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第十四話 「魔撃」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺は今、絶賛悶絶中だ。


 なぜ、こんな状況になってるかと言うと、もちろん特訓のせいだ。

 魔撃をまともに食らい、俺は体が引き裂かれるような痛みを感じながら、もがき苦しみ、転げ回っているのだ。


 特訓を始める前に、ドバインさんに言われたことがある。


「……反応できるか、確かめてみろ」


 この一言の後、見えない攻撃が飛んできた。

 見えないのに、反応もクソもない。

 勘だけを頼りに、なんとか最初の数発は避けた……。

 だが、何度も、何度も、見えない攻撃が飛んでくるのだ。


 さすがに避けようが無く、直撃を何度か受けた。

 ちなみに、今、苦しんでいるのは、五発目の魔撃を食らった直後だ。

 この地獄のような苦しみを、五回も繰り返しているのだ……。


 だが、何度も食らい続けると、不思議なことが起き始めた。

 最初は全く見えなかった魔撃が、少しずつ見えるようになったのだ。

 慣れた訳じゃない。反応が出来ずに直撃しているのだから、慣れたとは思えない。

 それに、魔撃を食らえば食らうほど、見える数も多くなっていく。

 理解できないが、何故かそうやって見え始めたのだ。

 もしかしたら、魔撃を食らい、核が広がったことで、俺の中で何かが変わってるのかも知れない。

 例えば、昨日の夜にカイザーが言ってた、魔力量が関係しているのかも……。


 魔撃が見えてくると分かったことがある。

 魔撃は、何の変哲もない普通の突きや蹴りだった。

 ただ、速度が異常に速い。

 通常の三倍くらいの速度に感じる。

 ん? 一瞬、赤いロボットみたいな物が頭をよぎったが、スルーしておこう……。

 とにかく、魔撃は速い。

 突きや蹴りに魔力を乗せると、攻撃の速度が上がるのかも知れない。


 悶絶すること数分、体の痛みが徐々に治まってきた……。


「はぁはぁはぁ……」

「……どうだ? 見えるか?」

「な、なんとか少しだけ……、ですが……。はぁはぁ……」


 ドバインさんは、俺の答えを聞いて、少しだけ満足そうな顔をした。


「あ、あの? これって俺が使えるようになるんですよね?」


 これについては、しっかり聞いておかなければならない。

 これだけ食らって、使えませんでした。では、納得できない。


「……お前次第だ」

「お、俺次第ですか……」


 くそ……。なんなんだよ……。俺次第ってどういう事だよ……。


「……交代だな」

「あ……、そうですか……、じゃあサーラスティを……」


 俺は、サーラスティを呼ぼうと思い、振り向いたのだが、既にサーラスティは交代を察していたようで、こちらに向かって移動してきていた。

 リボンが、すごく邪魔そうに見える……。

 俺は、その様子を見て、そのまま見学場所へと移動を始めた。


「何をやってるのよ? そんなんじゃ、いつか死んじゃうわよ?」


 サーラスティと、すれ違うときに、そう言われた……。


 そんなこと言われても、魔撃を避けられないのだから仕方ない……。

 俺は、言い返す気力も無かったので、黙って見学場所へと移動した。



――


 サーラスティが特訓をやってる間に、俺は魔力のことについて、色々と考え、そして試していた。

 魔力を感じるように、核へ意識を集中させていたのだ。


 しばらくの間、そんな事をやっていると、だんだんと魔力を出す感触が、わかり始めた。

 イメージとしては、腹の奥に、力を込めるような感じだ。そうすることで、核から魔力が湧いてくる。

 まあ俺には腹なんて無いのだが……。あくまでもイメージだ。


 そして……。


「……交代だ」

「はい! 師匠! ありがとうございました!」


 相変わらず、サーラスティは元気だ。

 集中していたので、あまり見ていなかったが、ほぼドバインさんの攻撃を避けてると思われる。

 涼しい顔をして、こちらへと向かってくる。


 それにしても、特訓の時間が半分になってしまったので、効率が悪くなった気がする……。


 俺は、ドバインさんの元へと向かった。


「どうだった? あたしの華麗なステップは? ふふん!」


 途中、またもサーラスティとすれ違うときに、話しかけられた。

 自信満々に言われたのだが、見ていなかったので、どうしようかと思い……。


「ああ、格好良かったよ!」


 と、思わず適当な返事をしてしまった。


「ふふん! パントロ、次は全部避けるのよ! 手を抜いたら怒るからね!」


 サーラスティは、謎の激励をしてくれた。


 適当な返事をして、ごめん……。

 でも、なんでサーラスティが怒るんだ?

 やっぱり、よく分からん奴だな……。


 俺は頭を切り替えつつ、ドバインさんの元へと向かった。


 ドバインさんの前まで行き、魔撃について聞いてみることにした。

 避ける特訓は重要だと思うが、今は魔撃の方が気になるのだ。


「魔力を出す感触が分かったのですが、どうすれば魔撃が使えますか?」


 俺がそう聞くと、何故かドバインさんは少しだけ笑みを浮かべた。

 虎みたいな顔で、そんな笑みを浮かべられると、正直言ってメチャメチャ怖い。

 一瞬だけ、喰われるような気がした。


「……魔力を溜めてみろ」


 溜める? 魔力を?


「あ、あの? どうやって溜めれば……? というか、どこに溜めるのでしょうか?」

「……そうだな」


 ドバインさんは目を瞑り、腕を組みながら黙ってしまった。

 考え事をしているように見える……。



 何か悩んでるのか? 長いな……。


「何してるの!? さっさと始めなさいよ!!」


 遠くからサーラスティの声が聞こえてきた。

 どうやら、俺達が特訓を始めないのが不思議なようだ。


「もう少ししたら始めるよ!! いま、打ち合わせ中!!」


 適当に答えておこう。

 今の状況をどう説明したらいいのかも分からん。


 そんな風にサーラスティとやりとりをしていると、唐突にドバインさんが、


「……やはり全身だな」


 と、言い出した。

 意味が分からない。

 ドバインさんも、カイザーも、サーラスティも、よく分からない事を平気で言いやがる。

 魔界の住人は、みんなこんな感じなのか?


「ぜ、全身ですか? えっと、何が全身なんですか?」

「……溜める場所だ」


 あ、ああ……。魔力を溜める場所ね……。

 って、え?


「魔力を全身に溜めるって事ですよね? 全身に溜めるって……、意味が分からないのですが……?」


 そうだろ? 溜めるって、どこかに集めることを言うだろ?

 なのに、全身って、どういうことだよ!?


「……分かるか?」


 そう言うと、ドバインさんは、拳を俺に見せるように突き出してきた。

 見た目は、ただの普通の拳。

 だが、何故だろうか? 理解できた。

 この拳には魔力が乗っている。

 そう分かってしまった。


「えっと、拳に魔力が乗ってますよね? たぶんですけど……」

「……そうだ。魔力をこのように集中させ、相手に叩き込むのが魔撃だ」


 え? どういうことだ?

 魔力を集中させる?


「言ってる意味が分かりません……。もう少し分かりやすく教えてくださいよ」

「……スライムには手足がない。全身に魔力を集中させ、溜めるのだ」


 あ、ああ……。そういう意味か……。

 手足がないから、俺達スライム族は、全身に魔力を集めなきゃならないのか……。


「えっと……。それは分かりましたが、それはどうやれば……?」

「……魔力を感じ、魔力を集中させ、全身に溜めるのだ」


 うん。言いたいことは、なんとなく分かる。

 でもね、そのやり方が、分からないのだよ。

 と、言っても、どうせ分からない答えが返ってくるだけか……。

 少しは自分で試してみよう……。


「ちょっと集中して、出来るか試してみますね……」

「……うむ」


 俺は集中する。

 核から、魔力を取り出すように力を込める……。


 少しずつ、魔力が出てきた……。

 これを全身に溜める……。溜める……。溜める……。


 俺は魔力がどこかへ逃げないように、意識を集中させ、全身に溜めるようにイメージをし続けた……。

 すると……。


「……それだ」


 ドバインさんが、そう言ってくれたのだが……。


 それだって、どういう意味だ? 出来てるのか? 限界まで魔力を溜めたとは思うが……。

 まずいな。言葉を発すると、魔力がどこかへ行ってしまう気がする。

 聞くことも出来ない……。どうしよう……。


「……そのまま、俺に体当たりをしてみろ」


 え!? していいの!? マジで!?

 よっしゃ! 行くぞ!

 いつもいつも、俺をボッコボコにしてくれやがって!!

 食らえ!! これが俺の魔撃だ!!


「おりゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 俺は、思いっきり力を込め、ドバインさんに向かって体当たりを放った!

 だが……。


「……違うな」

「え?」


 ドバインさんは微動だにしなかった。


「あ、あの? 何が違いました?」

「……攻撃が当たる瞬間、相手に魔力を叩き込むのだ」


 魔力を叩き込む……。

 確かに今のは、ただ魔力を全身に込めて体当たりをしただけだ。

 ん~? 難しいな……。


「魔力を叩き込むって、どうやれば……?」

「……見てろ」


 ドバインさんは、先ほどと同じように、俺の目の前に拳を突き出してきた。

 やはり、拳に魔力が乗っているのが分かる……。何故分かるのだろうか……。

 俺が拳を眺めていると、拳の先から、勢いよく魔力が放出されたのが分かった。

 さっきまで魔力が乗っていた拳が、ただの拳になったのが分かる……。


「え? えーっと……」

「……魔力を叩き込むとは、こういう事だ」


 こういう事って言われてもな……。

 魔力って、どうやったら放出できるんだ?


「ちょっとだけ、試してみてもいいですか?」

「……ああ」


 俺は集中しながら、魔力を少しだけ出した。

 魔力が体内に少しだけ溜まっているのが分かる。

 体内に溜まっている魔力を、コントロールするように動かしてみた。

 体内でグルグルと魔力が動いているのが分かる。


 お? 魔力を動かすことは出来たが……、この魔力を放出させるんだよな?

 う~ん……。イメージとしては、体当たりが当たる部分から、一気に放出させる感じだよな?


 俺は魔力を外へ放出させるように、魔力を勢いよく動かしてみた。

 ブワッっと、魔力が体から抜けたのを感じた。


「お? 今の感じは……」

「……それだ」


 出来たのか!? あの感じで良かったのか!?

 もしかして、魔撃が上手くいくんじゃ……。


「も、もう一回、体当たりをやってもいいですか!?」

「……うむ」


 おっしゃ! お許しがでた!


 俺は、また魔力を溜めるために集中する。

 核から魔力を出し、全身に魔力を溜めていく……。


「……来い」


 魔力が限界まで溜まったところで、ドバインさんが、合図をくれた。


「いっけええええええええええええええええええええええええええ!!」


 俺は全力で体当たりを放つ。

 体当たりが当たった瞬間、俺は全身に溜まっている全ての魔力を、ドバインさんに向かって、叩き込むようにして放出させた。


「……むぅ」


 ドバインさんが、後ずさりしながら、苦悶の表情をしている。


 ま、マジか!? あのドバインさんが、苦しんでる!?

 成功したのか!? 魔撃が出来たのか!?


「ド、ドバインさん? だ、大丈夫ですか?」

「……問題ない」


 問題ないのかよ!! なんだよ!! やっぱり失敗か!?


「えっと、どうでしたか? 今のは上手くいったと思ったのですが」

「……少し威力は足りないが、いい魔撃だった」


 お? マジか!? 成功したのか!?

 でも、威力が足りないって……。


「あ、あの? 威力ってどうやって上げれば……?」

「……魔力量、体当たりの精度、どちらも重要だ」


 体当たりの精度は、まあなんとなく分かる。

 体当たりが強くなればなるほど、威力も上がるんだろ。

 でも、魔力量……? 魔力をもっと溜めて撃てば、威力が上がるのか?


「魔力を、もっと溜めればいいんですか?」

「……そうだ」

「え? でも、どうやって……」


 実際、全身に溜められるだけ溜めたつもりだ……。

 これ以上、どうやって魔力を溜めればいいんだ……。


「……魔力量を上げれば良い」

「魔力量って、魔力の量ですよね? 魔力量を上げるんですか?」

「……そうだ。魔力は自身の魔力量の分しか溜められない」


 ん? あ、そうか。

 魔力量って、俺の魔力の総量のことか。

 分かりにくい言い方しやがって……。魔力総量とか、最大魔力量とか、別の言い方があるだろ。

 まあいいか……。一応理解できたし……。


 つまり、俺の魔力量を上げれば、そのまま使える魔力も増えるから、溜められる量も増えるってことか。

 ん? なんだ? なんか違和感が……。


 あ、そうだ! 魔撃が見えるようになったのと、魔力量は関係ないのか?


「そういえば、見えなかった魔撃が、見えるようになったのは、魔力量と関係あります?」

「……ある」


 お。やっぱりあるのか。


「説明して貰えますか?」

「……自身の魔力量が上がると、相手の魔力に気付けるようになる」

「ん? 相手の魔力にですか?」

「……そうだ」


 ん~。つまりあれか?

 俺の魔力量が上がったから、ドバインさんの攻撃に魔力が乗ってるのに気が付いたと……。

 でも、それって見えるようになるのか?


「見えるようになったのと、気が付くのと、ちょっと違う気がするのですが?」

「……魔撃が来ると分かるのだ。自然とそれに反応し見てしまうのだろう」


 なるほど。

 魔力が乗った攻撃が来ることに、無意識に気が付いて、そちらを見てしまうのか……。

 だから、一応は見えるが、避けるほど反応が出来ないと……。


 なんだ……。見えてきた訳じゃなくて、自然とそっちを向いてただけじゃん……。

 ダメじゃん。

 やっぱり避ける特訓が必要だな。

 来るのが分かっても、避けられなきゃ意味がない……。


 ん? そもそも俺の魔力量が上がったのは何でだ?

 あれか? やっぱり魔撃を食らうことで核が広がって、それで魔力量が増えたのか?

 そんな風に魔力量って上げるのか? だとしたら、もうイヤなんだけど……。

 魔力量を上げるために、毎日、魔撃を食らうなんて、いつか死んでしまう気がする……。


「あ、あの?」

「……今日は、魔撃に関しては終わりだ」

「え?」

「……行くぞ」

「あ、え? ちょっ!?」


 高速の蹴りが唐突に飛んできた。

 いつもの避ける特訓が始まってしまった。



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