第三十四話 「爪甲の勝負」
「おりゃあああああああああああああああ!!」
ガギンッ! という音が辺りに響く。
俺とチーター野郎は、その場から殆ど動かずに、互いの爪を使った攻撃を繰り出し合っている。
俺の爪はチータ野郎に弾かれ、チーター野郎の爪は俺に当たらない。
互いに譲らない攻防を繰り返しているが、防御方法が違う。
くそっ!! 当たらない!!
攻撃を出すタイミングは合ってるはずだ!!
なのに、爪を受け止められる!!
チーター野郎の反射神経おかしいだろ!?
「おらららららららららららら!!」
チーター野郎の攻撃が始まったので、俺は攻撃を避けながら隙が出来るのを待つ。
チーター野郎の爪攻撃は、引っ掻きと突き。
この二種類の攻撃しかしてこない。
先ほどまで、蹴りばかり放っていたチーター野郎は、何故か爪を使った攻撃しかしてこなくなったのだ。
理由はよく分からん。
爪の使い手がどうだとか、勝負がどうだとか言ってたが、それが関係してるのかも知れない。
チーター野郎の攻撃にはムラがある。
蹴りの乱撃の時と一緒で、速度が上がっていくと、途中でピタッと一瞬止まる。
「くらえ!!」
俺はその隙を狙って、爪を振り下ろすのだが……。
「おりゃ!!」
ガギンッ! という音と共に、チーター野郎の爪で、俺の攻撃は防がれてしまう。
この攻防……、何度繰り返したか分からない……。
「クソッ!! またか!!」
「オラッ!! ピーリー様の強さを思い知れ!!」
再度、チーター野郎の攻撃が始まる。
引っ掻きと突きしか使ってこないとは言え、その速度は異常に速い。
しかも、その速度は少しずつ上がっていくのだ。
だが、反応できないわけではない。
俺はその攻撃を、近距離で避け続ける。
「くっ!!」
すると、一瞬、チーター野郎の動きが止まる。
「おらああああああああああ!!」
その隙を狙って、俺は引っ掻き攻撃を繰り出す。
「うりゃっ!!」
ガギンッ! と、爪を使って防がれる……。
やっぱ、ダメか!! どうする!?
いつまで、この攻防を繰り返せばいい!?
つーか、コイツは何で俺と戦ってんだよ!?
ふと疑問に思ったので、一旦距離を取ることにした。
「おららららららららららら!!」
チーター野郎の爪の乱撃、俺はそれを避ける、避けまくる。
そして……。
「くっ!!」
チーター野郎の動きが一瞬止まった。
ここだ!!
俺は全力で後ろに飛び退く。
魔力が溜まっている状態なので、高速移動と同じことが起きた。
もの凄い勢いで、俺は後ろへと下がっていく。
チーター野郎がどんどん小さく……。
「うりゃあああああああああああああああああああ!!」
ならなかった……。
チーター野郎は俺を追いかけ、走ってこちらに向かってくる。
俺は、もの凄い速度で後ろに飛んでいるのに……。
「だあああああああああ!! お前なんなんだよ!? ちょっと待てよ!! ちょっと話し合おう!!」
「うるせえええええええええ!!」
俺は咄嗟に地面を蹴る。
方向転換をし、ヤツから距離を取るのだ。
俺は方向転換を繰り返しながら、辺りを駆け回る。
「くっそ!!」
だが、チーター野郎は、俺の後ろを離れずについてくる。
「チキン野郎が!! 逃げるのか!?」
「うっせえ!! 話し合えって、言ってんだろうが!?」
「話し合いなんぞ、無意味だろうがあああああああああああああああ!!」
もの凄い速度で、俺に接近してくるチーター野郎。
やはり、高速移動ではヤツを振り切ることは出来ない。
「クソッ!!」
俺は地面を削りながら止まりつつ、チーター野郎の方へと向く。
そして……。
「食らいやがれ!!」
突っ込んでくるチーター野郎に向かって、思いっきり、掌底を放った。
「っ!?」
チーター野郎は、止まれなかったのだろう。
掌底を避けるために、俺を飛び越えるようにジャンプをして、俺の後方に着地した。
その様子を見ていた俺は、すぐに後ろへと振り向く。
「おいコラ!! チキン野郎!! 何のマネだ!? 爪勝負に掌底なんぞ使いやがって!!」
どうやら、チーター野郎はお怒りの様子だ……。
だが、俺としては意味が分からない……。
なぜ怒っているのか……、爪勝負などと言うものを始めた覚えすらない。
「だから、ちょっと待てよ!? 爪勝負って何だよ!? つーか、お前は何で俺と戦ってる!?」
「ああ!? 爪勝負は爪勝負だろ!? どっちの爪が最強なのか決めるんだろうが!! それになんだ!? なんで戦ってるだ!? 俺が勝負に勝ったからだろうが!! それに戦争中に何でもクソもあるか!! お前は裏切り者だろうが!! スライム側なんだろうが!! だったら俺達、鳥獣族の敵だろうがよ!!」
そう言うとチーター野郎は、俺に向かって突っ込んできた。
両腕を広げ突っ込んでくる様子は、まるで、トドメを刺してやるから動くなと、言われているようだった。
「くっそ!!」
俺は咄嗟に逃げようと思い、ジャンプをする。
翼が片方無いのに、それを忘れて、飛ぼうとしてしまったのだ……。
そのくらい、チーター野郎が突っ込んでくる姿に恐怖を感じた……。
「ちっ!! 空か!!」
チーター野郎が、足に力を込めるように腰を落としているのが見える。
おいおい……。まさか……。
「おらああああああああああああああああああああ!!」
「えええええええええええええええええええ!?」
チーター野郎は、俺に向かってジャンプをし、突っ込んできた。
「死ねやあああああああああああああ!!」
驚く俺に向かって、チーター野郎は空中で、爪を突き出す。
俺は左の翼を操作し、避けようとしたのだが……。
「ぐあっ!!」
俺の右肩に、チーター野郎の爪が突き刺さった。
「おらあああ!!」
チーター野郎は、爪が突き刺さった状態のまま腕を捻る。
「がああああああああああああああああああああ!?」
突き刺さった爪が、肩の中でグルンと回転したのが分かる。
凄まじい激痛が襲ってきた。
「うおりゃああああああああああああああああああ!!」
チーター野郎は、お構いなしと言わんばかりに、今度は、腕を横へなぎ払うように振り抜く。
「あああああああああああああああああああ!!」
右肩に激痛が走る。
腕が取れた。そう思えるような痛みが俺を襲ってくる。
チーター野郎のニヤリと笑った顔が見えた……。
俺は、激痛を感じながら落下していく。
チーター野郎がどうなったのか分からない。
ただ、俺はそのまま落下し……。
「がはっ!!」
身体を地面に強く打ち付けた……。
腕が……、腕があああああああああああああああああああ!!
地面に身体を打ち付けたことよりも、右肩の痛みの方が凄まじい……。
俺は地面を転がりながら、いや、のたうち回りながら、傷口を左腕で押さえた。
ある……、腕はくっついてる。
だが、動かん……。痛いし、右腕が動かない……。
くそっ!! 失敗した!! なんで飛んだんだ!!
くそっ! クソッ!
「くそがああああああああああああああああああ!!」
どうやら俺は、痛みに弱いらしい。
またも、自分でも分からないうちに俺は叫んでいた……。
「どうだ? 俺様の強さが分かったか? そろそろ死ぬか? トドメを刺してやろうか?」
ニタニタと笑いながら、チーター野郎が近づいてきた。
「ぶっ殺す!!」
俺の中で、何かが、おかしくなった。
勝てるはずがないと、頭では分かってるのだ。
高速移動は通用しない。右腕も使い物にならなくなった。
翼も無いから空中に逃げることも出来ない。
俺に出来ることなど、何一つ無いのだ。
それなのに、俺は、勝つ気でいる。
目の前のチーター野郎をぶっ殺す。そう思っているのだ。
「ぶっ殺す? 今の状況を分かってないのか? あー、死の直前で頭がおかしくなったのか?」
チーター野郎は、そんな俺を哀れむような目で見てきた……。
その目が、その視線が、更に俺をやる気にさせる。
ふざけやがって!! なんなんだよ!? その目を止めろ!!
俺はそんな目が大っ嫌いだ!! 人のことを見下したような、そんな、哀れみを込めたような……。
昔からそうだ!! そんな目をするヤツは、ろくでもないヤツばかりだ!!
何が助けてやるだ!! 何が頑張れだ!! 何が一緒に努力しようだ!!
誰も俺を助けなかっただろ!! 誰も俺を救ってくれなかっただろ!!
俺は昔の……、人間だった頃の不満を思い出していた……。
正直言って、昔のことは、ただの八つ当たりだ。
だが、そんな思いをしていたのも事実なのだ……。
俺が人間だった頃、俺がクズになる前、周りに言葉をかけてくれた人がいた……。
でも、そんな人たちは、口だけだった……。
イジメの時もそうだ。
助けると言ってくれたヤツは、次の日にはイジメに荷担するような奴らばかりだった。
ニートになったばかりの時もそうだ。
社会復帰を応援するとか言う、よく分からん慈善団体が近づいてきたが、結局何もしてくれない。
自分の力で頑張れ。結局それしか言われなかった。
結局そうなんだろ!? 誰も助けてくれないんだろ!?
俺が自分で、何とかしなきゃならんのだろうが!!
そんなの、わかってんだよ!!
だったら殺す!! 目の前の、このチーター野郎をぶっ殺せばいいんだろうが!!
俺はゆっくりと立ち上がり……。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びをあげた。
全身に何だか分からない、不満パワーとでも言えばいいのだろうか? そんな力が湧いてくる。
「ふははははははは!! まだやれるのか? おとなしくトドメを待ってればいいものを――」
チーター野郎が何か言ってるが、もうどうでもいい。
コイツを殺す。
そして、俺は仲間を助けに行く。
俺は、あんな奴らとは違う!
助けを必要としているヤツの所へ、俺は行くんだ!!
「だりゃああああああああああああああああああああ!!」
俺は左腕で引っ掻き攻撃を繰り出す。
「ふんっ!!」
チーター野郎は当たり前のように、自分の爪を使い、俺の攻撃を防ぐ。
「だあああああああああああああああああ!!」
だが、チーター野郎の攻撃が始まる前に、俺は更に攻撃を繰り出す。
次は、蹴りだ。やったことのない蹴りを放つ。
無我夢中、そう言っていいだろう。
自分でも分からないが、何故か、蹴りが出たのだ。
「くっ!!」
チーター野郎は、爪攻撃ばかりを警戒していたのか、蹴りに反応が遅れた。
だが、さすがと言うべきか、反応が遅れたにもかかわらず、きちんと両腕で防御をした。
俺はその隙を逃さない。
「ごりゃあああああああああああああああああああ!!」
俺は再度、左腕で引っ掻きを繰り出す。
狙いは、ヤツの首、一撃で仕留める。それしか思っていない。
「させるか!!」
チーター野郎は再度、自分の爪を使い、俺の爪を止める。
だが……。
「なっ!!」
チーター野郎が驚きの声をあげた。
それもそのはず、チーター野郎の爪が折れ、俺の爪が、チーター野郎の身体に届いたのだ。
だが、そんな状況でも、チーター野郎は後ろへ飛び退き、致命傷は避けた。
「バカな!! 何が起きた!? なぜ俺様の爪が折れた!?」
チーター野郎は混乱している。
自分の爪を見て、どうなったのか、確認しているようだ。
「死ねやあああああああああああああああああああああああああ!!」
「ちょっ!! 待てっ!! う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
チーター野郎に突っ込んでいく俺。
そして、俺から逃げ出したチーター野郎。
今までとは逆の、高速の追いかけっこが始まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺の高速移動では、チーター野郎に近づくことは出来ない。
ヤツの方が数段速いのだ。
だが、俺はチーター野郎を追いかける。
もう俺は、アイツを殺すことしか考えていない。
「ちょっと待てって!! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そこら中を駆け回るように逃げるチーター野郎。
俺はそれを逃すまいと、方向転換を繰り返し、先回りをしようと試みる。
「だあああああああああああああああ!?」
チーター野郎が、叫び声をあげながら止まった。
俺が方向転換をし、先回りに成功したからだ。
「おらああああああああああああああああああああああ!!」
俺はチーター野郎に向かって、爪を振り下ろす。
「く、くそっ!!」
咄嗟にチーター野郎は、折れてない方の爪を使って防御したのだが……。
「なんでだあああああああああああああああああああああ!?」
またも、チーター野郎の爪は折れた。
俺の攻撃は届かなかったが、両腕の爪を折ってやった。
もう俺の爪を防ぐ手段はない。
ぶっ殺す!!
「死ねええええええええええええええええええええ!!」
俺の爪攻撃がチーター野郎を襲う。
だが……。
「おりゃあああああああああああああああああ!!」
チーター野郎は俺に向けて、蹴りを放ってきた。
俺は爪を当てることしか考えていなかったので、カウンターで蹴りを受け、吹き飛ばされてしまった……。
「くっ……」
俺はすぐに体勢を立て直し、チーター野郎に向かって、突っ込んでいこうと思ったのだが……。
「あ、あれ……?」
チーター野郎が全力で逃げていくのが見える……。
もう、かなり小さくなって見える……。
この距離では、もう追いつけそうもない……。
「ふざけんなあああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺は叫ぶことしか出来なかった……。




