第二十九話 「戦争の開始」
魔王軍の部隊が動き出したことで、本格的な戦いが始まろうとしている。
カイザー、リンジー、ユカリスの三人は、後方支援部隊に合流。
俺、サーラスティ、ガルディウス、ボルドの四人は、敵の足止めをする部隊と、行動を共にすることになった。
俺は、敵の様子を見るために、空へと飛び上がった。
こうして改めて空から見ると、様々な種族の鳥獣族が居ることが分かる。
例えば、獣族の中でも、肉食動物っぽい顔をしてるヤツがいたり、鹿のような角を生やした、草食動物のような顔をしてるヤツがいたりと、いろんな種類がいる。
鳥族にも、いろんな種類がいるみたいで、ニワトリのようなトサカが生えてたり、翼や羽毛の色が違ったりと、個体によって様々な特徴がある。
他には、鱗族と思われるヤツもいた。
所謂、リザードマンのような見た目の、トカゲや、ワニのような顔をしたヤツだ。
肌は鱗で覆われているようで、すごく硬そうに見える。
後は、一見人間にしか見えないが、頭に獣の耳が付いている、獣耳族がいる。
不思議なのだが、獣耳族は全員がツルツルのハゲだ。
動物の耳には毛がちゃんとあるのに、頭部には髪の毛がないのだ。
そういう種族なのだろうか……?
女性はそうじゃないことを願おう……。
それぞれの種族の数に関しては、獣族が多い。次に鳥族、その次が獣耳族だ。
鱗族は圧倒的に数が少ない。
元から、数の少ない種族なのか、それとも、この戦いに参加していないだけなのか……。
鱗族については、考えても分からないので、この辺でやめておこう……。
武器を持っている奴は、ほとんどいない。
獣耳族は剣や斧などの武器を持ってるが、他の鳥獣族は大半のヤツが何も持っていない。
獣耳族以外は、爪や牙などがあるから、武器を必要としないのだろうか?
それにしても、多いな……。
俺は……、生き残れるかな……?
そんな事を思いながら、空から敵の様子を窺っていると……。
魔王軍が動き出した。
まず、鳥獣族軍に向かって、数々の魔法が放たれた。
俺の知ってる魔法や、知らない魔法まで、様々な魔法が鳥獣族軍を襲う。
狙いは、鳥獣族軍の分断だ。
いくら三千のスライム族がいるとはいえ、千体の鳥獣族を囲むことは出来ない。
まずは敵を分断、その後、少数の鳥獣族を取り囲み、各個撃破。
それが魔王軍の狙いだ。
狙い通りというか、作戦通りというか、魔法を避けるために鳥獣族達がバラバラになって逃げ出した。
そこまでの光景を見てから、俺は地上へと降りた。
「さあ、あたし達の出番よ!!」
サーラスティの言うとおり、俺達の出番がやってきた。
これから、バラバラになった鳥獣族の一部を、魔王軍が取り囲む。
そこに他の鳥獣族を近づけさせないのが、俺達の任務、足止めだ。
「おっしゃあああああああああああ!!」
俺達は一斉に戦場のど真ん中へと向かう。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
俺達と一緒にいる、足止め役の部隊の兵士達も、なだれ込むようにして戦場へと突っ込んでいく。
「サーラスティ! 先に行くからな!!」
「え!? ちょっと!?」
俺は、サーラスティの返事も聞かず、戦場へと向かいながら地面を強く蹴る。
俺の得意技になりつつある、高速移動の開始だ。
地面が少しぬかるんでいるので、不安だったが、問題なく高速移動が出来ている。
辺りには、散り散りになった鳥獣族、そして、それを取り囲もうとしている魔王軍。
既に少数の鳥獣族を取り囲んで、戦いだしている部隊もある。
戦場は、一気に乱戦のような状況になっていた。
俺はそんな乱戦状態の中、高速移動を繰り返し……。
「食らえこらああああああああああああ!!」
獣耳のおっさんに向かって、全力で掌底を当ててやった。
「ぶべらっ!!」
おっさんが、変な声を上げて吹っ飛んでいく。
俺は地面を削りながら止まり、その様子を眺めていた。
獣耳のおっさんに、掌底を当てたのは偶然だ。
決して、おっさんに獣耳が付いてるのが、許せなかった訳ではない。
断じて違う。そう言うことにしておいてくれ……。
「貴様!? 敵か!!」
突如、俺に向かって、牛みたいな顔をしたヤツが殴りかかってきた。
だが遅い。遅すぎる。ドバイン師匠の十分の一も速度が出ていない。
そう感じるほどに遅い攻撃だ。
ここで、俺の身体に不思議なことが起きた。
身体が勝手に反応して、牛顔の殴ってきた腕を、捌いたのだ。
攻撃を避ける特訓は、数え切れないほどに繰り返してきた。
だが、攻撃を捌くようなことはやったことがない。
もちろん、人間だった頃もやったことはない。
本当に不思議だった。
自然に、当たり前のように、俺の左腕が円を描くように動き、牛顔の攻撃を流れるように捌いた。
「くっ!」
牛顔の悔しそうな声が一瞬聞こえた。
だが、次の瞬間、俺は自然と、右腕で手刀を作り、その手刀を突き刺すように出していた。
牛顔の胸に、俺の手刀が突き刺さる。
突き刺さったと思ったら、これまた自然に、腕を捻りながら手刀を引き抜いていた。
まるで、何度も繰り返してきたかのような、流れるような攻撃が出来たのだ。
「ぼごっ!」
牛顔が血を吐き出した。
そこまでの光景を見て、俺は地面を蹴った。
俺の高速移動が、また始まる。
牛顔は、たぶん仕留めた。
あいつに時間を取ってる暇はない。
俺の任務は足止め、敵の注意を、もっと引きつけなくてはならない。
「おらああああああああああああああ!!」
俺は高速移動を繰り返し、鳥獣族達に掌底を当て続ける。
掌底をまともに食らい、吹っ飛んでいく者、咄嗟にガードして耐える者、反応は様々だが、とにかく掌底を当て続けた。
すると……。
「鳥族の裏切り者がいるぞおおおおおおおお!!」
戦場に、そんな声が響き渡った。
ああ……、失敗した……。
仲間のフリして、敵を欺いたりすれば、足止めをもっと簡単に出来たかも知れない……。
はあ……。やっぱ、俺はバカだな……。
そんなことを考えていると、後ろから……。
「てめえか!!」
と、俺を呼ぶような、そんな声が聞こえた。
後ろを振り向くと、チーターみたいな顔をしたヤツがそこにいた。
ビビった。かなり焦った。
「待てコラあああああああ!!」
すげえ剣幕で、俺を追いかけてきてる。
俺は高速移動しているのに、そいつは俺についてきているのだ。
やべえ!? どうする!?
高速移動じゃ振り切れないのか!?
とにかく、後ろに張り付かれるとやっかいだ。
方向転換しまくって、逆に背後を取ってやる!!
俺は地面を蹴り、何度も方向転換を繰り返した……。
だが……。
「逃げるだけか!? チキン野郎が!!」
俺の予想に反して、いや、ある意味予想通りか……。
何度、方向転換をしても、それに反応して、ちゃんと追いかけてくるのだ。
後ろを取るどころか、常に後ろを取られてしまっている。
「くそっ!! お前、何なんだよ!? どっか行けよ!!」
「鳥獣族最速の、このピーリー様から、逃げ切れると思うなよ!!」
どうやら、チーターみたいなヤツの名前は、ピーリーと言うらしい。
いやいやいやいや、名前なんて、どうでもいい!!
それより、この状況をどうするか考えろ!!
俺は逃げ続けながら考えた。
そして、ふと気付いた。
これって、ある意味、足止めになっているのでは? と……。
まあ、チーター野郎一人しか足止めできてないが、自称最速のヤツを俺は引きつけることが出来ている。
もしかしたら、俺は意外と、いい働きをしているのかも知れない。
それなら……。
「おら!! チーター野郎!! あの川に、どっちが先に着くか、勝負しろや!!」
俺は、遠くに見える小さな川を指さしながら、チーター野郎に向かって叫んだ。
「ああ!? おもしれえ!! 俺の速さを見せてやるぜええええええええ!!」
そう言うと、チーター野郎の速度が上がった。
今までは手を抜いていたのか、それとも直線だと速くなるか……。
理由は分からないが、あっという間にチーター野郎は、俺に追いついた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺達は、併走するようにして、川を目指して走り出した。
俺の高速移動は、若干地面から浮いているので、正確には、走っていないのだが……。
とにかく、俺達は川へ向かって高速で移動を始めた。
「おらああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
チーター野郎が、もの凄い速さで走ってる。
二つの足で、普通に走ってるのに、メチャクチャ速い!
俺は、とうとう追い抜かれてしまった……。
チーター野郎の背中が、少しずつ遠くなっていく……。
「クソッ!!」
「ふははははは!! ピーリー様の速さを思い知ったか!!」
そんなことを言いながら、チーター野郎は前だけを見て、走り続けている。
よし。戻ろう。
俺は方向転換をし、戦場へと戻る。
後ろを確認したが、チーター野郎は川を目指して驀進中だ。
チーター野郎がバカで良かった。
戦場から、あの最速バカを引き離すことに成功したのだ。
さて、さっさと戻って、足止めをしなくちゃな……。
俺は急いで戦場へと戻ってきたのだが、いつの間にか、戦場の範囲が広がっていた。
乱戦状態は解消され、大量のスライム達が戦っている大きな戦いや、少量のスライム達が戦ってる小さな戦いなど、あちらこちらで、スライム達が確実に敵を囲んで戦っているのが見える。
きっと足止め部隊が、いい働きをしたのだろう。
この辺りには、もう邪魔をするようなヤツがいなくなっている。
ざっと辺りを見渡してみたが……。
何というか……。残念な光景も見える……。
そこら中に、スライム達が転がっているのだ……。
気を失っているのか、それとも……、死んでしまったのか……。
分からないが、かなりの量のスライム達が転がっている……。
もちろん、鳥獣族の死体もたくさんある。
だが、それ以上に、スライム達の方が多いのだ……。
クソッ!
分かってたとは言え、味方がこんなにやられてしまうのはツライ……。
俺は、胸が締め付けられるような、そんな思いに駆られた……。
そんな中、戦場を見渡していると……。
「ま、まさか!?」
俺は高速移動を繰り出した。
倒れているスライム達に、茶色のスライムを発見したのだ。
土色のスライムだ。
「ボルド!?」
俺は、茶色のスライムの目の前まで行き、咄嗟にそいつを抱え上げた。
間違いない。ボルドだ。
「おい! ボルド! しっかりしろ!!」
「ぱ、パントロ殿……?」
おお!! 生きてた!! 良かった……。
「大丈夫か!?」
すぐに手当をしてやりたいが、俺には何も出来ない……。
俺は無能だ……。
自分の無力さに腹が立ってくる……。
「う、迂闊であった……。こ、攻撃を、受けてしまったのである……」
「そ、そうか……、誰か!! 誰かいないか!?」
クソッ! 後方支援は何をやってんだ!!
怪我した仲間を運ぶのも、あいつらの仕事だろ!!
「ぱ、パントロ殿……、我輩は大丈夫である……、だから、リーダー殿達を……」
リーダー?
「あ……」
サーラスティと、ガルディウスの、姿が何処にもない……。
あいつら、一体何処に行ったんだ……?
「ぼ、ボルド! サーラスティ達が何処に行ったか、分かるか!?」
「すまぬのである……。我輩……、気を失っていたのである……」
ボルドも分からないか……。
どうする!? ボルドは、こんな状況だ。
残していけるはずもない……。
だが……、サーラスティ達も捜さなきゃ……。
俺がそう悩んでいると……。
「大丈夫ですか!!」
後方支援部隊らしき、スライム達がやってきた。
「こっちだ!! 怪我してるヤツがいる!!」
俺は後方支援部隊を、こちらへ呼ぼうと叫んだ。
すると……。
「ぱ、パントロちゃん?」
後方支援部隊の中に、ユカリスがいた。
「ユカリス!? よかった!! ボルドを頼めるか!!」
「ぼ、ボルドちゃん……。け、怪我しちゃったのぉ……?」
「あ、ああ、さっきまで気を失ってたみたいだ」
「う、うん。ま、任せてぇ……」
俺は、抱えていたボルドを、そっと地面に置いた。
よし、ボルドはユカリスに任せるとして……。
俺は……。
「じゃあ、頼んだぞ!!」
「う、うん……、ぱ、パントロちゃんは、どうするのぉ……?」
ユカリスが泣きそうな顔をしながら聞いてきた。
大丈夫だろうか?
いや、大丈夫だ。こう見えてユカリスは優秀だ。
俺達の中で、誰よりも優しく、誰よりも魔法の才に溢れている。
心配なんてしなくてもいい。
「俺は、サーラスティ達を捜しに行く」
「ふぇぇ……。さ、サーちゃん、ど、どこかに行っちゃったのぉ?」
「ああ、サーラスティ達を、助けに行かなくちゃ!」
「ぅ、うん……。さ、サーちゃんを、助けてねぇ……」
「おう!!」
俺は、ボルドをユカリスに任せ、二人を捜すために大空に向かって飛び立った。




