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第三十七話 「仲間の変化」

 前線基地では、勝利を祝う小さな宴のようなものが開かれた。

 と言っても、スライム達が騒ぎながら、水をがぶ飲みしているだけなのだが……。


 そんな中、俺はゴブリン魔王と、少しだけ話をする事が出来た。

 戦争の結果だけを見れば、スライム族の勝ちだ。

 だが、スライム族の被害は三百を超えたらしい……。

 ちなみに、鳥獣族の死体は、百体ほど見つかっているそうだ。

 どちらも、戦力の一割を失ったのだ。


 この被害に関しても、俺が抑えたと、ゴブリン魔王に褒められた。

 俺がチーター野郎を引きつけていたから、この程度の被害で済んだと、言われたのだ……。

 チーター野郎が戦場で大暴れをしていれば、スライム族が全滅していたかも知れないとも言っていた。

 さすがにそれは、チーター野郎を買い被り過ぎだと思うのだが……。

 それに、俺としては、偶然チーター野郎に狙われただけなので、少し複雑な心境だ。


 戦争の序盤で、チーター野郎と最初に会ったとき、川に向けて走らせるのではなく、俺があの場で戦っていれば、スライム族の被害をもっと抑えられたのではないか……。

 そう思ってしまったのだ……。

 まあ、チーター野郎の強さを考えると、返り討ちに遭っていた可能性もあるが……。


 小さな宴は半日程度で終わり、俺達は街へと戻ることになった。

 後日、街を挙げて、防衛の成功を盛大に祝うらしい。




「鳥族が、スライム領に潜伏している可能性がある。気をつけて帰ってくれ」


 前線基地を出発するとき、ゴブリン魔王にそう言われたが、特に何も起きなかった。

 サイに乗って街へと戻ったのだが、道中も特に問題は無かったし、街もいつも通りの平穏な街だ。


 まあ、俺達はスライムの大群と共に移動していたので、仮に敵がいたとして、簡単に襲えるような状況では無かったと思うが……。

 それに、本当に潜伏しているのであれば、手薄になった街を狙うと思うのだが、それもなかった。

 だが、見つかってない鳥族がいるのは確かな情報らしく、今後も魔王軍が捜索をするらしい。

 念のため、俺達も注意をした方がいいだろう。


 道中、サーラスティ達の一騎打ちの話や、後方支援組の活躍を聞いた。

 カイザー曰く、リンジーが大活躍だったそうだ。

 なんでも、リンジーの放った魔法が次々と命中したり、怪我をしたスライム達の治療を、率先してやっていたらしい。

 まあ、治療と言っても、精霊の水をぶっかけるアレだが……。


 そんな話を聞いていると、思ったことがある。

 俺だけが活躍したような扱いを受けたが、そんな事はないのだ。

 魔王軍、民兵、そして俺の仲間達、全員が活躍したから、領土を守れた。

 みんなで勝ち取った、みんなの手柄なのだ。



――――


 街に戻ってきてから、三日経った。


 俺は今、家で一人寂しく過ごしている。

 片方の翼を失ったし、右腕は未だに満足に動かせない状態だ。

 痛みもまだあり、怪我は治っていない。

 精霊の水に回復の効果があるとは言え、完治するほどでは無いので、安静にしているのだ。

 一日寝れば、全回復していたスライム族の体が懐かしい……。


 黙って横になっていても暇なので、俺は魔力操作の練習をしている。

 チーター野郎との戦いでは、いつの間にか爪を硬質化していたし、魔王軍と戦ったときも、いつの間にか溜めてた魔力が消えていた事もあった……。

 俺は、魔力の操作が下手なのだ……。


 魔撃も高速移動も、魔力を使う。

 俺はそれらを使って戦っているのだから、魔力を勝手に操作してしまうのは、さすがにマズイ。

 そう思い、魔力操作の練習を始めたのだ。


 そんなわけで、一人で魔力操作の練習をしていたのだが……。


「ふぉっふぉっふぉ。安静にしておるか?」


 カイザーが、サーラスティとガルディウスを連れて、家に帰ってきた。

 

「おう! 安静にしてるぞ」


 二人が俺の家に来るなんて珍しいな。

 何かあったのか?

 それとも、ただのお見舞いか?


「二人は、どうしたんだ? 何か用でもあるのか?」

「ふふん! あたし達、転生するから!」


 そうなのだ……。

 サーラスティとガルディウスは、一騎打ちで敵を討った後に、魂の欠片を手に入れたのだ。

 これについては、前線基地から帰ってくる道中で聞いていた。

 どうやら二人は、俺に転生することを伝えに来たようだ……。


「二人とも! ちょっと待って!」


 マズイ……。俺が恐れていた事が現実になりそうだ……。

 二人が戦ったのは、獣耳族だ。ツルツルのおっさんだ。

 ガルディウスは、まあ……、ツルツルのおっさんになっても、ギリギリ大丈夫かも知れない。

 戦争中に何度も見たし、男だからな……。

 だが、サーラスティはどうだ? ツルツルの獣耳ババアになる可能性がある。


 それはさすがにマズイ。

 そんな存在が、俺の目の前に来たら、俺はそいつを殺してしまうかも知れん。

 いくら獣耳だと言っても、可愛いという大前提の元にある。

 ツルツル獣耳ババアが、可愛いとは思えん。


「なによ? 勝手に転生したパントロに、あたし達を止められる理由があるの?」

「うっ……」


 確かにそうだ……。

 俺は誰に相談することもなく、一人で勝手に転生してしまった……。

 そう考えると、二人を止めるのは難しいか……?

 いや、それはそれ、これはこれだ!


「獣耳族になるんだぞ!? それでいいのかよ!?」

「はあ? いいに決まってるでしょ?」

「ふっ。オレ達が強くなるのが、妬ましいのか?」


 ガルディウス……、そうじゃない。そうじゃないんだ……。

 二人が強くなるのはいい。それについては大賛成だ。

 だが、ツルツルになってもいいのか?

 ん?

 冷静になって考えてみたら、スライムに髪の毛は無いもんな……。

 そりゃ、髪の毛の重要さに気付かないか……。


「ふふん! そう言うことで、今から転生してくるから!」

「じゃあな」


 そう言うと二人は家を出て行ってしまった。


「マジかよ……。カイザー? 止められない?」

「ふぉっふぉっふぉ。無理じゃな」

「はあ……」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主に鳥獣族の身体を持つ、仲間が増えるのじゃぞ?」


 そうだけど……。

 ツルツルって……。

 マジで止められないかな?


「ふぉっふぉっふぉ。では行ってくるわい」


 俺の願い虚しく、カイザーは家を出て行った。


「ちょっと待てよ。俺も行く!」


 俺はカイザーの後を追い、外へと飛び出した。


 神殿までの道のりで、二人を何とか説得しようとしたのだが……。

 やはり無駄だった。


 俺の家に来る前に、すでに仲間の了承は得ているらしい。

 そう。多数決で決まったことなのだ……。

 俺達のチームで多数決は絶対だ。俺が泣こうが喚こうが、無駄なのだ……。


 俺はしぶしぶ三人の後を追い、神殿の前までやって来た。


「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主は何をしに来ておるのじゃ?」

「いや、ほら、仲間の姿が変わるなら、見ておきたいじゃん……?」


 本当は二人を止めたい……。

 だが、決定事項のようだ……。

 もう俺に残された手段はただ一つ……。


「ふふん! そんなにあたしの裸が見たいの? パントロったらエッチね」

「は?」

「まあ、パントロになら、見せてあげてもいいけど」


 サーラスティが、訳の分からんことを言い出した。


 ちょっと待て、裸?

 何を……、あ……。


「そうだよ! 服! 服は用意してあるのか!?」

「ふぉっふぉっふぉ。もちろん、用意してあるわい」


 ああ、良かった……。

 服はあるのか……。

 いや、なんで俺の時は用意してないんだよ……。

 あの時、俺がどれだけ恥ずかしい思いをしたか……。


 そんなことを考えつつ、俺達は神殿の中へと入った。

 相変わらずの薄暗さで、何も変わってない。


「ふふん! じゃあ、あたしからね!」

「え!? サーラスティから始めるの!?」

「そうよ? 何か問題あるの?」


 いや、問題というか……。

 まずは、ガルディウスが実験台として、ツルツルのおっさんになる。

 そして、それを見たサーラスティを、こんなツルツルになってもいいのかと、説得して転生を止めさせる。

 それが俺の最終手段だったのだが……。


「ふぉっふぉっふぉ。では行くかのう」

「はい!」


 そう言うと、カイザーとサーラスティは、転生を行なう部屋へと向かって行った。

 二人が通路に入る直前、ついてこないのか? と聞かれたが、俺は行けなかった……。

 サーラスティが、獣耳のババアになる可能性があるのだ……。

 行けるはずがない……。


 俺とガルディウスは、この場で待つことになった。

 待っている間、俺はソワソワとしてしまい、あっちに行ったり、こっちに行ったりと、神殿内をウロチョロしていたのだが、ガルディウスに目障りだと言われてしまった……。


 そんな言い方しなくてもいいのに……。

 仲間がツルツルになる危機だぞ?


 そんなことを思いつつ、時間だけが過ぎていった……。

 そして、しばらく経つと……。


「ふぉっふぉっふぉ。無事成功したわい」


 まず、神官帽を被っている、カイザーが戻ってきた。

 転生の儀式には、あの帽子が必要なのだろうか?


「ふふん! 新しく生まれ変わった、あたしはどう?」


 そう言って現われたのは、猫耳の可愛らしい少女だった。


 ショートカットの真っ赤な髪の毛。

 頭の上に、ヒョコッと飛び出している猫耳。

 大きなリボンが付いた、ワンピースのような服を着ている。

 どこからどう見ても、ファンタジーの世界に登場する、猫耳の少女。


「お、おお!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 俺は、よく分からない叫びをあげた後、記憶がぶっ飛んだ。

 少しの間だと思うのだが、記憶がないのだ。

 

 ただ、気が付いたとき、俺は、猫耳の少女の頭を撫でていた。

 そして、いつの間にか、ガルディウスとカイザーの姿が無かった。

 俺と猫耳の少女の、二人きりになっていたのだ。


「もう、いつまで撫でてるのよ? くすぐったいわ!」


 少女が怒っている。

 だが、俺は撫でるのを止めない。

 猫耳に触れるか触れないか、そのギリギリを攻めつつ、頭を撫で続ける。


「ちょっと! パントロ!? 撫でるばかりで、感想はないの!?」

「え……? 感想? えっと……」


 感想って何だ? この子は何を言ってる?

 つーか、この可愛い猫耳の少女は何者だ?

 何故、俺の名前を知っている?

 よく分からんが、取り敢えず感想だな。


「超、可愛い!!」


 俺はそう言うと、また頭を撫で始める。

 綺麗でサラサラな赤い髪の毛を、ゆっくりと撫でる。


 猫耳に触れてはいけない。

 触れるのは御法度な気がする。

 だが、こんなに可愛いんだから、頭くらい撫でてもいいだろ?


 そんなことを思いつつ、頭を撫で続ける。


「ふふん! あたしの可愛さに、やっと気付いたのね!」


 可愛さに気付いた? 何を言ってるんだ?

 つーか、サーラスティの話し方に似てるな。

 ん?

 そう言えば、サーラスティは……?

 え……?


「あ、あれ? もしかして……、サーラスティ……?」

「え? 当たり前でしょ? なに言ってるのよ?」


 獣耳の少女は、上目遣いで俺を見ながら、そう言ってきた。


 ちょっと待て……、落ち着け俺……。

 この可愛らしい獣耳の少女が、サーラスティ?

 そんなバカなことが……、いや……、そうだよな。

 カイザーが連れてきたんだ……。

 サーラスティ以外、あり得ない……。


「はああああああああああああああああああああああ!?」


 俺は思わず、飛び退いてしまった。


「ちょっと! なんで逃げるのよ!」


 自称サーラスティの、猫耳の少女が怒っている。

 その表情も、頬を膨らましていて、凄く愛らしく見えてしまった……。


「なんでって言われても……、だって、サーラスティなんだよな?」

「ふふん! そうよ!」


 自称サーラスティの、猫耳の少女は、腰に手を当てて胸を張っている。

 その姿も、十歳くらいの少女が、大人ぶっているように見えて可愛らしい……。


「マジかよ……」


 なんで少女になってんだよ?

 ツルツルじゃないのは、良かったけど……。


「あら? 戻ってきたわね」


 サーラスティが何かに気付いた。

 その目線の先には、地下へと降りる通路がある。

 俺は咄嗟に、通路へと目を向けた。


「ふぉっふぉっふぉ。ガルディウスも成功したぞい」


 そう言って、カイザーがやって来た。

 そして、その後ろには、黒髪の超絶イケメンの青年がいた。


「ふっ。どうだ?」


 そう言って、俺達に感想を求めてきたイケメンの頭には、獣耳があった。


「が、ガルディウスだよな……?」

「当たり前だろ? 信じられないか?」


 俺の質問に、イケメンは髪をかき上げながらそう答えた。


「なんでだああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 どうして!? なんで!?

 ツルツルじゃない!! つーか、超絶イケメンだ!!

 なんだこれ!? 英雄の息子だからって、イケメンになるのか!?

 どうなってる!? 何が起きた!?

 なんでガルディウスが、イケメン美男子になってんだよ!!


「何をそんなに驚いている? オレが強くなって、焦っているのか?」

「違うから!! そんな理由じゃないから!! つーか、イケメン過ぎだろ!!」

「イケメン……? イケメンって何だ?」

「イケメンはアレだよ、アレ!! 超、カッコイイって意味だよ!!」


 いや、ちゃんとした意味は知ってるよ? 確か、イケてる男の略だろ?

 でも、そんなのどうでもいいんだよ!

 意味的には一緒だ!


「ふっ。オレは見た目なんてどうでもいい。強ささえあればな……」


 そう言うとガルディウスは、少し遠くを眺めるような、そんな目をした。

 その姿が、また、超カッコイイ。


「ふぉっふぉっふぉ。もう終わったのじゃから、帰るぞい」


 そう言うとカイザーは、扉へ向かって移動を始めた。

 それを追うようにして、二人も歩き出す。


 ツルツルにならなかったのは、良かったが……。

 色々と納得できない事もある……。

 何故、イケメンなのか……。

 何故、少女なのか……。


 そんな疑問を残したまま、俺は三人を追いかけた。





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