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幕間 ゴブリン魔王と魔王軍

 魔王視点です。お気を付け下さい。

「さて、何があった?」


 私は、目の前のスライム兵から事情を聞く。


「はぁはぁ……」


 目の前のスライム兵は、急いでやってきたのだろう。

 息を整えるので精一杯といった感じだ。

 私はジッとスライム兵を見ながら、言葉を待つ。


「も、申し訳ありません。魔王様……」


 目の前のスライム兵は、私の視線が怖かったのか、一言、謝ってきた。

 少し落ち着いたのか、息を整え、そしてビッとこちらを見てきた。


「で、何があった?」

「はっ! 鳥獣族が、我が領土内に進入した可能性があります!!」


 進入だと?


「どういうことだ? 説明しろ」

「はっ!」


 どうやら、砦で鳥獣族と小さな戦闘が起きたらしい。

 小競り合いのような小さな戦闘で、度々起きている。

 その小さな戦闘中、五人の鳥族が飛び去っていくのを、数人の兵士が見たらしい。

 いつもなら、逃げ帰ったとされて、問題にもならない普通のことだ。

 だが、今回は飛び去った方向が変だった。

 スライム領の方へと向かったらしいのだ。


「わかった。下がって良いぞ」

「はっ!」


 私は兵達に鳥族の捜索の通達を出した。

 勿論、私もすぐに鳥族の捜索へと向かった。

 鳥族が領土内にいるのであれば、駆逐せねばならんからだ。



――


 七日後。

 私は、街にある自分の屋敷へと戻ってきた。


「魔王様! ドバイン様から、ご報告が来ました!」


 屋敷に戻って早々、私の元に偵察部隊の隊長、ダールがやってきた。

 ダールは、かなり焦っているように見えた。


「ドバイン殿からか、なんだ?」

「鳥獣族の軍がスライム領に向かってるとのこと! その数、およそ千!」


 千人の軍だと……。

 スライム領を奪うために、本気になったか?


「参謀と部隊長を集めろ! すぐに軍議を始める!」

「はっ!」


 ダールは私の命令を遂行するため、急いで部屋から出て行った。


「ミミ、ココ、行くぞ!」

「はい。魔王様」

「うふふ。喜んで」


 私は側近の二人を連れ、会議場へと向かった。



――


 ここは会議場と呼ばれている、一つの大きな屋敷。

 何があるわけでもない。部屋の中央に大きな円卓があるだけだ。

 魔王軍の情報は、全てここに集まると言っていい。そんな場所だ。


 情報交換しながら、軍の今後について話し合う。それがいつもの流れ。

 しかし、今日の軍議はおかしな方向へと話が進んだ。

 七日ほど前に、小さな戦闘が起きたのが原因だ……。


「鳥獣族を見たという目撃情報があるのです! まずは、そちらへ向かわせるべきでしょう!!」

「千人の鳥獣族が向かってきてるんだぞ!? それに砦が落とされたって情報もあるんだ! 防衛ラインを守るのが先だろ!!」

「何を言う!! 防衛ラインを突破される前に進入されているだろ!! まずはそっちだ!!」


 参謀や部隊長が、意見をぶつけ合っている。


「ちょっと待て! この七日間の話を誰かまとめろ! 報告を受けてないぞ!」


 私は鳥族捜索のために、領土内を走り回っていたので、全く報告を受けていなかった。

 

「はっ! ご報告致します!」


 参謀が報告をしてくれた。


 調査の結果、五人の鳥族が、スライム領土に侵入したと思われる。

 その内の三人は、我が領土の最終防衛ラインでもある湿地帯で発見。

 戦闘の末、三人の鳥族を殲滅することに成功。

 こちらの被害は、スライム兵が十六人ほど失われた。

 まあ、妥当な成果だ。


「残りの鳥族はどうした? 二人残っているはずだ」

「はっ! 残りの二人は、行方不明であります!!」


 行方不明? 確かに広大な我が領土を捜すのは大変だが……。


「被害は出ていないのか?」

「はっ! 被害については、今のところ、何の報告もありません!!」


 被害は無いか……。

 街も平穏だった……。

 どうなってる? 二人の鳥族はどこに行った?

 まさか……、スライム領に潜伏してるのか? 


「潜伏の可能性は?」

「はっ! 十分にあり得るかと思いますが、潜伏できそうな場所では、発見できておりません!」


 発見に至らずか……。


「わかった。では、話を戻す。鳥獣族の目撃情報があるのだったな?」

「はい!」

「詳しく頼む」

「はっ! まずは一昨日、街の入り口付近で、鳥族らしき影を見たという報告が一件!」

「ふむ……」


 一件だけか……。


「それとは別に、街の中で鳥族を見たという報告が十件あります!」

「街の中だと!?」

「はっ! しかし、情報はどれも信憑性の欠ける物でして……」

「どういう報告が来ているのだ?」

「はっ! まず、裸で走り回っていたという報告が八件! スライム族と話をしているのを見たというのが二件です!」


 裸だと? イタズラの類か?

 いや、そんなイタズラをする理由がない……。

 それに、スライム族と話をしていたなど……、あり得ん……。

 確かに信憑性に欠けるな。

 そもそも街の中だ。そんな簡単に街に入り込めるはずがない。


「他にはどんな報告がある?」

「はっ! 昨日、牛を担いで歩いている鳥族を見かけた、という報告が五件あります!」

「捜索はしたのであろうな?」

「はっ! もちろんであります!! 報告を受け、すぐに辺りを捜索しましたが、鳥族を発見することは出来ませんでした!」


 五件……。しかも、牛を担いでいた……。

 牛を食料だと考えると、二人でも数日分はあるか……。

 おそらく、近くにアジトがあるな……。


「他には?」

「はっ! 今朝、鳥族が草原に向かって走っていくのを見た、という報告が一件あります!」


 今朝か……。


「草原に捜索は出したか?」

「はっ! もうそろそろ、偵察に向かわせた斥候が、戻ってくる頃合いだと思います!」


 しばらく待つか……。


 私は他の報告も聞きつつ、偵察の帰りを待っていた。

 ほどなくして、会議場に、一人のスライム兵が飛び込んできた。


「ご、ご報告します! 領土内にて、鳥獣族を発見!」


 報告を聞いた瞬間、一気に周りがざわつきだした。


「何!? 場所はどこだ!?」

「そ、草原であります!! ドバイン様が、お住みになっていた小屋のある、あの草原であります!!」


 なるほど。あの小屋をねぐらにしていたのか……。


「数は!?」

「確認できたのは、一人であります!!」


 一人か……。

 もう一人も、草原にいると思って行動すべきだな。


「よし! 草原には二人の鳥族がいると想定する! 全軍を向かわせろ!」

「お待ち下さい! 魔王様!!」


 部隊長が声をあげた。


「なんだ?」

「砦や湿地帯の方は、どうなさるのですか!? 千人の鳥獣族が向かってるのですよ!? それに戦闘が予想される戦場と、これから向かおうとしている草原は反対方向にあります! 草原に進軍などしていると、最終防衛ラインを超えられてしまいます!!」


 むむ……。

 どうするか……。


「うふふ。魔王様、私に案があります」


 私の側近の一人、ココが提案してきた。


「なんだ?」

「草原には、一番隊から六番隊の精鋭を送り込むのはどうでしょうか?」

「兵力を分散させるというのか?」 

「はい。精鋭の方達には、鳥族を可能な限り早く殲滅していただいて、すぐに前線へ向けて移動してもらうのです」

「ふむ……」

「残りの兵士の皆様は、すぐにでも前線に向かってもらい、最終防衛ラインを守っていただくのです」


 なるほどな……。


「歩兵部隊長、一番隊から六番隊の兵士達で、二人の鳥族を始末できるか?」

「はっ! 問題ありません!」

「よし、分かった! ココの案を採用する! 歩兵部隊の一番隊から六番隊は草原へ、それ以外の部隊は、すぐに湿地帯に向けて進軍を始めよ!」

「「「了解!!」」」


 私の号令をきっかけに、皆、一斉に部屋から出て行った。


「ミミ、ココ、我らも湿地帯に向けて移動を始めるぞ! ガルーダを用意しろ!」

「はい。仰せのままに」

「うふふ」


 それにしても、鳥獣族が千人か……。

 かなり多いな……。


「しばし待て……」

「どうかなさいましたか?」

「うふふ」


 やはり魔王軍だけでは心許ないか……。

 よし……。


「ミミはガルーダを用意しろ。ココは演説広場に民を集めろ。民に協力を仰ぐ」

「はい」

「うふふ。民にですか?」


 ココは疑問を感じたのか、私を不思議な目で見てきた。


「ああ。千人はさすがに多すぎる。我々魔王軍だけで、押し返せるかどうか分からぬ」

「珍しく弱気でございますね」

「うふふ。魔王様らしくございませんね」


 私らしくないか……。

 だが、実際に危機的状況であるのは間違いない。


 私は側近と別れ、一人で演説広場へと向かった。

 演説広場には、多くの民が待っていた。

 短時間で、これだけの民が集まったのは、ココの素晴らしい働きのおかげだ。


 私は協力を仰ぐため、民に向かって演説を始めた……。


「民衆の諸君! 現在、我々スライム族に最大の危機が迫っている! 鳥獣族が本格的に攻めてきた! 千人の鳥獣族軍が我々の領土へと侵攻を始めたのだ!! 我々魔王軍は、力の限りを持って鳥獣族と戦う! だが! 戦力が足りないのも、また事実!! そこで民衆の諸君に頼みがある!! 戦える力を持つ者よ!! すぐに湿地帯へと向かって欲しい!! 繰り返す! 戦える力を持つ者よ!! すぐに湿地帯へ向かい! 我々魔王軍と共に、鳥獣族と戦って欲しい!!」


 私は演説が終わると、すぐに側近と合流し、ガルーダに乗って湿地帯へと向かった。


 民はどう思っただろうか……。

 情けない魔王だと思っただろうか?

 だが、種族の危機だ。

 私は、例え道化になったとしても、スライム族の未来のために戦わねばならぬ。


 それが、スライム族の魔王としての、私の責務だ。



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