第十七話 「変化」
あれから十日経った。
俺が魔界で目覚めてから、一ヶ月以上も経った。
長かったような、短かったような。
思い起こせば、ほとんどが体力作りと避ける特訓ばかりだった。
この十日間も、俺は体力作りと、避ける特訓ばかりを続けた。
魔力の操作も慣れた。
寝る前、移動中、特訓の見学中、とにかく時間があったら、魔力を意識的に操作してきた。
そのおかげか、少しだけ硬質化も出来るようになった。
カイザー曰く、まだまだらしいが……。
この十日で、避ける特訓にも少し変化があった。
避ける特訓は、二人一組になったことで、攻撃もする特訓になったので、武術と言って良いか分からないが、攻撃と防御という、ちゃんとした戦闘訓練になった。
三日ほど二人一組で特訓をし、連携の感触を掴んだ。
その次の日からは、三人一組になり、攻撃のバリエーションも増やしつつ、連携の制度を高めていった。
特訓を一緒にやっている仲間とも、少しずつ仲良くなり始めた。
おかしな話だ。
ニートでダメ人間だった俺は、他人が怖かった。
友人なんていなかった。もちろん恋人なんて出来たこともない。
家族以外の人と、会話をするようなことも十年以上無かった。
それなのに、魔界で出会う奴らとは、自然と話せた……。
軽口を言い合えるような、そんな奴らが俺にも出来た……。
やっぱり、相手が人間じゃないからだろうか?
本当に変な話だ。
そんな昔話は置いておこう。今は、とにかく特訓だ。
魔界で生きていくために、俺は強くなるのだ!
さて、そんな十日間を過ごした俺だが、何をしているかというと、いつもの鍛錬場にいる。
なんでも、今日からは特訓を少し変えるらしい。
まあ変えると言っても、ドバイン師匠に全員で向かっていくという特訓なので、人数が変わっただけで、いつもとあまり変わらないのだが……。
「……集団戦闘を身につけろ」
ドバイン師匠にそう言われた。
いくら数が多くても、無謀に突っ込んでいけば、返り討ちに遭うだけだ。
そこで、作戦会議を始めようとしたのだが、その前に、作戦を決め、指示を出すリーダーが必要だ。と、なったので、まずはリーダーを決めることになった。
「パントロか、ガルディウスね」
サーラスティが、俺とガルディウスの二人を推薦してきた。
「そ、そうだね。二人のどちらかが、リーダーに向いてるとボクも思うよ」
リンジーが、サーラスティの意見に乗った……。
「であるな」
「う、うん……。わ、わたしもそれで良いと思うよぉ……」
ボルドも、ユカリスも、意見は一緒のようだ……。
「オレでいいだろ」
ガルディウスは自信があるのか、自信満々にそう言い放った。
俺はと言うと……。
おっしゃああああああああああああああ!!
ガルディウスがリーダーを引き受けてくれた!!
リーダーなんて面倒なもん、俺はごめんだ!!
いやあ、よかった。ガルディウスのやる気に拍手を送ってやりたい。
まあ、手がないから拍手なんて出来ないけどな!! ハッハッハッハッ!!
変な風にテンションが上がり、いつも以上にバカになっていた。
「俺も、ガルディウスでいいと思うよ!」
この流れに任せて、リーダーなんて、ガルディウスへ押し付けてしまおう!
「むっ! ちょっと! パントロ!!」
なんだ? サーラスティがこっちを睨んでる……。
えぇぇ……。お前が、俺かガルディウスって言ったんだろ……。
なんで睨むんだよ……。
「えっ? なに? ガルディウスでいいだろ?」
「あたしは、パントロか、ガルディウスって言ったのよ? あんたがガルディウスを推してどうすんのよ?」
え? 何言ってんの?
俺は辞退して、ガルディウスを推してるんだから、何の問題もないだろ?
「あたしは、パントロを推すわ」
はあ!? なんで急に俺を推す!?
「ぼ、ボクはどちらでも……」
「我輩は、ガルディウス殿を推挙する」
「わ、わたしはぁ……、ぇ、えっと、パントロちゃんでぇ……」
何故だ!? 何故、俺に票が集まる!?
何が起きてる!? なんだこれは!?
サーラスティも、ユカリスも、どうしちまった!?
俺だぞ!? パントロだぞ!? パントロがリーダーでいいのかよ!?
「多数決で、オレに決定だな」
ん? ガルディウスが、何か言い出したな。
多数決? どういうことだ?
あ、なるほど。
ガルディウスには、俺とボルドとガルディウスで、三票。
で、俺には、サーラスティとユカリスで、二票。
リンジーは無効票ってことか。
「そうだな! 多数決で決まったから、それでいいよな!!」
よし、強引にこのまま押し通そう。
「はああああああああ!? ふざけんじゃないわよ!!」
サーラスティ様。落ち着いてください。
そんな怒鳴られても、結果は結果です。
「……何をしている?」
ドバイン師匠が、俺達の様子を見に来た。
「あ、師匠! 今、リーダーを誰がやるか決めてるんです!」
リンジーがドバイン師匠に説明してくれた。
なぜリンジーは、ドバイン師匠と話すときだけ、あんなに元気になるんだ?
俺達と話してるときは、なんかオドオドしているのに……。
「……パントロでいいだろ」
何故だああああああああああああああああああああ!?
どうしたんだ!? ドバイン師匠!? 何言ってんだよ!?
「ふふん! 師匠が決めたことだから、弟子のあたし達は従うべきね!」
おい!! サーラスティ!? 何を言い出すんだ!? やめろよ!!
どうする!? どうすればいい!?
「ふっ。まあ今回は師匠の顔を立てて、パントロ、貴様にリーダーの座は譲ってやる」
おいいいいいいいいいいいいいいいい!!
ガルディウスまで、何を言ってんだよ!?
お前、英雄の息子だろ!?
どう考えたって、俺より、リーダー向きじゃねーか!!
マジで勘弁してくれよ!! めんどくせーよ!!
「そうであるな。我輩も、師の教えには背くことは出来ん」
あ……。ダメだこれ……。
完璧にダメな方向へ話が進んでる……。
「そうだね! じゃあ、リーダーはパントロくんで!!」
なんでだ!? なんでリンジーがここで仕切る!?
どうなってるんだよ!? 何が起きてるんだよ!?
「ぱ、パントロちゃん、お、おめでとぅ……」
「パントロ! よかったわね!」
女子たちが、祝福してくれているのに全く嬉しくない。
リーダーがどうこうより、スライムだからか?
いや、そんなことより、俺がリーダー?
つーか、リーダーって何をやるんだよ!?
「ちょ、ちょっと待って、リーダーって何をするの? 俺に何が出来るの!?」
「ふふん! そんなの、みんなをまとめればいいだけよ!」
どういう事だよ!? まとめるってどうすんだよ!?
はっ!! サーラスティ様!? もうあなたがリーダーをやったらどうでしょうか!?
「さ、サーラスティが、リーダーをやればいい!!」
咄嗟に口から出てしまった。
だが、俺が咄嗟に口にした悪あがきは、上手くいった。
「……それもいいな」
まず、ドバイン師匠が賛同してくれた。
そして……。
「そ、そうだね。ボクもサーラスティなら、任せても大丈夫だと思う」
「むむ。確かに、サーラスティ殿は才能豊かであるな。我輩も賛成しよう」
「サーちゃんならぁ……。わたしも安心……。」
リンジー、ボルド、ユカリス、と、次々に賛同を得ていった。
「ちょ、ちょっと!? なんでよ!? あたしが!?」
なにか喚いているが、無駄だぞ。
この流れは、もう止まらない。
完璧にサーラスティがリーダーになる流れだ。
「仕方ないな。皆が言うなら、オレも認めよう」
おし。ガルディウスも賛同した。
「サーラスティ、おめでとう!」
「おめでとう!」
「頑張るのである」
「さ、サーちゃん。ぉ、おめでとぅ。」
「ふっ。リーダーの重圧に押しつぶされるなよ?」
決まった。 完全に決まった。
満場一致だ!
「ほ、本当にあたしでいいのね?」
なぜか、サーラスティは、俺を見ながら言ってきた。
「もちろん! サーラスティ以外に誰がやるんだよ?」
なぜか、自然とサーラスティを持ち上げるような言い方をしてしまった。
「ふふん! まあ、みんなが言うなら仕方ないわね! わかったわ! あたしがリーダーをやるわ!」
おお! でたよ! 自信満々で、なぜか偉そうなサーラスティ様だ!
こうして、俺達のリーダーが決まった。
「……誰でもいいから、早く作戦を立てろ」
ドバイン師匠は、そう言って鍛錬場の中央へと行ってしまった。
――
というわけで、作戦会議が始まった。
まず、俺達の戦力の把握からだ。
紫のスライム。パントロ。神官の息子。
戦闘スタイルは、近距離型。避けるのは得意。硬質化を完全ではないが、ほぼ習得した。
主な攻撃方法は、体当たり。魔撃を使えるが、一定の時間が必要。
赤いスライム。サーラスティ。リーダー。
戦闘スタイルは、中距離型。避けるのはそこそこ。
主な攻撃方法は、魔法と体当たり。初級魔法は全て使える。
黒いスライム。ガルディウス。英雄の息子。
戦闘スタイルは、近距離型。避けるのは得意。
主な攻撃方法は、体当たり。パントロと同じく魔撃の使い手だが、パントロよりも時間が掛かる。
白いスライム。リンジー。
戦闘スタイルは、遠距離型。避けるのは苦手。
主な攻撃方法は、魔法。初級魔法は全て使える。
茶色のスライム。ボルド。
戦闘スタイルは、近距離型。避けるのはそこそこ。
主な攻撃方法は、体当たり。魔撃は練習中のため、まだ使えない。
桜色のスライム。ユカリス。
戦闘スタイルは、遠距離型。避けるのは凄く苦手。
主な攻撃方法は、魔法。中級魔法の一部も使えるほどの腕前。
さて、現在の戦力はこれだけだ。
近距離が、俺、ガルディウス、ボルド、の三人。
遠距離が、リンジー、ユカリスの二人。
サーラスティは、近距離で攻撃を避けながら、魔法を撃ったり、体当たりを放ったりと、謎の行動を取っているため、中距離型だ。
さすがサーラスティ。俺の想像を超えた戦法が得意のようだ。
俺達の勝利条件は、ドバイン師匠に参ったと言わせるか、動けなくさせれば勝ちだ。
「さて、どうするよ?」
「まずは、セオリー通りね。パン、ガル、ボルの三人が前衛で突っ込んで……」
サーラスティが作戦を言い出したのだが……。
パン? ガル? ボル?
「おい、ちょっと待て、名前を略すなよ」
「コードネームよ。重要でしょ?」
重要じゃねーし。なんだよそれ。
それに……。パン、ガル、が反対に呼ばれると……。
いや、大丈夫! ここは魔界だ。例え、ガル、パン、と呼ばれても問題ない!
いや……、でもな……。
コードネームを変えて貰うか?
かといって、トロは嫌だしな……。
パンを、反対から呼んだら……、ンパか。ダメだな。
トロを反対にすると、ロトか……、これはこれで、いろんな意味でダメだな……。
間を取って、トンにするか? いや……、トンだと俺が反応できないな……。
やっぱり、コードネームをやめさせる方向へ持って行こう。
「コードネームなんていらんだろ?」
「え!?」
なんで、そんなに驚くんだよ?
「あたしがリーダーよ? リーダーに逆らう気?」
「くっ……」
立場を利用して来やがった……。
くそっ! 俺がリーダーになっていれば……。
ああ……、さっきは、あんなに拒否していたリーダーが、今はこんなにも、なりたいだなんて……。
「さ、続けるわよ? 三人が前衛、リンとユカが後衛。あたしは、全体が見える場所で指示を出すわ。取り敢えず、これでやってみようかと思うのだけど、何かある?」
くそっ! 基本的な戦術を言うくらいなら、俺にだってリーダーが出来たのに……。
「我輩は、問題ないのである」
「ぼ、ボクもそれでいいと……」
「わ、わたしもぉ……」
「オレもそれでいいぞ」
全員が納得してる。
そして何故か全員がこちらを見ている……。
あ、俺が何も言わないからか。
「ああ、俺もそれでいいと思うよ。もしダメだったら次を考えよう」
全員の視線がサーラスティに向いた。
「よしっ! それじゃあ、行くわよっ!!」
「「「おおおおおおおおおおお!!」」」
みんなのテンションが何故か高い。
こうして俺達は、集団戦闘の特訓を始めた。




