第三十八話 「約束の休日」
ガルディウスとサーラスティが転生してから五日経った。
この五日間も、俺は基本的に家にいて、毎日魔力操作の練習をしている。
この五日で、分かったことがいくつもある。
まず、二人の転生についてだ。
ガルディウスは青年の姿。
身長は俺と変わらないくらいで、人間で例えると、十代後半から二十代前半のような見た目をしている。
そして、サーラスティは少女の姿だ。
身長は、俺の胸と腰の間くらいの大きさなので、あまり大きくはない。
人間で例えると、十歳前後の見た目だ。
同じ日に生まれ、同じ獣耳族へと転生したにも関わらず、何故こんなにも見た目が違うのか。
男女の差はあるとしても、成長の度合いに差がありすぎる。
そう思い、カイザーに理由を聞いたのだが、そもそも、転生の儀式というのは、そう言うものらしい。
転生した後は、子供になるのか、大人になるのか、分からないと言うのが、転生の儀式のリスクらしい。
まあ、ジジイやババアのような、年寄りにはならないそうだが……。
顔に関しては、イケメンや美少女になるかどうかは、そいつの運次第らしい。
ガルディウスは、もの凄いイケメン。
サーラスティも、美少女と言っても良いくらいだ。
二人とも、運が良かったらしい……。
ちなみに、二人の獣耳に関してだが、ガルディウスの方は狼耳だそうだ。
他の獣耳との違いが、よく分からないが、カイザーがそう言ってた。
サーラスティは猫耳だ。
だが、俺が猫耳と言っているだけで、実際は違うらしい。
これもカイザーに聞いたのだが、ピューマとかいう動物の耳らしい。
そんな動物知らんし、俺には猫耳に見えるので、俺は猫耳と呼ぶことにする。
次に分かったことは、戦争中に起きた、サーラスティの意味不明な数々の言動や、行動についてだ。
俺の妻を自称したり、お目覚めのキスをしてたとか言うアレだ。
簡単に説明すると、サーラスティと俺は、許嫁と言うヤツらしい。
カイザーに色々と聞いて知ったのだが、俺がドバイン師匠と特訓をしていた時に、決まっていたそうだ。
なんでも、俺がドバイン師匠と特訓を始めた頃、カイザーは密かに俺の結婚相手を捜していたらしい。
なぜ、そんなことをしていたかと言うと、許嫁を決めるのは、スライム族の常識だそうだ。
親が結婚相手を決めるのが当然で、恋愛結婚みたいなものは、ほとんど無いようだ。
そんな訳で、結婚相手を捜していたらしいのだが、すぐに見つかったそうだ。
それが、サーラスティだ。
サーラスティの両親とは話がついており、俺達は知らない間に許嫁となったのだ。
そして、もう一人……。
ユカリスの両親とも会ったカイザーは、折角だからと、ユカリスも俺の許嫁にしたそうだ……。
魔界では、一夫多妻や、一妻多夫が、当然のようにあるらしい。
それはいいのだが、まさか俺がそんなことになっているとは、思わなかった。
ちなみにサーラスティが、その事を知ったのは、戦争の直前だったらしい。
ユカリスは、俺と初めて会ったときから知っていたそうだ……。
俺は知らない間に、二人も許嫁が出来たのだが、まだ何かある気がする……。
カイザーが何かを言い淀んでいたので、聞き出そうとしたのだが、教えてくれなかった……。
その雰囲気から察するに、まだ何人か居る可能性がありそうなのだ……。
次に分かったことは、俺の身体についてだ。
この身体は、腹があまり減らない。
そう思っていたのだが、さすがに三日も何も食べないと、かなり腹が減る事が分かった。
食料は牛がある。カイザーに聞きながら解体をして、ブロック状にして保管してある。
そのまま常温で保管して、腐ると困るので、全ての肉をカイザーに氷漬けにして貰った。
腹が減ったら、その一つを解凍して食べるのだが、解凍にも魔法が必要だ。
俺も魔法が使えれば、どれだけ楽だったか……。
怪我の方は、大分良くなってきた。
翼の痛みは治まったし、右腕もそこそこ動かせるようになった。
まあ、右腕は無理に動かすと、まだ痛みが走るのだが……。
もうしばらく、安静が必要のようだ……。
ちなみに、治療方法は精霊の水だ。
俺は精霊の水を、普通の水で薄めて飲んでいる。
なんでも、こうすることで、自然治癒力が高まるらしい。
外傷にぶっかけるのは、止血と傷口をふさぐ効果しかないそうだ。
あと、分かったことと言うか、ちょっとしたことが四日前にあった。
街を挙げて、盛大な宴が行なわれたのだ。
まあ……、俺は、ほとんど参加できなかったのだが……。
宴では、スライム達が騒ぎながら、水や酒を飲んでいた。
酒に関しては、俺は飲まなかったので、どんな酒かは知らない。
ただ、見た感じだと、無色透明な、一見、水に見えるような酒だった。
そんな宴をやってる中、ゴブリン魔王が演説を始めた。
領土を守ったことの喜びや、今後の防衛について語っていたのだが……。
唐突に、俺、ガルディウス、サーラスティの三人が呼ばれた。
ガルディウスと、サーラスティが呼ばれるのは、なんとなく分かる。
二人は転生したので、お披露目というか、仲間だと言うことを、スライム達に教えなければならない。
俺が魔王軍に襲われた時のような、勘違いが起きるとマズイし。
だが、俺が呼ばれた理由が分からなかった。
俺達が壇上に上がると、ゴブリン魔王は、獣耳族に転生した二人を紹介した。
そこまでは、俺の予想通りだったのだが……。
ゴブリン魔王は、勝利を導いた立役者として、俺を表彰しだしたのだ……。
もうね。スライム達の視線が一気に俺に向いて、恥ずかしくて死にそうになったよ。
一応、勲章のような物を貰ったのだが、俺はそこまでの働きをしたとは、今でも思っていない。
戦争に勝てたのは、みんなが頑張ったからだと、そう思っている。
宴は、丸一日続いていたようだが、俺は表彰された後、すぐに家に帰って寝たので、その後の事は知らない。
怪我も治ってないし、精神的にドッと疲れてしまったのだ……。
俺がこの五日間で知ったのは、このくらいだ。
色々と知ったが、やはり、許嫁が一番驚いた。
未だに信じられないし、結婚なんて先の話だと分かっていても、何かと考えてしまう……。
さて、俺が今、何をしているかというと、いつものように魔力操作の練習だ。
他にすることもないので、いつも通りの事をしていたのだが……。
「パントロ? いる?」
そう言いながら、サーラスティがやって来た。
「お、おう! サーラスティ。ど、どうした?」
俺は今、変に緊張している。
目の前の猫耳少女が、俺の許嫁。
そう思うと、緊張してしまうのだ……。
「ふふん! デートに行きましょう!」
サーラスティは、胸を張りながらそんなこと言い出した。
「で、デートですか? 何故に……?」
「あら? 約束したじゃない?」
「え……? 約束……?」
なんだ? 約束?
そんな約束なんてしたか?
「忘れたの? パントロが言い出したのよ?」
「俺が……?」
そんな事、いつ言った?
マジで思い出せない……。
「森で言われたわよ? 本当に忘れたの?」
「森……? ちょっと待って……、何かが……」
俺が森に行ったのは、二回だよな……?
最初は鳥野郎と戦った時……。あとは食料を取りに行った時……。
二回目は、ほとんどサーラスティと一緒にいなかった……。
一回目か? あれ? あの時って、カイザーを捜すために、すぐに別れたよな……。
う~ん……。
あ。
「お、思い出した。あれか……。俺がカイザーを助けに行くって、言った時か……」
「ふふん! やっと思い出したのね。無事に帰ったら、今度デートしようって、誘われたわよ」
「お、おう……。確かに誘った……。でもさ、あの時はテンションがちょっと……」
「何よ? こんな可愛い子が、デートに行ってあげるって言ってるんだから、大人しくデートすればいいじゃない」
あの時とは、状況が違う……。
俺もサーラスティも、姿が変わったし、何より、許嫁だぞ?
ん? 逆に、許嫁だからいいのか?
いや、ちょっと待て、俺は金を持ってない。
デートって金が掛かるんだよな?
そもそも、デートって何をするんだ?
「あのさ……? デートって何するの?」
「ふふん! いいから行くわよ!」
そう言うとサーラスティは、俺の腕を引っ張り、俺はそのまま、外へと連れ出されてしまった。
「さ、行くわよ!」
「お、おう……」
サーラスティは俺の腕を掴み、どんどん進んでいく。
どこに行くつもりなのか、全く分からない。
俺は、スライムの街について、知らないことが多い。
街の外周を走ったり、鍛錬場まで移動したりと、いつも特訓ばかりをやっていた。
俺の行動範囲は、基本的に街の外なので、街の中は殆ど知らないのだ。
――
「ふふん! ここよ!」
「え? ここって……」
連れてこられた場所は、演説に使われていた広場だった。
特に何があるわけでもない。
ただの広場で、スライム達が数匹いる程度だ。
「この広場で、ノンビリ過ごすのが、デートなの?」
「そんなわけ無いでしょ。いいから行くわよ!」
サーラスティは、俺の腕の関節を極めるようにして、強引に腕を組んだ。
ちょっと痛い……。
腕を組むのって、痛いんだな……。
初めて知った……。
しばらく歩いていると、広場の隅で、兜を被ったスライム達の姿が見えてきた。
その周辺には、なにやら布のような物が広げてあり、その上には色々な物が置かれているようだ。
周りには数匹のスライムが居て、小さなフリーマーケットのような感じに見えた。
「あれって、兵士だよな?」
「ふふん! あそこで戦利品を出しているらしいわ」
「戦利品?」
軽く説明を聞いたが、なんでも、魔王軍が戦争中に手に入れた物を、この広場に出しているらしい。
その中に欲しい物があったら、貰っても良いという、太っ腹なイベントが行なわれているそうだ。
スライムの数が少ないのは、基本的にスライム達には必要な物が無いからだと言われた。
「へぇ~。結構色々な物があるわね」
サーラスティが、戦利品を物色しながら感心している。
確かに色々な物がある。
布、服、武器、防具などが中心だが、細かい装飾などもある。
「これって、どれでも、貰ってもいいんだよな?」
「そうらしいけど、何か良いのあった?」
「うん……、服が欲しくてさ……」
俺は今、ハーフパンツを一枚しか持っていない。
数日毎に、寝る前に洗い、朝まで乾かすのだが、さすがに一枚だけだと色々と問題がある。
寝ている間は裸だし、朝になっても乾いてない事があるのだ……。
「同じタイプのが、三枚くらいあるわね」
「そうだな……。この三枚は、俺が貰ってしまおう」
俺は、他に取られる前に、三枚のハーフパンツをゲットした。
まあ、全部、色も形も一緒だが、無いよりはマシだ。
「サーラスティも、服を貰った方がいいぞ?」
「そうね」
俺はサーラスティに似合いそうな服を捜したのだが……。
「似合いそうなのは無いな……。全部、男物だし……」
そうなのだ。ここに並んでいるのは、全てが戦利品。
戦争中に手に入れた物ばかりで、男物しかないのだ。
「別に男物でも良いわよ。布さえあれば、自分で縫うから……」
サーラスティはそう言いながら、服を何着も手に取っていく。
「お!? この武器って……」
「え? あら? これって、ガルディウスが戦った相手のじゃない?」
もの凄いデカイ剣が置いてある。
俺の身長と変わらないくらいの、大剣だ。
「こんなの出されても、スライム達には使えないよな……」
「ふふん! あたし達なら使えるんじゃないかしら?」
いや、さすがに無理だろ……。
俺はともかく、サーラスティの小さな身体じゃ、絶対に無理だ……。
「ふっ。その剣はオレが貰う」
「え?」
後ろから話しかけられたので、振り向くと、そこにはイケメンが居た。
「あ、ああ……。ガルディウスか……」
「この剣は、オレが戦ったインゲナという奴の物だ。オレが貰い受けるのが当然だろ?」
そう言うとガルディウスは、片手で、大剣を軽々と持ち上げた。
「すげえな。その身体には、慣れたって事か?」
「いや、まだまだだな。腕や足の感覚には慣れたが、戦えるほどじゃない」
「そうか……。俺の怪我が治れば、一緒に特訓も出来るのにな……」
「ふっ。パントロ、貴様の怪我が治る頃には、オレは更に先へ進んでいるぞ」
そう言いながら、ガルディウスも俺達と一緒になって、戦利品を物色しだした。
――
結局あの後、俺は、ハーフパンツを三枚だけ手に入れただけで、他には何も貰わなかった。
爪があるから武器を上手く持てないし、翼があるから防具も上手く装着できなかったのだ。
サーラスティは、大量の服と小物、後は、ナイフを貰ったみたいだ。
なんでも、そのナイフはサーラスティが戦った相手の物らしい。
少しでも強くなるために、近距離はナイフを使って戦うつもりのようで、これから、ナイフ技術を鍛えると言っていた。
ガルディウスは、大剣と、いくつかの服を貰ったようだ。
ガルディウスも同じように、大剣を使いこなせるように訓練を始めると言っていた。
こうして、俺の初デートは終わった。
思っていたより、デートってチョロいな。
金も掛からなかったし、一緒に出かけるだけじゃん。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。




