第三十一話 「休憩の時間」
俺達は、前線基地へと戻ってきた。
戻ってくる途中、ちょっとしたトラブルがあった……。
サーラスティとガルディウスを両手に抱えて、空を飛んでいたのだが、それを地上のスライム達に見られたのだ。
見られるくらいなら何の問題もないのだが、それだけでは済まなかった……。
スライムが攫われてると勘違いされて、魔法をバンバン撃たれたのだ。
まあ、すぐに俺が神官の息子だと気付いて、魔法を撃つのをやめてくれたのだが、これでは、俺の姿を覚えて貰うために、衆目に晒された意味がない。
スライムの皆さんは、本当に気をつけて欲しい。
そんなトラブルがありつつも、戻ってきたのだが……。
前線基地は、かなり騒がしくて、混乱しているように見えた。
「みんな何処にいるのかしら?」
「さあ? この中から捜すのは……、ちょっとな……」
俺達は今、後方支援組のメンバーを捜しているのだが……。
大量のスライム達が、そこら中を駆け回っている。
何処を見てもスライムだらけだ。
この中から、特定のスライムを捜すのは一苦労だ……。
カイザーが神官帽を被っててくれれば、すぐに見つかるのだが、持ってきてないんだよな……。
「さ、サーちゃん!!」
ユカリスの声が聞こえたと思ったら、サーラスティに向かって、もの凄い勢いで、ユカリスが突っ込んできた。
サーラスティの目の前で止まったユカリスは、そのままサーラスティにくっつきだした。
「ユカリス、大丈夫よ。安心して」
サーラスティは何かを察したのか、ユカリスを安心させようと、優しげな言葉をかけている。
似たような光景を、一緒に特訓をやっていたときに何度も見た。
こういうときのサーラスティは、いつもの偉そうな態度は封印して、すごく優しく接するのだ。
そんな二人を微笑ましく眺めていると……。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、無事じゃったか」
唐突にカイザーが現われた。
ちょっと驚いたが、そこで気付いた。
俺達がみんなを捜すよりも、みんなに俺達を見つけて貰う方が早いってことに……。
俺は鳥族の身体、サーラスティは大きなリボンをしている。
他にはない特徴が、俺達にはあるのだ。
「おう、カイザー! 取り敢えず無事に戻ったぞ! そっちは大丈夫だったか?」
「ふぉっふぉっふぉ。皆、無事じゃよ」
良かった。
みんな無事か。
「この騒ぎは何だ? なんで、みんな走り回ってるんだ?」
「ふぉっふぉっふぉ。皆、救護班の手伝いや、情報を持ってきた者達じゃ」
救護班? 後方支援の仕事の一つか?
名前から察するに、怪我をした仲間を助ける仕事っぽいな。
それより……。
「情報って? 何の情報を持ってきてるんだ?」
「うむ……。簡単に言うと、現在の戦況じゃな」
「なるほど……、戦況ね……。で、今のところは?」
「ふぉっふぉっふぉ。我が軍の優勢じゃな。鳥獣族の死体が六十ほど見つかっておる」
結構経ったのに、それだけしか確認できてないのか……。
「こっちの被害は?」
「およそ、百、じゃな……」
百か……。
全戦力の割合だけで考えれば、こちらが優勢か……。
でも……、味方の被害数の方が多い……。
クソッ!
「あ、そうだ! ボルドはどうした? 怪我の様子は?」
「ふぉっふぉっふぉ。ボルドも無事じゃ。リンジーと一緒に、救護班の手伝いをしておるわい」
良かった。
ボルドの怪我は、大したこと無かったみたいだな。
手伝いを出来るくらいなら、もう安心だ。
「ふふん! みんな無事なら問題ないわね! 少し休憩したら、すぐに戦場に戻るわよ!」
「ああ……、そうだな」
サーラスティの言うとおり、少し休憩をしよう。
戦場で戦ってる兵士達には申し訳ないが、俺達だって疲れてる……。
特に俺は、ボルドのことがあったし、サーラスティ達を捜すのも苦労したし、精神的に疲れた……。
それに、チーター野郎から逃げたり、鳥野郎と戦ったり、勘違いで魔法を撃たれたりと、体力的にも、かなり疲れた……。
しばらく休みたい……。
「オレは休憩なんぞ必要ないがな」
ガルディウスがボソッと呟いた。
「ガルディウス、単独行動はやめてくれよ?」
一応、釘を刺しておこう。
ほっといたら、勝手に行ってしまいそうだ。
「ああ……」
ガルディウスは、一応、返事をしてくれたが……。
なんか、イヤな予感がするんだよな……。
本当に大丈夫だろうか?
そんなことを思いつつも、俺達は、一旦休憩することになった。
と言っても、戦争中だ。休憩らしい休憩なんて取れない。
そこら中をスライムが走り回ってるので、落ち着ける場所なんてないのだ。
どうしようかと考えていると、カイザーに呼ばれ、俺は建物の中へと連れて行かれた……。
「なんだ? 何があるんだ?」
「ふぉっふぉっふぉ。腹は減っておらぬのか?」
「腹? そう言えば……」
俺は狩り勝負があった日、牛を担いだまま家に帰ると、すぐに爆睡してしまった。
目が覚めたら、すぐに鍛錬場へと行き、なんだかんだで魔王軍と戦い、そして、ここに連れてこられた。
つまり、俺は最初に食べた生肉以降、何も食べてないのだ……。
「そろそろ、腹が減る頃じゃろうと思って、魔王軍に頼んで支給して貰ったぞい」
「お? マジか?」
「ふぉっふぉっふぉ。腹が減っては戦えぬからのう」
そう言うとカイザーは、一つの部屋へと入った。
俺も後を追い、その部屋に入ると……。
「おお? すげえな!!」
テーブルの上に、肉の塊が二つほど用意されていた。
相変わらず生肉だが、この辺りで捕れる獲物の肉だろうか?
結構大きい。
「ふぉっふぉっふぉ。大蛙の肉らしいぞ。ふぉっふぉっふぉ」
「へぇ~。大蛙か……」
ん? 大蛙……? カエルなの?
デカすぎじゃね? サーラスティ達が狩っていた、ネズミくらいあるぞ?
それに、カエルか……。う~ん、ちょっと……。
いや、ワガママはダメだな。
せっかく用意してくれたんだから、ちゃんと食べないとな。
「食べていいんだよな?」
「ふぉっふぉっふぉ。その為に用意したのじゃから、遠慮はいらんぞ。ふぉっふぉっふぉ」
「じゃあ、いただきます!」
俺は肉にかぶりついた。
――
俺が肉を食っている間に、カイザーは部屋から出て行ってしまった。
だが、食の神様に感謝を込めて、こう言おう。
「ごちそうさまでした」
誰もいない部屋に俺の声が響き渡った。
カエルの肉は、意外と美味かった。
生なので、少し変な臭いがしたが、許容範囲だ。
それにしても、この身体は、毎日食べる必要はないのか?
二日ほど何も食べてなかったが、身体は自由に動いたし、腹が減った感じも殆どしなかった。
カイザーに言われなかったら、今日も食べずに一日が終わってたかも知れない。
アレかな? 野生動物とかって、何日も食べないことが当たり前だって、テレビで見たことがあるけど、それと一緒なのかな?
考えても分からないから、今度、絶食でもしてみるか?
いや、せっかく牛を狩ってきたのに、それは勿体ないな……。
そんな事を考えつつ、しばらくの間、俺はこの部屋で休憩を取った。
――
さて、飯を食ったし、休憩もある程度できた。
そろそろ、戻るか……。
そう思っていると……。
「パントロ? いる?」
サーラスティが部屋に入ってきた。
「ん? どうした?」
「ガルディウスが、何処に行ったか知らない?」
ガルディウス……?
「え? 知らないけど……」
まさか……。
「ガルディウスの姿が、何処にも見当たらないのよね」
だあああああああああ!! やっぱりか!!
クソッ!! ちゃんと注意したのに!!
「すぐに捜しに行こう!!」
「え? わざわざ捜しに行くの?」
え? いや……、あれ?
なんか、俺とサーラスティでは、感じ方が違ってるな……。
あれ? どうなってる? サーラスティは心配してないのか?
「え? ほっとくの? それでいいの?」
「捜しに行かなくても、その内、戻ってくるでしょ? ガルディウスだってバカじゃないもの」
「いや、そうだけど……。え? でも今、戦争中だぞ?」
「ふふん! 戦争中だからよ! きっとガルディウスは、手柄が欲しいのよ!」
手柄……?
いや、何を言ってるんだ?
死んだら、そんなの……。
「やっぱり、捜しに行こう!!」
「う~ん……。まあ、パントロがそんなに言うなら、捜しに行っても良いけど……」
なんだ? なんか引っかかる言い方だな。
でも、時間がない。すぐに捜さなきゃ、ガルディウスが死んでしまうかも知れない。
「よし! じゃあ、すぐ行こう!」
俺達は部屋を飛び出し、すぐに外へ出た。
しかし、一体、何処に行ったんだ……。
手柄が欲しい……。なら、戦場だよな?
何処に行けば、活躍できる? どうすれば手柄をあげることが出来る?
考えろ……。
闇雲に捜すより、ある程度の当たりは付けた方がいいはずだ……。
「パントロ? 何してるの?」
サーラスティが不思議そうな顔をして、そんなことを言った。
サーラスティは、ガルディウスが行った場所に心当たりがあるのか?
いや、だったら俺の所に、ガルディウスの行方を聞きに来るはずがない……。
う~ん? どうなってる? 一応、聞いてみるか?
「サーラスティ? もしかして、ガルディウスの居場所に心当たりがあるのか?」
「ふふん! 手柄が欲しいのなら、きっとあの場所よ!」
「あの場所? あの場所って何処だ?」
「あたし達がいた場所よ!」
サーラスティ達がいた場所?
それって、戦場の端の方か?
「俺がサーラスティを見つけた、あの場所か?」
「ふふん! そうよ! 少人数で戦ってるあそこなら、手柄もあげやすいでしょ?」
なるほど。
少人数で戦ってる、あの場所は、民兵が中心になった義勇軍だ。
そこでなら、俺達みたいな駆け出しでも、手柄を上げやすいってことか。
「よし! あそこだな! 急いで向かうぞ!!」
「いいけど、どうするの? また飛んでいくの?」
あ……、そうだよ……。
飛んでいけば、また勘違いされる恐れがある……。
かといって、走っていけば、時間が掛かりすぎる……。
いや、悩んでる時間が勿体ないな。
「飛んでいく! 危険かも知れないが、いいか?」
「ふふん! いいわよ!」
サーラスティがいいと言ってくれたので、俺はサーラスティを抱えて、大空に向かって飛び立った。
――
「ふふん! 気持ちのいい風ね」
空を飛んでいると、サーラスティが、のんきなことを言い出した。
そんなことを言ってる場合ではないのだが……、確かに、気持ちいい風だ……。
地上では戦争をやってるのに、全く緊張感がないな。
「ねえ、パントロ?」
「なんだ?」
「どんな獣耳族が好きなの?」
「は?」
緊張感が無さ過ぎる……。
そんなの関係あるのか?
「どんなって言われてもな……」
「ほら、ウサギっぽいのがいいとか、猫っぽいのがいいとか、あるじゃない?」
好きな獣耳か……。
なんだろうな? やっぱり、猫耳か?
いや、犬耳も捨てがたいな……。垂れ耳系の犬耳は可愛すぎる。
う~ん……。ウサ耳も可愛いし、熊みたいな丸系の耳もいいな……。
「可愛ければ何でもいいや!」
悩んでも答えが出なかったので、適当に答えた。
いや、適当ではないな。可愛いは正義だ!
どんな獣耳だろうと、可愛いという大前提の元にある!
おっさんに獣耳があっても、全く可愛いとは思えん!
「ふ~ん……、可愛いねえ……」
サーラスティは、俺の答えに興味がないような感じだった……。
そっちが聞いてきたのに、そんな反応かよ……。
まあいいや。戦場でこんな緊張感のない話はやめよう。
そんな会話もしつつ、俺達はガルディウスを捜し続けた。
――
味方から勘違いされることもなく、先ほどまでサーラスティ達がいた場所まで戻ってきた。
「あ、いたわよ!」
サーラスティが、ガルディウスを見つけたらしく声を上げた。
「何処だ!?」
俺は地上を確認する。
すると……。
「ほら! あそこで、戦ってるわ!」
ガルディウスは、なんと、足止めではなく、普通に鳥獣族と戦いだしていた。
もちろん、周りには他のスライム達もいる。
数十のスライム軍の中に、ガルディウスも混じっているのだ。
「だああああああああああ!! あの野郎!! 何やってんだよ!!」
「ふふん! あたしの予想通りね!!」
自信満々にサーラスティが言い出したが、それどころじゃない。
危険すぎる。
本当に死んじゃうかも知れん。
「よし! 近くに降りるぞ!」
「ええ!」
俺達は、戦ってる場所から少し離れた場所へと降りた。
そして……。
「ガルディウス!! 何やってんだ!! こっちに来い!!」
俺はガルディウスを呼び戻そうと叫んだ。
しかし……。
「マジかよ……。なんで、こっちに来ないんだよ……」
「ふふん! ガルディウスが、簡単に戻ってくるはずないじゃない!」
いや、それはそうかも知れんが……。
死ぬかも知れないんだぞ? 本当に分かってるのか?
「仕方ないわね! あたしが呼んであげるわよ!」
いや……、サーラスティが呼んだって……。
「ガル!! 確実に手柄をあげられる場所を見つけたわよ!! 急いで戻りなさい!!」
え? さ、サーラスティ様? 一体何を仰っていらっしゃるのですか?
「本当か!?」
スライム達の集団から、ガルディウスの声が聞こえてきた……。
何故だ……。俺の言葉には、少しも反応しなかったのに……。
そんなに手柄が欲しいのか……?
「急ぎなさい!! 他に取られちゃうわよ!!」
サーラスティがそう叫ぶと……。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
もの凄い勢いで、ガルディウスが、こちらに向かってやって来た。
そして……。
「ドコだ!? ドコに行けばいい!?」
俺達の元へと辿り着いたガルディウスは、すぐにサーラスティに問いただした。
そんな様子を見て、俺があっけにとられていると……。
「ふふん! こっちよ! 急ぎなさい!!」
「おう!!」
二人で、何処かに向かって、大急ぎで移動を始めた……。
「ちょっ! どこ行く気だよ!?」
俺の言葉を無視したまま、二人はピョンピョンと高速で飛び跳ねながら、移動していった……。
俺は訳も分からず、二人を追いかけた……。




