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第二十七話 「種族の危機」

 俺はパニックになりそうな状況にある。


 俺が調子に乗って、大魔王を目指すなどと口走ったら、後ろにサーラスティが居て、釣り合いが取れないだとか、大魔王の道だとか、スライム族の危機だとか、訳の分からない事を一気に言われた。


 まあ、俺の大魔王を目指すという発言も、十分変なのだが……。

 そんなことより、まずは落ち着こう……。

 この状況を、ちゃんと理解せねばならん。


 俺は落ち着くために、まず、素数を……、数えられないから、諦めた。

 素数なんて数個しか覚えてない。素数を数えて落ち着ける人って凄いな……。

 そんなことを考えていると、不思議と落ち着いてきた。

 素数様様である。


 さて、落ち着いたところで、俺は改めて辺りを見渡した。


 気絶したスライムが、そこら中に転がってる。

 およそ八十匹のスライム達を、全員気絶させたのだ。

 我ながら、無茶なことをしたと思う。


 俺は更に辺りを見渡す。

 すると、一頭のサイが視界に映った。

 サイの上に、カイザー、ユカリス、リンジーの姿が見えた。

 ガルディウスと、ボルドの姿はない。サーラスティ達とは別の所で、特訓でもしてるのだろうか?


「あ、あー、あのさ? サーラスティ? ちょっと落ち着いて俺の話を聞いてくれ」

「なによ? 急ぐって言ってるのに、何を聞けっていうのよ?」

「何を急いでるのか知らないけど、この状況を放置していくわけにもいかないだろ?」


 俺は両手を広げ、辺りに転がってるスライム達を見ながら、サーラスティにアピールする。

 このままスライム達を放置して行けば、俺の身が危うくなりそうだ。


「はあ? そんなの知らないわよ。コイツらがパントロを敵だと勘違いしたんでしょ? 自業自得よ」

「いや、だからって、放置はさすがに……」

「全員を叩き起こしてたら、間に合わないわ」

「あのさ? さっきから、何を急いでるの?」

「鳥獣族が攻めてきたのよ」

「え? ま、マジで?」

「マジよ!」


 そんなやりとりをしていると……。


「何をしておる!! 急ぐのじゃ!!」


 カイザーが俺達に向かって大声を上げた。

 どうやら、俺にさっさとサイに乗れと言いたいようだ。


 色々と説明して欲しいのだが、なんだか切迫した雰囲気なので、取り敢えずサイに向かった……。

 サーラスティは、俺を置いて先に行ってしまい、俺が到着する前に、サイの上に乗ってしまっていた。


「パントロ! 急いで乗るのじゃ。説明は移動中にしてやるわい!」


 カイザーが珍しく焦っている。

 こんなカイザーを見るのは、二度目だ。

 ちなみに、一度目は、森の中で鳥野郎を発見したときだ。


 俺がサイに乗ると、すぐにサイは動き出した……。


「あのスライム達、放置して良かったのか?」


 俺は状況が飲み込めていない。

 取り敢えず気になったことを、カイザーに聞いてみたのだが……。


「構わぬ。今は緊急事態じゃ。簡単に説明するから、ちゃんと理解するのじゃぞ」

「お、おう……」


 カイザーが色々と説明してくれた。


 カイザーとサーラスティ達は、狩りの特訓を行なっていたらしい。

 そして、一旦休憩のために森の入り口へと戻ったときに、一匹のスライムが居たそうだ。

 なんでも、そのスライムが言うには、急遽、ゴブリン魔王が演説をしたらしい。

 その内容と、今の状況を、カイザーに伝えに来たそうだ。


 ゴブリン魔王の演説によると、現在、鳥獣族が、スライムの領土に向けて進行中だそうだ。

 その数、なんと千体。

 大群だ。スライム族が何匹いるのか知らないが、一体の個体能力を考えれば、絶望的な数字に思える。


 ゴブリン魔王は、魔王軍だけでは戦力が足りないので、戦える者は一緒に戦って欲しいと、スライム達に協力を仰いで、すぐに去ってしまったそうだ。


 その後、魔王軍は、領土を守るために前線へと出発したらしい。

 だが、その魔王軍に、少しおかしな事があったみたいだ。


 魔王軍の一部が、鍛錬場に向けて移動を始めたそうだ。

 鍛錬場は、前線とは反対方向にあるのに、なぜか魔王軍の一部は鍛錬場に向かったのだ。

 カイザー曰く、おそらく俺が鳥獣族だと思われて、それを退治しに来たのであろう。とのこと。

 まあ、結果的には、返り討ちにしてしまったのだが……。


 話を聞いたカイザーは、前線へと向かうべきだと、みんなに伝えたそうだ。

 前線に向かうのは、みんな賛成したそうなのだが……。

 サーラスティが俺を迎えに行くと言い出したそうだ。

 そこで、色々と話し合いをした結果、ガルディウスとボルドは先に前線へと向かい、残りのメンバーで俺を迎えに来た。

 そう言うことらしい。


「あ、あのさ? 俺達、兵士じゃないのに戦わなきゃならんの?」

「当たり前じゃろ!! スライム族の危機なのじゃぞ!? 分かっておらんのか!?」


 いや、それは分かってるが……。


「そ、それにさ、そんな状況なら、さっきのスライム達も、連れてきた方が良かったんじゃ……?」

「あの者達なら大丈夫じゃ」

「は?」


 何でも、俺とサーラスティが話をしている間に、一匹のスライムが目を覚ましたそうだ。

 特徴を聞いた感じだと、俺が最初にぶっ飛ばした、水の竜巻を使ったヤツみたいだ。

 カイザーは、そいつに俺のことを簡単に説明して、全員が目を覚ましたら、すぐに前線へと向かうように伝えたらしい……。

 あの場に俺は居たのに、全然気が付かなかった……。


 そこまで話を聞いた後で、ユカリスとリンジーが、俺に話しかけてきた。

 昨日は俺のことを、みんなが怖がってたけど、今日、サーラスティ達と話し合って、今まで通りに接するように心がけると、そう言われた……。


 その気持ちは嬉しいのだが、そんなことを直接言われると、どう返事していいのか分からなかった……。



――


 いくつかの山を越え、数時間掛けて前線へとやってきたのだが、俺達が到着する頃には、辺りが暗くなっていた。

 風景を楽しむこともなく、ただ、サイの上で座っていただけなので、ケツが痛くなってしまった……。


「なあ、カイザー? 暗くてよく見えないけど、ここが前線基地なの?」

「うむ。ここがそうじゃ」


 街にあるような、四角い建物がいくつか建っているが、だだっ広い草原のような場所だ。

 いや、地面はぬかるんでいて、少し歩きにくい。湿地帯ってヤツだろうか?


「そうか……。で、これからどうするんだ?」

「まずは魔王様に会いに行くのじゃ」

「ゴブリン魔王に? 何しに会いに行くんだよ?」

「お主のことを説明するのと、今後の作戦の為じゃ」


 俺達はカイザーに連れられ、一つの建物の中へと入っていった。


「か、カイザー!? そいつは何者だ!?」


 建物に入るや否や、ゴブリン魔王が俺を見て、驚いたような声をあげた。

 次の瞬間、俺を取り囲むようにして、中にいた大量のスライム達が一斉に動き出す。

 俺は何も出来なかった。いや、何もする気が無かったので、ただ黙って突っ立ってた。


 ユカリスとリンジーが泣きそうな顔をしてる……。

 サーラスティは……、さすがだな。俺の横で堂々としている。


「ふぉっふぉっふぉ。魔王様、こやつはワシの息子、パントロですじゃ」

「き、貴様の息子だと!?」


 ゴブリン魔王が素っ頓狂な声をあげた。

 周りのスライム達もざわついていて、所々から、嘘だとか、信じられないだとか、そんな声が聞こえてくる。


「あ、あの、初めまして。パントロです。えっと……、数日前に鳥族に転生しました……」


 俺は、周りの目が怖かったので、取り敢えず転生したことを伝えてみた。


「ふぉっふぉっふぉ。転生の儀式はワシが行ないました。間違いなく、我が息子パントロですじゃ」

「転生の儀式だと!? 私と一緒か!?」


 ゴブリン魔王が、カイザーの言葉を聞き、驚いたような声をあげた。

 同じように、周りのスライム達も、驚きの声を次々とあげていく。


 その後 俺が転生をした経緯を説明し、何とか理解して貰った。


「なるほどな。小競り合いの時に進入された鳥族を、討ったのか……」

「は、はあ……」


 小競り合いが何なのか分からんが、きっと鳥野郎のことだろう。

 適当に返事をしてしまったが、大丈夫だろうか……?


「パントロ! 貴様が討ったのは一人だけか?」

「は、はい。そうですけど……?」

「むむ……」


 ゴブリン魔王はそう言うと、黙ってしまった……。

 一体何なのだろうか? まあ俺が考えても仕方ないのかも知れないが、気になる……。


「ふぉっふぉっふぉ。では、そろそろ今の状況をお聞かせ願いますかな?」

「ああ、それは後で話そう。その前に、部屋を用意させる。おい! 衛兵! カイザーと大いなる子たちの部屋を用意してやれ!」

「はっ!!」


 兵士の一人が、俺達の所へとやってきた。どうやら部屋を案内してくれるようだ。


 俺達が案内されたのは、大部屋のような部屋だった。

 二段ベッドのような物が、壁際にズラーッと並んでいる。

 部屋の中には、ガルディウスとボルドが居た。


「よ、よお! パントロ、無事に到着したんだな」


 ガルディウスが、いつもより馴れ馴れしい感じで話しかけてきた。

 いつもは、もっとこう……、張り合うような感じで話しかけてくるのだが……。


「あ、ああ、さっき到着したんだ」

「そうか、良かったな。まだ鳥獣族はここまで来ていないそうだ」

「みたいだな……」


 ふと、ボルドの方を見ると、何だか険しい表情をしていた。

 何かあったのだろうか?


「ボルド? 何かあったのか?」

「む? 何もないのである。少し緊張をしているのである」

「緊張? 何に緊張してるんだ?」


 周りを見るが、いつものメンバーと、俺達を案内してくれた兵士が居るだけだ。

 緊張している理由が分からん。


「うむ。明日は初陣なのである。そう思うと……、少し緊張を……」


 なるほど。確かに初めての戦いだ。

 しかも、種族の危機的状況の中でだ。

 緊張しても仕方ないか……。


「そうか、そうだよな。普通緊張するよな」

「パントロ殿は、落ち着いているように見えるが?」

「ああ、俺は……」


 ここに来る前に、魔王軍と戦ったからだろうか?

 それとも、鳥野郎と戦ったせいだろうか?

 自分でも分からんが、すごく落ち着いている気がする……。


「パントロは、魔王軍を蹴散らせるくらいだから余裕なのよ!」


 サーラスティが変なことを言い出した……。

 止めて欲しい……。また、みんなが怖がったらどうするんだ……。


「ま、魔王軍を!?」

「ど、どういう事だ!? 説明しろよ!!」


 ボルドが驚き、ガルディウスが詰め寄ってきた。

 俺は仕方なく、先ほどあった魔王軍のとの戦いを簡単に説明してやった。

 俺が説明している間に、部屋まで案内してくれた兵士は部屋を出て行ってしまった。


「ぱ、パントロ……、貴様……、いや、分かってたことだな。もう、何も言うまい……」


 俺が説明をし終わると、ガルディウスが何かを言いたそうな、でもそれを飲み込んだような、複雑な表情をしながら、そう言った。

 ボルドは、ただ頷いていただけで、何かを考えているような感じだった。


 俺達がそんな話をしていると、兵士が部屋にやってきた。

 軍議が終わったらしく、色々と知らせに来たのだ。


 兵士の説明によると、現在、鳥獣族はこの場所を目指して進行中。

 数はおよそ千体。ここに辿り着くのは明朝と予想しているそうだ。


 俺達には二つの任務が与えられた。

 敵の足止め役と、後方支援だ。


 後方支援はそのままだな。

 後方から魔法を撃ったり、怪我した仲間を安全な場所へ運んだりするのだ。


 問題は、敵の足止めだ。

 スライム族の戦いは、一対多数が基本。

 魔王軍の戦い方も、大して変わらない。

 少数の敵を、大人数で囲み、敵の一人ひとりを確実に仕留めていく。

 それが魔王軍の戦いだそうだ。


 少数の敵を大人数で囲んでいるときに、他の敵から邪魔をされないように注意を引きつける。

 それが俺達の任務の一つ、足止めだそうだ。


 もちろん、足止めをするのは俺達だけじゃない。

 戦っていない部隊も、敵の注意を引きつけ、足止めをするらしいのだが……。

 数が圧倒的に鳥獣族側の方が多くなる……。


 どういう事かというと、例えば、100匹のスライムが居たとして、100体の鳥獣族と戦うとする。

 100匹のスライムで100体の鳥獣族を囲むことはあり得ない。戦闘能力が違いすぎる。

 スライム族と鳥獣族の戦闘能力を考えると、100匹のスライムで10体の鳥獣族を囲いたいくらいだ。

 いや、俺一人で80匹のスライムを倒せた事を考えると、少ないくらいだ。

 それに、そんなことをすると、確実に横から邪魔をされ、100対100の戦いになる。

 そうなれば、確実にスライム側が全滅する。


 そうならない為に、90匹のスライムで10体の鳥獣族を囲い、残りの10匹のスライムで、90体の鳥獣族を足止めするのだ……。

 足止め役というのは、一番死に近いポジションで頑張る役なのだ……。


 まあ、これはカイザーに聞いた例え話なので、実際はちょっと違うかも知れない。

 だが、足止めは危険な任務であることも変わりない事実なのだ……。


 はあ……。明日には俺達は死ぬかも知れない……。

 今日は眠れそうもないな……。


 そう思っていたのだが、そんなことはなかった。


 説明をしてくれた兵士が部屋から出て行った後、俺達は簡単なミーティングをして、明日に備えて、すぐに寝ることになった。

 ベッドで横になりながら、今日一日を思い返していると、スーッと意識が薄れていき、俺は眠りについてしまったのだ……。


 我ながら、図太い神経をしてると思う……。



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