第二十一話 「欠片」
初めての敵。初めての実戦。
俺は無我夢中で戦い、そして、勝った。
鳥野郎を殺した。初めて、虫以外の生き物を、この手で殺した。
だが不思議だ。後悔も罪悪感も何もない。
やってやった。カイザーの仇を討った。それだけの感情しか湧かない。
命を奪ったのに、俺は何も感じていないのだ。
目の前に転がってる、この死体を見ても、何も感じない。
カイザーの仇が討てた事で、満足してしまったのか? それとも、俺の心が壊れたのだろうか?
よく分からないが、それでも俺は魔界で生きなきゃならない。
カイザーは、スライム族の未来を守ろうとした……。
だから俺は、カイザーの代わりに……。いや、代わりになんかなれないけど、少しでもスライム族のために戦おう。
それが、カイザーの願いだったはずだから……。
そう心に強く誓った瞬間。
「パントロ!! 無事か!?」
「えっ!?」
声が聞こえた先には、俺のよく知ってる黄色い顔があった……。
「か、カイザー? え? あれ? え? お前……、死んだんじゃ?」
「勝手に殺すでないわ!! なんじゃい、心配してきてみれば……、ってこれ……、もしや、お主がやったのか!?」
カイザーが生きてた。
なんで? 死んだんじゃ? 何か言っているが、カイザーが死んでないことの方が重要だろ!!
何があったんだ!? マジで何が起きた!?
「おい!! パントロ!! しっかりせんか!!」
いつの間にか、カイザーが俺の目の前まで来ていた。
「う、うるせぇ、グスッ……」
「な、なんじゃ? 泣いておるのか?」
「な、泣いてるわけないだろ? アレだよアレ、目にゴミが入ったんだよ」
自然と涙が出てきた。
しかも、使い古された言葉しか出てこなかった……。
なんなんだよ。マジで、もう……。
「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主、さすがじゃな」
「な、何が……? グスッ……」
「この鳥獣族を倒したのは、お主じゃろう?」
「ああ、そうだけど……」
そんなことより、何があったか説明しろよ……。
マジで意味が分からん……。
なんでカイザーが生きてるんだよ。
「ふぉっふぉっふぉ。やはりな。さすがワシの息子じゃ!!」
「うっせえよ。てか、なんで生きてんだよ? 死んだんじゃなかったのかよ?」
いや、生きてるのは喜ばしいんだけど……。
でもさ、こっちはカイザーが死んだと思って、仇を取る一心で……。
「ふぉっふぉっふぉ。ワシが死ぬはずなかろうが」
「で、でも、俺、死体見たぞ? 木の根本にカイザーの死体があった」
「ふぉっふぉっふぉ。アレはワシの分身体じゃ」
ぶ、分身……? 分身って……、忍者か? 忍者なのか!?
「分身? カイザーって分身の術の使い手なの!?」
「ふぉっふぉっふぉ。分身の術が何のことを言っておるのか知らぬが、魔法で創り出すのじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」
なんだ。魔法か……。
いやいやいや、マジで!? そんな魔法あんのかよ!?
やっぱり、分身の術じゃねーか!!
ん? てことは、あの時のは……。
「俺が見たのは、その分身の体ってこと?」
「そうじゃ。うまく騙すことに成功したのでな、少し離れて様子を窺うつもりじゃったのじゃが……」
「ん? 何があった?」
「道に迷ってのう……」
道に迷った? え? 何?
もしかして、道に迷って、鳥野郎を見失ったの?
「はあああああああああああ!? 道に迷って何してたんだよ!?」
「う、うるさいわい!! もちろん、鳥族を探したが、見つからなかったのでな。そのまま森を抜け、お主らを追ってサイの場所まで行ったのじゃ。まあ、サーラスティしか、おらんかったがのう」
あ。サーラスティのこと、忘れてた……。
今頃、街では大騒ぎになってるんじゃ……。
「サーラスティは? 街に向かったんだよな?」
「いや……。それがじゃな……」
ん? なんだ? 街に向かってないのか?
「パントロおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「うおっ!!」
いきなり木の陰からサーラスティが飛び出してきて、俺に体当たりでもするかのような勢いで、突っ込んできた。
俺の目の前で急停止したサーラスティは、辺りをキョロキョロと確認し、そして鳥野郎の死体を見て、後ろへ飛び退いた。
その後、すぐに俺達を見て、全てを理解したのか、何か……、怒ってるような、不思議な表情をしていた……。
「サーラスティ? なんでここに……?」
「なんで? じゃないでしょ!! あたしがどれだけ心配したと思ってんのよ!!」
心配してくれたのか。悪いことしちゃったかな?
「ご、ごめん。でもさ、ほら、コイツはもう倒したから、安心だろ?」
「ぅぅううう!! もう!! ホントに!!」
なんか、よく分からない怒られ方をした。
サーラスティは、怒ったまま、黙ってしまった……。
「えーっと……。か、カイザー? なんでサーラスティがここに?」
「ふぉっふぉっふぉ。サイの所で、お主がワシを助けに行ったと聞いてのう。ワシとしては、サーラスティに街へ向かって欲しかったのじゃが、パントロを待つと言ってきかんのじゃよ。それで仕方なく、手分けして、お主を捜していたのじゃよ」
おうふ……。そんなことがあったのか……。
俺を待つなんて、サーラスティ……、どうしちまったんだ?
いつもの偉そうなサーラスティなら、俺を待ったりしないと思うんだがな……。
それに、捜すって……。
この広大な森をどうやって捜したんだ?
「二人とも、よくこの場所が分かったな?」
「ふぉっふぉっふぉ。爆発音が聞こえたからのう」
「爆発音?」
「そうよ!! バーン!! って聞こえたわよ!!」
バーンって……。
なんだ? 何の音だ?
あ、あれか? 鳥野郎の魔法が爆散したときに、そんな感じの音がしたな。
あの音を聞いて、二人とも、この場所に気付いたのか。
「そ、そうか。それならいいんだ。ちょっと気になっただけ……、ん? なんだ?」
鳥野郎の死体が光り出した。
「ふむ? こ、これは……!!」
カイザーが何かを知っていそうだ。
だけど、これは何か変なことが起きそうだ。
死体が光るなんて、気持ち悪いし変すぎる。
「逃げた方がいいんじゃ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。安心せい。これはおそらく……」
カイザーが何かを言う前に、鳥野郎が発していた光が収まった……。
そして何故か、鳥野郎の死体の上に、綺麗な色をした玉が浮いていた。
「な、なんだこれ?」
「綺麗ねえ……」
サーラスティがうっとりしてる。
こぶし大の大きさの玉を、とろけるような表情で眺めている。
死体の上に浮いているのに、死体には見向きもしていない。女の子はすごいな。
確かに綺麗なのだが、何色と言って良いのか分からない。
赤く見えたり、青く見えたり、白や黒にも見えることがある。
「ふぉっふぉっふぉ。これが魂の欠片じゃ」
「これがですか!?」
サーラスティが、もの凄い勢いで反応した。
なんだ? 魂の欠片? あれ? どっかで聞いたな……。
いつだ? 俺はいつ、魂の欠片なんて言葉を聞いた?
「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主にも説明してやったではないか。なぜそんな顔をしておるのじゃ?」
え? 何? そんな変な顔してた?
いや、顔はどうでもいい。
カイザーが説明してくれた?
えーっと……。
あっ!! 思い出した!!
あれだ!! 転生の儀式のときに使うとか言ってたヤツだ!!
「えっと、てことは、これがあれば……」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ。鳥獣族の、鳥族へと転生が出来るのじゃ!」
「マジかあああああああああああ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。マジじゃ!!」
おいおい、マジかよ!?
転生が出来る!? 鳥族になれるのかよ!?
いや……。ちょっと待て、鳥族って、目の前で転がってる、この鳥野郎だよな?
ドバイン師匠と一緒の獣族ならまだしも、鳥野郎と一緒の鳥族か……。
一気に興味を失ったな。どうでもいいや。
それに、俺が転生すると決まった訳じゃないしな。
こういうのって、あれだろ? お偉いさんとかに取られちゃうオチがあるんだろ?
わかってるよ。だって、そういう漫画とか見たことあるもん。下っ端の手柄を横取りするんだろ? それが社会ってヤツだろ?
「じゃあ、これはカイザーに預けるとして、そろそろ、帰ろうぜ……」
「ふぉっふぉっふぉ。なんじゃい? さっきは興奮しておったのに、急にしおらしくなりおって」
「いや、現実を感じただけさ……」
「ふむ? まあ何が言いたいのか分からぬが、ワシには持てぬから、パントロ、お主が持つのじゃ」
おいおい。運搬まで下っ端にやらせる気かよ?
つーか、俺、体中が痛いし、ヘトヘトに疲れてんだぞ? 何で俺にそんなことさせんだよ?
まあ、玉のサイズ的に、口袋へ放り込めばいいだけっぽいけどさ……。
「いやだ。メンドイ。カイザーが持ってくれよ」
「ワシが持ったら、魂の欠片が消えて無くなってしまうのじゃよ」
は? 消える? 魂の欠片が……?
「え? 意味が分からんぞ?」
「そのままじゃよ。パントロ、お主以外の者が、この魂の欠片に触れると消えてしまうのじゃ」
「はあ? やっぱり意味が分からん。なんで俺以外だとダメなんだよ?」
意味不明すぎる。
さっぱり理解できん。
「魂の欠片には、言い伝えがあるのじゃ。ん? サーラスティ、触るでないぞ?」
「は、はい!!」
サーラスティは魂の欠片から離れるように、後ろへ飛び退いた。
「で、その言い伝えって?」
カイザーが、簡単に説明してくれた。
一つ、一対一で戦闘を行ない、その勝者に魂の欠片が与えられる。
一つ、勝者以外の者が、魂の欠片に触れると、消えて無くなる。
一つ、転生の儀式を行なう際、勝者以外の者が転生しようとすると、魂の欠片は消えて無くなる。
だそうだ。
なんか、言い伝えというか、魂の欠片のルールみたいなものだ。
このルールは、大昔にスライム族が大魔王の配下だった頃に知ったそうだ。
スライム族は、一対多数を基本としているため、魂の欠片の存在を、その頃まで知らなかったらしい。
カイザーは、このルールを試したことはないそうだ。
だが、言い伝え通りの事が起きると考えているらしく、その結果、俺に魂の欠片を運べと、そういうことらしい。
まあ、色々と気になる点はあるのだが……。
疲れてヘトヘトだし、ボロボロだし、今度また聞こう……。
それより、俺は早く帰って寝たい。
「あー。もうよく分からんからさ、魂の欠片は俺が持つから、取り敢えず帰ろうよ」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。さすがに狩りなどと言っておる場合でもないしのう」
俺は口を大きく開け、そして魂の欠片をパクリと口に入れた。
そして、口袋へと魂の欠片を移動させた。
「よし、じゃあ帰ろう……、えーっと……、どっちだ?」
無我夢中でここまで来たし、戦ってる間に少し移動もしたせいで、現在地がよく分からない。
「ふふん! こっちよ!」
サーラスティの怒りは収まったのだろうか?
いつものサーラスティに見える。
いや、いつもより嬉しそうな? そんな感じに見える。
「お、おう……」
「ふぉっふぉっふぉ。では、戻るとするかのう」
俺は、サーラスティの後を追うように、移動を始めたのだが……。
「あ、あれ……?」
「どうしたのじゃ?」
少し進んだところで、異変が起きた。
体が、うまく動かない……。
なんだこれ? どうなってる?
「ちょっと待ってくれ、すぐに……」
再度、移動するためにジャンプしようとしたのだが、力がうまく入らない……。
「は、はは……、あれ? 変だな……、力が入らんぞ……」
「パントロ? 大丈夫なの?」
サーラスティが俺を気遣いながら、近寄ってきた。
「いやあ……、よく分からないんだけど、うまく動けなくてさ……」
「魔力切れかしら?」
ああ、そういえば、魔力を使いすぎると色々と起きるって言ってたな。
体が重いとか、そんなレベルじゃないけどな……。まあ気絶しなかっただけ良かったか……。
さて……、どうするか……。
力が入らないと、緊急移動すら出来ない……。
「ふぉっふぉっふぉ。仕方ないのう」
「あ?」
「ちぇすとおおおおおおお!!」
「ちょっ!! 神官様!?」
カイザーの体当たりが俺に炸裂する。
俺は空中に飛ばされた……。真下にカイザーが見える……。
「いってえな!! 何すんだよ!!」
俺は空中でカイザーに文句を言いながら、落下した……。
「ふぉっふぉっふぉ。ほれ」
落下してきた俺を、真下のカイザーが受け止めた。
「あ、あれ?」
てっきり、ボールみたいにされるかと思ったが……。
「ふぉっふぉっふぉ。これで帰れるじゃろうて」
俺は今、カイザーの頭の上にいる。
肩車ってヤツだろうか?
スライムが二匹、重なっている状態だ。
「お、おい……」
「あはははははははははは!」
サーラスティが爆笑してる。何故だ……。
「ふぉっふぉっふぉ。さあ、帰るぞい」
俺はカイザーの上に乗ったまま、そのまま運ばれた……。




