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第十九話 「決意」

 森に入ってから、一時間ほど経っただろうか?

 獲物の動物を探しながら、俺達は奥へと進み続けていた。

 道中、獲物が全く見つからなかった。

 カイザーが何か変だと言ってたのだが、俺もサーラスティも森は初めてだ。何が変なのか、よく分からない。


「二人とも、止まるのじゃ!」


 唐突に、カイザーが俺達を止めた。

 酷く焦ったような、そんな声だった。


「どう……」


 話しかけようとしたら、カイザーが、一気に木の上に登るようにジャンプした。


 なんだ? 獲物でも見つかったか?


 そんな風にのんきに考えていたのだが、木に登ったカイザーは空を見上げていた。

 何を見てるのか分からないが、俺も空を確認してみる。


 いつもの魔界の空。

 赤紫の不思議な空。

 何も変わらない。


 枝や葉が邪魔で、カイザーが見てる物が見えないのかも知れない。

 そう思い、俺はカイザーを追いかけるように、木に登った。

 俺が木に登ると、サーラスティも同じようについてきた。


 再度、空を見上げる。

 いつもと変わらない、赤紫の不思議な色の空。

 だが、その赤紫の空の中に、小さな影を見つけた。


 なんだあれ?


 意識を集中させながら、ジーッと、影を見ていると、少しずつ大きくなってきた。

 影じゃない。鳥っぽい。

 羽ばたいている。

 鳥だ。

 最初は、そう思った。


 だが、影がどんどん大きくなって来るにつれ、違うことに気付いた。


 なんだあれ……? 鳥じゃ……ない……?


 獣人みたいな、何かの毛で覆われたような体に、翼が生えている。

 クチバシが付いてて、手足の爪が鋭く長い。

 まるで、人間と鳥を合わせたような、そんな魔物が見えた。


「あれなんだ? もしかして鳥獣族か?」


 俺はカイザーに向かって、疑問を口にした。


「そうじゃ。鳥族じゃ」


 鳥族。

 鳥獣族の中の種族だ。


「どうするんだ? 隠れてやり過ごすのか? それとも逃げるか?」

「ふむ……」


 カイザーは俺の問いに答えずに、黙ってしまった。

 少し悩んでいるような顔をしている……。

 カイザーの判断を待っていると、サーラスティが近寄ってきた。


「ど、どうするのよ?」


 なぜかサーラスティは、俺に向かって聞いてきた。


 なぜ俺に聞く?

 こういうのはカイザーに聞くべきだろ?


「カイザー? どうする?」

「ふむ……。このまま、あやつを見逃すわけにはいかんのう」


 あ? 見逃せよ。

 なに変なこと言ってんだよ?


「ほっといた方がいいだろ?」

「向かってる方向がまずいのじゃ」


 向かってる方向? まさか!?


 確認のため、俺は空を見上げる。

 どうやら、あの鳥獣族はスライムの街の方へと向かっているようだ。


「魔王軍は何やってんだよ? なんでこんな所まで入り込まれてるんだよ?」

「ワシに聞かれても知らんわ。それより、あやつを街に向かわせるのは、非情にまずい」


 確かに。街に被害が出る可能性が高い……。


「ワシが足止めをする。お主らは街に戻り、このことを皆に伝えてくれ」


 カイザーが、無謀なことを言い出した。


「なに言ってんだよ。戻るなら全員でだろ」


 そんな無謀なことは許せなくて、若干俺は怒っていた。

 怒気を発しながら、俺はカイザーに考え直すように伝える。


「全員で街に戻る時間はないのじゃ。誰かが足止めせんと、あやつの方が早く街に到着してしまうわい」


 くそっ……。

 どうすればいい……。


「わかりました神官様。パントロ、行くわよ」


 サーラスティは納得したのか、行くと言い出した。


「は? サーラスティ? なに言ってんだよ?」

「あたし達がいても何の役にも立たないわよ。それよりも早く街に戻って、このことを街のみんなに伝えなきゃ」


 言ってることは分かる……。

 でも……。


「さっさと行くのじゃ。時間が惜しいわい」

「はい。さあ、パントロ行くわよ」


 サーラスティはそう言うと、木から飛び降りた。


「パントロ、早く行くのじゃ」

「くそっ!」


 俺は無力だ。

 この場に残っても、何も出来ることがない。

 俺は言われるがまま、木から飛び降りた。


「パントロ、急ぐのよ!」

「わかってる!」


 俺達は、移動用のサイが置いてある場所を目指して、全力で移動を始めた……。



――


 少し移動したところで、後ろから爆発するような音が聞こえた……。

 カイザーが戦ってるのだろうか? 俺には確認する術がない……。


 本当に俺に出来ることは何もないのか?

 俺は、そんな風に自問自答しながら、移動をしていた……。


 俺はバカだ。だが、それでも分かる。

 一人で鳥獣族を足止めできるほど、スライム族は強くないはずだ。

 ドバイン師匠に、ボッコボコにやられた経験から、そう判断できる。

 カイザーが自称ではなく、本当の天才だとしても無理に決まってる。

 このまま一人で戦っていたら、カイザーは確実に死ぬ。

 そう、確実に死んでしまうのだ……。

 なんでカイザーは、そんな死に向かうような事を……。


「パントロ! 何してるのよ!?」


 サーラスティが怒ってる。

 どうやら俺は、いつの間にか止まっていたようだ。


「すまん。サーラスティ、一人で行ってくれ。俺は戻る」

「はあああああああ!? 戻ってどうするのよ?」

「もちろん、カイザーを助ける!」

「なに言ってるのよ!! 神官様はスライム族の未来のために、あたし達を行かせたのよ!? わかってんの!?」


 でたよ。スライム族の常識だ。

 個人を犠牲にしてでも、スライム族という種族を後世へ残すという、クソみたいな常識。

 きっと、このクソみたいな常識のせいで、カイザーは、あの場に残って足止めをしようとしてるんだ。


 俺はこの常識に疑問を持ってる。

 種族が生き残るのは大切だ。そんなのは分かってる。

 だからと言って、個人を犠牲にするのは、やっぱり違うと思う。

 こんな風に考えてしまうのは、俺が平和な日本という国で育ったせいだろうか?

 無職のクソニートとして、楽に生きてこられたから、こんな考えを抱くのだろうか?

 もっと勉強をしていれば、このクソみたいな常識を理解できたのだろうか?

 何が正しくて、何が間違いなのか、俺には分からない。


 でも、一つだけ分かってる事がある。

 カイザーを死なせたくない。

 そう俺が思っていることだけは分かる。


 俺は自分の気持ちを優先させる。

 だって、元ニートのワガママ野郎だから。

 自分がイヤなことはしない!

 誰かに邪魔されるなら、全力で自分のワガママを通してやる!!

 それが自由なニートとして生きてきた、クソみたいな俺が出した結論だ!!


「サーラスティ、すまん! やっぱり俺は、自分の気持ちを優先する!!」

「はああああああああああ!?」

「無事に帰ってきたら、今度、デートしような!! じゃあな!!」

「ちょ、ちょっと!?」


 俺は、サーラスティの返事も待たず、全力で来た道を戻った。



――


 カイザーと別れた場所に戻ってきた。

 だが、カイザーの姿がどこにも見当たらない。


 どこだ? どこに行った!?


「カイザー!! いないのか!?」


 声を上げながら、キョロキョロと辺りを見渡すが、やはり姿は見えない。

 どうするべきか悩んでいると……。

 バキッと、木の枝を折ったような、そんな音が聞こえた。


 今の何の音だ? いや、そんなの考えてる場合じゃない!! 急がなきゃ!!


 俺は音のした方向へ全力で向かった。




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