第十五話 「仲間」
いつもの攻撃を避ける特訓が始まった……。と思ったのだが、いつもと少し違った。
ドバインさんの攻撃の速度が速い。
魔撃ほどではないのだが、いつもよりも明らかに速い。
「ちょっ! 速くっ! ないですかっ!!」
俺は攻撃を避けながら、ドバインさんに訴えてみた。
だが、ドバインさんは、俺の声を無視し、そのまま無言のまま、高速の攻撃を繰り返した。
――
「……交代だ」
「うっす!!」
交代の時間になったようだ。
案の定、何発か攻撃を食らってしまった……。
ドバインさんの攻撃速度が、いつもより速かったのは間違いないのだが、それ以外にも、変な感じがした……。
魔力を使ったせいだろうか? 体が重く感じたのだ。
体が重く、動きが鈍くなってるのが、自分でも分かった……。
今すぐにでもドバインさんに聞きたいが、サーラスティを待たせて、怒られるとイヤだから、帰ってからにしよう……。
俺がサーラスティと交代しようと、サーラスティの方へ向くと、なぜかカイザーがいた。
そして、他にも二匹のスライムが……。
「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、中々いい動きじゃったぞ」
「お世辞はよせよ……。そんなことより、その二人は?」
俺が二匹のスライムに目をやると、カイザーが紹介してくれた。
「ふぉっふぉっふぉ。こちらは、ガルディウス」
ガルディウスと紹介されたスライムは、黒いスライムで、目がキリッとして凛々しい顔をしている。
ガルディウス……。確か……、英雄の息子だったか?
「そして、こちらは、リンジーじゃ」
リンジーと紹介されたスライムは、ガルディウスとは対照的な、白いスライムで、たれ目の優しそうな顔をしている。
リンジー? ん~? 聞いたことがあるような、ないような……。
もしかして……?
「ふぉっふぉっふぉ。どちらも、お主と、同じ日に生まれた者達じゃよ」
やっぱり。
「ガルディウスだ。よろしく頼む」
「リ、リンジーです。よろしくお願いします」
どうしよう……。
これは困ったぞ……。
「パントロだ。よろしくな。二人とも特訓に来たんだよな?」
「ああ。そうだ」
「こ、今度は武術の特訓かぁ……。怖いなぁ……」
ガルディウスは、寡黙な感じか? いや、違う気もするな……。
リンジーは少し臆病な性格なのだろうか? ぷるぷると震えている……。
まあ二人の性格は今はいいか……。それよりも……。
俺は今、悩んでいる。
この二人の性別に……。
いや、ガルディウスは男だろう。
声も男っぽいし、ゴブリン魔王の演説で、英雄の息子として紹介されていたのを覚えている。
息子と紹介されたのに、女って事はないだろうから、間違いなく男だと思っていいだろう。
問題はリンジーの方だ。
全く性別が分からない……。
サーラスティのときのような失敗はしたくないので、性別をなんとか探ろうと思ったのだが……。
リンジーという名前は、男っぽいと言われれば、男っぽく聞こえるし、女っぽいと言われれば、女っぽく聞こえてしまう……。
声も中性的な声で、男でも女でもあり得そうな声色だ……。
くそっ! なんなんだよこいつ!!
もう少し分かりやすくしてくれよ!!
「パ、パントロくん? ぼ、ボクの顔に何か付いてる?」
「え? ああ、すまん。何でもないんだ。なんとなく見てただけだから……」
「そ、そう?」
ボク!? ボクって言ったぞ!!
これはアレだよな? 男でいいよな!?
ん……? ダメだ!!
ボクっ娘の可能性が捨てきれない!
くっそ……。こんな変な知識のせいで悩むことになるとは……。
「リンジー! 相変わらず軟弱ね! そんなんだから……、こほんっ! ちょっとは男らしく、しっかりしなさいよ!」
「えぇ……。そんなこと言われても……。サーラスティは強いから、そんな事が言えるんだよ……」
なんだ? 何か言いかけて止めたぞ? いや、それはどうでもいい。
それより、よくやった!! サーラスティ!!
男だとサラッと言うなんて、さすがサーラスティだ!
おかげで、リンジーが男だと確定したぞ!
「ふっ。相変わらずサーラスティはきついな」
「なによ? ガルディウスだって、相変わらずイヤな感じを出してるじゃないの」
サーラスティは、どちらも知り合いなのか。
てか、なんで、そんな険悪な雰囲気になるんだよ?
仲良くやれよ……。
あ、人のこと言えないか……。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら、そろそろ特訓を始めるようじゃぞ?」
いいタイミングで、カイザーから特訓を促された。
俺はちょうど終わったばかりなので、次は、新しく来たどちらかか、それともサーラスティか……。
「……誰でもいいぞ」
おっと、ドバインさんが、丸投げしてきた!!
どうする? どうなる? 誰が行く?
「あたしは、パスするわ。ガルディウスか、リンジーが行きなさいよ」
おっとぉ!? 何故か、サーラスティがパスしたぞ!
「ならば、オレが行く」
おっとぉ!? 今度はガルディウスが、行く宣言だ!!
「ぼ、ボクはその次で……」
なんと! リンジーは次回へ予約を取ったああああああああ!!
なんで俺は心の中で、変な実況みたいな事やってんだよ……。
俺はバカか? いや、バカなんだけどさ……。
まあいいや……。見学しながら、魔力を溜める練習でもしよう……。
――
今日の特訓が終わった。
あの後、ガルディウス、リンジー、サーラスティの順番で特訓をやったのだが、そこで時間がきてしまった。
俺の出番は来なかったのだ。
ガルディウスは凄かった。
ドバインさんの攻撃を、二発ほど食らったが、後は全て避けていた。
初日だと考えると、素晴らしい能力だ。
リンジーも、それなりに良かった。
何度も攻撃を食らったが、初日の俺と比べると、かなり避けていたと思う。
それに、逃げるのではなく、ちゃんと避けようとしていた。上出来と言ってもいい。
はぁ……。サーラスティも初日は凄かったし、俺は出来損ないなのかも知れない……。
みんなより早くこの特訓を始めたから、少し上手に出来ているだけな気がしてきた……。
まあいいや……。帰ろう……。
そんなことを考えながら、移動用のサイに乗ろうとしたのだが……。
「パントロ!」
サーラスティに急に呼ばれた。
「ん? なんだ?」
「師匠に体当たりしていたけど、あれは何? 一体何をしていたのよ?」
どうしようか……。
魔撃のことって、言ってもいいのかな?
「えーっと……。攻撃の特訓ってヤツかな?」
「ふーん。パントロが攻撃ねえ……。まあいいわ」
どうやらサーラスティは納得したらしいのだが……。
「攻撃の特訓だと!?」
ガルディウスが、俺達の会話を聞いていたらしく、俺に詰め寄ってきた。
「あ、ああ。少しだけな。避ける特訓の前に、少しだけやっただけだよ」
「パントロ! 貴様がやってるなら、オレもやるぞ!!」
何故か張り合ってきた……。
何故だ……。
「あ、ああ。じゃ、じゃあ、ドバインさんに聞けばいいと……」
「そうだな! 師匠!」
そう言うと、ガルディウスは、ドバインさんの元へと向かった……。
何だろう……。寡黙な奴かと思ったが、熱い奴なのかな?
「ねえ、パントロ?」
またもサーラスティに呼ばれた。
「ん? なに?」
「あなた、師匠のことを、さん付けで呼んでるけど、教えを受けてるのだから、師匠と呼ぶべきじゃない?」
ん? そういうものか?
どうなんだろ? 武道とかの知識は、ほとんど無いからな……。
そうする方がいいのかな?
「やっぱ、その方がいいかな? じゃあ……、ドバイン師匠って呼ぶことにするよ」
「ふふん! 分かればいいのよ」
サーラスティは、そう言うと満足したのか、そのままサイに飛び乗った。
それにしても、あのリボン、本当に邪魔になってなかったな……。すげえなサーラスティ……。
そう言えば、ガルディウスも、リンジーも、ついでにカイザーも、リボンに触れなかったな……。
俺の感覚が変なのか? いや、そんなことないよな?
そんなことを思いつつ、俺は家路へとついた。
――
次の日。
俺は今、体力作りを一人で行なっている。
昨日と一緒だ。他のスライム達の特訓を先に始めるので、俺は体力作りをやってろと言われたのだ。
何だろうか……。
仲間はずれにされているような気分だ……。
カイザーも用事があるらしく、朝から出かけたので、今日は監視が誰もいない。
サボる絶好のチャンスだったのだが……、俺は何故か、クソ真面目に体力作りを行なっている。
だが、いつもと少しだけ違う。
魔力量を上げるために、常に核を意識しながら、いつもの体力作りをやっているのだ。
昨日、家に帰ってから、体が重くなった理由を聞いたのだが、やはり魔力を使いすぎたのが原因だと言われた。
魔界の住人の体には、魔力のリミッターが存在していて、そのリミッターを超えて魔力を使うと、体に異変が起きるそうだ。
どうやら俺は、リミッターを超えて魔力を使ってしまったらしい……。
具体的に、どのような異変が起きるかというと、体が重くなったり、方向感覚が狂ったり、気絶するような事もあるらしい……。
さすがに気絶なんてしたくないので、対策を聞いた。
返ってきた答えは、魔力量を上げろ。だった……。
魔力量を上げると、リミッターの上限も自然と上がるらしく、自分で魔力を使い切ったと思っても、体に十分な魔力が残り、体の異変は起きなくなるらしい。
結局、魔力量が全てだ。
魔撃の威力も、体の異変も、魔力量が上がれば問題解決だ。
魔力量の上げ方についても、詳しく説明して貰った。
魔力を体内で出し入れするようなことを続けると、核が広がり、魔力量が上がるらしい。
他にも方法はあるらしいのだが、基本的には出し入れでいいと言われた。
最初からそれを教えてくれれば、魔撃を何度も食らうような必要はなかったのでは? と思ったのだが、最初にある程度、強引に広げなければならないらしい。
それに俺の出来が悪かったらしく、何度も、核を広げるための魔撃を打ち込む必要があったそうだ……。
聞けば聞くほど、俺は魔界では不出来な存在な気がした……。
魔法も使えないし、核を広げるのも出来が悪いって言われたし……。
俺って、ホントにダメなスライムだな……。
まあ、そんなに落ち込んでも仕方ない。
ポジティブに行こう。
気を取り直して、魔力量と体力を上げる特訓をするぞ!!
俺は魔力量を上げる為に、魔力を出し入れしながら、今日も体力作りを続けた……。
――
何故だ!? 何故増えている!?
昼食後、俺は鍛錬場にやってきたのだが、そこには見たことのないスライムがまたいた。
「ふぉっふぉっふぉ。パントロよ。遅かったのう」
「またカイザーか。何なんだよ? まさか、また同じ日に生まれた連中か?」
カイザーが連れてきたのだろう。
二匹のスライムが増えていた。
「ふぉっふぉっふぉ。その通りじゃ。こちらは、ユカリスじゃ」
ユカリスは、ピンクのスライムだ。
ゴブリン魔王の側近にもピンクがいたが、あっちは桃色って感じで、ユカリスは桜色だ。
同じピンクでも、ユカリスの方が、少し薄いピンクだ。
個人的に、ユカリスの桜色は、優しい色合いをしていると思う。
顔は……。うん。あまり違いが分からないな……。
ザ・普通な感じだな……。
なんとなく、親近感が湧く……。
「そして、こちらが、ボルドじゃ」
ボルドは、茶色いスライムだ。
土色のような感じの茶色だ。
目や口が、少し中心に寄ってる気がする。
さて……、問題は性別だが……。
「ボルドである」
「ゆ、ユカリスですぅ……。よ、よろしくお願いしますぅ……」
なんか、二人とも変わった話し方だな……。
なんだろう? なんか、ユカリスから変な目で見られている気がする……。
「あ、ああ、二人とも、よろしくな。パントロだ」
はぁ……。ボルドは男だと思うが、ユカリスは分からんな……。
どうするかな……。
俺が悩んでいると、サーラスティが近寄ってきた。
「ユカリス、パントロに挨拶は終わったの?」
「う、うん。で、でも、サーちゃん……。ほ、本当に、この子がパントロちゃんなの?」
サーちゃん……? ああ、サーラスティのことか。
つーか、俺まで、ちゃん付けされてんの!? なんで!?
「そうよ? これがパントロよ? それがどうしたの?」
「そ、そうなんだぁ……。うん。わ、わかったぁ……」
なんだよ!? 俺がパントロじゃダメなのか!?
どういう意味だよ!?
あと、サーラスティ、いくら何でも、これ呼ばわりは酷くないか?
まあ、ツッコんでたらキリがなさそうだから、スルーするが……。
「ふふん! まあユカリスが緊張するのも分かるけど、パントロは普通の男の子だから安心しなさい!」
「ぅ、うん……」
本当になんなんだ? 俺ってどんなヤツだと思われていたんだ?
普通じゃないと思われてたのか?
「パントロ、女の子をあんまり虐めるんじゃないわよ?」
「あ? そんなことするわけないだろ? 何言ってんだ?」
イジメなんて、するはずないだろ……。
俺はイジメが原因で高校を辞めた、元いじめられっ子だぞ……。
はぁ……。イヤなことを思い出させてくれやがって……。
つーか、ユカリスは、俺が虐めるとでも思っていたのか?
何でだ? 理由が全く分からん……。
ん!? 今、サーラスティが、ユカリスのことを女の子って言ったよな!?
さすがサーラスティだ! 俺が知りたいことを、またもやサラッと教えてくれた!
今度、お礼を込めて、サーラスティ様と呼んでやろう。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
唐突に、遠くからガルディウスの声が聞こえてきた。
俺達が話している間に、特訓を始めたのだろう。
どうやら魔撃を食らって、のたうち回っているようだ。
分かる。分かるぞ、ガルディウスよ。
その苦しみは、食らった者にしか分からない苦しみだ。




