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第二十三話 「鳥族の身体」

 転生の儀式が終わり、俺とカイザーは、家に帰るため街を歩いていた。

 帰り道、大きなリボンを付けた、赤いスライムの後ろ姿が見えた。


「おーい! サーラスティ!」


 俺は何も考えずに、声を掛けてしまった。


「ん? パントロ……?」


 振り向いたサーラスティは、硬直していた。

 その姿を見て、俺はやってしまったと、少しだけ後悔した……。


「し、神官様!? そ、その鳥獣族は!?」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロじゃよ」


 やはりサーラスティは、俺に気付いてない……。

 身体が変わったのだから、仕方ないとはいえ、少し悲しい……。


「ぱ、パントロ? あ、あなたが、パントロ!?」


 サーラスティは、目を大きく見開いて、驚いているような表情で、俺を見てきた。

 俺の目線が高くなったせいか、サーラスティが小さく見えて、凄くかわいい。


「ははは……、驚かせちゃったみたいだな。転生したんだよね」

「嘘……でしょ……?」

「いや、嘘じゃないよ。ほら、えーっと……、サーラスティ様? 今日もリボンがお似合いですね」

「ほ、本当に……? 本当にパントロなの?」


 なんだろう? 表情が怖い……。睨まれてる気が……。


「う、うん。本当に、俺……、パントロなんだけど……」

「はあああああああああああああああああ!?」


 俺がパントロだと理解したのか、急に、サーラスティが大声を上げた。


「ふざけんじゃないわよ!! その鳥獣族の姿は、なんなのよ!!」

「いや、だから、転生したんだって……」

「分かってるわよ!! さっき聞いたもの!!」


 えぇぇ……。

 分かってるなら、聞くなよ……。

 どういう怒り方だよ……。


「あたしが言いたいのは、そんな事じゃなくて! その……。あれよ! リーダーに何も相談しないで、そんな姿になってるって事よ!!」


 ああ、なるほど。

 相談せずに転生したから怒ってるのか。


「えっと……。ごめんなさい」


 ここは素直に謝ろう。

 みんなのことを、全く考えてなかった。

 転生すれば、ドバイン師匠の手助けが出来る。勝手にそう思って、勝手に転生してしまった。

 全面的に俺が悪いな。


「もう!! ちゃ、ちゃんと謝ったから、今回だけは許してあげるわよ」

「お、おう……」

「いい? もしも次に同じようなことがあったら、ちゃんと相談するのよ?」

「おう。今度からは……、まあ、今度があるか分からんけど、もしあったら、相談するよ」

「ふふん! 分かったならいいわ!」


 どうやら怒りが収まったようだ。

 いつもの、偉そうなサーラスティに戻った。


「ははは……、あのさ? 怒られた後に聞くのも変だけど……、この身体どう思う?」


 俺は身体を見せるように胸を張る。


「そうねえ……」


 ジロジロと俺の身体をサーラスティが見ている……。

 自分で言ったのだが、ちょっとだけ恥ずかしい……。


「パントロ……。え? パントロなのよね?」

「うん。そうだけど……?」


 あれ? ちゃんと理解したんじゃないのか?

 どうしちゃったんだ?


 急にサーラスティの表情が、変わった……。

 なんだろうか、見てはいけない物を見たような、そんな表情に見えた……。

 顔も赤く……、いや、元々赤いのだが、いつも以上に赤くなってる気が……。


「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 急に叫び声を上げて、サーラスティは逃げるように何処かへと行ってしまった……。


「え? なに? 何が起きた?」


 俺は辺りをキョロキョロと確認するが、別に何もない。

 いつものスライムの街。周りに誰かが居るわけでもない。


「ふぉっふぉっふぉ。青春じゃのう。ふぉっふぉっふぉ」


 カイザーが意味不明なことを口走った……。


 結局この後、何が何だか分からないまま、俺達は家へと向かった。



――


 家に到着した。

 初めて、家のドアを開けるという事をやった。

 まあ、普通に開いて、普通に中に入ったのだが、そんな当たり前のことが、何故か嬉しかった。


 さて、まずは、この身体に慣れるために、何をするべきか……。

 そんなことを考えていると……。


「ふぉっふぉっふぉ。まずは服じゃな」


 と、急にカイザーに言われた……。


 服? 服って……。


 俺は改めて自分の身体を見る。

 羽毛で覆われている身体……。

 下半身には、チラチラと羽毛の陰から見え隠れする、俺の大事な部分……。


「あああああああああああああ!! 俺、裸!? 全裸!?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。全裸じゃな」


 マジかよ! 俺って、全裸で街の中を歩いてきたのかよ!!

 つーか、調子に乗って、少し走ったりもしたぞ!?

 フルチンで走り回ったのかよ!! 完全に変態じゃねーか!!


「うわあああああああああああああああああ!!」


 ダメだ……。恥ずかしすぎて死にそうだ……。

 終わった……。俺の鳥族としての、新たな人生が終わった……。


「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」


 クソカイザーが笑ってる。しかも、爆笑してる……。

 ああ……、もうやだ……。

 あっ! サーラスティが、急に叫んで逃げたのって……。


 ああ……、完全に終わった……。仲間に全裸を晒してしまった……。

 しかも堂々と俺の身体を見てくれと、自分から晒した……。


「もう……、死にたい……」

「ふぉっふぉっふぉ。ぱ、パントロ、お、お主は……、ぷぷっ」


 カイザーが笑いをこらえきれずに噴き出した。

 俺はこの後、しばらくの間、恥ずかしさと自分のバカさ加減に悶え続けた……。



――


「ふぉっふぉっふぉ。服は空き部屋に置いてあるのでな。それを着るがよいわ。ふぉっふぉっふぉ」


 カイザーは、そう言うと家から出て行った。

 なんでも、カイザーは、これから用事があるらしく、今日は俺一人で過ごせと言われた。


 空き部屋に入ると、黒いズボンが置いてあった……。

 何処かで見たことがある……。鳥野郎が着てたヤツかな?

 そんなことを考えながら、俺はズボンを着用してみる。


 ズボンと言っても、ハーフパンツのような物だ。

 とにかく、下半身さえ隠せれば何でも良い。


 うん。特に違和感もない。

 上着は無いんだな……。


 そう言えば、鳥野郎も上着は着てなかった……。

 翼があるせいかな?

 ドバイン師匠は、普通に服を着ていたのだが……。

 さて、服も着たし、これからどうしようか……。


 俺は、今日は何をするべきか考え出した……。



――


 俺は、いつもの体力作りをしている場所に来た。

 街の外周を走るときに、スタート地点になる、街の入り口の場所だ。

 まずはここで、身体を自由に動かせるか、確かめることにしたのだ。


 俺は体操をするかのように、全身のあらゆる箇所を伸ばす。

 移動中も特に問題なく動かせたし、こういった基本的なことは問題ない。

 俺が気にしているのは、体力面だ。


 俺はいつものように、外周を走る。

 いや、いつもとは違う。いつもは飛び跳ねて移動していたが、今は、ちゃんと足を使って走っている。

 体力が落ちていないことを祈りつつ、俺は外周を走った。


 数時間後。


 この身体は凄い。

 今までなら、一周しかできない時間で、三周も走れた。

 体力も、スピードも一気に上がってる。

 身体の異常もない。それどころか、調子が良すぎるくらいだ。


 さて、体力の方は問題がない。

 次は……。

 やっぱり、翼だよな……。

 翼が生えてるのに飛ばなきゃ損だよな。


 俺は翼を広げ、動かしてみる。

 走りながらも、少しだけ動かしたので、コツは分かってる。

 バッサバッサと羽ばたくことは出来る。


 どうやって、空を飛べばいいんだ?

 鳥野郎は空を飛んでた……。だが、どうやったら飛べるのか……。

 いや、なんとなくは分かる。飛べる感覚はあるのだが、最初にどうすればいいのか……。


 俺は、思いっきりジャンプしてみる。

 そして、翼を羽ばたかせる。

 すると……。


 お、おお? 飛べてる? 飛べてるよな?

 ホバーリングって言うんだっけ? その場で動かないで浮いていられる。

 ただ、意識的に翼を動かしているので、気を抜くと、すぐに落ちそうだ。

 それに、かなりの勢いで翼を動かしているので、すごい疲れる。


 俺はゆっくりと、翼を動かす速度を落とし、地上へ降りる。


 ん~。かなり疲れるから、あんまり長距離は飛べそうにないな。

 それに、見た目も悪いな。翼を必死にバサバサと動かしている様は、かっこ悪すぎる……。

 鳥野郎はもっとスマートに飛んでたよな……。


 そう言えば、鳥野郎はどこから飛んできたんだ? こんなに疲れるのに……。

 もしかして、鳥野郎の体力は凄まじかったのか?

 それとも、俺の飛び方が間違ってるのかな? 誰かに聞きたいけど、スライム族に聞いても分からないだろうしな……。

 どうしよう……。


 しばらく悩んだ。

 だが、どうしようもない事が分かっただけだった。


 鳥族の知り合いや、飛び方を知ってるヤツなんて、誰もいないので、結局、自分で色々と試してみるしかない。

 そういう結論に至った。


 俺はこの後、暗くなるまで飛ぶ練習を続けた。



――


 体力作りを終え、家に戻る途中で異変が起きた。

 腹が減ったのだ……。


 まずい……。食料が何もない。


 そう思ったのだが、家に帰ると……。


「ふぉっふぉっふぉ。さすがに腹が減ったじゃろう?」

「あ、ああ……。水だけじゃ、さすがにな……」

「ふぉっふぉっふぉ。肉を用意したので、食べるがよいわ。ふぉっふぉっふぉ」


 テーブルの上には、肉が置いてあった。

 何の肉か、分からない。しかも生だ。

 ブロックの生肉が、そのままテーブルの上にドンッと置いてある。


 俺の身体がそうさせたのか、それとも俺の意識がそうさせたのか……。

 俺は、いつの間にか、肉にかぶりついていた。


 一心不乱に肉を食う。食らう。

 味わうことも無く、ただ胃袋へと肉を入れる。

 あっという間に、肉は無くなった。


 微妙だ。

 ほとんど飲み込んだから、味はちょっとしか感じてないが、美味しいとは思えなかった。

 なんていうのか……、獣クサイ。

 生なのが良くないのかな? 次は焼いてから食べてみよう。

 おっと、その前に……。


「カイザー、ありがとうな」

「ふぉっふぉっふぉ。よいよい」

「肉って、どこで仕入れたんだ?」

「もちろん、森じゃよ」


 やっぱり、森か……。


「カイザーが、狩りをして、取ってきてくれたのか?」

「ふぉっふぉっふぉ。いいや。ワシはついて行っただけじゃよ」

「ついて行った?」

「うむ。サーラスティ達にのう。ふぉっふぉっふぉ」


 サーラスティ達?

 もしかして……。


「え!? さっきの肉って、サーラスティ達が、狩りをした動物の肉なの!?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ。その通りじゃ」


 マジか……。

 みんな……、ごめん。

 美味しくないなんて思って、本当にごめん。


 しばらくの間、俺は心の中でみんなに謝罪をした。

 その後、俺の今後の食料をどうするか、カイザーに相談した。


 サーラスティ達は、特訓として、狩りを行なったらしい。

 俺もその特訓に混ざろうと思ったのだが、カイザーに止められた。

 カイザー曰く、俺と、みんなとでは、目的が違うから邪魔になるそうだ。

 最初は納得できなかったが……。


「皆、お主が強くなったと思って、甘えてしまう可能性がある」


 カイザーに、そう言われてしまった……。

 確かに、そうかも知れない。

 俺は見た目がガラリと変わってしまった。しかも、スライム族に恐れられている鳥獣族にだ。

 みんなが俺を頼りにしても、おかしくないのだ。

 そう考えたとき、みんなが強くなるための特訓の邪魔をしてはいけないと、そう思えた……。


 色々と思うところはあるが、納得はした。

 だが、現実問題として、俺の食料が無いのだ。

 みんなの邪魔は出来ない。だが、食料は欲しい……。


 色々と考えた結果、俺は明日、一人で森に行くことにした。



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