幕間 ガルディウスの戦い
ガルディウス視点です。お気を付け下さい。
オレは今、初めて鳥獣族と一対一で戦おうとしている。
「オレの名は、ガルディウス!! いざ、尋常に勝負!!」
「堂々としているな。さすが英雄の息子と言ったところか」
大剣を持った獣耳族が、その剣を肩に担ぎながら、オレを見ている。
「どうした! 名乗るがいい!!」
「ふっ! 俺の名は、インゲナ! かかってくるがいい!」
インゲナと名乗った獣耳族は、大剣を両手でしっかりと握り、ゆっくりと構える。
ピリピリとした空気が辺りを包む。
一騎打ちが始まったのだ。
「行くぞ!!」
開始早々、オレは、インゲナに向かって突っ込む。
「ふん!!」
インゲナが大剣を横薙ぎに振るった。
どうやら、オレを近づけたくないようだ。
「ふっ! その程度の速度か?」
オレは余裕で大剣をくぐり抜ける。
そして……。
「おらっ!!」
体当たりを、腹へぶち当ててやった。
「くふっ!」
インゲナの口から空気が漏れるような音が聞こえた。
やはりな。オレは強い!
オレの体当たりは、鳥獣族が相手でも通用する!
オレは一旦距離を取る。
近くでくっついて回るのは、あまり得意じゃない。
真正面で攻撃を避けつつ、こちらの攻撃を当てる。
これが一番オレに合ってる。
「くらえ!!」
インゲナが大剣を乱雑に振るいだした。
しかし、オレの位置が見えてないのか、全くオレに届いていない。
「ふっ! 何をやって……」
オレはイヤな予感がして、途中で言葉を止めた。
インゲナを中心にして、辺り一帯に風が舞う。
そして……。
『ウィンドカッター!!』
インゲナの頭上辺りに舞っていた風が、途端に刃のようになってオレに向かってきた。
「くっ!!」
オレは咄嗟に風の刃を避けた。
だが、次々と放たれる風の刃が、更に俺を襲ってくる。
「ハッハッハッ!! どうだ? 風の刃からは逃れられんだろう?」
オレが風の刃を避け続けていると、インゲナは誇らしげにそんなことを言った。
インゲナが、何か言ってる……。
だが、今はこの風の刃だ。コイツを全て避けきる!!
オレは集中し、風の刃を避け続ける。
「ほう? 中々……、じゃあ、こんなのはどうだ!! 『ウィンドボール!』」
「っ!?」
風の玉だと?
あんな初級魔法を撃ってどうするつもりだ?
風の刃と相殺して、オレが避けやすくなるだけだろ?
オレは風の刃を避けながらも、風の玉に注意を向ける。
何があるのか分からない。それが魔法の厄介さだ。
パントロも、鳥族や魔王軍と戦ったときに魔法に苦労したと言っていた。
魔法を使えないオレは、魔法に一番に気をつけなくてはならない。
『バースト!!』
風の玉がオレの横を通過したとき、インゲナが魔法名を叫んだ。
だが、咄嗟に分かった。
風の玉を爆散させ強風を生み出し、オレを吹き飛ばしつつ、風の刃で切り刻む。
それがヤツの狙いだ。
ならば!!
「硬質!!」
神官様に教えて貰った硬質化。
パントロよりも遅く練習を始めたので未完成だが、若干の硬質化は出来ている。
風の玉が爆散する直前、オレは風の玉とインゲナの間に向かって突っ込んだ。
その次の瞬間、風の玉が爆散し、辺り一帯に強風が吹き荒れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オレはその強風を背に、インゲナへと突っ込んでいく。
オレの狙いは、この強風だ。
強風の勢いに乗って、このままインゲナに向かって体当たりをかます!!
「なっ!?」
インゲナの驚いている表情が見える。
だが、反応が出来てない。
くらえ!!
「ごぶううううううううううううううう!!」
オレの体当たりは、インゲナの腹部へ命中。
インゲナは大剣を落とし、そのまま後方へと吹っ飛んでいった。
「おっしゃあああああああ!!」
どうだ!?
硬質化したオレの体当たり、さらに強風を利用してやった!
相当のダメージを与えたはずだ!!
「く、くそ……」
インゲナが、ゆっくりと立ち上がっていく。
ダメージは……、ありそうだが、まだだな。
次はどの手を使うか……。やはり……。
オレは魔力を溜め始める。
時間が掛かるが、魔撃の準備を始めたのだ。
「鳥獣族は、その程度か?」
少し会話をしながら時間を稼ぐか……。
「スライム如きが……、調子に乗るなよ……」
「おいおい……、そのスライム如きに吹っ飛ばされたのは、どこのどいつだ?」
「くっ……」
インゲナが悔しそうな顔をしている。
だが、俺が言ったのは事実だ。
最弱と言われている、スライム族に吹っ飛ばされたのだ。
インゲナのプライドは、ズタズタだろう。
「そんな表情をしているだけか? 鳥獣族は、その程度の大したことない種族なのか? それとも獣耳族が弱いのか?」
オレはあえて、インゲナが怒りそうなことを言う。
ヤツを挑発するのだ。
魔力がもう少しで溜まる。
ヤツの懐へと飛び込む際に、単調な攻撃をして貰うのだ。
これも、パントロに聞いた戦略の一つ。
怒った相手は、単調な攻撃を繰り返すことが多い。そう言ってた。
実際に試したことはない。
だが、あのパントロに聞いたのだ。信じていいだろう。
サーラスティとユカリスは、パントロのことを天才と呼ぶ。
リンジーとボルドは、パントロのことを最強だと言っていた。
オレの仲間は皆、パントロを凄いヤツだと思ってる。
まあ、皆、パントロの前では、そんなことは言わないが……。
オレもそうだ。
戦場に出て、初めて鳥獣族と戦って分かったことがある。
奴らは強い。スライム族の誰もが一対一では勝てない。
そう思えるほどに強い。
そんな鳥獣族を、たった一人で倒したパントロは凄い。
素直に、そう思える。
だが、オレ達は強い。
師匠に鍛えられたオレ達は強いのだ。
鳥獣族の攻撃を避けられるし、こちらの攻撃を当てることが出来る。
パントロだけではなく、師匠の教えを受けたオレ達なら、一対一で鳥獣族と渡り合える。
鳥獣族と戦ってみて、そう思えたのも事実だ。
だから、オレは一騎打ちを選んだ。
オレの考えが間違っていないことを証明するため、そして、パントロのライバルとして、鳥獣族の身体を手に入れるためにだ。
「どうした!? かかって来いよ!!」
インゲナが動かない。
何をしているのか分からないが、立ち上がってから一歩も動かない……。
何のつもりだ……?
「行くぞ……!!」
来たっ!!
インゲナがオレに向かって突っ込んで来る。
だが、ヤツの大剣はオレの近くに転がっている。
素手だ。爪も牙も無い獣耳族に、何が出来るというのか。
「おらああああああああああああああああ!!」
オレの目の前に来たインゲナは、オレに向かって突きを放った。
普通の突きに見える。
いや、最初だけ、普通に見えただけだ。
実際は違った。
信じられないほど、速度がある突きだった……。
「ぐはっ!!」
オレは反応が出来なかった。
ギリギリ見えてはいた。
だが、その突きは速く、オレが避ける暇なんぞ無かった……。
オレは突きの直撃を受け、吹き飛ばされた。
地面を転がりながら、なんとか、体勢を立て直したのだが……。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オレの全身に、信じられないほどの激痛が走った。
なんだ!? 何が起きた!? 体が裂けそうだ!!
この感覚は……、魔撃!?
何故、何故だ!? オレが打つはずだったのに!!
何故ヤツが魔撃を!?
「があああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
オレは痛みに耐えられず、叫び、のたうち回った。
この叫びが、パントロに聞こえていたらカッコ悪いな。
そんなことを一瞬だけ思った。
「はぁはぁはぁはぁ……」
なんとか、痛みが治まってきた……。
だが、かなりのダメージを受けた……。
何度も魔撃は受けた。だが、ここまで強烈な痛みは初めてだ……。
師匠は手加減していたのだろうか……?
いや、今はそんなのどうでも良いな……。
目の前のヤツを……。インゲナを倒さなきゃ……。
「どうだ? 我が必殺の拳は?」
「はぁはぁ……、な、何が必殺の拳だ。はぁはぁ……、大したこと無い威力だな……」
くそっ!! パントロ!! 挑発、失敗したじゃねーか!!
単調な攻撃どころか、必殺技が来たぞ!!
後で絶対、文句を言ってやるからな!!
「そうか? ずいぶんと苦しそうだが?」
「はっ! だがオレは耐えたぞ? この程度の威力なら、オレの必殺技の方が威力がある! まあ、貴様には耐えられないだろうがな!」
乗ってこい……。
オレの必殺技を受けると言え……。
「ハッハッハッ!! スライムの必殺技だと!? さっきの硬くなって体当たりをするアレだろ? あの程度――」
「ち、違う!! オレの必殺技は、えっと……、もっと、こう……、とにかく、さっきのではない!!」
危ない危ない……。
自分から必殺技を言いそうになった……。
必殺技の内容を知ったら、受けてくれるはずがない……。
「ほう? さっきのではないと? では、そのお前の必殺技を俺に当てて、耐えられるか試してみろと? そう言いたいんだな?」
「貴様に、その覚悟があるのか?」
「ハッハッハッ! 覚悟も、それに耐える自信もあるが……、それを受けてやる義理はない!! 死ね!!」
インゲナが、オレに向かって突きを放ってきた。
「くっ!!」
オレは痛む体に強引に力を入れ、一気に後ろへと飛び退く。
距離を取るのだ。
かっこ悪いが、今は逃げる。
それが最善の手だ。
「ハッハッハッ! 逃げることしかできんとは、やはりただのスライムだな。英雄の息子と言っていたが、アレは嘘なのだろう? 英雄の息子が、そんな腰抜けのはずがないもんな? ハッハッハッ!!」
インゲナがオレを挑発してきた。
くそっ! 逆に挑発されるとは……。
落ち着け……、冷静になるんだ……。
大丈夫、簡単なことだ。攻撃を避け、必殺技を放つ。たったそれだけだ。
魔力も充分に溜まってる。魔撃を打つことも出来る。
次だ……、次のインゲナの攻撃を避け、必殺技を食らわす!!
「ふっ! オレの必殺技を怖がって逃げたくせに、既に勝った気でいるのか? 英雄の息子の力を見せてやろう! かかって来るがいい!!」
「ほう? ボロボロのくせに、よくそんな大口が叩けるな! 死ねえええええ!!」
インゲナが、オレに向かって突っ込んできた。
オレはインゲナから目を離さない。
まずはインゲナの攻撃を避けることに、全神経を集中させる。
「おらあああああああ!!」
インゲナの突きが放たれた。
速度が速い。おそらく魔撃だ。
オレは体を変形させる。
スライム族の体の柔軟性を利用するのだ。
攻撃は見えている。だが、横に跳んで避けることは出来そうにない。
ならば、体を変形させつつ、直撃を免れる。それしか方法がない。
「なっ!?」
インゲナの驚いた声が聞こえた。
オレは今、インゲナの振り下ろされた腕の、真横にいる。
体を変形させながらグルリと一回転し、インゲナの突きを避け、そして懐に潜り込むことに成功した。
腹がガラ空き! 今だ!!
「これがオレの必殺技だ!!」
オレはその場で体を捻るように回転させ、全力でインゲナの腹を目掛けて体当たりを繰り出す。
高速できりもみ回転しながら、オレはインゲナの腹に向かって突っ込んでいく。
「ぐぼっ!!」
インゲナの腹部に、オレの体がめり込んだ。
ここだ!!
オレは体に溜まっていた魔力を、一気にインゲナに叩き込む。
だが、オレの高速回転付きの体当たりは、まだ止まらない。
インゲナの腹をぶち抜くつもりで、放った必殺技だ。
簡単には止まらん。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「がはっ!!」
オレの体当たりで、インゲナの身体が持ち上がったのが分かる
ついでに、インゲナの口から、赤黒い液体が吐き出されたのも見えた。
オレの体当たりは、まだまだ止まらない。
そのままオレは、インゲナを持ち上げながら、空に向かって飛んでいく。
だが、高速回転しているオレは、一瞬、意識を失ってしまった……。
くっ! 痛っ!! 全身に痛みが……。
はっ!? どうなった!? ん!? 空!?
オレ、空にいるのか!?
オレが意識を取り戻したとき、オレは空中にいた。
「うわああああああああああああああ!!」
オレは為す術もなく落下し、ベチャッと顔面から地面に落ちた……。
い、いてえ……。
でも、生きてはいるな……。
痛みを感じるってことは、生きてる証拠だ……。
そうだ! インゲナはどうなった!?
オレは咄嗟に辺りを見渡す。
だが……、インゲナの姿が見当たらない……。
何処だ!? 何処に行った!?
オレが焦りながら、辺りを見渡していると、空からインゲナが落ちてくるのが見えた。
どうやら、オレよりも上空にインゲナは吹き飛ばされたようだ。
インゲナは空中で何をする事もなく、そのまま地面へと落下。
そして、そのまま動かなくなった。
「死んだ……、のか?」
オレは警戒しながらも、インゲナの側まで近寄る。
そして、インゲナの顔を見て確信した。
「勝った。勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
インゲナの目は光を失っており、口から舌を出したままピクリとも動かない。
もの凄いアホ面に見えたが、全力で戦い合った相手だ。それなりの敬意を持って冥福を祈ろう。
ふう……。
それにしても、オレは、まだまだだな……。
腹をぶち抜くことが出来なかった……。
親父はあの技で、何体もの鳥獣族の腹をぶち抜いたらしいが……。
まあ、いいか……。
今は勝ったことを喜ぼう。
「おっしゃあああああああああああああああああああああああ!!」
辺りにオレの声が響き渡った。




