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幕間 サーラスティの戦い

 サーラスティ視点です。お気を付け下さい。

「どこまで行く気だ?」


 ナイフを持った獣耳族が、あたしに聞いてきた。


「ふふん! もういいかしら?」

「この辺りは開けてるし、ここでいいだろ」


 ここは小さな林の中。

 パントロと別れてから、あたし達は川を越えて小さな林の中に入った。

 林に入ってから、しばらく移動してきたけど、確かに、この辺りは開けていて動きやすい。

 一騎打ちには、もってこいのような場所。


「ふふん! そうね! それじゃあ、始めましょうか!」


 初めての一対一の戦い……。

 でも、不思議と、あたしは不安を感じていない。

 あたしなら勝てる。そんな自信が湧いてくる。


「俺の名は、ポポルカ! いざ、尋常に勝負!」

「ふふん! あたしの名は、サーラスティ! 未来の大魔王の妻よ! さあ、来なさい!!」


 ポポルカが、ゆっくりと腰を落としてナイフを構えた。


 あのナイフを使って戦うのよね?

 ってことは、近距離系かしら?


 あたしとポポルカは、互いに睨み合ったまま動かない。

 向こうが、どう思ってるか分からない。

 でも、あたしは、ポポルカが先に動くのを待っている。

 相手の出方次第で対応を変える。それがあたしの戦い方。


『アースボール!!』


 ポポルカが土の玉を放った。

 一直線に、あたしに向かって土の玉が飛んでくる。


『フレイムボール!!』


 あたしは土の玉に向かって、炎の玉を撃ち出した。


 両者の放った魔法の玉は、空中で衝突。

 炎の玉が土の玉を一瞬飲み込んだが、そのまま両者の玉は消滅した。


 どちらの魔法も消えたわね……。

 じゃあ、やっぱり近距離で来るかしら?


「シッ!」


 あたしの予想通り、ポポルカは突っ込んできた。


「予想通りね! 食らいなさい!! 『フレイムボール!!』」


 あたしの頭上に炎の玉が創られ、ポポルカに向かって飛んでいく。

 けど、ポポルカは、炎の玉を気にする素振りも見せない。


 避けられる!?


 あたしの予想通り、ポポルカは炎の玉の横をすり抜けた。


「シッ!!」


 そのまま突っ込んできたポポルカは、流れるようにナイフを振り下ろす。

 あたしはナイフを避けながら、軽く後ろに飛び退いて……。


「これでどう!!」


 ポポルカの腹部に目掛けて体当たりを放った。

 けど……。


「ふんっ!」


 ポポルカは、くるんと回転しながら、あたしの体当たりを避けた。

 目標物を失ったあたしは、何もない方向へと突っ込んでいく。


 これだから、体当たりはイヤなのよ。

 外したときに、無条件で後ろを取られ、自動的に距離まで取っちゃう。


 そんなことを考えながら、あたしは空中で体勢を立て直す。

 そして、地面に着地したと同時に、すぐに振り向いた。


「シッ!!」


 あたしが振り向くと、目の前にはポポルカがいて、ナイフを振り下ろしているところだった。

 あたしは咄嗟に横に跳んで、ナイフを避けつつ距離を取る。


「ほお? 今のは確実に仕留めたと思ったが……、やるな」


 ポポルカは、少しだけ驚いたような顔をしながらそう言い、あたしをジッと見てきた。


「ふふん! あの程度の速さなら、簡単に避けられるわよ!」


 とは言ったけど、さすがにヒヤッとしたわね。

 体当たりは避けられる可能性があるから、気をつけないと……。


「ほお? お前は遠距離系だと思ったが、違ったのか」

「ふふん! あたしは遠距離も近距離も出来るのよ! そこらのスライム族と一緒にしないことね!」

「ふっふっふっ。俺と似ているな」

「はあ?」


 どういう意味かしら?

 アイツも遠距離と近距離が得意なの?

 まあ、どっちでもいいわね。

 あたしはアイツを倒す。それだけ。


「ふっふっふっ。では、近距離戦と行こうか!!」

「っ!?」


 唐突にポポルカが突っ込んできて、ナイフを振り下ろしてきた。

 あたしは咄嗟にそれを避け、死角へ回ろうと、ポポルカの周囲を跳び回る。


「シッ!」


 どうやらポポルカには、あたしの動きが見えてるようで、死角へと入れそうもない。

 あたしがどんなに動き回っても、確実にあたしに向かってナイフ攻撃を繰り出してくる。


「シッ! シッ! シッ! シッ!」


 あらゆる角度からの斬りつけ、突き、そんなナイフ攻撃が、あたしを襲ってくる。

 けど、あたしはそれを避け続ける。

 師匠との特訓があったから、全く苦にならない。

 師匠の蹴りや突きに比べたら、この程度の速度、余裕で避けられる。


 このまま避け続けても、埒があかないわね……。


『フレイムボール!』


 あたしはナイフ攻撃を避けつつ、炎の玉を放つ。


「ぐぁっ!」


 急に撃たれた魔法を、この近距離で避けられるはずもなく、炎の玉はポポルカに命中。

 ダメージがあったのか、ポポルカは顔を曇らせた。


 そんな隙を見せるとは、大したこと無いわね!

 師匠なら、当たってもお構いなしって感じだったわよ!


『フレイムボール!』


 あたしは再度、魔法を使う。


「ぐおおおっ!?」


 先ほどと同じように、近距離で放たれた炎の玉は、ポポルカに命中。

 ポポルカは、あたしから逃げるようにして、大きく後ろへと飛び退いた。


 ポポルカの上半身はボロボロ。

 あちこちを火傷しているように見える。


「ふふん! 大したこと無いわね!」

「くっ……。どうやら、近距離は、そちらに分がありそうだな」

「遠距離だって同じよ! あんたなんかに、あたしが負けるはず無いもの!」

「スライム如きが……、あんまり大口を叩くなよ……」

「はっ! そのスライム如きの魔法を食らって、逃げてるのは誰よ?」

「おしゃべりは終わりだ」


 そう言うとポポルカは、ナイフを地面に突き刺し、両手を合わせ、祈るような格好をした。


 何のポーズかしら?

 魔力でも溜めてるの?

 なら、あたしも次の魔法の準備はしておきましょう。


 あたしは自分の魔力を操作する。

 神官様から教えて貰った魔法は、いくつもある。

 その内の一つ。あたしのお気に入りの魔法の準備をする。

 この魔法、魔力の操作が難しくて、直ぐには出せない。


 ユカリスなら、直ぐに出せるのに……。

 まあ、あの子は特別ね。

 天才の部類に入る、特別な存在。

 ふふっ。あたしの仲間は、優秀なのが多いわね。

 パントロも、ユカリスも、他のみんなだって優秀。

 リーダーとして誇らしいわ。


 だからこそ、あたしは、この戦いで勝たなきゃね。

 リーダーが弱いだなんて、かっこ悪いし、何より、あたしがそれを許せない。

 それに、未来の大魔王の妻として、負けるわけにはいかない。

 あたしは絶対に勝つ!


『フレイム……』


 ポポルカの頭上で、炎が螺旋状に渦巻きだした。

 螺旋状に渦巻いてる炎の周りに、またも螺旋状の炎が創られていく。


 まさか、アレって炎の竜巻?

 あんなの撃たれたら、さすがにマズイわね。

 しょうがない……、お気に入りは後にして、一旦、アイツを止めましょう。


『フレイムボール!』


 あたしの放った炎の玉が、黙って突っ立ってるポポルカに向かって飛んでいく。

 その瞬間、ポポルカが、ニヤリと笑ったように見えた……。


 え!? 今の顔はなに!?

 なんで笑ったの!?


 あたしがそう思った瞬間、ポポルカの頭上にあった炎の螺旋が消えた。


「なっ!?」


 なんで!? どうして消えるのよ!?


「こっちが俺の本命だ!! 『アースランス!!』」


 ポポルカはそう叫んだ。

 でも、ポポルカの頭上に、魔法は創られていない。


 あたしは、今の状況がよく分かっていない。

 ポポルカは魔法を途中で止めた、そして、次の魔法を撃った。そう見えた。

 けど、魔法が飛んでくる気配がない……。

 それどころか、魔法が創られる様子もない。


 どういうこと?

 何が起きてるの?


 あたしが困惑していると、ポポルカは屈むようにして、あたしが放った炎の玉を避けた。

 次の瞬間、唐突に後ろから、風を切るような音が聞こえた。


 あたしは咄嗟に、大きく飛び上がる。

 後方を確認している暇もなかったし、左右どちらに避ければいいのかも分からなかった。

 飛び上がった瞬間、後方から凄い勢いで土の大槍が飛んできて、あたしの真下を通過していった。


「それも狙い通りだ!! 『アースアロー!!』」


 ポポルカが魔法名を叫んだ。

 けど、地上にいるポポルカの頭上には、やっぱり魔法は創られていない。


「どうなってるのよ!?」


 そう叫んだ直後、あたしの視界の端に、妙な物が映った。

 咄嗟に目を動かし左右を確認すると、左右両方の斜め下から、大量の土の矢があたしに向かって飛んで来ているのが見えた。


 マズイ!!

 空中で身動きが取れない!!


『ウィンドボール!』


 あたしは風の玉を創り、それを真下に向かって飛ばす。

 そして……。


『バースト!!』


 風の玉を爆散させた。


 辺りに強風が吹き荒れる。

 あたしはその強風に乗って、さらに上空へと飛んでいく。

 そして、その強風によって、大量の土の矢も勢いを失い、地面へと落ちていった。


「ちっ!」


 ポポルカが悔しそうな顔をしながら、こちらを見ていた。


 ふぅ……。危なかったわね。

 でも、どういうこと?

 アイツの魔法が、なんで違う方向から飛んでくるのよ。


 あたしは上空で、ポポルカの様子を窺う。

 すると、ポポルカの足に、違和感を覚えた。


 ナイフに足を乗せてる……。

 まさか、あのナイフのせい?

 ナイフを伝って、地面に魔力を注いだ?

 そう言うこと?


 正確な理由は、あたしには分からない。

 でも、違う方向から魔法が飛んできたのは確か。

 普通は、頭上、もしくは術者の近くで魔法は創られる。

 それを無視したような魔法の使い方……。


 相当な魔法の使い手ね。

 まあいいわ。アイツの魔法は避けた。

 今度はあたしの番。


 あたしは、再度、お気に入りの魔法を撃つために魔力を操作する。

 上空から落下しながら、魔力を操作し続けた。


「ふっふっふっ! そのまま、串刺しになるがいい!!」


 ポポルカが何か言ってるのが聞こえた。


『アースランス!!』


 ポポルカの頭上に、土の大槍が創られ、あたしに向かって飛んでくる。


 今度は、普通に撃ったわね。

 まあいいわ。それならそれで、あたしの魔法を受けなさい!

 これが、あたしのお気に入りの魔法よ!


『アイスランス!!』


 あたしの頭上で生み出された水が凍っていき、氷の大槍が創られた。

 あたしは、氷の大槍を土の大槍に向かって全力で放つ。


 猛スピードで飛んでいった氷の大槍は、土の大槍と衝突。

 その瞬間、大きな衝突音が辺りに響いた。


「な、なにっ!?」


 ポポルカが声を上げたのが聞こえた。


 氷の大槍は、土の大槍を真っ二つに割るようにして進む。

 半分くらいまで割られた土の大槍は、魔法として意味を成さなくなり、その場で真っ二つに割れ、ただの土へと戻った。


「ふふん!」


 中級魔法の中でも、特別な氷属性の魔法。

 水属性と風属性、それと少しの炎属性の要素が混ざった特別な魔法。

 その中でも、貫通力の高い大槍系の魔法。

 土の大槍とは、威力の次元が違う。


 相手の魔法を打ち破った氷の大槍は、尚も真っ直ぐに進む。

 ポポルカを目指し、一直線に飛んでいく。


「くっ!」


 ポポルカが魔法を避けようと、大きく横に跳んだ。


 今ね!!


 氷の大槍が避けられるのは分かっていた。

 この距離と、ポポルカの素早さを考えたら、避けられるのは想定済み。

 だからあたしは、次の魔法の準備をしていた。


『フレイムアロー!!』


 あたしの頭上で生み出された、二十本の炎の矢が、ポポルカに向かって飛んでいく。


 数が少ないけど、今のあたしには、この数が限界。

 でも、確実にアイツを捉えたわね。


「ぬあああああああああああああああ!!」


 ポポルカの叫び声が辺りに響き渡る。


 あたしが放った炎の矢が、ポポルカの、肩、腕、胸、足など、あらゆる場所に命中した。

 しかも、炎の矢は消えない。

 傷口を焼くようにして、突き刺さったまま燃え続けている。


『ウィンドボール!』


 あたしは風の玉を斜め下に向かって放つ。


『バースト!』


 風の玉が爆散、辺りに強風が吹き荒れ、落下していた、あたしの身体をフワッと持ち上げてくれる。

 あたしは、そのまま空中で体勢を立て直して、地面へと着地した。


「あああああああああああああああああああああああああ!!」


 ポポルカは、地面を転がりながら悲鳴を上げ続けている。

 転がりながら、炎の矢を消そうとしているのか、ポポルカはあたしに見向きもしない。


「ふふん! トドメが必要ね!」


 あたしが、トドメの魔法を撃つために魔力を操作していると、ポポルカが転がるのを止めた。

 あたしに背を向けて、炎を消そうと身体を払っている。


『アイスランス!!』


 あたしは、そんなポポルカに向かって、氷の大槍を放つ。


 高速で飛んでいった氷の大槍は、ポポルカの背中に直撃。

 ポポルカの身体を貫きながら一緒に飛んでいき、一本の木に突き刺さってようやく止まった。


 ポポルカの身体は氷の大槍に貫かれ、そのまま木に張り付け状態にされている。

 この状況で生きているはずがない。

 そうは思いつつも、念のため、確認してみた。


「ふふん! あたしの勝ちね!」


 魔力を操作し氷の大槍を消してみたが、ポポルカはピクリとも動かない。

 目は光を失っているし、身体に大穴が空いている。

 あたしの勝ちが確定した。


 ふぅ……。

 ちょっと魔力を使いすぎたわね……。

 身体が少し重いし、フラッとする感じもある……。

 魔力切れってほどじゃないけど、しばらくは魔力は使えないわね……。

 パントロ達と合流したら、また休憩に戻りましょう……。


 あたしは勝った喜びよりも、この先のことを考えていた。

 だって、勝つのは決定したことだから。

 あたしは、未来の大魔王の妻。負けるはずがないもの。




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