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第二十六話 「野望の序章」

 俺はどうやら、スライム族の敵として、攻撃対象になったようだ……。


「ちょっと待て!! 俺、スライム族だって!! えーっと……、そう! 神官カイザーの息子だ!!」


 俺は敵じゃないことを、何とか伝えようと思った。

 だが、どう伝えたらいいのか分からず、結局、カイザーの息子だということしか、言えなかった……。


「ふっふっふ。スライム族のことを勉強したのか? まさか神官様の名前が出るとはな」

「しかし、あの大いなる子の一人、パントロ殿を名乗るとは、この鳥野郎はバカだな」

「「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」


 二匹のスライムが、一緒に声をあげて笑い出した。


 何で笑ってられるんだよ!?

 炎の部屋に閉じこめられてるんだぞ!?

 死にそうなんだぞ!? どうするんだよ!? どうやって脱出を……。

 あ、そうか……。

 俺を殺すために、コイツらは自分の死も受け入れてるのか……。

 くそっ! またスライム族の常識かよ!!


「ああああああああああああああああ!! もう!! とにかく脱出するぞ!!」

「ふっふっふ。無理だな。炎の壁と炎の天井だ。このままここで死を待つのだな」

「それに、お前が脱出しようとするのを、俺達が黙って見ていると思うか?」

「「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」


 くっそ……。何なんだよコイツら……。

 一緒に脱出しようって言ってるのに……。

 もういい。こいつらは無視だ!!

 こいつらの意見は無視して、強引に外に連れ出してやる!!


 と言っても……、どうするか……。

 炎の壁と、炎の天井……。だんだん中も暑く……、いや熱くなってきた……。

 時間がないな……。数分もしたら、本当に蒸し焼き状態になってしまいそうだ。


 仕方ない。いい手も思いつかないし、強引に突破しよう。

 確か、天井は炎だけで作られていたはず……。

 よし。上に思いっきりジャンプしてみるか。


 俺はゆっくりと、スライム達に近づく。


「ふっふっふ。何のつもりだ? 俺達を喰うつもりか?」

「簡単に喰われると思うなよ?」


 何なんだコイツらは……。だんだん腹が立ってきた……。


「あー。脱出するから、動くなよ」

「は? 何を言ってる?」

「ふっふっふ。鳥野郎の頭では、この状況が理解できないのだろう」

「「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」


 ムカついたので、無言でスライム達の兜を掴んだ。


「何をする!?」

「我らの兵の証に手を掛けるな!!」


 何か言ってるが無視だ。

 よし、思いっきりジャンプするぞ……。


 俺は腰を落とし、全身に溜めていた魔力を足へと移動させた。

 自分でも分からないが、魔力を足に溜めれば高く飛べる、そんな気がした……。

 そして……。


「おりゃあああああああああああああああああ!!」


 全力で地面を蹴り、炎の天井に向かってジャンプした。

 一瞬だけ、炎の熱さを感じた。


「おおおおおおお!?」


 俺は今、空中にいる。

 炎の部屋から脱出できたようだ。


 だが、自分でもビックリなのだが、もの凄い高さまでジャンプしたらしい。

 下に雲が見える……。


 きっと足に魔力を移動させたせいだろう……。

 まあ、その魔力は、いつの間にか何処かへ消えてしまったみたいだが……。

 ジャンプするときに、魔力を放出してしまったのだろうか?

 自分の意志とは無関係に魔力を操作してしまうとは、俺はまだまだ魔力操作が下手だな……。


「は、離せ!!」

「き、貴様!!」


 どうやらスライム達も無事のようだ。


「今離したら、お前ら死んじゃうぞ? 無駄死にはイヤだろ?」

「くっ!!」

「何てことだっ!!」


 スライム達が、悔しそうな声をあげている……。

 もう一度、俺は敵じゃないって事を伝えてみるか……。

 無駄かも知れないが……。


「俺は鳥獣族じゃない。見た目は鳥族だが、中身はスライム族だ」

「はあ!?」

「何を訳の分からんことを!!」


 予想通りだな。やっぱり理解してくれない……。


「はぁ……」


 俺はため息を一つしてから、一気に地面へと落下していった。

 落下中、雲を抜けて、空中から地上を見ると、凄い景色が見えた。


 鍛錬場の草原一杯に、土の壁が出来ている。

 網の目のように、土の壁が繋がっていて、小さな部屋がいくつも作られている。

 どうやら俺は、その一室に閉じこめられていたようだ。

 一部分だけ……、おそらく俺がいた場所だけ、炎で覆われている。


 なるほど……。土の壁を沢山作って、ターゲットを閉じこめたら、そこに蓋をするのか……。

 えげつない方法だな……。


 よく見ると、それぞれの小さな部屋の中には、スライムが数匹ずつ閉じこめられている。

 きっと、あのスライム達は、足止め役なのだろう……。

 スライム族らしいと言うか……。何というか……。


「あー。お前達、生きてて良かったな」

「貴様!!」

「我らを愚弄するか!!」


 愚弄って……。そんなつもりは無いんだが……。


「焦茶のスライムが……、えっと、司令官……? だよな?」

「だったら何だと言うんだ!!」

「いい加減、その手を離せ!!」


 いや、離すわけ無いだろ。すごい高さだぞ……。

 さすがに、この高さは死ぬだろ……。

 まあいいや……。焦茶、焦茶……。


 俺は焦茶のスライムを捜す……。

 地面に向かって落下しながら捜す……。


 お? 焦茶を発見! あそこだな!

 ん? なんだ? 土の壁が徐々に、地面に沈んでいく……。

 俺を仕留めたと思って、魔法を解除してるのか?

 それとも……。俺と戦いやすくするために、元に戻してるのか?

 なんか、不思議な光景だな……。


「隊長おおおおおおおおおおおお!」

「魔法を撃ってくれええええええええええええ!!」


 落下中、突如、俺が捕まえているスライム達が叫びだした。


「おい!! お前ら止めろよ!! 話し合おうよ!!」

「鳥野郎め!! 何を言ってやがる!!」

「ふっふっふ。貴様の命はもうすぐだぞ」


 やっぱりダメか……。どうしよう……。

 あ、やべえ。下の連中がこっちを見た……。


「俺は敵じゃないぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 戦う理由はないので、俺は味方だと、俺は敵じゃないんだと、とにかく叫んだ。


「ふっふっふ。無駄な足掻きを……」

「無駄だ! 無駄!」


 俺の両手にいるスライム達の言うとおりだった。

 地上から、俺に向かって数々の魔法が放たれた。


「くっそ!! お前ら、受け身の用意しとけよ!!」

「何を言ってる?」

「ふっふっふ。貴様はこのまま、やられるがいい!!」


 あーダメだ。コイツらに何を言ってもやっぱり無駄だ。


 俺は魔法を避けるために、翼を広げ、少しだけ方向を変えながら地上へと落下する。

 うまく魔法を避けながら、地上を目指す事にしたのだ。

 もちろん、魔力を溜めながら……。


 落下中、あらゆる魔法が飛んできた。

 炎の矢、水の玉、土の大槍、土の矢、それらの魔法を避ける。

 魔力を溜めつつ、魔法を避けるために翼を操作し、そして落下する。

 自分で言うのもなんだが、かなり凄いことをやってる気がする……。


 地上から十メートルくらいの場所まで落ちてきた。

 俺は翼を大きく羽ばたかせ、落下速度を緩める。

 そして……。


「お前ら、死ぬなよ!!」

「あ?」

「何を?」


 俺は両手のスライム達を、焦茶のスライム目掛けて、ぶん投げた。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」

「た、たいちょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 よし、スライム達の注意が、俺から離れた。

 今の内だ!


 俺は翼を閉じ、一気に地上へと落下。

 そして、地面に着地したと同時に、高速移動を始める。


「と、鳥野郎はどこに行った!?」

「そっちだ!! いや、あっちだ!!」

「くそおおおお!! またかあああああ!!」


 スライム達が騒ぎ出した。

 俺は、またもスライム達の間を縫うように移動する。

 スライム達は混乱しているのか、体当たりや魔法を見当違いの場所に向かって乱射している。

 俺はその間に、焦茶のスライムの所へ高速で向かう。


 いた!! アイツを捕まえられれば……。


「隊長……」

「助かりました……」


 お? 俺がぶん投げた二人も生きてるな!

 よし……。


「むっ!?」


 焦茶が俺に気付いたか?

 でも、もう遅いぞ!


 俺は高速移動をしながら、焦茶のスライムが被っている兜を掴む。

 そして、そのまま一気に空へ向かってジャンプし、空中で翼を広げ羽ばたいた。


「よお。あんたが隊長さん? だよな?」

「貴様あああああ! は、離せえええええ!!」


 俺の手の中で、焦茶が騒いでいる。


「攻撃を止めさせろ。そしたら離してやる」

「くっ!! そんな脅しに誰が乗るか!!」

「いや、脅しとかじゃなく。俺は味方。スライム族の味方なの!!」

「貴様のような鳥獣族が我々の味方だと!? そんなこと誰が信じるか!!」


 どう説明したら納得してくれるんだよ……。


「あー。ドバイン師匠と一緒だよ。俺も味方なんだって……」

「ドバイン殿と……? いいや! そんな話は聞いておらん!」

「いや、だから……」

「一番隊!! 私に構わず撃てええええええええええ!!」

「ちょっ!!」


 大量の炎の矢が下から飛んできた。


「くそっ!! お前だって死にたくないだろ!!」


 俺は魔法を避けながら、焦茶に話しかける。


「命なんぞ惜しくはない!! 民のため! 魔王様のため! 貴様を絶対に、ここから逃がさんぞ!!」

「はぁ……、お前もかよ……」


 本当に、スライム族の常識というヤツは……。

 ああ、もうメンドイ。

 全員ぶっ飛ばしてやろうか?


「これ以上、俺に攻撃をするなら、俺だって全力で抵抗するぞ? それでもいいのか?」

「ふっ! 何を今更! やれるものなら、やってみろ!!」

「ああ。そう」


 もういいや。全員ぶっ飛ばして、この騒動を終わらせてから、ちゃんと説明しよう。


「おらあああああああああ!! お前らの隊長だ!! 受け取れええええええええ!!」


 俺は大きく振りかぶり、焦茶を地面に向けてぶん投げた。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 焦茶が叫び声をあげながら、地面に向かって落ちていく。

 俺はその様子を見ることもなく、すぐに地面へと落下を始めた。

 そして、地面に着地すると同時に、高速移動を始め……。


「おらあああああああああああああ!!」


 スライム達に掌底を当てていった。

 今までは、スライム達の間を縫うように、高速移動をしていたが、それをやめたのだ。


 次々と、スライム達に掌底を当てていく。

 移動した先にスライムがいれば、掌底を。

 いなければ、方向転換をし、次のスライムを捜す……。

 ひたすらそれを繰り返した……。


 そして……、数分後……。


「ふぅぅぅぅ……」

「ば、バカな……、魔王軍の精鋭が……」


 焦茶を残して、全てのスライムに掌底を当ててやった。

 掌底を食らったスライム達は、全員気絶している。


「おらあ! お前で最後だ! くらえやああああああああ!」


 俺は焦茶に向かって高速移動を繰り出し、掌底を叩きつけるように、ぶち当ててやった。


「ぶぼっ!」


 焦茶が、ぶっ飛んでいった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は自然と雄叫びを上げていた。

 雄叫びが終わると、気持ちがスーッと落ち着いていったのだが……。


 俺って、超強くね?

 コイツらって、魔王軍って言ってたよな?

 魔王軍を無傷で、しかも、数分で全滅させてやった。

 この身体のおかげだよな?

 まるで、チートみたいだな。


 チート……? 本当にそうかもしれん。

 ドバイン師匠だって、こんなに強くないよな?

 俺ってもしかして、チート持ちになったのか?

 この身体は、チート性能の身体なんじゃないか!?


 そうとしか考えられん。

 数分だぞ? 数分で軍隊を壊滅させるって、これもうチートだろ?

 俺はチート持ちになった。そう言い切って良いだろ!


「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は、テンションがバカみたいに上がっていた。


 今までの脇役人生は終わりだ!!

 俺はこれから、主人公だ!!

 それくらい強い身体を手に入れた!!


 あれじゃね? 魔王にもなれるんじゃね?

 だって、ゴブリン魔王より、俺の方が絶対に強いだろ?

 あんなゴブリン、余裕で倒せるよな?


 よし、まずは、魔王になるか……。

 そして、その後は……。やっぱ、大魔王か?


「おっしゃあああああ!! 俺は大魔王を目指すぞおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は、変な風にテンションが上がっていた。

 その結果、自分でも分からないうちに、変なことを叫んでいた。


「ぱ、パントロ……?」

「えっ!?」


 いつの間にか、サーラスティが俺の後ろにいた……。


「え? あれ? サーラスティ? なんで?」

「今、大魔王を目指すって言ったわよね!?」

「あ、いや……」


 やべえええええええええ!!

 調子に乗って、都合のいいことばかり考えて、大魔王なんて口走ってしまった。

 どうする!? どうやって訂正すればいい!?


「ああ……、えーっと、確かに言ったけど……、冗だ――」

「ふふん! さすが、あたしのパントロね! 大魔王を目指すくらいじゃなきゃ、あたしとは釣り合いが取れないものね!」


 俺は冗談だったと言おうとしたのだが、サーラスティは俺の言葉を最後まで聞かずに、なんかとんでも無いことを言い出した。


「え? あ、あの? サーラスティ様? 一体何を……?」

「さあ、パントロ! 大魔王への道を歩むために、さっさと行くわよ!!」

「え!? ちょっ!? どこに!?」

「スライム族の危機よ!! さあ、急ぐわよ!!」

「は、はい?」




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