第三十三話 「激痛の報復」
翼を切り落とされた俺は、激痛に耐えながら、左の翼を全力で羽ばたかせた。
落下速度を少しでも抑えようと、必死で動かしたのだ。
少しだけ落下速度が落ちたのが分かった。
おし。これなら着地できそうだ。
くそっ!
俺は空中で体勢を立て直し、なんとか、地面に着地した。
「痛っ!」
着地と同時に、翼に激痛が走った。
「未来の大魔王がこの程度か? 大したこと無いな? あ?」
馬面が何か言ってるが、無視だ。
アイツは俺に殴りかかってきただけで、後は何もしてない。
厄介なのはトカゲ野郎だ。
いつの間にか俺の更に上空にいて、そして俺の翼を斬り落とす剣を持っている。
トカゲ野郎をなんとかしなきゃ……。
そう思いながらも、鳥獣族共の居場所を確認していると、上から風を切るような音が聞こえた。
咄嗟に上を確認すると、上空から小さな炎の竜巻が、こちらに向かって来るのが見えた。
クソッ! アレを忘れてた!
トカゲ野郎は後回しにして、まずはキツネ野郎だ!
魔法が厄介すぎる!
魔力は……、大丈夫だ! イケる!!
俺は魔法から逃げるように、地面を思いっきり蹴り、高速移動を開始させた。
空を飛んでいたときに、魔力を溜めておいたのだ。
翼を切られたとき、魔力を放出しそうになったが、ギリギリ耐える事ができた。
「なっ!?」
「速いぞ!! 気をつけろ!!」
馬面と羊野郎が驚いているな。
だが、あの二人は後だ。
まずは、キツネ野郎、その次がトカゲ野郎だ!
「おらああああああああああああ!!」
俺は高速移動を繰り返しながら、キツネ野郎を目指して辺りを動き回る。
地面を蹴るたびに、翼に激痛が走る。
だが、その激痛を感じるたび、怒りも湧いてくる。
数が多いからって、調子こきやがって!!
クソが!! ぶっ殺す!! マジで殺す!!
「何してる!? 魔法で動きを止めろ!!」
トカゲ野郎の声が辺りに響き渡る。
『フレイム……』
キツネ野郎が、魔法を唱えようとしているのが一瞬見えた。
だが、遅い。
「おらああああああああああああああああ!!」
俺は腕を広げ、キツネ野郎の横を通り過ぎるように突っ込む。
そして、すれ違いざまに、思いっきり爪で引っ掻いた。
「ぎゃああああああああああああ!!」
後方から、キツネ野郎の悲鳴のような叫びが聞こえる。
方向転換をしながら、チラリと確認すると、キツネ野郎が左腕を押さえているのが見えた。
キツネ野郎の近くに、切断された左腕が落ちているのも確認できた。
俺は方向転換を素早く済まし、もう一度キツネ野郎に向かう。
「死ねやおらあああああああああああああああああ!!」
先ほどと同じように、すれ違う直前に引っ掻き攻撃を繰り出す。
だが、今度の狙いは首だ。
いい感触が爪から伝わってくる。
確実に切断した。そう思える手応えだった。
「おい!! どうなってる!?」
馬面が驚いている。
俺は方向転換を繰り返し、キツネ野郎を念のために確認する。
キツネ野郎の首は胴体から離れ、地面に転がっているのが見えた。
おっしゃ!
魔法はどうだ!? 消えたか!?
辺りを確認したが、魔法らしき物は見えなかった。
魔法は消え去ったと考えて良さそうだ。
よし! 魔法は消えた!!
次は、トカゲ野郎だ!!
俺の翼を切り落とした張本人だ!
絶対に許さん!!
俺は高速移動を繰り返しながら、今度はトカゲ野郎に向かっていく。
「我らをナメるな!!」
トカゲ野郎は、そんなことを言いながら、剣を振りかざし、俺が向かってくるのを待っているように見えた。
なんだ?
真正面から突っ込んだら、剣で叩き斬るぞってことか?
ふざけやがって!! 誰が真正面から行くか!!
お前には、俺の翼を斬った罪があるんだぞ!?
お前にも、それ相応の痛みと苦しみを与えてやるから、待ってろ!!
俺は方向転換を繰り返しながら、徐々にトカゲ野郎へと近づく。
「くっ!」
トカゲ野郎は、俺の動きを捉えようとしているのか、視界から俺を外さないように、首をブンブンと振るいながら、俺の方向を見てくる。
だが、俺の高速移動の方が、圧倒的に速い。
俺は、方向転換を繰り返しまくる。
トカゲ野郎の背後を確実に取るために、右へ行ったり、左へ行ったりと、メチャクチャに動き回る。
そして……。
「おらああああああああああああああああああああ!!」
トカゲ野郎の背後を取った俺は、トカゲ野郎の背中を思いっきり引っ掻いてやった。
爪から伝わってくる感触としては上々。
背中をパックリと斬ってやった。
「ぐうううううううううう!!」
トカゲ野郎がうめき声をあげている。
だが、そんなもので終わらせるわけがない。
俺は再度、方向転換を繰り返し、またも背後からトカゲ野郎に向かって突っ込んでいく。
トカゲ野郎は背中を斬られたというのに、剣を振りかぶったまま微動だにしていない。
「俺の怒りを思い知れやああああああああああああああ!!」
俺はトカゲ野郎の右腕に向かって爪を振り下ろした。
「があああああああああああああ!!」
トカゲ野郎が悲鳴のような声をあげている。
だが、俺の怒りは収まらない。
再度、方向転換をし、今度は真正面からトカゲ野郎に向かって突っ込んだ。
右腕を斬り落とされたトカゲ野郎は、左腕で傷口を押さえ、必死に痛みに耐えようとしているような顔をしている。
トカゲ野郎の足下に、斬り落とした右腕と、先ほどまでトカゲ野郎が持っていた剣が落ちているのが見えた。
「食らえこらあああああああああああああ!!」
俺は再度、爪を振り下ろす。
狙いは左肩だ。
「がああああああああああああああああああああああああああああ!!」
トカゲ野郎の叫び声が、辺り一帯に響き渡る。
俺は地面を削りながら止まり、トカゲ野郎を確認するために後ろを振り向いた。
トカゲ野郎の後ろ姿が見える。
背中がパックリ切れていて、右腕は肘から先が無く、左腕は肩から先が無い。
どの傷口からも、おびただしい量の血が流れている。
そんな様子を見ていると、上から、斬り落とされた左腕がポトリと落ちてきた。
左腕はそのまま地面を転がり、トカゲ野郎の足下で止まった……。
「どうだおら!? 斬られる痛みが分かったか!?」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺の問い掛けに、トカゲ野郎は何の反応もしない。
ただ、叫び声をあげ続けている。
「く、くそっ!! これでもくらえっ!!」
羊野郎が、俺に向かって突進してきた。
その様子が見えた俺は、再度、高速移動を繰り出す。
次は羊野郎、最後は馬面だな。
もういい。コイツらは一発で殺す。
俺は高速移動をしながら、そんなことを考えていた。
「ど、どこだ!? ど、どこに行った!?」
羊野郎は突進を簡単に避けられて驚いたのか、酷く焦っているように見える。
俺は、そんな羊野郎に向かって突っ込んでいく。
「おらあああああああああああああああああ!!」
首に狙いを定め、引っ掻き攻撃を繰り出した。
爪から感触が伝わってくる。
確実に斬り落とした。切断してやった。
それが、伝わった感触だけで分かる。
俺は羊野郎の確認もせず、今度は馬面を目掛けて突っ込む。
筋肉ムキムキの野郎だが、そのせいなのか動きは遅く、余裕で捉えられる。
「ひ、ひぃ……」
完全に馬面はビビってる。
そりゃそうだよな。さっきまで優勢だと思っていたら、あっという間に仲間が殺されたもんな。
そりゃあ、怖いよな。でもな、お前らが悪いんだぞ。
俺を行かせてくれれば、俺に攻撃をしてこなければ、お前らなんて殺さずに済んだんだ。
じゃあな。馬面。
俺は馬面の首を、思いっきり引っ掻いた。
爪から伝わる感触が、終わったことを物語っている。
俺は地面を削りながら止まり、鳥獣族共を見回した。
キツネ野郎は、首と左腕を切断。
羊野郎と馬面は、首を切断。
三体とも、首が地面に転がっており、その周辺には血溜まりが出来ている。
そして……。
「あぁぁ……、あぁぁああぁあぁ……」
トカゲ野郎は膝を地面につき、今にも倒れそうだ。
背中を斬り、右腕と左腕を切断してやったので、足下には血溜まりが出来ている。
トカゲ野郎は、どうしてくれようか?
トドメを刺すか?
いや、俺の翼の仇だ。そんな簡単に殺しちゃダメだな。
このまま放置して、出血多量で死ぬのを待つか?
でもな……、このまま放置して、実は生きてましたって、パターンがあり得そうだな……。
よし、やっぱりトドメを刺そう。
俺はトカゲ野郎に向かって、高速移動を繰り出す。
「じゃあな! あの世で後悔してろ!!」
俺はトカゲ野郎の首を刎ね、地面を削りながら止まる。
辺りに静寂が訪れた……。
はあ……、この短い時間で、四体も殺してしまった……。
でも、やらなきゃ、やられてた……。
だって、俺の翼が……。
「痛っ!」
思い出したかのように、急に激痛が襲ってきた。
戦闘中も、痛みを感じていたが、それ以上に怒りの方が強く感じていた。
全てが終わって、安心したのかも知れない……。
俺は斬り落とされた、自分の翼を探そうと辺りをグルリと見回した。
すぐに見つかった。
俺の片方の翼は、地面にポツンと落ちていた……。
あー、くそっ!
空飛べなくなっちまったじゃねーか!
持って帰ったら、くっつけて貰えるかな?
いや、前に聞いたな……。
治癒や回復系の魔法は特別だって……。
誰に聞いたんだったかな? 忘れたな……。
カイザーだったか……? それとも、サーラスティだったか……?
あ!? やべえ!! サーラスティと、ガルディウス!!
くそっ!! 急いで向かわなきゃ……、でも、どっちに行く!?
どっちが近い!? いや、どっちがヤバい!? どっちの方が強い!?
くそっ!! 分からん! どうしよう!!
俺がそんな風に悩んでいると、叫び声というか、雄叫びのような声が聞こえてきた。
なんだ? 誰か逃げてきたのか?
でも、この声、ガルディウスでも、サーラスティでもない……。
獣耳族のおっさんか?
そう思い、声のする方を見ると……。
「やっと見つけたぞおおおおおおおお!! チキン野郎がああああああああああああああああああ!!」
チーター野郎が、こちらに向かってもの凄い勢いで走ってくるのが見えた。
「えええええええええええええええええええええええええ!?」
なんで!? 何でアイツが、ここに居るんだよ!?
遠くの川に向かって、走らせておいただろ!?
いつ戻ってきたんだよ!?
このタイミングで現われるとか、あり得ないだろ!!
つーか、アイツはヤバイ! 俺の高速移動が通用しない!!
逃げるか!?
いや、高速移動が通用しないのに、どうやって逃げるんだよ!?
ヤバイヤバイヤバイ……。
俺がそんな風に焦っていると、あっという間にチーター野郎は目の前にまでやって来た。
俺は結局、何も出来ずに、ただチーター野郎が到着するのを見ていただけだった……。
「おいコラ! チキン野郎!! 勝負は俺様の勝ちだぞ!! 俺の言うこと一つ聞けよ!!」
チーター野郎は、俺の目の間に到着するや否や、訳の分からんことを言い出した。
「は……? 言うこと……? え、ちょ、待って、お前、何言ってんの?」
「ああ!? てめえも鳥獣族なら、掟くらい守れや!! それとも何か? 死ぬか? ここで死にたいのか?」
ヤバイ……、何を言ってるのか理解不能だ。
掟って何だ? 勝負に負けたら、言うことを一つ聞くのか?
それが鳥獣族の掟なのか?
「え……、よく分からないのだが、何? 何をすればいいの?」
「おう、そうだな……」
チーター野郎はそう言うと、一人で悩み出した。
目を瞑り、腕を組んで、うんうん唸っている……。
ちょっとだけ、ドバイン師匠に似てるって思ってしまったのは、チーター野郎がドバイン師匠と同じ、ネコ科だからだろうか……?
「おし! じゃあ喧嘩しようぜ!!」
またもチーター野郎は、訳の分からんことを言い出した。
「はあ?」
喧嘩? 喧嘩って言ったよな?
なに言ってんだよコイツ。
「どうせアレだろ? そこに転がってる連中は、お前が殺ったんだろ?」
「え? あ、ああ……」
ただのバカかと思っていたが、ちゃんと周りは見ているらしい。
死体にすら気付かないバカの方が、俺としては良かったのだが……。
「お前、あの連中を殺して自分は最強だー! とか思ってんだろ? そんなのは幻想だって、このピーリー様が直々に教えてやるよ!」
別に知りたくないし、教えてくれなくていいんだが……。
つーか、俺、怪我してるし……。
「いや、あのさ、俺、翼が……」
「おし! 行くぞ!」
俺の言葉も聞かずに、チーター野郎は蹴りを放ってきた。
「ちょっ!!」
俺は咄嗟にその蹴りを避ける。
速い。恐ろしいほど速い。
でも……、ドバイン師匠の方が……、きっと速かった!!
やれる! 俺はコイツと戦える!!
「ほう? 避けるのは上手いな……、なら、これはどうだ!!」
チーター野郎の、蹴りの乱撃が始まった。
上下左右あらゆる方向から、蹴りが飛んでくる。
だが、俺はこの動きを知ってる。いや、似た動きを知っている。
ドバイン師匠との特訓で、イヤと言うほど受け続けた蹴りに、よく似た蹴りだ。
余裕……、とまでは言えないが、反応できてる。避けることが出来ている。
「おららららららららら!!」
チーター野郎の蹴りの速さが上がっていく。
だが、俺も避け続ける。
蹴りがどんなに速くなっても、ついて行けるのだ。
見えるし、反応できるし、予測まで出来る。
「くっ!!」
一瞬、ほんの一瞬だけ、チーター野郎が顔を曇らせた。
「おらああああああああああああああああ!!」
俺はその隙を逃すまいと、チーター野郎の首を目掛けて、爪を振り下ろした。
「おりゃっ!!」
チーター野郎の声と、ガキンッと、何かが、ぶつかったような音が聞こえた。
「なっ!?」
俺の引っ掻き攻撃は、チーター野郎の腕の爪によって防がれていた……。
「おもしれえ! 俺と同じく、てめえも爪の使い手か! その勝負受けてやるぜ!!」
勝負とか言い出した……。意味が分からん……。
だが、どうやら、サーラスティとガルディウスを助けに行くのは、もう少し後になりそうだ……。




