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第二十五話 「草原の戦闘」

 狩り勝負の次の日。


 俺は朝から、一人で鍛錬場にやってきた。

 ドバイン師匠や、サーラスティ達と一緒に特訓をしていた、あの鍛錬場だ。

 ここに一人で来るのは初めてなので、少し寂しい……。


 俺が鍛錬場に何をしに来たかと言うと、もちろん特訓だ。

 まあ、特訓と言っても、一人で体を動かすだけなのだがな……。


 昨日の狩りで、新たに発見した移動方法がある。

 高速移動だ。

 他にも試したいことはあるのだが、まずは高速移動を試してみようと思う。


 俺は身体に魔力を溜め始める。

 いつものように、全身に行き渡るように魔力を溜め続ける。

 魔力が溜まったところで、俺は腰を落とし、ダッシュするように地面を蹴飛ばした。


「おりゃあああああああああああああ!!」


 高速移動が始まった。

 俺はしばらくの間、高速移動を続ける。

 思ったように動けるのか、自在に方向転換は出来るのか。色々と試した。

 特に問題は無かったので、次の段階へと進むことにした。


 草原には、いくつかの枝を目印として置いてある。

 この草原には何もないので、障害物を想定した目印を置いてみたのだ。

 俺は目印に向かって、最高速で突っ込む。

 そして……。


「ここかっ!?」


 目印に当たらないように、ギリギリの所で、右へと方向転換する。

 方向転換した先にも、もちろん目印がある。


「ここっ!!」


 同じようにギリギリの所で、今度は左へと方向転換する。

 次に向かった先には、二つの丸太が置いてある。

 この丸太は、敵を想定して置いた物だ。

 俺は、腕を大きく広げ、丸太の間に向かって突っ込む。


「おらああああああああ!!」


 通り抜ける直前、俺は両方の丸太を、切断するつもりで思いっきり引っ掻いた。

 両手の爪から、いい感触が伝わってきた。

 俺は高速移動を止めるために、足を地面へと突き出す。

 ザザザッと、地面を数メートル削りながら進んで、俺は止まった。


「どうだ?」


 俺は丸太の方へ振り向いた。

 すると……。

 二つの丸太は、斜めに綺麗に切断されていた。


「おし。良い感じだな」


 高速移動は問題なく動けたし、この鋭く長い爪は、戦いに利用できる事が分かった。

 鳥野郎が、引っ掻き攻撃をよく使っていたので、なんとなく分かっていたが、これほど威力があるとは思わなかった。

 一発でも、まともに食らっていたら、死んでたかもな……。


 いやいや、そんなことより、一人でやる特訓って、こんなにつまらないんだな……。

 敵を想定して丸太を置いたり……。独り言を言ったり……。寂しすぎる……。

 はぁ……。みんなと特訓してたときが懐かしいな……。


 さて、気を取り直して、次は硬質化を試してみよう。

 俺の命を救ってくれた、スライム族の奥義だ。

 この奥義は、スライム族だから出来るのか、それとも魔力操作さえ上手くやれば、この身体でも出来るのか……。

 試さずにはいられない。


 俺は硬質化の練習を始めた……。



――


 硬質化の練習を始めてから、数時間ほど経った。


 結果だけ言うと、全身を硬質化する事は出来なかった……。

 魔力を薄く伸ばし、それを体の表面へ張り付けることで、硬質化が出来るのだが……。

 鳥獣族の身体はデコボコしすぎて、うまく表面に張り付けることが出来なかった……。


 そこで、発想を変えてみた。

 爪や、クチバシ、この辺りなら、硬質化できるのではないかと……。

 そこから、しばらく練習した……。


 爪やクチバシは元々硬い、その硬い箇所を、更に硬くしてどうするのか?

 そんなことに気付けないから、俺はバカなのだ。

 長いこと練習して、爪の硬質化が成功してから、その事に気付いた……。

 自分のバカさ加減に、ちょっと泣きそうになった……。


 この身体でも、魔力操作で硬質化が出来ることが分かったのだ。

 分かったことがあっただけ、良かったと思おう……。


 この後も、魔力操作の練習や、身体を動かしたりと、俺は特訓を続けた……。



――


 特訓を続けて、更に数時間後。


 なんだあれ?


 俺が空を飛ぶ練習をしていると、八頭のサイがこちらに向かってくるのが見えた。

 それぞれのサイの上には、兜を被ったスライムが十匹くらい乗っている。

 全部合わせると、八十匹くらいのスライムの大群だ。


 なんだ? 兜を被ってるスライムって、どっかで見たな……。

 どこだっけ? 魔王の演説のときだっけ?


 そんな風にノンキに考えていると……。


『フレイムアロー!』

『ウィンドボール!』

『フレイムアロー!』

『アースランス!』


 突然、サイの上からいくつもの魔法が放たれた。


「ちょっ!!」


 炎で作られた無数の矢、その中央に風で作られた玉が見えた。

 無数の炎の矢が、風の玉から離れるように、広範囲に広がっていく……。

 その直後、土で作られた大きな槍状の魔法が、中央にあった風の玉をかき消すように突き破った。


 土の大槍、広範囲に広がった無数の炎の矢。

 これらの魔法が、空中にいる俺に向かって、もの凄い速度で飛んできたのだ。

 

 俺は咄嗟に羽ばたくのを止め、地面に向かって落下する。

 しかし、広範囲に広がった炎の矢が、俺の邪魔をするように襲ってくる。

 俺は小さく翼を広げ、空中で体勢を変えながら炎の矢を避け続けた……。


「一番隊、二番隊、六番隊は、正面! 三番隊は右翼! 四番隊は左翼! 五番隊はヤツの後方へ回れれ!」


 俺が魔法を避けるのに必死になっていると、指示をするような声が聞こえた。


「「「了解!!」」」


 スライムの大群が大声をあげた。

 俺はその直後、なんとか地面に辿り着いたのだが……。

 いつの間にか、先ほど空中で見たサイ達が、すぐそこまでやってきていた。


 一斉にスライム達がサイから飛び降りる。

 そして、俺を取り囲むようにして、全員が一斉に動き出した。


「ちょ、な、なんですか!?」


 マジで意味が分からない。何が起きている?

 なんで俺に魔法を撃ってきた? お前らは誰だ?

 つーか、なんで誰も答えてくれないんだ?

 シカトって、結構ツライんだぞ!?

 あ、あれ……? アレって、もしかして……。


 スライムの大群の後方。一匹のスライムの頭上で、魔法が作られていくのが見えた。

 水が高速回転している……。さらに水が増え、また高速回転を始める……。

 どんどん、水が大きくなっていき……。


 おいおい。マジか?

 あれって、ユカリスが使ってた……。


 スライム達が、道をあけるようにして割れていく……。


『ウォーターハリケーン!!』


 水の竜巻が完成し、俺に向かってスライドするように突っ込んできた。


「ちょ、ちょっと、だから、一体なんなの!?」


 俺は訳も分からず、とにかく逃げる。

 水の竜巻から、少しでも離れようとしたのだが……。


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺を邪魔するためなのか、一匹のスライムが体当たりを放ってきた。


「うおっ!?」


 俺は咄嗟に、その体当たりを避けた。


「どるああああああああああああ!!」 

「うっひょおおおおおおおおおお!!」

「ぐらああああああああああああ!!」


 さらに数匹のスライムが、体当たりを放ってきた。

 しかも、次の体当たりを準備してるヤツが、周りに何匹もいる。


「ちょっ!! やめっ!!」


 次々と繰り出される体当たりを、俺は避け続けたのだが……。


「退避!!」


 避難の指示が辺りに響き渡った。

 その時、俺のすぐ後ろには、水の竜巻があった。

 体当たりを避けるのに集中しすぎて、水の竜巻がこんなに接近してることに気付かなかった……。


 やべえ!!


 咄嗟に俺は、全力で地面を蹴り、転がりながら前に進む。

 すぐに体勢を立て直し、全力で斜め上に向かってジャンプをし、翼を大きく広げ、全力で羽ばたいた。


「くっ!! 五番隊! 逃がすな!!」

『アースアロー!』

『ウォーターランス!』

『フレイムボール!』


 焦茶のスライムが、指示を出しているのが見えた。

 だが、それどころじゃない。

 俺は空中を逃げる。

 水の竜巻から離れるように、空を飛びながら逃げる。


 空中を移動するのは、ほとんどやったことがない。

 飛ぶ練習を先ほどやっていたくらいだ。

 このまま逃げ切れるとも思えないし、体力的にも長く持たない。

 俺は空中で逃げつつも、魔力を溜め始めた。


「うぉ!?」


 俺の目の前を、数本の土の矢が通り過ぎていった。


 空中だとマズイな。身動きが殆ど取れない。

 なんとかしなきゃ……。でも、あの竜巻が……。


 水で作られた大槍が、こちらに向かってくるのが見えた。

 俺は羽ばたくのを止め、地面に向かって落下する。

 落下するとき、俺の頭上ギリギリの所を水の大槍が通り過ぎた。


 落下中、今度は炎の玉が飛んできた。

 しかし、炎の玉は、俺の遙か上を通り過ぎるような軌道だ。

 当たらないから無視しても良さそうだ。そう思ったのだが……。


『バースト!!』


 炎の玉が、俺の遙か上で、爆散した。

 無数の火の玉が、雨のように上から降ってくる。


「マジかああああああああああああああああ!!」


 鳥野郎も使ってた魔法だ!!

 早く、早く地面に!!


 火の玉が俺に当たるよりも先に、俺は地面に着地し、着地と同時に全力で地面を蹴飛ばした。

 すでに魔力は全身に溜まっている。

 高速移動の開始だ。


 まず、水の竜巻だ。アレを何とかしないと……。

 確か水の竜巻は、移動させるのに魔力を使うはずだ。

 だったら……。


 俺は、高速移動しながら、水の竜巻を操っているヤツを捜す。

 捜すまでもなかった。最初の位置から変わってない。


 俺は高速移動をしたまま、スライム達の間を縫うように通り抜ける。

 上から、火の玉も降ってくるが、もちろん全て避ける。

 そして、一気に、水の竜巻を操っているヤツの前まで行き……。


「くらえっ!!」


 掌底を、ぶち当ててやった。


「ぷぺっ!」


 掌底を食らったスライムが吹っ飛んでいくのが見える。


 魔撃ではなく、ただの掌底だ。

 魔撃を使い、魔力が身体から抜けると、高速移動が出来なくなる。

 それに、魔撃を当てて死んでしまったら可哀想だ……。

 そんなことを考えつつ、俺はさらに高速移動を続ける。


「なんだ!?」

「う、撃て! 撃て撃て!!」

「どこに行った!?」

「ベン! そっちに行ったぞ!!」


 スライム達は、俺の動きが見えてないのか、騒ぎ出した。

 俺は高速移動を繰り返す。

 あっちに行ったり、こっちに行ったりと、縦横無尽に鍛錬場の草原を駆け巡る。


 高速移動していると、水の竜巻が視界に映った。

 水の竜巻は動きを止めたまま、辺りに水をまき散らしながら、どんどんと小さくなっていく。

 術者をぶっ飛ばしたので、制御できなくなったのだろう。

 俺の狙い通り、上手くいったようだ。


「くっそおおお!! 補足できんぞ!!」

「いいから、魔法を撃てよっ!!」

「お前も体当たりをしろよっ!!」


 なんか、スライム達が言い争いを始めたな……。

 それより、どこだ? どこに行った……?


 俺は、焦茶のスライムを捜している。

 アイツが命令を出してる。アイツが何かを知ってるはずだ。

 俺に攻撃をしてきた理由が分からん。


「全部隊!! フォーメーション! 六六六!!」


 焦茶のスライムの声が響き渡った。

 俺はその声を頼りに、焦茶のスライムを見つけたのだが……。


「とおおおおおおおおおおおおおお!!」


 スライムが一匹、高速移動している俺に向かって、体当たりを放ってきた。

 もちろん俺は余裕で避ける。


「きゅううううううううううううう!!」


 だが、避けた先にも、別の体当たりが飛んできた。

 いや、俺がどの方向に避けてもいいように、あらゆる場所で体当たりが放たれている。


 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦か!?


 一瞬そんな事を考えたが、そんな甘い作戦じゃなかった。


『アースウォール!!』

『アースウォール!!』

『アースウォール!!』

『アースウォール!!』


 俺を囲うようにして、土の壁が地面からせり上がってきた。


「なんだあああああ!?」


 俺は方向転換することが出来ず、とにかく動きを止めようと、地面に足を突き出した。

 ザザザッと地面を削りながら、俺は止まった……。


 四方を土の壁に囲まれた……。

 中には、俺と、スライムが二匹……。


『フレイムウォール!!』


 外から魔法名を叫ぶ声が聞こえた……。

 イヤな予感がして、上を向くと……。

 炎で作られた壁が、蓋をするように、落ちてきていた。


「ええええええええええええええええ!?」


 ヤバイヤバイヤバイ! どうする!? どうすればいい!?

 俺が驚き、悩んでいると……。


「ふっふっふ……。鳥野郎……、一緒にくたばれや……」

「俺達と一緒に地獄に行こうぜ……」


 俺と一緒に閉じこめられた、スライム達が話しかけてきた。


『フレイムウォール!!』

『フレイムウォール!!』

『フレイムウォール!!』

『フレイムウォール!!』


 またも同じ魔法名が外から聞こえてきた。

 今度は、俺を囲んでいる土の壁が、一気に炎に包まれた。


 次の瞬間、上からドンッ! と大きな音が聞こえた……。

 上を見ると、炎の蓋がされていた……。


 炎の壁と炎の天井……。完全に閉じこめられた……。


「ふっふっふ。このまま蒸し焼きがいいか?」

「それとも、無謀に突っ込んで、直接焼かれるか?」


 スライム達が、悪びれることもなく、俺に問いかけてくる……。


「なに言ってんだよ!? おい!! このままじゃ死んじゃうぞ!?」


 俺は軽くパニックになりながら、スライム達に向かって叫んでいた。


「ふっふっふ。当たり前だ。それが我々の望みだ」


 は? 望み……?


「おい。鳥野郎。どうやってスライム領に入ってきたか知らんが、我々魔王軍を舐めるなよ!」


 もう一匹のスライムが、冷たく俺に言い放った。


 そこで、ようやく分かった……。

 俺は鳥獣族の見た目になっている。

 そのせいで、敵だと思われた……。

 スライム達を襲いに来たと、勘違いされたのだ……。



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