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第三十六話 「防衛の成功」

「あああああああああああああああああああああああ」


 部屋中に俺の叫び声が響き渡る。


「ふふん! 情けないわね!」


 サーラスティが、俺を見ながら、そう言った。


 だが、俺だって叫びたくて叫んでいるわけではない……。

 現在、俺は怪我の治療中なのだ……。


 ここは、前線基地にある、建物の中の一室。

 前線基地に戻ってから、すぐに治療を始めると言われ、この場所に連れてこられた。

 ここには、怪我をしたスライム達が運ばれてくるらしいのだが、今は、俺とサーラスティ、それとカイザーの三人だけだ。


「ふぉっふぉっふぉ。どれ、後は肩じゃな」

「お……、おう……、優しくな……?」

「ふぉっふぉっふぉ。無理を言うでないわ」


 俺はしぶしぶ、カイザーの方を見る。

 カイザーは部屋に置いてある、タルに飛び込み、そして出て来ると……。


「ぶうううううううううううう!!」


 俺の傷口に向かって、水を噴き出した。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 俺は激痛を感じ、叫び声をあげてしまう。

 だが、これはもう仕方ない。

 痛くて叫ぶ。自然の摂理だ……。


 カイザーが噴き出した水というのは、精霊の水と呼ばれている、回復アイテムのようなものらしい。

 スライム族には、治癒や回復系の魔法が使える奴が居ないそうだ。

 それで、仕方なくこんな治療を受けることになったのだが、水をぶっかけるのが、治療だと言うのだから、なんとも原始的というか何というか……。


 だが、精霊の水の凄さも実感した。

 すぐに止血されたようで、血は流れていないし、右腕も少し動かせるようになった。

 本当に回復アイテムみたいな、効果があるのだ。


 しかし、いくら血が止まったとは言え、痛みはまだあるし、右腕が完全に治った訳ではない……。

 しばらくは、おとなしくしていた方が良さそうだ……。


「ふぉっふぉっふぉ。これで、安心じゃ」

「ああ……」


 翼の傷も、同じように精霊の水をぶっかけられたのだが……。

 俺は、斬り落とされた翼を、持ってくるのを忘れた……。

 取りに戻ることも出来ず、そのまま治療を受け、片方の翼がない状態になってしまった……。

 そう……。俺はもう二度と、空を飛べなくなったのだ……。


「ふふん! しばらく安静にしていなさい」


 サーラスティはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。


「ふぉっふぉっふぉ。お大事にじゃ」


 同じようにして、カイザーも出て行き、俺は一人になってしまった……。

 安静にしてろと言われても、この部屋に何かがあるわけでもない。

 ただ、ベッドが並んでいるくらいで、後は精霊の水が入ったタルが置いてあるだけだ。


 外は暗くなり始めていて、そろそろ魔界の夜の時間なので、俺はベッドに行き、寝ることにした。

 余程疲れていたのか、俺はベッドに横になると、すぐに眠ってしまった。



――


 夜中、なんだか寝苦しくて目を覚ますと、そこには不思議な光景があった。

 何故か、サーラスティが俺の上に乗っていたのだ……。


 またかよ……。


「何してるの?」


 やはり、サーラスティは、何の反応もしない。

 眠っているのか、目を瞑り、黙って動かない……。

 俺は、今度こそ眠らないようにと思い、そっとサーラスティを持ち上げようとしたのだが……。

 左腕が上手く動かなかった……。


 何故だ?


 そう思った俺は、左腕の方を見た。

 すると、何故か、ユカリスが俺の左腕に乗っていた……。

 いや、乗ってるというか、くっついていると言うか……。

 とにかく、邪魔な位置にいる……。


 何が起きてる……?

 この状況はなんだ?


 俺はそんなことを考えながらも、うとうととしてしまい、そのまま眠ってしまった……。



――


 なんだ……? 口の辺りがヒンヤリしている……。

 だが、苦しい……。 息が出来ない……。


「ぷはあああああああああああああああ!!」


 俺は飛び起きた、それはもう、凄い勢いで起きた。

 今回は、マジでやばかった。

 死ぬ。

 一瞬、本気でそう思うほどに苦しかった。


「ふふん! おはよう!」

「ぉ、おはよぅ……」


 サーラスティと、ユカリスが、少し離れた位置で、俺に挨拶してきた。


「あ、ああ……、二人ともおはよう。いや! つーか、何が起きた!? また息が出来なかったぞ!?」

「ふふん! お目覚めのキスよ!」


 は?

 オメザメノキス?


「え? 何それ? 何言ってんの?」

「だから、お目覚めのキスをしてあげたんじゃない!」


 ダメだ……。サーラスティの言ってることが、意味不明すぎる……。

 何を言ってるのか、サッパリだ。


「ふふん! 今日はユカリスよ!」

「え……?」


 俺は、すぐにユカリスを見たが、ユカリスはサーラスティの後ろへと隠れてしまった。


 今日はユカリス? 今日は?

 意味が分からないにもほどがある……。

 昨日も、オメザメノキスとか言うのをしたのか?

 だから、昨日も息が出来なかったのか?

 てか、オメザメノキスって何だ?


「あのさ? よく分からんが、何かをしたというなら、もうやめて欲しいのだが?」

「失礼ね! ユカリスが可哀想じゃない!!」

「いや、今日だけじゃないから! 昨日も苦しかったから!」

「ふふん! 昨日と今日、どっちが良かった?」

「話をちゃんと聞けよ! どっちも苦しかったから、もうやめろって言ってんだよ!」

「なんでよ!? お目覚めのキスの何が不満なのよ!!」


 だから、オメザメノキスって何だよ……。

 俺の安眠を妨害して、目覚めが悪く……。

 ん? 目覚め……?

 お目覚め……? オメザメノキスって、お目覚めのキス?

 え? どういうこと?

 キスされたの?


「えええええええええええええええええええええ!?」


 ようやく理解した俺は、驚きすぎて、大声で叫んでしまった。


「ぱ、パントロちゃん……。ご、ごめんねぇ……」


 ユカリスが、サーラスティの後ろから、謝ってきた。


「あ、え? いや? 別にいいんだけど……。え? ちょっと待って? ごめん? 何が?」


 俺は今、大パニック中だ。

 今まで、キスなんてしたことがない。

 もちろん、人間だった頃もだ。

 そもそもキスなんて、俺とは無関係の所で行なわれるものだと思ってた。

 それが何故か、昨日と今日の朝に行なわれたらしい。

 しかも、当の本人である、俺が知らない間にだ。


「ふふん! まあいいわ! 一緒に暮らす頃には、お目覚めのキスが無いと、起きられないようにしてあげるから!!」


 サーラスティが意味不明なことを言ってるが、それどころじゃない。

 俺がキスをしただと!?

 なんで!? どうして!?

 キスってアレだろ!? 好きな人同士が、口と口を重ね合わせるアレだろ!?

 愛を確かめ合うような、そんな行為だろ!?


 それに、あの口ぶりから察するに、昨日はサーラスティがしたんだよな?

 サーラスティも、ユカリスも、好きだよ? でもさ、それとは違うじゃん?

 俺が言ってる好きは、仲間とか友達とか、そう言う意味の好きじゃん?

 LOVEじゃなくて、LIKEじゃん?

 それなのに、キスとかしていいの!?

 そう言うのって互いの合意の元で、行なわれるものじゃないの!?


 だあああああああああああああああああああ!

 もう訳が分からん!!


 俺が、そんな風にパニックになると、ドアの外から変な音が聞こえてきた。

 なんだか、大人数が移動してくるような、そんな音が聞こえてきたのだ。


「パントロ! 入るぞ!」


 そう言って、部屋に入ってきたのは、ゴブリン魔王だった。

 ゴブリン魔王の横には、側近のスライムが二匹、後ろには、兵士が大量に並んでいた。

 兵士達は部屋には入らずに待機しているようだ。


「あ、あの? 何か?」

「ハッハッハッ! パントロ! すぐに外に出ろ!」


 俺は言われるがままに、ゴブリン魔王によって外に連れ出された。

 すると……。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 もの凄い歓声が辺りを包んだ。


「え!? 何!? 何が起きてるの!?」


 俺は今もなお、パニック中だ。

 お目覚めのキスについては、取り敢えず置いておく。

 だが、今の現状もよく分からない。

 外に出た瞬間、俺を待っていたと言わんばかりに、スライム達が歓声をあげたのだ。

 俺より先に出たゴブリン魔王ではなく、何故か俺なのだ。


「さあ、壇上に上がるぞ! パントロ、ついてこい!」


 ゴブリン魔王はそう言い、建物の上へ登るための階段へ向かって歩き出す。

 俺は訳も分からずに、それを追いかけた。

 そして、俺達が建物の上にあがると、ゴブリン魔王の演説が始まった。


「諸君! 我々スライム族は、領土を守ることに成功した!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 ゴブリン魔王の言葉を聞いた、スライム達が一斉に歓声をあげた。


「それも全て、ここにいる、神官の息子! パントロの働きによるものだ!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 先ほどよりも大きな歓声があがった。


 この状況はなんだ? どういうことだ?

 あれか? 夢か? これは夢じゃないのか?


 俺は現実逃避を始めた。

 仕方ないだろ? 意味が分からないとか、そういうレベルの話じゃない。

 まるで、大活躍した英雄を見るような目で、スライム達が俺を見てくるのだ。


 俺が戦争でやったことなんて、たかが知れてる。

 少しの足止めと、数体の鳥獣族を倒したくらいだ。

 それなのに、そんな不思議な目で見られているのだ。

 現実逃避くらいしてもいいだろ?


 結局この後、ゴブリン魔王はスライム達に労いの言葉をかけ、すぐに演説は終わった。

 俺は意味が分からないまま、建物から降り、そして、仲間達と合流した。


「ふぉっふぉっふぉ。さすがワシの息子じゃな」


 カイザーが、俺を褒めるようなことを言い出したが、俺は未だに理解していない。


「あのさ? この状況は何なの? なんで俺が活躍したみたいな雰囲気になってんの?」

「ふぉっふぉっふぉ。お主、自分の働きに気付いておらぬのか? ふぉっふぉっふぉ」


 俺は、何も特別なことはしていない……。

 勝手に動いて、勝手に戦って、怪我をして、戻ってきただけだ……。

 意味が分からん……。


「ふぉっふぉっふぉ。では、説明してやろうかのう」


 カイザーが簡単に説明してくれた。

 俺が戦った、チーター野郎。アイツが関係しているらしい。

 カイザーが、ゴブリン魔王に聞いたらしいのだが、チーター野郎は、鳥獣族軍の司令官クラスの大物だったらしい。

 全然そうは見えなかったが、そうらしいのだ……。


 チーター野郎は、俺から逃げ出した後、戦場を駆け回っていたらしいのだが……。

 何でも……。


「鳥族の裏切り者がやべえ!! 一旦、退いて、戦力の立て直しが必要だ!!」


 とか何とか、言いながら、走り回っていたらしい……。

 そんな事をしている、チーター野郎の方が、ヤバイ存在だと思うが……。


 チーター野郎の声を聞いた鳥獣族達は、次々と戦場から逃げ出していったらしい。

 あのチーター野郎に、それほどの影響力があるとは思えないのだが、事実だと言われた……。

 まあ、ガルーダに乗ってた時に、逃げている鳥獣族を追いかける、スライム達の姿を見たので、本当なのだろう。


 そんなこんなで、鳥獣族軍は撤退を始め、あっという間に戦場から鳥獣族軍は居なくなったそうだ。

 スライム族が勝利したのだ。

 その後、俺が治療をして寝ている間に、勝利を導いた功労者として、スライム達に俺のことが広まったらしい。


 俺はただ、自分の身を守るために戦って、そして退けただけだ……。

 それなのに、もの凄い活躍をしたと、スライム達に誤解されている。

 罪悪感というか、なんかスッキリしない……。


「ふふん! 怪我をした状態で、敵の親玉を退けるなんて、さすがパントロよね!」


 サーラスティが、褒めてくれたのだが、俺は少し心苦しい……。

 俺は必死に戦っただけだ……。

 あの時、俺はスライム族のことなんて考えていなかった……。


「ふっ。パントロ、貴様が何を考えているか知らんが、結果的に我らの勝ちだ。それでいいだろ?」


 ガルディウスは、俺の浮かない表情を見て察してくれたのか、そんなことを言ってくれた。


「そうである。パントロ殿は、スライム族の未来を守ったのである」


 ボルドがそう言ってくれて、俺は気付いた。

 そう、これはスライム族の常識。

 生き残れば、俺達の勝ちなのだ。

 それがどんな形であれ、生き残る。それが大事なのだ。


「そっか。そうだよな。未来を守ったんだよな」

「ふふん! そうよ! 最大級の手柄よ!」

「ふぉっふぉっふぉ。皆、お主の働きを誇りに思い、そして勝った喜びを分かち合いたいのじゃ」


 カイザーの言うとおりだな……。

 俺は、喜んでいいんだよな?

 勝った! 俺達は勝ったんだ!

 それでいいじゃないか!!


「そうだな! 勝ったことを喜ぼう!!」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ、それでいいのじゃ」

「おっしゃあああああああああああああああああああああ!!」


 俺は喜びの雄叫びをあげた。

 それに呼応するように、周りにいた俺の仲間や、スライム達も、次々と声をあげる。

 スライム族の喜びの声が、辺りを包むように響き渡った。




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