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第三十二話 「仲間の暴走」

 サーラスティとガルディウスの二人を追いかけていると、遠くに鳥獣族の集団がいるのが見えた。


 集団と言っても、六体の集まりだ。そこまで多い訳じゃない。

 三体が獣族、二体が獣耳族、残りの一体が鱗族だ。


「おい!! 二人とも、止まれよ!!」


 そんな俺の制止を無視して、二人は集団へ向けて移動を続ける。


 おいおい……。マジか?

 あの集団に喧嘩でも売る気かよ?


 そんな心配をしながら、二人を追いかけていると、急に二人が方向を変えた。


 お? 良かった……。

 違ったみたいだ……。

 つーか、止まれよ。どこに行く気だよ?

 手柄がどうとか言ってたけど、何、考えてるんだ?


 何度、止まれと言っても聞く耳持たない二人は、移動を続ける。

 俺は仕方なく、二人を追い続けた……。


 ほどなくして、二人が急に止まった。


「おい! 何処に行くんだよ!? つーか、シカトやめろよ!! 精神的にキツイだろ!!」

「ふふん! 見なさい!」

「あ?」


 サーラスティに促されるようにして、俺はサーラスティの目線の先を見た。

 すると、先ほどスルーしたと思った、六人の集団の後ろ姿が見えた。


 この辺りの地形は、少しだけ起伏があって小さな丘があったり、川などが流れている。

 どうやら、何度かの方向転換をして、いつの間にか、あの集団の後方までやって来たようだ。


 俺は咄嗟に、草に隠れるようにして身を伏せた。

 俺一人だけ身長が高いので、突っ立っていると丸見えになってしまうからだ。

 まあ、草以外の障害物なんて何もないから、相手が振り向いたら無意味なのだが……。


 サーラスティが、確実に手柄をあげられるって言ってたよな……?

 もしかして、本当にあの集団と戦う気か?

 マジか? どうする? どうやって止める?


 俺はそんなことを考えつつ、もう一度、集団を確認した。


 獣族が三体。

 羊のような渦巻き状の角が生えてるヤツ。

 馬のような顔をした、筋肉ムキムキのヤツ。

 キツネのような顔をした、小柄のヤツ。


 獣耳族が二体。

 身体と同じくらいの、バカデカイ剣を持っている、ツルツルのおっさん。

 もう一体は、小さなナイフを持っている。同じくツルツルのおっさんだ。

 どちらも獣耳が付いているが、この距離だと何の耳か分からない。どちらも立ち耳系だ。


 鱗族が一体。

 トカゲのような顔で、鱗で覆われた緑色の肌。帯剣をしている。

 これぞ、リザードマンと言った感じだな。

 

 あんな奴らと戦うのか? マジで?

 いや、そうじゃない。

 どうにかして、二人を止めなきゃ!


 二人をどう止めようか悩んでいると……。


「そこの鳥獣族!! オレと勝負しろ!!」


 唐突に、ガルディウスが鳥獣族達に向かって、叫ぶような大声をあげた。


 ええええええええええええええええええええ!?

 意味が分からん!!

 何!? なんで!? 何で急に勝負を挑んでるんだよ!?

 背後に回った意味がねーだろ!!

 戦うにしても、せめて、奇襲をかけるとかあるだろうが!!


「ああ?」


 鳥獣族の集団が、次々と、こちらを睨むようにして振り向いた。


 ヤバイ……、こっちに気付いた。

 どうする!? どうしたらいい!?


「オレの名は、ガルディウス!! 英雄フォンディウスの息子!! ガルディウスだ!!」


 なに急に自己紹介してんだよ!?

 あああああああ、もう!! どうする!?

 二人を捕まえて、空に逃げるか!?


 俺は地面に伏せながら、どうするべきか考えていたのだが……。


「オレと一騎打ちで戦う、気概のある者はいないのか!!」


 またも、ガルディウスが変なことを叫びやがった。


 おいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 何でだよ!? なんで一騎打ち!?

 意味が分からん!!


 ガルディウスの言葉を聞いた、鳥獣族達がノソノソと歩きながら、こちらへ近づいてくる。


「おい! そこの黒いスライム! お前が英雄の息子だと!?」


 少し離れた位置から、大剣を持った獣耳族のおっさんが大声で質問してきた。


 おいおい……。

 英雄の名前って、鳥獣族にも知られてるのかよ。

 どんだけ凄い英雄だったんだよ。


「そうだ! オレが、英雄の息子! ガルディウスだ!! オレと一騎打ちをする猛者はいないのか!?」


 何で、そんなに戦いたがるんだよ……。


「ふふん! ガルディウスったら、カッコイイじゃない!」


 サーラスティが、何故かガルディウスを褒めだした。


 意味が分からん……。

 カッコイイ? 生きるか、死ぬかの戦いを挑んでるんだぞ?

 いや、むしろ死にたがりにしか見えん。

 スライム族が、たった一人で鳥獣族に喧嘩を売るとか、自殺志願者と同じだろうが……。


 そんなことを思っていると……。


「あたしの名はサーラスティ!! 未来の大魔王、パントロの妻! サーラスティよ!!」


 唐突に、サーラスティが、訳の分からないことを叫びだした。


「ちょっ!! おまっ!! 何、言ってんの!?」


 あまりにも驚きすぎて、俺はサーラスティに向かって、大声で話しかけてしまった。


「ん? やられちまった仲間かと思ったら、そうか、お前がスライムの味方をしてるっていう、鳥族か」


 バレた……。

 最初から俺の存在に気付いていたみたいだが、俺がスライム族側だってことまで、バレてしまった。

 クソッ!! サーラスティが訳の分からん事を言うからだ!!


 このまま伏せていても無駄なので、俺はサッと立ち上がる。

 そして、この状況をどうするべきかと考えたのだが……。


「そこの獣耳族!! あたしと一騎打ちをしなさい!!」


 何故か、サーラスティまで、一騎打ちを挑みやがった。


「おいいいいいいいい!! お前まで、なに言ってんだよ!?」


 マジで意味が分からん。

 どうなってる? これは夢か何かか?

 ガルディウスだけならまだしも、サーラスティまで暴走しやがった……。


「俺は黒いのを殺る。赤いのは、ボボルカがやれ」


 大剣を持った獣耳族のおっさんが、ナイフを持った獣耳族のおっさんに、そう言った。


 おいおい……。

 向こうが、やる気になっちゃったよ……。

 どうする? どうしたらいい?


「よし! そこのデカイ剣を持ってるヤツ、ついてこい」


 ガルディウスが、大剣を持っている獣耳族に向かってそう言い、移動を始めた。


「ちょっ!! ガルディウス!?」

「ふっ、パントロ、後は頼んだぞ。他の奴らに邪魔をさせるなよ」


 邪魔? 邪魔って何が?

 他の連中を足止めして、お前の一騎打ちを邪魔させるなって事か?


「一騎打ちなんて止めろよ!! 何考えてんだよ!?」


 俺の願いは受け入れられることはなく、ガルディウスは大剣を持った獣耳族と一緒に、この場から離れていく。


「ふふん! あたしの相手は、そっちの獣耳族ね! ついてきなさい!!」


 サーラスティは、ナイフを持った獣耳族に向かってそう言い、ガルディウスとは反対方向へと移動を始めた。


「二人とも、ちょっと待てよ!!」


 訳が分からないにも、ほどがある。

 どうしてこんな状況になってる!?

 二人とも、どうしちまったんだよ!?


「あ、そうだわ! ふふん! 残りの鳥獣族達! 良く聞きなさい!」


 サーラスティが、何かを思い出したかのように鳥獣族達に話しかけだした。


「なんだ? スライム風情が、俺達に何か言うことでもあるのか?」


 羊のような角の獣族が、サーラスティに聞き返した。


「あんた達の相手は、そこにいるパントロよ! 未来の大魔王だから、死にたくなかったら命乞いでもしなさい!! ふふん!」


 サーラスティはそう言うと、また移動を始めた。


「二人とも!! ちょっと待てって、言ってるだろ!!」


 俺の願いは二人に聞き入れられる事はなく、どんどん二人が、この場から離れていく……。


 マジかよ!? どうしたらいい!?

 どうしたら二人を止めることが出来る?


「おい! そこの裏切り者! いや未来の大魔王か? お前が、俺達の相手をしてくれるんだよな?」

「あ!? うっせーよ!! お前らなんかに構ってる暇ないんだよ!! こっちは仲間の危機なんだよ!!」


 悩んでいるところに、急に羊角のヤツに話しかけられ、俺は思わずそんなことを言ってしまった。

 いつの間にか、鳥獣族達が俺に向かって歩き出してる。


「カッカッカッ! 四人が相手でも、その態度とは、さすが未来の大魔王だな。カッカッカッ!」


 トカゲ顔の鱗族が、小馬鹿にしたような言い方をしてきた。


 つーか、未来の大魔王って何だよ!?

 クソッ! サーラスティめ!! 余計なことを言いやがって!!


「かかってこいよ! 未来の大魔王なんだろ?」

「無理だろ? 未来の大魔王でも、オイラ達を相手に出来るはずがない」


 馬面が俺を煽り、キツネ顔が小馬鹿にしてくる……。


「だから、それどころじゃないんだって!! つーか、お前ら、大魔王、大魔王、言い過ぎだぞ!!」

「だって、未来の大魔王なんだよな? ぷっ! ガッハハハハハハハハハハ!!」

「カッカッカッカッカッカッカ!」

「お、おい……、お前ら、笑っちゃ……、プハッ! ハッハッハッハッハッハッ!」

「ギャハハハハハハハハ!!」


 馬面が笑い出し、トカゲ野郎も釣られるように笑った。

 そして、それを止めようとした羊野郎も笑い、それを見てたキツネ野郎まで笑い出した。

 全員、俺を小馬鹿に……、いや、小馬鹿じゃないな。

 俺を馬鹿にして、大笑いをしている……。


 今は仲間の危機だ……。

 だから耐えろ……。

 サーラスティと、ガルディウスを、何とか止めなきゃ……。

 あ、あれ?


 辺りを見渡すと、既にガルディウスの姿が見えなくなっていた。

 ガルディウスが向かった先には、小さな丘がある、あの丘の向こうまで言ってしまったのかも知れない。

 サーラスティの姿は、ギリギリ確認できた。

 だが、サーラスティが向かった先には小さな川が流れており、今にも川を越えてしまいそうだ。

 川の向こう側は小さな林のような場所になっている。あそこに入られると、サーラスティまで見失ってしまう可能性がある。


 やべっ! 急がなきゃ、二人とも本当に殺されちゃう!


 咄嗟にそう思った俺は、ガルディウスが行った先へ走り出そうと、足を踏み出した。

 だが、その一歩目……。


「おい。逃がさんぞ」


 そんな言葉と共に、一瞬、チャキンと音が聞こえた気がした。


「うっ!?」


 いつの間にか、トカゲ野郎が剣を抜いて、俺の目の前に、その剣を突き出していた。

 俺は、足を一歩踏み出しただけで、動きを止められてしまったのだ……。


「おい! 邪魔だ!! 仲間の危機だって言ってるだろ!!」

「お主の仲間が、我らの相手は、お主だと言っていたが?」

「うっせーよ!! アイツの気まぐれだ! 俺は、アイツらを助けなきゃならん!」

「そうはさせん」


 トカゲ野郎が、俺を逃すまいと鋭い眼光を向けてくる。


 マズイ……。

 どうする? どうやってこの状況を切り抜ければいい?

 急がなきゃ、マジでヤバイ。

 でも、コイツらが俺を行かせてくれそうもない……。

 なら……。


「おい! 本当にぶっ飛ばすぞ? いや、ぶっ殺すぞ? いいんだな?」

「死ぬのは、お主だがな」


 そう言いながら、トカゲ野郎は剣を振りかぶり、俺に向けて振り下ろしてきた。


「くっ!」


 俺は咄嗟に剣を避け、距離を取るために後ろに飛び退く。


「おらっ!!」


 その先にいた馬面が、間髪入れずに殴りかかってきた。


 だが、またも俺に不思議なことが起きた。

 左腕が円を描くように動き、馬面の腕を捌く。

 そして、そのまま流れるように手刀を繰り出した。


 牛顔のときにも起きた、謎の現象がまた起き、自然と身体が動いたのだ。

 しかし……。


「させるか!」

「があっ!」


 手刀を突き刺す前に、何かの衝撃によって、俺は吹き飛ばされてしまった。

 直前に聞こえた声は、おそらく羊野郎の声。体当たりか何を食らってしまったようだ。


 俺は地面を転がりながら、体勢を何とか立て直す。


『フレイムスパイラル』


 声が聞こえたと思ったら、キツネ野郎の頭上に、小さな炎の竜巻が作られていくのが見えた。


「くそっ!」


 俺は何とか体勢を立て直し、地面を蹴った。

 高速移動を始めようとしたのだ……。

 だが……。


 しまった……。魔力を溜めていない……。


 俺は一歩だけ進んで、止まってしまった。

 そんな状況の中、先ほどの小さな炎の竜巻が、高速で俺に向かって突っ込んできた。


 やべえ!


 俺は咄嗟にジャンプし、翼を広げて羽ばたく。

 だが……。


「ええええええええええええ!?」


 小さな炎の竜巻は、空にいる俺にまで、向かってきた。


 なんで竜巻が浮いてんだよ!?

 地面から離れるとか、おかしいだろ!?

 つーか、なんで俺に向かってくる!? 操作系の魔法か!?


 そんなことを考えながらも、俺は翼を操作する。

 小さな炎の竜巻を避けるために、右に行ったり左に行ったりと、空を飛び続けた。

 俺の予想通り、操作系の魔法だったようで、いくら逃げても、小さな炎の竜巻は俺を追いかけてくる。


 魔法を避けつつも、ガルディウスとサーラスティの姿を捜した。

 だが、二人の姿は見えなかった。

 空を飛んでいるとは言え、そこまで高くない。この位置からではガルディウスの向かった丘の先が見えないのだ。

 サーラスティは既に川を越え、小さな林に入ってしまったと思われる。


 クソッ!! 急がなきゃ!!


 俺はかなり焦っていた……。


『フレイムアロー』


 キツネ野郎が、魔法名を言ったのが聞こえた。

 咄嗟に地上のキツネ野郎に目を向けると、俺に向かって大量の炎の矢が飛んできているのが見えた。


「ちょっ! マジかよ!?」


 俺は炎の矢を避けるべく、更に上昇しようとしたのだが……。


「させん!」


 いつの間にか、俺の更に上空にトカゲ野郎がいた。

 トカゲ野郎は俺に向かって落下しながら、剣を振り下ろす。


 咄嗟に避けようと、翼を操作した。


「があああああああああああああああああああああ!!」


 だが、避けられなかった……。


 いてえええええええええええ!!

 背中!? 背中が痛い!!

 ち、違う!! 翼だ! 翼がやられた!!


 翼に、もの凄い激痛を感じる。

 そのせいなのか、上手く翼を操作できなくなった。

 左の翼は動く、だが、右の翼が動かない。


 くそっ! どうなってる!?

 動けよ!! このままじゃ落ちちゃう!!


 俺は激痛に耐えながら、地面に向かって落下して行く。

 すると、俺の視界に変な物が映った。


 なんだあれ? 紫の羽?

 いや……、翼か?

 あれって……、もしかして、俺の翼か?


 俺が見たのは、紫色の翼、俺の方翼だった。

 どうやら、俺の右の翼は切り落とされたようだ。


「くそがああああああああああああああ!!」


 落下しながら、自分でも分からないうちに、俺は叫んでいた……。




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