第二十四話 「森林の勝負」
次の日の朝。
俺は一人で森に行くつもりだったのだが……。
「ぱ、パントロ……。お、おはよう……」
家の前に、いつものメンバーが居て、サーラスティが挨拶してきた。
「お、おはよう……」
やべえええええええええええ!!
昨日、あんな醜態を晒してしまったのに、どんな顔をすればいいのか分かんねえええええ!!
どうしたらいいのか、頭の中でアレコレ考えていると……。
「き、貴様がパントロか? 本当にパントロなんだな?」
ガルディウスが警戒しながら、俺に話しかけてきた。
そんなに怖いのだろうか?
まあ、俺も最初にドバイン師匠に会ったときは、ビビリまくったけど……。
「お、おう。ガルディウス。久しぶりだな。四日……、いや五日ぶりか?」
「本当らしいな……。しかし、こうして目の前で見ても……、信じられん……」
信じられないか……。そりゃそうだな。
この前まで、紫のスライムだった俺が、今じゃ鳥族の見た目だもんな……。
全く違う生き物になってるんだ……、すんなりと信じられる方が変かもな……。
「パントロ殿……。勇ましい姿になったのであるな……」
ボルドが、俺の身体をジロジロと見ながら、そう呟いた。
「ああ、ボルド……、そうなんだよね。転生したからさ……」
「師匠のように、強くなったのであるか?」
「い、いや……、まだ、自分でもよく分かってないんだよね……」
「そうであるか……」
ボルドは、すんなりと受け入れてくれたのだろうか?
普通に話しかけてくれた。
いや……、普通じゃないな……。少し、脅えるような目をしてる……。
俺は、他のメンバーを確認するように、周りを見た。
リンジーは……、なんだ?
なんか、変な目で見られてるな……。
なんだろう? キラキラした目で見てくる……。
あの目は……。ドバイン師匠を見るときの目にそっくりだな……。
鳥獣族に、憧れでもあるのか?
ユカリスは……、ああダメだ……。サーラスティの後ろに隠れちゃってる。
サーラスティに何かを言ってるようだが、ここまで声は届かないな。
たまに、こちらをチラッと見るけど、泣きそうな目をしてる……。
目が合うと、すぐに隠れちゃうし……。
はぁ……。
完全に怖がられてるな……。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、さあ行くぞい」
カイザーが俺達に声を掛けてきた。
もちろん、行くのは森だ。
そして移動方法は、いつも通りのサイだ。
「はい!」
サーラスティは、元気に返事をするとサイに飛び乗った。
それを見た、みんなは、次々とサイに飛び乗る。
もちろん、俺も……。
「ふぉっふぉっふぉ。では、出発じゃ」
サイがゆっくりと走り出し、俺達は森へと向かった。
――
森の入り口へ到着した。
移動中、みんなの視線が痛かった……。
誰も話しかけてこないし、後ろでヒソヒソと何かを話していた……。
すごく居心地が悪かった……。
全員が、サイから降りると、サーラスティが変なことを言い出した。
「パントロ! 勝負よ!」
「え? しょ、勝負?」
いや、その……。俺が全裸を見せつけたのは、悪いと思ってるよ……。だからって勝負って……。
ビンタ……、は、出来ないか……。体当たりの数発は覚悟しておこう……。
「あたし達と、パントロ、どっちが多くの獲物を仕留められるか、勝負しなさい!!」
あ、あれ? 狩りで勝負するの? それで俺の罪は消えるの?
ん? あれ? もしかして、全裸事件とは関係ないのか……?
「えっと……、なんでそんな事を……?」
「いいから勝負しなさい!! リーダー命令よ!!」
おうふ……。リーダーの権限を使ってきた……。
「いいけど……、どうせ俺、負けるぞ?」
「あら? そんな姿になったのに、ずいぶんと弱気ね?」
「だって、初めての狩りだぞ? 勝てるはずないだろ?」
「ふふん! まあ、そんな弱気なパントロには、確かにあたし達は負けないわね」
何のつもりだ? 喧嘩を売ってるのか?
いや、そんなことをする理由が……、あるか……。
全裸を見せつけたという罪が俺にはある……。
でも、全裸事件とは関係が無さそうなんだよな……。
「はぁ……。別に、勝負なんてしなくていいだろ?」
「ああそう。戦わずに負けを認めるのね?」
「え……、うん。負けでいいです……」
「はああああああああ!? なんなのよ!? いいから勝負しなさいよ!!」
おい……。マジかよ……。
負けを認めてるのに、なぜ勝負しなきゃならん。
それに、なんでキレるんだよ?
「さ、サーちゃん……」
「ユカリスは黙ってて! パントロ! あんたなんか、一人じゃ何も出来ないって教えてあげるわ!!」
そんなの、言われるまでも無いのだが……。
ん? もしかしてサーラスティは、俺に仲間の大切さを、伝えようとしてるのか?
いや……、そんなのは俺だって知ってるな……。
じゃあ……。
ああ、分かった。みんなの事を考えてるのか。
俺がこの姿になってから、みんなは俺を怖がってる。
その俺を、みんなの力で倒そうと、そういうことか。
そうすれば、パントロは見た目が変わっただけで、怖くも何ともないってなるもんな。
よし、そう言うことなら……。
「あー、その……、分かったよ。勝負を受けてやるよ。俺の凄さを、見せてやるじぇ!」
変に緊張して、噛んでしまった……。
「ふふん! 分かればいいのよ! それじゃあ、狩りの勝負、始めるわよ!」
「お、おう!!」
俺とサーラスティ達の、狩り勝負が始まった。
ルールは簡単。暗くなるまでに獲物を多く狩った方の勝ちだ。
全員で一斉に森に入ったのだが……。
森に入ってすぐ、サーラスティが一人で俺に近寄ってきた。
「本気でやりなさいよ? わざと負けるような事をしたら、ただじゃ済まさないからね!」
そう言って、みんなの元へ行ってしまった……。
俺としては、わざと負けるのが、一番いいと思ったのだが……。
俺の考えは間違ってるのだろうか?
考えても、よく分からないので、俺はとにかく、自分の食料を確保すべく動物を捜すことにした。
――
森に入ってから、一時間は経ったと思う。
動物が一匹も見当たらない……。
俺の捜し方が悪いのか、それとも、この辺りには動物は居ないのか……。
そんなことを考えながら、さらに俺は森の奥へと進み続けた……。
すると……。
いた……。あれは……、牛か?
俺が見たのは、茶色い四本足で歩く動物。頭には角がある。
バッファローみたいな、そんな動物だ。
さて……、あの牛を仕留めなきゃならないわけだが……。
どうする……?
俺は隠れながら、様子を窺いつつ、考える……。
この身体で、何が出来るのか……。
みんなは、どうやって狩りをしてるのか……。
なんせ初めての狩りだ。何をすればいいのか、分からない。
考える時間はたくさんあったのに、俺は動物を見つけることだけしか、考えていなかった。
そう言えば……。
この身体で魔撃って使えるのか?
つーか、魔力の操作を、最近やってなかったな……。
そうなのだ。いつもは、時間さえあれば魔力の操作を練習していた。
だが、鳥野郎との戦いの後、俺は魔力を使いすぎたことで、動けなくなった。
あの事が、頭の何処かで引っかかって、俺は魔力を使うのを自然とやめていた……。
やっぱり、魔力が無いと話にならんよな……。
魔界で生きていく。その為には、魔力は絶対に必要だ。
俺は決心し、魔力を操作してみる。
いつものように、核から魔力を出し、体内で出し入れをしてみる……。
うん。問題ないな。
じゃあ、あの牛に、魔撃を食らわせてみるか……。
魔撃を撃つために、俺は全身に魔力を溜め始める……。
全身に魔力が溜まっていくのが分かる……。
俺はそのまま、魔力を溜め続けた。
全身に魔力が溜まった。気のせいだろうか? いつもより早く溜まった気がする。
俺は牛を睨みつけ、一気に近づこうと、腰を落とした。
全力で足に力を入れ、牛に向かってダッシュするように地面を蹴った。
だが……。
「うおおお!? な、なんだああああああああ!?」
俺は今、軽くパニックになっている。
地面を蹴った瞬間、俺は体当たりのような状態で、もの凄い速度で突っ込んでいた。
俺は走るつもりだったのに、地面に足がついていない。
しかも、凄まじい速度でだ。
驚きすぎて、溜めてた魔力がどこかへ行ってしまった。
俺は何とか止まろうと、地面に向かって、足を突き刺すように出した。
ザザザっと、地面を削りながら数メートル進み、俺の動きは何とか止まった……。
ふぅ……。焦った……。取り敢えず止まれた……。
叫んだせいで、牛逃げちゃったな……。
それにしても、一体何が起きたんだ? なんで、あんなに凄いスピードで動いたんだ?
俺は改めて、足に力を入れる……。
そして、腰を落とし、全力で地面を蹴る。
だが、先ほどとは違い、普通に移動しただけだった……。
変だな……。どうなってるんだ?
力を入れる場所が違ったか?
俺は色々と試してみる……。
だが、どこに、どう力を入れても、先ほどと同じような凄い速度は出ない……。
なんだ? 何が違う?
ん? 魔力か? そうか!! 魔力だ!!
俺はバカだな。魔力を溜めてないじゃないか!
俺は再度、魔力を溜める。
全身に魔力を溜め続ける……。
そして、魔力が、かなり溜まったところで、俺は試してみる。
腰を落とし、足に力を入れ、ダッシュするように、地面を思いっきり蹴飛ばす!
凄い勢いで、俺の身体が移動する。
視界に映る景色が、高速で後ろへ流れていく。
先ほどと同じで、足は地面についてない。
体当たりの感覚に似ている。
やばっ!! 大木に突っ込みそうだ!!
俺が向かってる先に大木が見えたので、俺は全力で、地面を蹴飛ばした。
すると……。
「うおっ!!」
方向転換できた。
凄い速度を維持したまま、俺は高速で動けている。
だが、ここは森の中だ。方向転換した先にも、やはり木々が立ち並んでいる。
俺は木々を避けるように、地面を蹴った。
高速移動を維持したまま、俺は木々の間を縫うように移動できた。
動けてる。思い通りに身体が動く!
もの凄い速度なのに、自在に動けてる!
やばい!! この身体は凄すぎる!!
なんだか、楽しくなってきた俺は、そのまま高速移動を続け、先ほど逃がした牛を捜す。
川を発見した。俺は川上に向かって高速移動を続けた。
移動を続けていると、牛の群れを発見した。
水を飲んでいるのか、数十頭の牛が、川に頭を突っ込んでいる。
このまま一気に近づいて、一頭に魔撃を食らわせてみよう。
そう思い、俺は高速移動をしたまま、牛の群れへと突っ込んだ。
爪が長くて、うまく拳を握れない……。
いや、握れるのだが、力がうまく入らない。
仕方ない。掌底で行くか!
一瞬でそう判断し、俺は一頭の牛の身体に掌底を叩きつけ、そして魔力を叩き込んだ。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
牛が叫ぶような鳴き声をあげながら、ぶっ飛んだ。
周りの牛たちは、鳴き声を聞いた瞬間、一斉に森の中へと逃げていった。
すまんな。俺が生きるためだ……。
掌底を食らった牛は、気を失ったのか、それとも絶命したのか、倒れて動かない。
俺は確認のために、牛に近づいた……。
ピクリとも動かないな。死んだのかな?
いや、念のため、トドメを刺しておこう……。
俺は爪を突き立てるように、手刀を牛の首へ突き刺した。
手刀を抜くと、赤黒い血がドクドクと流れてきた。
血抜きってどうやるんだろう……。
逆さまとかにした方がいいのだろうか……?
そんなことを考えつつ、俺は、一頭の牛を狩ることに成功した。
――
辺りが暗くなってきたので、今日の狩りは終わりだ。
あの後、何度か牛の群れを発見したのだが、運ぶ手段が無かったので、諦めることにした。
まあ、一頭の牛が手に入ったのだ。食料としては十分だろう。
俺は牛を担ぎ、そして森の入り口へと戻った。
サーラスティ達の方が、俺より先に戻っていたようで、俺を出迎えてくれたのだが……。
「パントロ? 何それ……?」
サーラスティが驚いたような表情をしていた。
「え? なんだろう? 牛? 何かよく分からんけど、こいつしか見つけられなかったんだよね」
俺は喋りながら、牛を地面に下ろす。
ドスンと、重たそうな音が、辺りに少しだけ響いた。
「ふぉっふぉっふぉ。これは凄いのう。まさか牛を獲ってくるとは。ふぉっふぉっふぉ」
どうやら、こいつは牛で良かったようだ。
サイが全く違う生き物だったから、ちょっと心配していたのだが、牛で合っていたようだ。
「す、すごいな……」
ガルディウスも驚いている……。
「パントロくん! すごいよ!」
リンジーは、何故か、はしゃいでいる……。
「大物であるな……」
ボルドが牛を見ながら、そう呟いた。
驚いてるのか、感心してるのか……。よく分からん。
「ぱ、パントロちゃん……」
ユカリスは、サーラスティの後ろに隠れ、そして俺をチラチラと見ているだけだ。
やはり怖がられている……。
「あー、みんなの方は、どうだったんだ?」
「あ、あたし達は、あれよ」
サーラスティの視線の先には、大きなネズミのような動物が五匹、置いてあった。
「おお!? すげえな!?」
デカイ。スライム族の大きさと同じくらいのバカデカいネズミのような生き物だ。
それを五匹も……。
「ああ……。負けちゃったな……」
「ふぇえ?」
サーラスティが、珍しく変な声を上げた。
「いや、だって、どっちが多くの獲物を狩れるか、だろ? 俺は一頭だから、俺の負けだな……」
「ふ、ふふん! 確かにそうね! 勝負はあたし達の勝ちね!!」
いつもの偉そうなサーラスティ様が、勝ちを宣言した。
狩り勝負は俺の負けだ。結果を受け止めよう。
でも、これで良かったような気もする。
サーラスティは怒るかも知れないが、みんなの事を考えると、俺の負けが正解な気がする……。
後は、みんながどう思うか……。
俺は改めて、みんなの顔を見て回った……。
はぁ……。まだ分からんな……。
それぞれの反応がバラバラだ……。
早いところ俺の身体に、みんなも慣れて欲しい……。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、そろそろ帰るぞい」
カイザーの号令で、みんなはサイへと飛び乗る。
もちろん、みんなが仕留めた獲物はサイに載せてある。
「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主は一人で帰ってくるのじゃ」
「はあ!? なんで!?」
「ふぉっふぉっふぉ。牛が大きすぎて、サイに載らぬのじゃよ」
「あ……、マジで?」
「ふぉっふぉっふぉ。マジじゃ」
サイがゆっくりと動き出す……。
みんな、複雑な表情をしながら、サイの上から俺を見ていた……。
牛が載らないのだから、仕方がない……。
そう自分に言い聞かせて、俺は牛を担いだまま歩き、数時間掛けて、家まで帰った……。




