天使
「はい。こちら退廃都市対策第5課、御影だ」
「黒瀬。どうした? ヨルの育児は順調か?」
「天使の羽根が見える?一つは黒い?
黒瀬さては……ヨルにメロメロだな?」
「私も姪っ子の唯愛ちゃんの背後に、何度も天使や悪魔の羽根を見たものだ。『れいこちゃーん』と抱きしめてくれる時は天使、『これ、もういっこ食べてもいい?』ある時は小悪魔。よくあることだ。1週間後が楽しみだな。では、頑張れよ!」
何か言いかけていたようだが、通話を切ってしまった。まあいいだろう。しかしあの周りに動じないクールでたまに毒を吐く黒瀬がヨルにメロメロだとは。
「珍しいこともあるものだな」
「社長!さっきの通信、厘ちゃん!?」
書類を書く手を止めて、デスクから身体を乗り出すのはウチの異常生物駆除官の1人。黒いスーツに真っ赤なツインテール。朝比奈 琉だ。
「ひなちゃんも厘ちゃんと話したかったのになー」
可愛いらしい見た目に、女性と見間違う声色に細い手足だが、れっきとした男性だ。まあ初対面で気付ける者はいないであろう。
「朝比奈、早く書類を終わらせろ。次の業務があるんだ」
眼鏡を光らせて、朝比奈を嗜めるのは都門 弥太郎 。
黒瀬 厘とはまた違うタイプの真面目な男だ。
「だってだって、気になるじゃん!あの厘ちゃんが子育てしてるなんて……」
「その間に奴の腕が鈍るかもな」
「いや厘ちゃんのことだから、武器の手入れとか怠ってなさそうだよ」
「……それは否定しきれない。それより社長、黒瀬がその赤ん坊にメロメロだというのは……?」
「メロメロ厘ちゃん、気になる!」
「あぁ。天使の羽根が生えていると言っていた。全くあの黒瀬も幻覚を見るなんてな!」
「え~!もう、社長こそ姪っ子の唯愛ちゃんにメロメロすぎですよ~!厘ちゃん、早く帰ってきて仕事手伝ってよぉ~」
「……」
「どしたの?弥太郎!」
「いや。以前も突然赤ん坊が大きくなったと言っていたな。天使の羽根……もしかすると……」
「……?」
気難しい顔をする都門に首を傾げる朝比奈だった。
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「ヨル、おいで」
「りん……っ!りん……っ!」
ヨルの名前を呼び、手を差し伸べると、その相反した羽根でこちらに飛び、しっかりと抱き付いてきた。
「りん。一緒にいて、ずっと。りん、りん……」
「洗濯物を取り込んでいただけだよ。泣くなよ。男の子だろ?」
「りんと一緒に、いるの……っ」
涙を流すヨルの背中をぽんぽんと撫でると、徐々に光が収まり、2つの羽根が消えていく。この事象は聞いたことがある。ヨルはどうやら——星の器を持っていたらしい。
「もしかしてヨルは俺と早く話がしたかったのか?」
「そうだよぉ……!りん、いっぱいお話ししてくれたから、話したかった。ずっと一緒にいたいんだ……!」
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「星の器?」
くるりと椅子を回して、弥太郎に声をかけるのは朝比奈だ。
「あぁ。星の力を吸収するという生まれつきの体質のことだ。聞いたことないか?」
「私は聞いたことがあるぞ。
星の力を吸収して、不可思議な現象を引き起こすことができるのだろう?例えば、その赤ん坊が成長したい、話がしたいと思ったら、そのエネルギーを成長につかったり、誰かのもとへ行きたいと思ったら、羽根を生やしたり」
社長の御影は腕を組み、会話に混ざる。
「その通りです。異常生物が発生し始めてから、そういう体質の子供が生まれるようになったと聞きますが、詳しいことは分かっていないそうです」
「ほへぇ。でも星の器なんて、ちょっとロマンティックだね。なんでもできちゃうのかな?」
朝比奈は両手のひらを合わせて、羨ましそうだ。
「それは分からない。その子供の星の器の大きさや吸収できる量にもよるらしいからな。自在にその力を使いこなせる子供は稀だろう」
「先ほど、異常生物が発生し始めてから、星の器の子供が現れたと言ったな?」
「そうですね」
「つまり、星の器の持ち主は、異常生物駆除官の味方になり得るということか!?」
「……まあ、それも一理あります。負のものの対抗策は同時期に生まれてくるものと言いますからね」
「でも、ヨルくんが星の器を持っていたとしてもまだ赤ん坊だよ?異常生物駆除官になれるのは18歳以上ですよ。社長気が早いよ~」
「少し願望を唱えてみただけだ。人手は足りていないからな!」
「まあ星の器の体質のものは特例で年齢制限はないとのことだけどな」
都門は書類を終えたのか、通信機器で星の器について調べているようだった。
「とりあえず早く人取ってくださいよ~社長」
「朝比奈、書類は終わったのか? 次の業務に向かうぞ」
「わわっ。待ってよ、弥太郎!」
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「星のエネルギーを使ってこんなに大きく成長したのか。
すごいね、ヨルは」
「もっと力を貯めれば、りんと同じになれるかな?」
「そしたらこのサメパジャマは着られなくなっちゃうかもね」
「あう。それはやだー!」
すっかり泣き止んだヨルは、りんの腕の中にすっぽり収まり笑顔だ。星の器を持った子供が生まれるようになったとは聞いたことがあるが、まさかヨルもそうだったとは。
異常生物の対抗策になるとも言われているが、本当のところは分からない。
でもヨルを危険な目に遭わせなくとも、自身が異常生物を駆除していけばいいだけの話だ。
「そろそろ夕飯にしようか。その前にシャワー浴びないとな」
「りん、一緒にシャワー?」
「はいはい」
ヨルの背中を押してシャワー室に向かう厘だ。
シャワーを終えて、サメパジャマに着替えるヨルだ。くるくると回って嬉しそうだ。
「あれ!?りんは着ないの!?」
「寝る時に着るよ。夕飯作るのにそれじゃ、動きにくいだろ」
「むう」
相変わらず合理的な考えの厘なのだった。
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夕飯を終え、ヨルの要望通りサメパジャマを着る厘だ。ヨルには似合うけど、やっぱり少し恥ずかしい。
家の中だからいいとはいえ……。
「サメパジャマ、一緒ー!」
「わ」
小ザメに再び抱きつかれて、まるでサメ親子だ。まあヨルが喜んでいるなら良いか。と腹の上でヨルを抱えたまま布団の上へと移動する。
「りん……っ」
すりりと顔を埋めるヨルだ。不思議なことはあったけど、明日起きたらりんごを剥いてあげようかな。
厘は目を瞑る。この分じゃきっと1週間なんてあっという間だろうな。ヨルは厘の身体にしっかりと抱きつきながら、寝息を立てているのだった。
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Q&Aコーナー
厘「そんなに星の器の力を使って平気なの?」
ヨル「うん。ヨルね、器、大きいんだけど、すぐ溢れてきちゃうんだ!ここは星が近いから、いっぱい入ってくる!」
「溢れるとどうなるの?」
「こぼれたら、勿体ない!りんが言ってること」
「……確かに。勿体ないね。(牛乳で想像する厘)
ヨルはなんでもできるの?」
「うーん。わかんない。
りんよりも大きくなりたいな!」
「小さいままでいいよ。抱えやすいから」
「そしたらいっぱい抱っこしてくれる?」
「いっぱいはしないけど」
「むう」
「ともかくあんまり無理しないように」
「えへへ。りん、だいすき!」
「……。それ、刷り込みされてるよ。雛鳥と一緒」
「刷り込みじゃないもん!りんが優しくしてくれたから、話したいって思ったんだ。りんだからだもん!」
「どこで覚えたの? そういうこと」
「全部、りんから!」
「教えた覚えないんだけどな」
他に何か聞きたいことがあったら、教えて下さい。




