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第二十話 「実戦」

 いた!! 鳥野郎だ!!


 森の中、少し開けた場所に、先ほど見た鳥獣族が、何かを見下ろすように立っているのが見えた。


「カイザー!! 無事か!?」


 俺は何も考えずに、飛び出してしまった。

 ざっと、辺りを見渡すが、カイザーの姿がない。


 どこだ? どこにいる? カイザー?


「クケケケ。もう一匹現われやがった。クケケケケ」


 俺は再度、辺りを見渡した。

 そして、一本の木の根本に何かを発見した。


 そこには、黄色い塊がポツンと落ちていた。

 カイザーと同じ色の黄色い塊、森には似合わない、不自然な黄色い物体。

 カイザーと同じ大きさの黄色い何か……。


「ま、まさか……」

「クケケケ。そこのスライムの知り合いか? クケケケケケケケケケケケ!!」


 何が可笑しい? 何故そんなに笑っている?

 そこのスライム? そこのって、どういう意味だよ?

 お前が、お前が――。


 俺の中の、何かがキレた。


「鳥野郎!! てめええええええええええええええええええええええええええ!!」

「クケケケケケケケケケ。お前は美味そうだな」

「おりゃああああああああああああああああああ!!」


 自分でも分からないうちに、俺は体当たりを放っていた。

 体当たりは、鳥野郎の腹に直撃したのだが……。


「クケーーーーーーーッ!」


 相手は微動だにしなかった。

 それどころか、俺は一気に懐に飛び込んだことで、ピンチに陥ってしまった。

 だが、それはそれで良かったのかも知れない。冷静さを取り戻すことが出来た。


 やべえ! どうする!?


「クケッ!!」


 鳥野郎の、手が振り下ろされた。

 殴ると言うより、引っ掻くような感じの攻撃だ。


 俺は咄嗟に攻撃を避けるが、引っ掻きは止まらない。

 二度、三度と、鳥野郎の攻撃が俺を襲ってくる。

 特訓で身につけた、避ける技術を最大限に生かしながら、右へ左へと飛び跳ねながら避け続けた。

 そして、一旦、距離を取ろうと思い、大きく後ろへ飛び退いた。


「クケッ!? ちょこまかとっ!!」


 鳥野郎が、翼と手を広げて、俺に向かって突進してきた。

 俺はその突進に向かって、牽制の意味も込めて、再度、体当たりを放つ。


「ぐゃっ!」


 鳥野郎の顔面に、俺の体当たりは命中。

 やはりと言うべきか、カウンター気味に当たったのに、ダメージは無さそうだ。

 鳥野郎は顔面を押さえているのだが、指の間から、凄い目で睨んでくる。

 プルプルと震え、怒りを抑えてるように見えた。


 どうする? やっぱり魔撃か? 魔撃しかないよな!?

 クソッ! 避けながら魔力を溜めなきゃならん。

 時間も掛かるし、どうする……。


 てか、攻撃してこないな。何だアイツ? 警戒してるのか? 牽制が上手くいったのか?

 じゃあ……、ちょっと試してみるか。


「どうした鳥野郎? ビビってんのか? スライム相手にビビってんのか? 来いよっ!」

「クケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


 俺の挑発にブチ切れたのか、鳥野郎が怒りをあらわにして、凄い勢いで突っ込んできた。

 でも、これでいい。

 相手を怒らせて、少しでも単調な攻撃が来る方が俺には好ましい。


 俺の狙い通りに、鳥野郎は引っ掻きや、殴る蹴るなど、単調な攻撃ばかりを続ける。

 俺はその攻撃を避ける。避け続けながら、魔力を徐々に溜める。


「クケエエエッ!」

「なっ!?」


 なんだ!? 何が起きた!?


 鳥野郎が、鳴き声を上げたと思ったら、辺りが徐々に暗くなり始めた。

 空を見上げると、カラスのような黒い鳥が群れをなしていた。


「何だあああああああああああああああ!?」

「クケエエッ!!」


 鳥野郎が、また鳴き声を上げると、今度は群れの中から、大量の鳥が俺に向かって突っ込んできた。


「ちょっ、マジかよ!!」


 俺は弾丸のような速さで突っ込んでくる、大量の鳥を避ける。

 鳥野郎を警戒しながら、避け続ける。


「ちょっ! なんだっ! これっ!」


 大量の鳥たちは、俺に避けられると、空へ戻っていく。

 突っ込んでは避けられ、そして空へ戻り、また俺を目掛けて突っ込んでくる。

 無限ループのように、繰り返される鳥の攻撃。


 くそっ! この場所がダメだ。

 少し開けている、この場所がダメだ!

 一旦、森の中に逃げよう。


「鳥野郎!! じゃあな!!」


 俺は木が生い茂る森の中へと逃げ込んだ。

 先ほどの大量の鳥たちは、木々が邪魔をして、俺に突っ込んでこられなくなった。

 上空を旋回し続けている。


 黒い渦みたいになってるな……。


「気持ち悪っ」


 さて、一旦逃げたが、どうする? あの鳥野郎をぶっ飛ばす。それは変わらない。

 カイザーの、カイザーの仇を取らなきゃ……。

 クソッ!! 俺がもう少し早く到着してれば……。


「クケエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


 俺の後悔も終わらぬうちに、鳥野郎が俺を発見して突撃してきた。


「くっ!」


 俺は間一髪、引っ掻き攻撃を避け、一気に距離を取った。


 考え事は後だ。今は、目の前の鳥野郎をぶっ飛ばす。

 いや、ぶっ殺す!!


 魔撃を放つには、十分に魔力が溜まった。

 逃げてた間も、少しずつ溜め続けたおかげだ。


「手下の鳥を使わなきゃ、スライム一匹も殺せないのか? 鳥獣族も大したことないなあ? あ?」

「クケケケ。鳥獣族の恐ろしさを知らないのか?」

「あ? 知るわけないだろ? つーか、鳥獣族は恐ろしくても、お前みたいなチキン野郎は別に怖くないだろ。ぷっ!」

「クケエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


 おし。

 こいつ、俺より絶対バカだ。

 簡単に挑発に乗ってくる。


 鳥野郎の単調な攻撃が、再度、繰り返される。

 俺は攻撃を一つひとつ丁寧に避けていく。


 自分でも不思議だ。

 今の俺は、絶対に攻撃が当たらない。そう思える。

 いつも以上に反応が出来てるし、体の動く速度も速くなってる気がする。


「クケッ! クケッ! クケッ!」


 引っ掻き、殴り、蹴り、クチバシを使った攻撃、色々な攻撃が来るが全て見える。

 よし、このまま動き回りながら速度を少しずつ上げて、鳥野郎の隙を作る。

 死角へ入り込めたら、そこで魔撃を放ってやる。


 俺は超接近しながら高速で動き回る。

 相手にくっつくのでは? と思えるほどに、接近しながら高速で動く。


「クケッ! 邪魔だっ! このっ!」


 俺がピッタリと接近しているのが、イヤなのだろう。

 鳥野郎は、当たるとか当たらないとか、関係ないように、腕をぶんぶんと振るいだした。


 よし! 今だ!


「クケッ!?」


 俺は今、完全に鳥野郎の背後を取った。

 相手は俺が見えてない。

 俺は一度、体当たりを放つために、少し後ろへ飛び退いて、距離を取った。


 そして、鳥野郎の背中に生えている翼の間を狙って……。


「死ねやぼけえええええええええええええええええええっ!!」


 俺の全力の体当たり。そして、魔撃だ!

 魔撃アタック。勝手にそう名付けた、俺の必殺技だ!


「グゲェエエエエエエエエエエ!?」


 鳥野郎は、死角からの攻撃に反応できず、背中に俺の魔撃アタックが直撃した。


「グギャギャギャギャギャギャ!!」

「どうだおら? 痛いか? さっさと死ねや」


 鳥野郎は、もがき苦しみ、のたうち回っている。

 これが特訓なら、ここで終わりだ。

 だが、実戦だ。

 俺はこいつにトドメを刺さなきゃならない。


 俺はトドメの一発を放つために、再度、魔力を溜める。

 時間が掛かるのが、魔撃の欠点だ。

 まあ、俺の魔力操作がショボイから、時間が掛かってしまうのだが……。


「なっ!」


 俺が魔力を溜めていると、鳥野郎が、ゆっくりと起きあがった……。


「何で……、なんで動けるんだ!?」

「はぁはぁ……。クケッ……。ま、まさか、魔撃を使うスライムが……、居るとはな……クケケ」


 なんで? どうして動けるんだよ?

 いや、ダメージはあるんだ。次の魔撃でぶっ殺す!


「はぁはぁ……、クケケッ! 『フレイムボール!』」


 鳥野郎の頭の上に、炎で作られた玉が出来た。


「やべっ!」


 初級魔法のひとつ、フレイムボールだ。

 俺は何度か見たことがある。サーラスティも、リンジーも、ユカリスも使ってた。

 初級魔法とはいえ、炎だ。まともに食らえば、ただじゃ済まない。


 俺は魔力を溜めつつ、距離を取る。

 対策は知ってる。魔法で作られたボールの弱点は、一直線にしか飛ばせないこと。

 こちらに向かって飛んできたら、横に避ければ良いだけだ。


「クケケケッ!」


 炎の玉が俺に向かって飛んできた。

 速度はそんなに速くない。

 俺は一気に横へと飛んだ。


「クケケケケケケケケケッ!『バースト!!』」


 鳥野郎が何か言ったと思ったら、炎の玉が、大きな音と共に爆散した。

 四方八方に、凄い勢いで小さな火の玉が飛び散る。


「っ!?」


 無数の小さな火の玉が、俺の方へも向かってくる。


 俺は動けなかった。

 予想外の事が起きたことと、火の玉の速度が速すぎたことで、俺は反応が遅れてしまった。


「がああああっ!」


 俺は、いくつもの火の玉が直撃し、森の奥へと吹っ飛んだ。


「はぁはぁ……。クケッ。はぁはぁ……、スライム如きに魔法なんぞ……使うとは……」


 あ、あぶねえ。

 ギリギリ……、ギリギリ間に合った。


 動けなかったが、硬質化が間に合った。

 完全ではないとはいえ、スライム族の奥義だ。

 その奥義が俺の身を守ってくれた。


 だが、ダメージはある。

 直撃を貰った。しかも数え切れないほどの量の直撃だ。

 硬質化していたとはいえ、かなり痛いし、熱い。


 くそっ! なんだよアレ?

 あんな魔法あんのかよ?


「クケケッ! さて、さっきのスライムは……?」


 俺を見失って、探してるのか?

 こっちからは見えているが、アイツには見えてないのか?

 なら、今の内だな。さっさと魔力を溜めてしまおう。

 次の攻撃で倒せるかどうか分からないが、もう、出し惜しみは無しだ。

 俺の全ての魔力を込める。


 俺は隠れながら、魔力を溜める。溜め続ける。

 そして、限界まで魔力が溜まったところで、俺は鳥野郎の背後へと移動した。


 よし、バレてない。

 これで終わりだ。


 俺は体当たりが出せる、絶好の場所まで一気に近づき、そして……。


「この、鳥野郎がああああああああああああああああああああ!!」


 気合いと、全ての力を込めて、体当たりを放った。


 俺の声を聞いた鳥野郎が……。

 いや、俺の声を聞く直前、鳥野郎はこちらに振り向いた。

 そして、硬そうなクチバシの端が上にあがった。

 まるで、笑っているように見えた。


『……ボール!』


 既に魔法を準備していたのか、俺の目の前に、炎の玉が出来た。

 魔法というのは、術者の頭上に出すのが普通のはず。

 その魔法が突如として、俺の目の前に現われたのだ。


 何が何だか分からないが、俺は咄嗟に硬質化を行なう。

 もう体当たりを止めることは出来ない。

 なら、硬質化をし、目の前の炎の玉を突き破る。

 一瞬で、そう判断した。


「おらぁぁああああああああああああああああああああ!!」


 突然、俺の目に映る世界がゆっくりになった。

 まるでスローモーションの世界にいるようだ。


 目の前が真っ赤に染まる。

 炎が揺らめいてるのが分かる。

 炎の熱さを一瞬だけ感じた。


 突き破れ! 目の前の! この炎の玉を!!


 目の前が開けた。

 真っ赤な炎が消え、鳥野郎の体が見えた。


「クケッ!?」


 驚いてるのか?

 このまま、俺の魔撃アタックを食らいやがれ!!


 鳥野郎の体に、俺の体当たりが当たった。

 その瞬間、魔力を叩き込もうとした。

 だが、いつもの体当たりとは違う感触がした。

 めり込むのだ。

 俺の体当たりが、鳥野郎の体にめり込んでいくのが分かる。


 なら、もっと中に入ってから、魔力を一気に叩き込む!!

 まだ! まだだ!!

 もっとだ、もっと中まで、もっと奥までめり込め!!


 徐々にめり込んでいく。鳥野郎の皮膚に、ヒビが入ってるように見えた。

 さらにグリグリと、めり込んでいく。赤黒い、何だかよく分からない物が見えた。


 なんだこれ?

 内蔵か? 内蔵みたいな物が見える。

 もしかして、皮膚を突き破ったのか?

 なら、ここしかない!!


 俺は全力で、内蔵のような物に向かって、魔力を叩き込んだ。

 次の瞬間、俺が見ていたスローモーションは解けた。




「はぁはぁ……、いてて……」


 勢いよく飛び出したのか、それとも弾かれたのか。自分でもよく分かっていない。

 ただ、俺の目の前には大木が一本ある。


 この大木に叩きつけられた? それとも突っ込んだのか?

 体中が痛い。どうなったんだ?


「ク……ケッ」


 背後から、鳥野郎の声が聞こえた。

 俺は、痛む体に鞭を打って、なんとか振り返った。


 鳥野郎の後ろ姿が見えた。翼を大きく広げ、今にも飛び立ちそうだ。

 だが、鳥野郎の体には、大きな穴が空いていた。向こう側の景色が見えるほどの大きな穴が……。


「ガハッ……!」


 鳥野郎は、血を吐いたのだろう。

 穴の向こう側に、赤黒い液体が滝のように流れているのが見えた。


 あの穴は、俺が突き破ったのか……?

 よく分からないが、とにかく、一言だけ言ってやろう……。


「はぁはぁ……、鳥野郎、ざまあ……」


 俺が言い終わると同時に、鳥野郎は、崩れるようにして倒れた。


「はぁはぁはぁ……、おし……。体に穴が空いてるんだ……。さすがに死んだろ」


 俺は確認をするため、痛む体に強引に力を入れ、一気に鳥野郎の側までジャンプした。

 鳥野郎の目は光を失っており、ピクリともしない。


 俺、勝ったのか……?

 だよな? 鳥野郎が死んでるんだから、俺の勝ちだよな……。

 なんか、よく分からないうちに勝ってしまった……。

 でも……。


「はぁはぁはぁ……、カイザー、仇は……、討ったぞ……」


 初めての実戦を勝利した。それなのに俺は喜べなかった。


 なんで、なんでだ……。

 なんでカイザーが死ななきゃならなかった……。

 俺が最初から残っていれば……、最初から二人で戦っていれば……、きっと……、カイザーは……。


 俺は鳥野郎の死体を眺めながら、そんなことを考えていた……。



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