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第二十二話 「転生の儀式」

 俺はあの後、カイザーに運ばれたままサイに乗せられて、街まで帰ってきた。

 家に到着するころには、少しだけ動けるようになったので、そのまま自室へ行き、爆睡した。


 次の日、俺の身体は回復したのだが……。

 何故かカイザーに安静にしていろと言われ、カイザーはどこかに行ってしまった。

 家でゴロゴロとしてるのも悪くないのだが……。

 何故だろうか? 自分でも分からないが、身体がうずいて仕方ないので、俺は家から抜け出し、いつもの体力作りを行なった。


 その後は家に戻り、ゴロゴロして何もしなかった。

 家で一人、何もしていないと不安が襲ってきた。

 俺は何をしているのかと。

 ニートだった頃は、何かと暇つぶしがあったので、そんなことを考えた事もなかった。

 だが、この家には暇つぶしなんて何もなく、ただ一人でボーッと過ごすしかなかった。


 次の日の朝。


「転生するなら、心を強く持つのじゃぞ」


 俺はカイザーに、そんなことを言われた。

 魂の欠片を入手したのは俺だ。

 俺以外のヤツは、転生をすることは出来ない。

 そういう言い伝えがある。


「転生するかどうか、お主が判断して決めるがよい」


 そう言われた……。


 俺は悩んだ。悩みまくった。

 自分を捨てることになるような、そんな気持ちになった。

 身体が変わる。もしかしたら、精神的にも何かが変わるかも知れない。

 そう思うと、自分が転生して良いのかどうか、本当に分からなくなった……。


 一日中、悩んだ……。

 体力作りをしながら悩み、水をがぶ飲みながら悩み、ゴロゴロしながら悩んだ。

 そして、決めた。


 俺は転生する。

 鳥族になって、鳥獣族へ潜入して、ドバイン師匠を助ける。

 それがドバイン師匠への、恩返しの一つになる。そう思った。


 そして、次の日。


「心の準備は出来たかのう?」

「ああ。俺は転生する」


 俺は覚悟を決めたことをカイザーに伝えた。


「ふぉっふぉっふぉ。では、行くとするか」


 カイザーは家を出て行ってしまった。

 俺はカイザーの後を追う。

 向かった先は……。


「ここか……」


 俺が最初に目覚めた建物。

 始まりの場所。


 ここは神殿らしい。そして、神官カイザーの職場だと言われた。

 まあ、仕事らしい仕事は殆ど無く、たまに祈りを捧げに来るヤツが居る程度らしい……。

 ちなみに、何に祈りを捧げているかというと……。

 やはり、神らしい。

 神と言っても、俺達が知っている神とは違う。邪神だ。

 邪神、破壊の神、色々な言い方があるらしいが、一応、神だ。


 まあ、魔界の宗教事情なんて、興味がないので、俺は早々に神の話を切り上げ、神殿へと入った。


 相変わらず、中は薄暗かった。


「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主は先に、あの部屋へ行っておれ」

「ん? あの部屋って……、俺が最初に目覚めた、あの部屋か?」

「うむ。そうじゃ。ワシはちょっと準備があるのでな」

「ああ、わかった……」


 俺は一人で神殿の奥へと向かう。

 長い長い坂道を下る。

 転げ落ちた方が早いのでは無いだろうか? そんなことを考えながら、坂道を下り続けた。

 そして……。


「懐かしいな……」


 部屋に辿り着き、中の様子を見ていると、懐かしく感じてしまい、思わず呟いていた。

 大きな鏡、謎の照明器具、何も変わってない。

 俺は部屋を眺めながら、カイザーが来るのを待つ。


 しばらくすると……。


「ふぉっふぉっふぉ。お待たせじゃ」


 カイザーが部屋に入ってきた。


「おお! その帽子、久しぶりに見るな!」


 カイザーの頭には、神官帽がスッポリと被せてあった。

 スライムが帽子を被ってるんじゃなくて、帽子の下からスライムが出てきているように見える。

 それくらい、サイズが合ってない。


「ふぉっふぉっふぉ。では、始めるとするかのう」

「あ、ちょっと待って」

「なんじゃい? 心の準備は出来たのじゃろ?」

「いや、そうなんだけどさ……、その前に色々と聞きたくてさ……。昨日も、その前も、あまり話せなかったから」


 カイザーは忙しいのか、毎日あまり家に居ないからな……。


「ふむ。なんじゃ?」

「まず、カイザーは、俺を創ったとき以外に、転生の儀式をやったことがあるのか?」


 これが一番気になる。

 儀式を行えるのは聞いた。でも、魂の欠片の入手が困難すぎる。

 魂の欠片を手に入れるには、一対一で戦い、更に勝たなくてはならない。

 一対多数で戦うのが基本のスライム族には難しすぎる……。

 そう考えると、カイザーは魂の欠片を使って、ちゃんと儀式をやったことがあるのかどうか疑問だ。


「ふぉっふぉっふぉ。当たり前じゃ」

「お? そうなの? ちなみに何回くらい、やったことがある?」

「ふぉっふぉっふぉ。一回じゃ」


 一回……? 一回しかないの?


「マジでか……。一回しかやってないのか……。それは成功したんだよな?」

「うむ。お主も知っておる相手じゃぞ?」


 俺が知ってる相手……? 誰だ?

 はっ!! もしかして……、ドバイン師匠か!?

 ドバイン師匠は、元スライムで、転生の儀式で獣族になったのか!?

 そう考えれば、ドバイン師匠がスライム族の味方をしてくれている理由として納得できる。


「もしかして、ドバイン師匠か!?」

「ふぉっふぉっふぉ。違うわい」

「え? 違うの……? じゃあ、誰だ……?」

「魔王様じゃよ」


 は? 魔王?

 魔王って、あの、ゴブリン魔王……?


「はああああああああああああああああ!?」


 そこから、色々と聞いた。


 ゴブリン魔王は、その昔、普通のスライム族だったそうだ。

 名前はゼウスと言うらしい。

 当時、カイザーとゼウスは、魔王軍の兵士として働いていて、更にライバル関係だったそうだ。

 どちらが次の魔王になるか、そんな争いを行なっていたらしい。


「ウソくせー話だな」

「嘘じゃないわい!!」


 そもそも、スライムが魔王になるとか、その時点でおかしい。

 いや、ゴブリンが魔王なのも、十分おかしいんだけどな。


 話のついでに、その辺りの疑問をぶつけてみた。

 すると、意外なことが分かった。


 魔界には、魔王が何人もいるらしい。

 魔王というのは称号というか、権力者の肩書きだそうだ。

 つまり、スライム族に魔王がいるように、他の種族にも魔王がいる。そういうことらしい。

 スライム族の魔王、鳥獣族の魔王、なんとか族の魔王、そんな感じで魔王は沢山いるのだ。


 最初はちょっと理解できなかったが、まあ、なんとなく分かった。

 今、重要なのは、そこではないので、話を戻して貰った。


 結局、カイザーは魔王にはなれず、神官の道へと進んだそうだ。

 そして、ゼウスが魔王の座に就いた。

 月日は流れ、カイザーが神官として腕を上げた頃に、ゼウスが魂の欠片を持って、訪ねてきたらしい。

 魂の欠片は、ゴブリンと戦って入手したと言ってたそうだ。

 その魂の欠片を使い、転生の儀式を行なったことで、ゼウスはゴブリンの姿へと変わり、今のゴブリン魔王になった……。


 と言うことらしい。

 凄く怪しいが、真実だと言われた……。


 それにしても、ゼウスか……。

 格好いいけど、魔王の名前としては……、ちょっとな……。

 むしろ、魔王とは対極のイメージが……。


「ゼウスって、魔王っぽくない名前だよな」

「本名は違うがのう」


 ん? 本名? どういうことだ?


「え? 何? 偽名なの?」

「いやいや。本名が長すぎるから、略してゼウス様なのじゃよ」

「ちなみに、本名は?」

「サタン・ゼルバット・ルーフェル・バイドゴゴ・ミヌスルーベンドッド・ゼウス・マカハウセス・ルシファー様じゃ」


 なんか、もの凄く長い呪文みたいな物が聞こえた。


「長っ!! つーか、最初と最後に魔王っぽい名前が付いてるのに、なんでゼウスなんだよ!? なんで中途半端な場所にある、ゼウスが通り名になってんだよ!?」

「ワシに聞かれても知らぬわ。魔王様は最初からゼウスと名乗っておったからのう」


 ダメだ……。やっぱり魔界は意味不明すぎる……。


「はぁ……。意味が分からんな……」

「ふぉっふぉっふぉ。昔は、長い名前を付けるのが流行っておったのじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」


 何だその理由……。

 キラキラネームとかの方が、まだ許せるな……。


「もしかして、カイザーも本名は長いのか?」

「いやいや。ワシは普通にカイザーじゃ。ワシの親は流行には疎かったのじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」


 ああ、そうなんだ。

 はぁ……。なんか、また変な方向へ話が進んだな。

 まあ、全部俺が悪いんだが……。話を戻すか……。


「名前の話はもういいから、そろそろ話を戻そう」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。他に聞きたいことはないか?」

「えっと、転生の儀式について、もう一度詳しく教えてくれ」

「うむ」


 転生の儀式について説明してくれた。


 必要な物は三つ。

 一つ、儀式を行える者。これはカイザーがいるから問題ない。

 二つ、魂の欠片。これも、俺が持っているから問題ない。

 三つ、魂を移す意志。これが問題だ。理解できない。


 カイザーに、魂を移すことを、強く念じればいいと言われたのだが、それでもよく分からない。

 そもそも魂という物が、よく分かっていないのに、それを移すとか言われても……。


「魂を移すのを、念じるって……。具体的にどうすればいいんだ?」

「そのままじゃ。自分は生まれ変わる。新しい身体を手に入れる。そう念じておれば良い」


 凄い不安だ。失敗するんじゃ……?


「転生の儀式が失敗した場合、どうなる?」

「魂が無へと還るのう」

「あ? どういう意味だ?」

「死ぬ。そう言えば理解できるかのう」


 死ぬ……。失敗したら死ぬのか……。


「ふぉっふぉっふぉ。失敗なんぞせん。安心して、お主は念じておれば良いわ」


 やっぱりやめるか?

 いや、昨日一日考えて、悩んで悩み抜いて、そして俺は転生するって決めたんだ。

 一度決めたことだ。今更やめるなんて、かっこ悪いな。

 でも、超怖えええええええええええ!!


「ふぉっふぉっふぉ。さあ、もう聞くことが無いなら、そろそろ始めるぞい」

「お、おうよ……」

「では、部屋の中心に魂の欠片を置くのじゃ。お主は、魂の欠片の横におればよい」

「お、おう……」


 俺は言われたとおり、部屋の中心部に魂の欠片を置く。

 そして、その横に陣取った。


「では、良いか?」

「あ、ちょっと待って、気合い入れるから」

「ふむ? 気合い?」


 俺は大きく息を吸い。


「おっしゃあああああああああああああああああああああああ!!」


 恐怖を紛らわすために、叫んだ。

 叫んだことで気が紛れたのか、少しだけ気持ちが楽になった。


「ふぉっふぉっふぉ。もう、いいかのう?」

「ああ、頼む!」


 カイザーが目を瞑り。そして何かをブツブツと呟きだした。


「さあ、念じるのじゃ。己の魂を、新たな体へと移すことを」


 俺は念じる。


 新しい体に生まれ変わる。

 俺は生まれ変わる。

 生まれ変わる。生まれ変わる。生まれ変わる。


 俺が念じていると、俺の周りが光で覆われていった。

 俺は怖くなり、目を瞑り、ひたすら念じながら、時が過ぎるのを待った。



――


 一体どれくらい経ったのか……。

 数秒経ったのか、それとも数分経ったのか、全く分からない。


「サン!」


 カイザーの声が聞こえたと思ったら、俺の周りの光が消えていった。

 いや、目を瞑っているので、見えてはいない。だが、そんな感じがしたのだ……。


「ふぉっふぉっふぉ。もういいぞい」


 もういい? 終わったのか?


 俺は恐る恐る目を開く。

 すると……。


「お、おお、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 まず、俺の目に飛び込んできたのは、床。

 だが、明らかに床が遠い。

 まるで高い場所にいるかのように見えた。


 次は手足の感覚があることに気付いた。

 俺は手を動かし、自分の目の前に持ってくる。

 羽で覆われた腕に、鋭く長い爪が見えた。


 そこで、確信した。

 成功したと。


「カイザー!! 成功したんだな!?」

「ふぉっふぉっふぉ。鏡を見るがよいわ」

「ああ!!」


 俺は、大きな鏡の前に移動しようとした。

 足がある、そして足が動く。

 長らく、スライムの体で生活していたため、忘れかけていた感覚が戻ってくる。


 俺は一歩一歩、地面を確かめるように歩き、そして、鏡の前に立った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 鏡に映ったのは、俺が戦った鳥野郎に似た、別の鳥族。

 鳥のような顔、目が鋭く、そしてクチバシがある。

 体は、紫色の羽毛に覆われ、背中には大きな翼が生えている。


 羽毛が紫なのは、元の俺の身体が関係しているのだろうか?

 そんな事を考えながら、俺は自分の体を確かめるように、ぺたぺたと触る。


「すげえ。これが俺か……」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロ。お主は今、スライム族を超えた存在になった」

「スライム族を超えた……」


 確かに。体に力がみなぎってるのが分かる。

 今までに感じたことが無いほどに、力が湧いてくる。


「ふぉっふぉっふぉ。まずはその身体に慣れることから始めよ」

「ああ! そうだな!」


 俺は新しく生まれ変わった。

 スライム族でありがなら、身体は鳥族として、生きていく事になった。



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