幕間 狩りの後 -それぞれの想い-
本編に直接は関係ないので、幕間にしました。
パントロは登場しません。ご注意下さい。
――サーラスティの想い――
やっぱりパントロは凄い。
大きな牛を狩ってきた。
牛を見たとき、あたしは狩り勝負に負けたと思った。
それなのに、パントロは自分から負けを認めた……。
確かに、どちらが多くの獲物を仕留められるかという、数の勝負だったけど、あたしは負けを認めている。
だって、どんなに頑張っても、あたし達には、牛なんて狩れないもの……。
牛は凶暴だし、初級魔法や体当たりなんかじゃ、ダメージを与える事なんて出来ないわ……。
きっと、あの鳥獣族の身体のおかげね。
いいえ……。鳥獣族の身体がどうとかじゃないわね。
前から、パントロは凄かったもの……。
最初に会ったのは、師匠の特訓を受けたとき。
あの時は、ボッコボコにやられていて、情けないと最初は思った……。
でも、それは違ったのよね……。
あれは魔撃という必殺技を習得するための特訓だった。
あたし達が、避ける特訓をする前に、すでにパントロは攻撃の特訓を始めていた……。
それを知ったとき、あたしの中でパントロは特別な存在になっていた……。
いいえ……。そうじゃないわね。
特別な存在だと感じたのは、もっと前ね。
あれは、街に獣族がやってきた日。
あたしは恐怖で動けなかった……。あの獣族は味方だと言われても、信じられなかった……。
だって、あの時のあたしには、獣族がバケモノにしか見えなかったから……。
そのバケモノの横に、紫色のスライムがいた……。
紫色のスライムは、ピョンピョンと跳ねながら、獣族に話しかけていた……。
とても自然に……。普通の事のように……。
あれが神官の息子、パントロだって知ったのは、少し後のこと。
でも、あの時から、あたしの中でパントロは特別な存在になっていたのよね……。
ふふっ。少し前の話なのに、懐かしくなっちゃうわね。
少し前と言えば、昨日も……。
すごいモノを見せられて……。
あれって、やっぱりそう言う意味よね?
ま、まあ、あたしもパントロならって思ってたから……。
ん? あたしったら、何を考えてるのかしら。
今はそれよりも大切なことがあるじゃない。
そう、今日の狩り勝負についてよ。
あたしとしては、勝っても負けても問題なかったのよね。
あたし達が勝てば、パントロは見た目が変わっただけで、恐れる必要はない。
負けても、パントロは強くなったから、あたし達の戦力が大幅にアップする。
そうなる予定だったのに……。
はあ……。
予定は予定ね。上手くいかないわね……。
勝負は一応あたし達の勝ち。
それなのに、みんなはもっとパントロを怖がっちゃったわ……。
あんな大物を狩って来るからよ……。
まったく……、パントロったら……。
はあ……。みんなの士気が下がらなきゃ良いけど……。
作戦会議の時にでも、みんなと相談でもしようかしら。
――ガルディウスの想い――
パントロ。お前は一体何なんだ?
オレは英雄の息子、そして貴様は神官の息子。
どちらも優秀な親を持ち、そして将来を期待されてる存在だ。
それなのに……。
何故お前は、いつもオレの一歩先を行く!?
いや、今回に限っては、一歩どころじゃない!! 百歩以上の差がついた!!
何なんだよ!! その鳥族の身体は!!
クソッ!! どうしてだ!? なんでだ!?
オレとお前、何がそんなに違うというのだ!!
考えれば考えるほどに、ムカムカしてくる。はらわたが煮えくり返りそうだ。
くそっ……。俺だって……。俺だって鳥族と戦えてさえいれば……。
イヤ……。負け惜しみだな。
パントロがスライムだった頃から、オレの方が格下だった……。
いつもいつも、オレよりも成果を上げていたのはパントロだ。
避ける特訓も、魔撃の扱いも、集団戦闘でだって、パントロに良いところを持っていかれた。
今回の狩りだってそうだ。
牛だと!? 今までスライム族が、牛にどれだけ喰われているか知っているのか!?
スライム族にとって、牛という存在がどれほど驚異なのか、パントロは分かっているのか!?
ふう……。少し落ち着こう……。
まあいい。今の内だ。パントロ、今の内だけだぞ。
いずれ……。オレだっていずれ、転生してやる。
それが、貴様のライバルである、オレの役目だろ?
見てろよ……。いつかきっと、貴様が驚くような転生をしてやるからな!!
――リンジーの想い――
パントロくんは凄い!!
前から凄かったけど、今はもっと凄い!!
だって、鳥族の身体を手に入れたんだよ!?
鳥獣族に転生するなんて凄すぎるよ!!
ボクには夢がある。
それは、転生をすること。転生すれば、ボクの願いが叶うかも知れないから。
でも、現実的なことを考えると、無理だって思ってた……。
それなのに!! ボクたちの仲間のパントロくんが、転生をしちゃった!!
もしかしたら、ボクの夢も叶うかも知れない!!
その可能性をボクに見せてくれた!!
もう……、すっっっっっっごい!! 嬉しい!!
みんなはパントロ君を怖がってるみたいだけど、怖がる必要なんてないよ!!
だって、一緒に特訓をした仲間じゃないか!!
でも、どうしてだろう? いつもみたいに、パントロくんに話しかけることが出来ない……。
急に強くなったのを見せつけられて、距離感を感じちゃったのかな……?
リーダーに相談して、みんなで話し合った方が良いかもしれないね……。
――ボルドの想い――
パントロ殿は勇ましい姿になっただけでなく、やはり強くなったのである。
我輩、何度か牛を見たことがあったが、勝てるなどと思ったことは、一度も無い。
それをパントロ殿は一人で仕留め、そして担いで戻ってきたのである。
我輩達には、無理な芸当である。
パントロ殿は謙遜して、よく分からないなどと言っておったが、やはり師匠と同じくらいに、強くなっているのではなかろうか。
我輩には、そう思えて仕方ない。
リーダー殿が、狩り勝負と言い出したときは、我輩もガルディウス殿も勝てると思っていた。
だが、結果は、パントロ殿の圧勝だ。
牛を狩るなどと、そんな発想が我輩達には無かった。
しかし、パントロ殿はやはり謙遜をする。
自分の負けだと言い出した。
我輩は驚いた。確かに数の勝負であったのだが、どう見てもパントロ殿の圧勝だ。
我輩達が仕留めてきたネズミは五匹。全てを合わせても、牛一頭と釣り合いが取れてるとは思えん。
何故、謙遜をするのか……。
リーダー殿は、パントロ殿の申し出を受け入れ、我輩達の勝ちという事になった。
だが、やはり皆の顔は優れぬ……。
皆、わかっているのだ。真の勝者はパントロ殿だと。
勿論、リーダー殿も……。
我輩は、リーダー殿について行く。
今回も、リーダー殿の決定には従う。
だが、パントロ殿をもっと称えても良いとも思う。
皆、どうしたのだろうか? やはり姿が変わったパントロ殿を、恐れているのだろうか?
パントロ殿は味方、否、仲間である。
リーダー殿に進言せねばならぬな……。
――ユカリスの想い――
パントロちゃんが怖くなった……。
可愛かった、あのパントロちゃんが……。
お師匠様みたいな、鳥獣族の見た目になっちゃった……。
サーちゃんは、大丈夫だって……。
リンちゃんは、格好良くなったって……。
でも、わたしは怖い……。
パントロちゃんに食べられちゃう……。そんな気がしたの……。
わたしはいつでも逃げられるように、パントロちゃんから目を離さない……。
サーちゃんの後ろから、パントロちゃんを監視する……。
たまに怖い目でパントロちゃんが睨んでくる……。
でも、わたしは負けない……。サーちゃんと力を合わせて、パントロちゃんから逃げるの……。
最初はそう思って、パントロちゃんを見ていた……。
でも……。パントロちゃんは、いつものパントロちゃんだった……。
狩りの後、パントロちゃんは負けを認めた……。
あんな凄い大物を獲ってきたのに、わたし達に勝ちを譲ってくれた……。
パントロちゃんは、いつも優しい……。
サーちゃんにも、わたしにも優しく接してくれる……。
初めて会ったときから優しかった……。
サーちゃんに、わたし達よりも、一歩も二歩も先に進んでる天才だって聞いてた。
そんな凄い子が、わたしみたいな弱虫を認めてくれるわけがないって思ってた。
でも、パントロちゃんは、優しく接してくれた。
魔法を使うと驚いて、そして褒めてくれた……。
集団戦闘の時、わたしの魔法にパントロちゃんが巻き込まれちゃったけど、あの後も褒めてくれた。
ユカリスのおかげで、勝てたんだぞって、言ってくれた。
パントロちゃんは、すごく優しい……。
でも、やっぱり見た目が怖い……。
明日にでも、サーちゃんに相談しよう……。
いつもみたいに、みんなで一緒に特訓が出来るように……。
優しいパントロちゃんと、また仲良くなれるように……。




