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第十三話 「魔力」

 家に帰った俺は、すぐに今日の特訓についての話を切り出した。

 俺を苦しめた、魔力を乗せたとかいう必殺技の話だ。


「ドバインさん、魔力を乗せたって、どういう事ですか?」

「……そのままだ」


 そのままって言われてもな……。


「じゃ、じゃあ、まず魔力について教えてください」

「ふぉっふぉっふぉ。魔力についてはワシが教えよう」


 カイザーが横から話に割り込んできた。


「いやいいよ。ドバインさんに教わるから」

「むむ。そう言わずに、ワシにも話をさせてもらえんかのう?」


 最近、俺とカイザーは、あまり一緒の時間を過ごしていない。

 朝と夜には会うが、毎日何をしているのか、カイザーは俺の特訓について来ても、すぐに帰ることが多いのだ。

 俺とドバインさんが一緒にいる時間の方が圧倒的に多い。


 もしかして、カイザーは寂しいのだろうか?

 仕方ない……。たまには喋らせてやろう。


「えっと……、じゃあ頼む」

「ふぉっふぉっふぉ。魔力というのはじゃな――」

「ああ、魔力については大体は分かるんだ。あれだろ? 魔法とか使うときに必要な力だろ?」

「ふぉっふぉっふぉ。よく知っておるのう」


 まあ全部、ゲームや漫画で知った、前世の知識だけどな。

 一から説明してくれるのは有り難いが、話が長くなると、明日の特訓に響きそうだし面倒だ。

 俺が聞きたいことだけを、サッと聞いてしまおう。


「俺が聞きたいのは、俺にも魔力があるのか? 魔力はどうやって使うのか? それと、魔法はどうやったら使えるのか? この三つだ」

「ふむ。魔力に関しては、もちろん、お主にもあるとは思うが……」


 何だよ……。

 何で、そんな哀れんだような目で、こっちを見るんだよ……。


「魔法は使えそうにないのう……」

「え? なんで? 使えないの?」

「……才能の問題だな」


 ドバインさんが、こちらを見ながらポツリとそう言った。


「才能? 才能がないって事ですか?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。おそらく魔法の才能はないじゃろう」

「ちょっ、ちょっと待って、魔法の才能って、どうやったら分かるんだよ!?」


 魔法の練習なんて、一度たりともしたことがない。

 それなのに、いきなり才能がないってどういう事だよ?


「ふぉっふぉっふぉ。それはな、お主が魔法の使い方を聞いてきたからじゃ」


 出たよ……。

 カイザーの言ってることが意味不明で、理解不能なパターンだ。


「はあ? 魔法を使う方法が分からないのに、どうやって魔法を使うんだよ?」

「……才能があれば出来る」


 ドバインさんが、当たり前のことだと言わんばかりに、軽く頷きながらボソッとそう呟いた。


「え!? 出来るんですか!? いきなり魔法って使えるようになるんですか!?」

「ふぉっふぉっふぉ。こう、なんと言ったら良いかのう……、魔法というのは、自然と頭の中で使えるかどうかが、分かるものなのじゃよ」

「は? 意味分かんねーよ!」


 頭の中で、使えるかどうか分かる?

 どういうことだよ? 理解できないぞ。


「ふぉっふぉっふぉ。頭の中に浮いてくるのじゃ」

「あ? 浮いてくる?」

「そうじゃ。魔法名や、魔力の使い方などが、自然と頭に浮いてきて、理解できるようになるのじゃよ」

「は? なんだそれ? そんなのあり得ないだろ?」


 意味が分からなすぎる。

 自然と浮いてくる? 理解できる?

 そんな変なことが起きるのかよ?


「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃろう? あり得ないと思うじゃろ?」

「ああ」

「じゃがな、魔法の才能がある者ならば、あり得ることが分かるのじゃよ」

「は? なんでだよ?」

「才能ある者ならば、生まれてすぐに、この経験をしておるからのう」

「はああ? 生まれてすぐに?」


 才能があったら、生まれてすぐに魔法の使い方とか理解できるのか?


「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ、才能があれば、生まれてすぐに魔法を理解し、魔力を魔法に使うことが出来るのじゃよ」

「ま、マジで?」

「ふぉっふぉっふぉ。マジじゃよ。まあ難しい魔法などは修行が必要じゃが、簡単な魔法ならば、生まれてすぐに理解するのが、魔法の才能がある者達じゃ」


 なんだよそれ……。

 努力とかそういうのじゃなくて、生まれ持った才能で、魔法が使えるかどうか決まるのかよ……。


「じゃ、じゃあ俺には……」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主の頭には、魔法名も魔力の使い方も浮かんでおらんじゃろ? それは魔法の才能がないことを意味しておる」


 確かに魔法名も、魔力の使い方も、頭に浮かんでないが……。

 魔法名……。魔法名ってあれだよな?

 カイザーが水の玉を出したときに、口に出して言ってたヤツだよな?

 えっと……、確か……。


「ウォーターボール!!」

「……」

「……」


 ダメ元で叫んでみたが、やはり何も起きなかった……。

 カイザーとドバインさんの視線が痛い……。


「ふぉっふぉっふぉ。魔法名をよく覚えておったな。ふぉっふぉっふぉ。しかし魔法名を叫べば、魔法が発動すると思っておるのか? そんな簡単に魔法が使えるならば、誰も苦労せんわ。ふぉっふぉっふぉ」

「……無駄だな」

「もうやだ……」


 魔界というファンタジーみたいな世界にいて、魔法が存在するのに、俺は使えないのかよ……。

 くそっ!

 でも仕方ないか、才能がないならどうしようもない。

 前向きに考えよう。

 俺には魔法の才能がない。その事が分かっただけ、一歩前進したと考えよう。


 それより、話題を変えなきゃな。

 魔法が使えないと分かった今、魔力についての方が大切だ。


「ま、魔法が使えないのは分かった。でも、俺にも魔力はあるんだよな?」

「……ある」

「ふぉっふぉっふぉ。あるじゃろうな」


 おし、魔力があるなら、あの必殺技を覚えることができるはずだ。


「魔力ってどうやって使うんだ? どうやって使えば、必殺技が出せるようになるんだ?」

「ふむ。そこはワシの専門外じゃから、後はドバイン殿に任せようかの」

「あ? 魔法って魔力を使うんだろ? それなのに専門外ってどういうことだよ?」

「ふぉっふぉっふぉ。確かにワシは、魔力を魔法に使っておるが、魔力を打撃攻撃に利用するのは、また別の技術なのじゃよ」


 なるほど。魔力には色々と使い方があるのか。

 カイザーは魔法に、ドバインさんは打撃に使ってるのか。


「じゃあ、ドバインさん、教えてください!」

「……まず、魔力を感じる」

「え? 魔力を感じる?」

「……感じないか?」


 魔力を感じるって言われてもな……。

 どういうことだよ……。


「ふぉっふぉっふぉ。お主が今日、悶絶しておったときの、痛みを思い出してみるがいい」

「痛みねぇ……」


 確かにアレは痛かった。痛いと言うより、体が真っ二つに裂けるような感覚がした。

 ん~。

 あの時に、横に裂けるような感じがしたんだよな……。

 なんていうか、体の中から押し広げられるような……。

 ん? なんだろう?

 なんか、こう、体の奥底に何か……。


「えっと……、体の奥に何か異物? なんて言っていいか、分からないんだけど……」

「……それが核だ」

「核? 核ってなんです?」

「ふぉっふぉっふぉ。核というのは、体内にある魔力の袋のようなものじゃ」

「ま、魔力の袋?」


 核とか魔力の袋とか言われても、よく分からないぞ……。


「魔力の袋というのは、ワシが感じておる表現じゃ。お主には、お主の感じ方があるじゃろう」

「んん? 俺には異物のような物があるとしか……」

「……核が広がってるはずだ」

「え? 広がってる?」

「……そうだ。今日、魔撃を受け、核が広がっているはずだ」

「まげき……?」

「ふぉっふぉっふぉ。お主が食らった魔力を乗せた攻撃の事じゃ」


 ああ、魔撃って、必殺技の名前か……。ポンポン新しい単語を出さないで欲しい……。

 まあいいや、えっと……、魔撃を食らったから、核が広がってるって言ってたよな?

 ん? ん~。確かに異物みたいな物は感じるが、そこから何か魔力のような物が出るのか?


「やっぱり、魔力なんて感じないな……」

「……そうか。では明日も魔撃で広げるか」

「え!? 明日も!?」

「ふぉっふぉっふぉ。これも特訓じゃ。ふぉっふぉっふぉ」


 明日も、あの苦しみを味わされるのか!?

 マジで!?

 もうイヤだ! どうする? どうしたらいい?

 今日中に、何とか魔力を感じればいいのか?


 ダメだ……。

 異物があるのは分かるが、そこから魔力が出てるのか分からない……。

 こういうときは、どうしたらいいんだ……?

 そうだっ!! こういうときこそ、俺の前世の知識が役立つんじゃないか?


 俺が知ってる、ファンタジーの主人公達はどうやってた?

 思い通りに行かないとき、困難にぶち当たったとき、あの主人公達はどうしてた?

 勇気か? 根性か? それとも愛か?

 ダメだ……。どれも俺には無い……。

 そもそも俺は主人公じゃないんだ……。思い通りに行かなくて当然か……。


 なんか……、考えてたらムカついてきた。

 クソッ! 才能豊かな主人公達め!!

 簡単に困難を乗り越えやがって!!

 そんな簡単に上手く進むはずがないだろ!!

 くそっ! くそっ!! クソッ!!


「くそがあああああああああああああああああああああああ!!」

「なんじゃ急に!?」


 急に叫んだから、カイザーが驚いてる。

 すまん……。


「……ふっ」


 笑った!? 今、ドバインさん笑った!?

 初めて、笑ったところ見たぞ!?

 つーか、なんで笑うんだよ? 笑うようなポイント無かったろ?


 ん? なんだろう? 体の奥の異物から、何かが湧いてくるような……。

 ま、まさか……。


「お、お? マジか!? なんか分かる! 分かるようになったんだけど!!」

「……魔力を感じたか?」

「え、えっと、これが魔力なのかは、分からないですが、何かが湧いてくるような感じがします!」

「ふぉっふぉっふぉ。それが魔力じゃろう」

「おおおお!? マジで!? これが魔力なの!?」

「……おそらく」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「うるさいわ!!」


 やった! 魔力を感じられた! カイザーが何か言ってるが無視だ。

 これが叫ばずにいられるかよ!!


 でも、どうして急に……。

 あれか? 怒りか? ファンタジー主人公達への嫉妬の怒りで覚醒したのか?

 怒りで覚醒って、俺はどっかの、スーパーな戦闘民族かよ!?

 でもいいや。理由はなんでもいい。

 とにかく俺は、魔力を感じることが出来たんだ。

 これで明日は、魔撃なんて食らわずにすむ!


「……やはり明日もだな」

「え? 明日も?」

「……魔撃で核を広げる」

「は? ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロ、お主の魔力量では心許ないと言う事じゃ。ふぉっふぉっふぉ」


 ダメだ……。何を言ってるのか理解不能だ……。


「……では、俺はもう寝る」

「ちょ、え?」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシも寝るとするかのう」

「え? え?」


 一言だけ残して、ドバインさんは自分の部屋へと行ってしまった……。

 そして、それに合わせるようにして、カイザーも自分の部屋へと向かった……。


「マジで……?」


 一人残された俺はどうすることも出来ず、そのまま自室へと行き、悶々としたまま眠りについた。



――


 次の日。

 昼食前は、ドバインさんと別行動になった。

 何でも、サーラスティの避ける特訓を先に始めるらしい。

 その間、俺はいつものように体力作りをしていろと言われた。

 カイザーの監視の下、いつものように体力作りをしてから、昼食の水をがぶ飲みした。


 昼食後、ドバインさんがサイに乗って迎えに来たので、カイザーと別れ、俺はいつものように鍛錬場へと移動した。


 鍛錬場に到着したのだが……。


「ドバインさん……?」

「……なんだ?」

「あの赤いのって、サーラスティですよね?」

「……そうだ」

「……」

「……」

「何ですかアレ?」

「……知らぬ」


 サーラスティの頭には、体と同じくらいの、ドデカイ、リボンが付いていた……。

 何故あんな物を……、と思いながら、サーラスティを見ていると、こちらに向かってサーラスティが移動してきた。

 リボンが凄い揺れてる……。


「パントロ。やっと来たのね。今日もよろしくね」

「あ、ああ。よろしく……。あ、あのさ?」

「なに?」

「その頭に付いてるの何?」

「リボンよ。可愛いでしょ?」


 そう言いながら、サーラスティはクルクルと回り出した。


「え? うん。え? 可愛いけどさ……」

「ふふっ。今日からこれが、あたしのトレードマークになるのよ!」


 トレードマークって何だよ……。

 そんなの必要なのかよ……。


「邪魔じゃない? 特訓にそんなの付けてたら……」

「邪魔になんかならないわよ。さっきまで、このままやってたんだから。それに、これがあれば……。こほんっ! あたしが好きでやってるんだから、あんたには関係ないでしょ!」


 途中で言葉が詰まったかと思ったら、何故かキレられた……。

 つーか、心配してやってるのに、関係ないって酷くね? どう考えても邪魔だろ?


「まあ邪魔になったら外せよ?」

「外さないわよ! 気に入ってるんだから!」


 あーダメだこれ。何を言っても無駄っぽい。

 もう勝手にしてくれ……。


「はぁ……。もういいや」

「なに? パントロは、これが気に入らないの?」

「え? いや、そんなことはないけど……」

「ふふん! わかればいいのよ!」


 何故か楽しそうだ……。

 いきなり怒ったり、急に楽しそうにしたり、こいつも何を考えてるのか、よく分からんな……。


「……パントロから始めるぞ」


 会話をさっさと終わらせろと言わんばかりに、ドバインさんの冷たい声が聞こえてきた。


「あ、はい!」

「ふふん。まあ頑張りなさい!」


 サーラスティは、一言そう言ってから、草原の端へと、楽しそうにピョンピョンと跳ねながら、移動していった。

 楽しそうに見えたのは、あのリボンのせいだろうか?


 そう言えば今日の特訓って……。

 はぁ……。また魔撃、食らうのか?

 イヤだなぁ……。


 そんなことを思いながら、俺はドバインさんの真正面に立った。



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