、方翼のパントロに負けたらしい」

「う、嘘だろ? あの人バカだけど、強さだけなら、次期鳥獣王候補だぞ?」

「ああ……。バカだけど強いピーリー様が負けたから、早々に逃げ帰ってくるハメになったらしい」


 当たり前のように、バカが連呼されているが、事実なので仕方ない。

 ピーリー様は、考えも無しに突っ込んで活躍する。そんな人なのだ。

 それが今回の戦いでは、方翼のパントロに負けた。

 今、ピーリー様は、パントロを殺すと息巻いている。


「そうなのか……。パントロ、恐るべし……」

「まあ、今度は本気で戦うと言ってたから、それまで我慢だな」

「それはいつになる?」

「さあ? 爪が折れてたから、爪が元通りになってからじゃないか?」


 俺がそう言うと、タタルドは頭を掻き出した。

 何を考えているのやら……。


「いや……。そんなことをしてたら、パントロの怪我が治ってしまう。その方が危険だ」

「そうは言ってもな……」

「今なら、領土を奪えなくても、アイツを殺れるはずだ。何人か送ってくれ」

「う~ん」


 何人かって言われても……。

 俺一人の判断で決められないしな……。


「アイツは怪我して満足に動けない。今がチャンスなんだ!」

「まあ、一応、そういう報告はしておくけど、どんなに急いでも十日は掛かるぞ?」

「ああ、それでもいい。スライム族には、治癒を使えるヤツが居ないはずだ。あの怪我なら十日では治らんだろ」

「よし、わかった。だが、十日経って誰も来なかったら……、というか俺が一人で来たら、諦めろよ?」

「ああ……。その時は、諦めるさ……」


 そう言ったタタルドの目は、諦めるとは無縁のような目をしていた。


 トッパーの仇を討ちたいのは分かるが、早まらないで欲しい……。

 あの、バカだけど、クソ強いピーリー様が負けた相手だ。何があるか分からん……。


「はぁ……。それじゃあ、戻るか……。他に情報は無いよな?」

「ああ。オレからは無い」

「そうか。俺からも情報は以上だ。じゃあな」

「ああ。頼んだぞ」


 俺は、洞穴から出て、すぐに空へと飛び立った。

 出来るだけ、急いで戻ろうと思う。

 タタルドが早まらないうちに、仲間を数人連れてこなくてはならない……。


 はぁ……。

 空を飛ぶのは好きだが、こんな気持ちじゃ、楽しめないな……。




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