第十六話 「問題」
ガルディウスの苦しむ声が、鍛錬場に響き渡る。
その声を聞いて、周りにいたスライム達が、特訓を見るために一斉に移動を開始した。
俺も一緒に移動しようとしたのだが……。
「ふぉっふぉっふぉ。パントロよ。ちょっと待つのじゃ」
カイザーに呼び止められた……。
「なんだよ? 俺も特訓を見学したいんだけど?」
「パントロ、お主、ちょっと暇になるかも……、と思っておるじゃろ?」
確かに……。
この二日間で、人数が増えすぎだ……。
昨日はガルディウスと、リンジーが、そして今日はユカリスと、ボルドが来た……。
俺とサーラスティを含めて六人だ……。多すぎる。
「確かにな……。暇になるというか、全員が特訓を満足にできるのか疑問だ……」
「ふぉっふぉっふぉ。そこでじゃな。お主に硬質化という技を教えてやろうかと思ってのう」
「硬質化……?」
何だその名前……。
硬くなるのか……? ってことはあの技か?
「そうじゃ。新しい技じゃぞ? ワクワクするじゃろう?」
「別にワクワクなんてしねーよ。それより、硬質化って、硬くなるアレか?」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ。お主には何度か見せたのう」
やっぱりアレだ。カイザーに向かって体当たりをしたときに、色が変わって、すげえ硬くなったヤツだ。
う~ん……。
別にいらないよな?
避ける特訓をしているんだから、硬くなる必要なんて無いだろ?
「別にいいや。俺は避ける特訓を見学しながら、魔力量を上げる訓練するから」
「ふぉっふぉっふぉ。まあ待つのじゃ、硬質化の訓練も魔力量が上がるはずじゃ」
「あ?」
色々と説明を受けた。
硬質化という技は、魔力のコントロールが重要な技らしい。
魔力を自在にコントロールするために、魔力を扱い続けていると、核に負担が掛かって、核が広がり、魔力量が上がると言われた。
魔力を使うだけなので、実際に俺は動かなくてもいいそうだ。
つまり、避ける特訓を見ながら、俺は硬質化の訓練をする事が出来るという訳だ。
まあ俺としては、魔力量が上げられれば、何でもいい。
魔力量を上げつつ技が一つ覚えられるなら、教わってもいいかな? と思えたので、教わることにした。
「で? 硬質化ってのは、どうやるんだ?」
「ふぉっふぉっふぉ。では、簡単に説明するぞ。少量の魔力を薄く伸ばして、体の表面に滲み出すようにして、張り付けるのじゃ」
魔力を薄く伸ばす?
「ちょっと待て、少量ってどれくらいだ? あと魔力って伸びるのか?」
「ふぉっふぉっふぉ。じゃから、魔力の操作が重要だと言っておろう。量も伸ばし方も、お主の感覚次第じゃぞ」
俺の感覚ねえ……。
う~ん。ちょっと試してみるか……。
しばらくの間、色々と試したのだが……。
「なあ、カイザー?」
「ふぉっふぉっふぉ。なんじゃ?」
「まっっっったく、出来ないんだけど?」
「ふぉっふぉっふぉ。そう簡単に出来るはずがないじゃろ」
これ、凄い難しいぞ……。
カイザーは簡単そうに言ったが、まず、魔力を伸ばすことが出来ない。
仮に出来たとしても、次は体の表面に張り付けるんだろ?
魔力を伸ばして、それを更に、コントロールしろってことだろ?
出来そうにないんだけど……。
「難しすぎじゃね? 全く分からんぞ?」
「ふぉっふぉっふぉ。当たり前じゃ、スライム族の奥義じゃからのう」
奥義? スライム族の奥義が、硬質化なの?
こんな地味な技が奥義だなんて……。スライム族って、やっぱり最弱なんだな……。
つーか、いきなり奥義を教えようとしてんのかよ!?
何考えてんだ!?
「急に奥義なんて、無理に決まってるだろ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主なら或いは……、と思ったのじゃがな。ふぉっふぉっふぉ」
何故そんなに笑う? 何が面白いんだ?
俺は天才でも何でも無いのに、いきなり出来るわけ無いだろ。
「もう、やめていいかな?」
「ふぉっふぉっふぉ。根性が無いのう。天才のワシですら、硬質化の特訓を始めてから、十日も掛かったのじゃから、もう少し頑張ってみよ。ふぉっふぉっふぉ」
天才かどうか知らんが、カイザーが十日も掛かったのか……。
このまま練習して、俺が出来るようになるのか? すげえ不安だな……。
「パントロ!! 何してるのよ!!」
サーラスティの声が聞こえてきた。
長いこと特訓も見ず、カイザーと話していたので不振に思ったのだろう……。
「ふぉっふぉっふぉ。後は見学しながらでも、やってみるが良いわ」
「あ、ああ……。そうだな……」
こうして俺は、硬質化の特訓を始めた。
特訓と言うより、訓練、いや……、練習だな……。
――
納得できない。
俺はあれから、見学場所へと移動して、他のメンバーの避ける特訓を見学しながら、魔力を伸ばす練習をしていた。
順番はみんなで決めたらしく、俺は最後だと言われたのだが……。
何故か俺の出番が飛ばされ、ガルディウスが、避ける特訓の二周目に突入した。
「サーラスティ様? 何故に俺の出番が飛ばされ、ガルディウスが特訓をやってるのでしょうか?」
「ふふん! 来るのが遅かったから、パントロは一回休みよ」
何だその理由……。
俺だって、すぐに来たかったのに、カイザーに呼び止められたんだぞ?
それなのに、一回休みって……。今日中に俺の出番は来るのか?
つーか、様付けには、反応しないんだな。
さすがサーラスティだな。スルーする能力まで高い。
俺は仕方なく、自分の番が回ってくるまで、魔力を伸ばす練習を続けた……。
――
今日の特訓の時間が終わった……。
結局、俺の出番は最後に一度だけあっただけだった……。
帰ったらドバイン師匠に相談すべきだな。
人数が多くなりすぎて、俺だけではなくて、一人ひとりが、満足な特訓を受けられていない。
大問題だ。
と言うわけで、帰ってすぐにドバイン師匠に相談した。
すると、明日からは方法を変えると言われた……。
本当に大丈夫なのだろうか?
――
次の日。
俺はいつも通り、体力作りを行なってから鍛錬場にやってきた。
もちろん他のメンバーは、先に避ける特訓をしていたそうだ。
はぁ……。マジで仲間はずれにされている気がしてきた……。
イジメって……、こういう事から始まるんだよな……。
おっと、いかんいかん。いつものネガティブが出てしまった……。
気を取り直して、特訓を始めよう。
「ドバイン師匠、どうするんですか? 特訓の方法を変えるんですよね?」
「……うむ。まずは二人だな」
「二人ですか?」
「……パントロ、サーラスティ、ついて来い」
そう言うと、ドバイン師匠は草原の中央へと向かった。
俺とサーラスティは、言われた通りドバイン師匠の後を追った……。
他のメンバーは、いつもの見学場所で待機だ。
「で、何をするんですか?」
「……パントロは、俺に攻撃をしろ」
「え? 俺が攻撃するんですか!?」
攻撃……。 攻撃って何をすればいいんだよ?
俺は体当たりしかできないぞ? それでいいのか?
魔撃も一応出来るが、魔力を溜めるのに時間が掛かりすぎるから実戦向きじゃないしな……。
「あ、あたしは!? あたしは、どうすればいいのですか!?」
珍しく、サーラスティが焦ってるように見える。
どうした? お前はいつも通り、デデン! と、大きな態度で居ればいいじゃないか。
「……サーラスティは、いつも通りだ」
「い、いつも通り? いつも通りって攻撃を避ければいいのよね?」
なぜか、サーラスティは俺の方を向いて聞いてきた……。
なぜ俺に聞いてくる?
俺に聞かれても分からんぞ……。
「さあ? いつも通り避ければいいんじゃない? ドバイン師匠? そうですよね?」
「……うむ」
「なんだ! いつも通りなら簡単じゃない! ふふん!」
何故だ!? 急に自信満々になったぞ!?
さすがサーラスティ様だな。感情の変化が全く読めない。
「……行くぞ」
「うっす!」
「お願いします!」
特訓が始まった。
俺は、攻撃だけをするのかと思ったが、違った。
ドバイン師匠は、俺達二人に、高速の攻撃を繰り出してきた。
俺はいつものように避けながら、自分が攻撃をするチャンスを窺う……。
サーラスティが、必死に避けているように見える……。
リボンが凄い勢いで揺れまくっている……。
あ、まずい!
サーラスティが攻撃を避けたのだが、ドバイン師匠の追い打ちが見えてない。
だが、その隙に、俺は完全にドバイン師匠の死角に入った。
ここか!?
いっけえええええええええ!!
「おりゃああああああああああああああああああああ!!」
全力の体当たりを、ドバイン師匠の背中に向けて放った。
見事に、ドバイン師匠の背中に直撃した。
だが、どうせダメージはない。何度も微動だにしない姿を見てきた……。
そう思ったのだが……。
「……くっ!」
死角から体当たりを放ったのが良かったのか、ドバイン師匠が一瞬ひるんだ。
もう一発いけそうだ!
俺は再度、死角へと移動する。
ピョンピョンと跳びはねながら、死角へと入り込もうとしたのだが……。
さすがにドバイン師匠は甘くない。
今度は、主に俺へ攻撃を繰り出してきた。
俺は攻撃を避けながら、隙が出来るのを待つ。
サーラスティが、距離を取っているので、俺はおとり役になってる。
だが、これでいいはず。
きっとこれは、連携の特訓だ……。
――
「……交代だ」
「うっす!!」
「あ、ありがとうございました!」
交代の時間が来た。
あの後、何度か体当たりを食らわせたのだが、やはり大きなダメージは与えられていない。
まあ、攻撃を当てられただけ、良かったのかもしれないが……。
ちなみに、俺達は全ての攻撃を避けた。
何度か危ないところもあったが、一応全部避けられた。
「次は誰ですか?」
「……ガルディウスと、リンジーだな」
「はい。じゃあ呼んできますね」
俺は見学場所へと向かい、ガルディウスとリンジーに次はお前達だと伝えた。
そして、彼らの特訓が始まったのだが……。
「パントロ。すごいわね」
「え? なにが?」
サーラスティに急に褒められた……。
何を褒められているのか、全く分からん。
攻撃を当てたことか? でも死角からの攻撃だからな……。
褒められるほどじゃないと思うのだが……。
「もしかして、攻撃を当てたことか?」
「う~ん。それも凄かったけど、あれよ、避ける方よ」
避ける方? いつも通りだと思ったが……。
「え? いつもやってるじゃん? 何が凄いんだよ?」
「攻撃の速さよ。近くで見て初めて分かったわ。いつもあんな速度でやってるの?」
ん~? 速かったけど、いつもの方が速いな……。
魔撃は別として、俺が体験した、一番速かった攻撃を10だとすると、今日のは7の速さだな。
まあ、ざっくりとした適当な表現だけど……。
「いつもは……、もう少しだけ速いかな?」
「ふふん! そうなのね! やっぱりパントロね!」
まただ……。
なぜ急に偉そうになるんだ?
あと、やっぱりってどういう意味だ?
結局この後、あーでもない、こーでもないと、不毛な会話を続けながら、特訓を見学した。




