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第二十八話 「戦争の直前」

 夜中、何だか寝苦しく感じ、ふと目が覚めた。

 目を開けると、そこにはサーラスティの姿があった。

 サーラスティが、俺の上に乗っていたのだ。


「何してんの?」


 俺の問いかけに、サーラスティは反応しない。

 眠っているのだろうか? 目を閉じ、ピクリとも動かない。


 このままでは動けないので、どうしようかと悩んだ。

 そっと持ち上げて横に置くか、それとも別のベッドに移動するか……。

 そんな風に悩んでいると、うとうととしてしまい、結局何もしないまま俺は眠ってしまった……。



――


 朝だろうか? 何だか苦しい……。

 口の周りがヒンヤリとして、気持ちいいのだが、息が出来ない……。


「ぷはああああああああああああ!!」


 俺は飛び起きた。

 苦しくて、何が何だか分からなかったが、とにかく飛び起きた。


「ちょっと!! そんな風に起きるなんて、失礼よ!!」


 サーラスティが、少し離れた場所で怒っていた。

 意味が分からない。

 何故、俺は怒られているのだ……。


「さ、サーちゃん。だ、大胆……」

「う、うん。す、すごいね……」


 ユカリスと、リンジーが、謎の発言をした。

 一体何なんだ? 何が起きたんだ?


「え? 何? 何があった? 今、俺、息が出来なかったんだけど!?」

「ふふん! そんなの後でいいわよ!」


 いや、そんなのって……。


「それより、パントロ! 覚悟は出来てるのかしら?」

「覚悟? 覚悟って……」


 そうだった。

 今日俺達は、戦場に出る。

 鳥獣族と戦うのだ。


「あ、ああ! スライム族のために戦う覚悟なら出来てるさ!」

「ふふん! そうね! それでこそ、大魔王を目指す者よね!!」


 ああ、やめてください……。

 あの時の俺はどうかしてたんです……。

 テンションが変な風にあがってただけで、本気でそう思った訳じゃないんです……。


 ん? ユカリスと、リンジーの目が……。

 なんだ? キラキラした目で見てくる……。

 ちょっとやめて!! 期待したような目で俺を見ないで!!


「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、起きておるか?」


 カイザーとボルドが部屋に入ってきた。

 二人で何処かに行ってたのだろうか?


「あ、ちょっと待ってください!」


 リンジーは、そう言うと、まだ寝ているガルディウスの所へと向かった。

 俺はその様子を見ながら立ち上がり、体操をするように軽く身体を伸ばす。


 うん。今日も身体の調子は良さそうだ。

 さて……。


 俺が身体を伸ばしていると、ガルディウスが起きてきた。


「ふぉっふぉっふぉ。起きて早々で悪いのじゃが、皆、外に出るのじゃ」

「え? もう?」

「さっき見てきたのじゃが、もうすぐ始まりそうなのじゃよ」


 マジか……。目覚めてすぐに戦闘かよ……。


「ふぉっふぉっふぉ。まあ、しばらくは様子見じゃろうがな」


 ん? 様子見? どういう事だ……?


 俺達は取り敢えず、外へ出ることにした。


 外に出てみると、さっきカイザーが言ってたことの意味が分かった。

 もの凄い数のスライムの大群が、草原一杯に広がってる。

 この状況の中、鳥獣族がいきなり襲ってくるとは考えにくい。


「これ、どれくらいの数がいるんだ……?」


 俺がボソッと呟くと、カイザーが教えてくれた。


 なんと、総勢三千のスライムがいるそうだ。

 二千が魔王軍、残りの千は、街から駆けつけた民兵だそうだ。


 一体、みんなは、どこに寝泊まりしたのか……。

 そんなことを考えつつ、俺は辺りをグルリと見渡す。

 昨日は暗くて、よく見えなかったのだが、いくつかの櫓のような物が建っている。


「ふぉっふぉっふぉ。あの上から、この辺りを見てみるがよいわ」


 カイザーにそう言われ、俺達は、櫓へと登ることにした。


「すげえな……」


 上から見て分かったのだが、この辺りは、やはり湿地帯のようだ。

 主に草原のような景色が広がっているのだが、いくつかの川が流れていて、所々に水たまりのような、小さな池らしき物がある。


 こんな地形だと、戦いづらいと思うのだが……。

 まあ、仕方ないな……。

 ここを突破されると、殆どが山道ばかりだ。戦える場所がここしかないのだろう。


 それにしても、凄い光景だ。

 俺達の下には、三千のスライム軍が……。

 そして、小さな川の向こうには、すでに千体の鳥獣族の軍が到着している。


 鳥獣族の軍は、こちらの様子を窺っているようようだ。

 数体の鳥族が空を旋回しているし、獣族の集団がこちらに睨みをきかせている。


「あら? 獣耳族がいるわね」


 サーラスティが、鳥獣族の軍を見ながら、そんなことを言った。


「マジか!?」


 俺は咄嗟に獣耳族を捜す。


 獣耳、獣耳……、獣耳……。

 あ、あの長い耳は、ウサギか? あれってウサ耳……、だよな……?


「おい。サーラスティ……。あれは獣耳と言ってはいけない」

「はあ? 獣の耳がついてるんだから、獣耳族でしょ?」

「いや、違う! 俺が知ってる獣耳は、もっとこう……、可愛いんだよ!! なんだよあれ!! おっさんじゃねーか!!」


 俺が見たのは、ツルツルにハゲたおっさんに、ウサギっぽい耳が生えている、謎の生き物だった。

 顔や身体は普通の人間だ。だが、おっさんだ! 動物の耳が付いているが、おっさんなのだ!!

 そんな生き物、俺は断じて認めん!! 魔界だからって、こんなのが許されてたまるか!!


「ふぉっふぉっふぉ。パントロは、獣耳族の女にしか、興味がないからのう。ふぉっふぉっふぉ」


 カイザーが、誤解されるような言い方をした。


 やめて欲しい。俺は普通の女好きだ。

 獣耳以外の、普通の女にだって興味はある。


「ちょっと!! どういうことよ!!」


 サーラスティが、俺を見ながら怒り出した。


 何故だ……。

 俺はただ、獣耳の可愛い女の子が見たかっただけなのに……。


「それにしても多いな」


 俺達が変なやりとりをしていると、ガルディウスがボソッと呟いた。

 だが、その言葉には、何か強い信念のようなものが感じられた……。


「ふぉっふぉっふぉ。さて、そろそろじゃな。降りるぞい」


 カイザーに促される形で俺達は櫓から降りる。

 降りている間も、サーラスティの睨むような視線が俺に向けられていた……。

 怖かった……。


 櫓から降りると、建物の上にゴブリン魔王が立っていて、演説を始めた。

 内容は凄くシンプルで、鳥獣族を一歩たりともスライム領に入れさせるな、というものだった。


 それを聞いたスライム達は、歓声のような大声を上げ、一気に士気が高まったように感じる。

 俺は、どこか現実離れしたような光景を見ていて、士気が高まるどころか、夢なんじゃないかとさえ考えてしまっていた……。

 だが……。


「パントロ! 来い!!」


 急にゴブリン魔王に呼ばれた……。


 なんだ? 俺に何をさせる気だ?


 そう思いながらも、俺はゴブリン魔王の元へと向かった。

 あんな見た目だけど、一応、スライム族のトップだ。

 命令には従わなきゃならない……。


 俺がゴブリン魔王の横まで行くと、スライム達がざわつきだした。

 まあ分かってたことだ。外に出たときに、凄い目で見られていた……。

 俺の横にカイザーやサーラスティ達が居たから、攻撃はされなかったが、一人で居たら、きっと襲われていたと思う。


「この者の名はパントロ! 神官カイザーの息子にして、鳥族の身体へと転生した者だ!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 何故か、歓声があがった……。

 もうやだ……。なんか凄く恥ずかしい……。帰りたい……。


 俺は緊張のせいなのか、固まってしまった。

 ゴブリン魔王の横で、マネキンのように固まって、動けなくなってしまったのだ。


「戦闘中、間違えてパントロを攻撃しないように、しっかりと姿を覚えてくれ!!」


 ゴブリン魔王がそう叫ぶと、三千のスライム達の視線が一気に俺に向いた。


 もうやめてくれ……。別に攻撃してもいいよ。避けるし、当たっても文句言わないから……。

 だから、もうやめてくれ……。

 恥ずかしいを通り越して、なんかもう……、死にたくなってくる……。


 視界に、仲間達の姿が映った。

 カイザーとサーラスティは、嬉しそうな顔をしている。

 ガルディウスは、悔しそうな顔を一瞬見せたが、俺と目が合うと、何故かニヤリと笑った。

 ボルド、リンジー、ユカリスは、何故かキラキラした目で見てる。まるで英雄を見るような目だ。


 しばらく経つと、ゴブリン魔王に、もういいだろうと言われ、俺は解放された……。

 マジで恥ずかしかった……。

 根が引きこもり体質の俺には、拷問のような辛さだった……。


 俺が仲間達と合流すると、一つの部隊が動き出した。

 一つの部隊と言っても、数百のスライムだ。かなりの数だ。


「さあ! みんな! 行くわよ!!」


 サーラスティがノリノリで号令を掛けた。

 俺達の役目は、後方支援と敵の足止め、前日の内に役割は決めてある。

 俺、ガルディウス、ボルド、サーラスティの四人は、足止めの担当だ。

 ユカリス、リンジー、カイザーの三人は、後方支援を担当する。


「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」


 俺達の雄叫びが辺りを包む。

 それに呼応するかのように、あちらこちらで、雄叫びがあがった。


 戦争が始まった。




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