一緒
長かった1週間の育休期間を終えて、退廃都市対策第5課——御影事務所へと出社する厘、そしてヨルだ。
ヨルはお気に入りのサメパジャマを着て腕の中だ。着替えさせようとしたけれど、見せたいと聞かなかったので、時間もなかったので仕方なくそのまま連れて来た。
「ヨル、歩く!」
「転ぶなよ」
腕の中から子ザメが飛び出していく。
1週間経ったら、保護施設がヨルを迎えに来ることになっている。今日がその日だ。しかしもう今は——
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「黒瀬 ヨルです!」
ヨルは背中によじ登ったまま、右手を挙げて挨拶をする。
「まだ黒瀬じゃないだろ。社長、話した通りあのヨルです。星の器を持っていて」
「な、なんという愛くるしさ……」
「えへん!」
「本当に大きくなっている……驚きだな。黒瀬がヨルにメロメロで幻覚を見ていたのではないんだな」
「何を言っているんですか?」
子ザメのヨルを事務所内に放つと、興味があるのかすぐにぱたぱたとかけだしていく。この中なら、危険なものはないし歩き回らせても平気だろう。
「おはようございまー……あっ厘ちゃん!」
「おはようございま」
お喋りな同僚、朝比奈は赤いツインテールをたなびかせてがっしりと抱きついて来る。この人はいつも距離が近いのだ。
「大変だったんだよお!仕事量倍だよ!倍!」
「朝比奈さん、お疲れ様です。元気そうでなによりです」
「元気じゃないよぉ。おかげでちょっぴり痩せたんだから!」
「今日から復帰します。少しは休めるかと。そろそろ離してください」
もう。と言いながら渋々手を離す朝比奈。見た目は女性だが、戸籍は男性。それが本当に真実なのかはよく分からない。
「よく頑張ってくれた、朝比奈よ。極秘で手に入れたい甘味補給カードだ。皆で分けるといい」
「社長~!ひなちゃん、そのために1週間頑張ったんですよ~」
朝比奈は甘いものに目がない。ありがたそうに受け取っている。甘味補給カード。一体どんなルートを使って手に入れたんだろうか……。ヨルにもいつか食べさせてあげられたらいいな。
「……」
「おはようございます」
「弥太郎!ほら、厘ちゃんだよ。会いたかったでしょ?」
「会いたいなどと言った記憶はないんだが。黒瀬。育休明けで腕が鈍ってないといいがな」
「おはようございます。都門さん。迷惑かけないようにします」
一週間、ヨルに構いっきりで銃の手入れくらいしか出来ていなかった。以前のようにできるようになるまで、少し時間がかかるかもしれないな。
「りんー!」
「う」
相変わらずの脚力で背中へ飛び乗ってくるヨルだ。星の器の持ち主だ。体力や精神、知識量も普通の子供とは違うと調べた時に書かれていた。
「この子が星の器、ヨルくん!?
か……かわいい~!
子ザメのパジャマなんてよく見つけたね!」
「りんと一緒!おそろいなの!」
「厘ちゃんもサメパジャマなの!?」
「ヨルがどうしてもっていうからです。寝づらいのであまりオススメはしません」
「相変わらずだな。黒瀬は」
ヨルは社長や朝比奈、都門に次々に自己紹介をされ、星の器についてや、1週間の生活について少しずつ答えているようだ。
「りんがね、りんご剥いてくれたんだ。うさぎさん作ってくれて、ヨル食べたんだ!美味しかった!」
「良かったね。ヨルくん!厘ちゃんやさしー!」
「りんごが補充されていたので珍しいと思って買ってみました。子供にもオススメらしいので。うさぎの形は試しに作ってみただけです」
「素直じゃないな、黒瀬は」
苦笑する都門だ。それからヨルは楽しそうに1週間の出来事を話している。その様子を見て、ちゃんと世話ができていたようで安心した。
「そういえば保護施設のことだが」
社長の玲子が口を開く。ヨルを世話する期間は1週間との約束だ。今日、連絡しないと保護施設は迎えに来る。
「ほご、しせつ?」
ヨルは聞き慣れないワードに社長の姿を見上げる。
「あぁ。本来ヨルは保護施設に連れて行かないといけないんだが……」
「りんと、離れるって……こと?
やだ、やだよ、やだ、やだやだやだ……!!!」
ヨルはまた光り輝き、羽根を生やそうとしている。厘はしゃがんで、ヨルを落ち着かせようと背中を撫でる。
「ヨル! 落ち着いて。離れないよ」
「り、りん?」
「戸籍登録をするといい、と言おうとしたんだ。
すまない。驚かせてしまったな。
黒瀬ももう、ヨルを離す気はないだろう?」
「……そうですね」
こくりと頷く。今更ヨルがいない生活は考えられない。厘には離れる選択肢はもうなくなっていたのだ。
「りんと一緒ってこと? ずっと?」
「うん。一緒」
「りん……っ!」
ヨルはぴょんと飛んで抱きついてくる。1週間だけのつもりだったんだけどな。厘はヨルの頭を優しく撫でる。
「うぅ。厘ちゃんもヨルくんも良かったねぇ……」
「ちょうどいいタイミングだ。黒瀬、警備ロボが近くを歩いているぞ」
都門が窓の外を指さし、警備ロボが巡回しているのを確認する。戸籍登録等の重要事項は彼らが行なっているのだ。
「連れて来ます」
「ヨルも行く!」
「う」
ぴょいと厘の背中に飛び乗るヨルだ。厘は事務所の階段を降りて、警備ロボに声を掛けるのだった。
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警備ロボに事情を話して事務所まで呼び寄せる。勤務時間にもう入ってしまっているが、早く手続きを済ませてしまおう。警備ロボにヨルの写真を撮ってもらい、指紋や声、顔や瞳の認証を行う。名前や種族、年齢等をホログラムに入力していく。
「種族選択……獣人、人外、機械化人類……星の器、あった」
種族選択欄をスクロールしていくと、最後の方に星の器の項目を発見する。
「わあん。いっぱい写真撮って疲れたよお」
「もう終わりだよ」
ヨルが写真を撮り終わり認証を終え、動いていいとわかるとすぐに厘に抱きついてくる。
「もう星の器の項目ができているのか。
以前はその他の括りだったようだがな」
「年齢も特殊体質で特例だから無記入でいいんだ。
いいな~」
「なにがいいな、なんだ?」
朝比奈と都門は横からヨルの戸籍記入欄を見ながら、会話していた。御影社長は保護施設に電話を掛けてくれていて、通信が終わったようだ。
「やはり保護施設もまだ人手が足りていないらしい。
そちらで預かってくれるなら助かります。と感謝されてしまったよ」
「社長。連絡ありがとうございます」
『登録完了しました』
警備ロボから戸籍登録完了の合図を聞き、モニター下部がパカリと開き、通信機器が出てくる。
「ヨルのだよ」
ヨルは通信機器をおそるおそる取り出す。その機器は本人にしか使用できないものだ。
「わあ!真っ黒でかっこいい!」
ヨルは小さな手でそれを受け取り、厘に見せてくる。その通信機器には『黒瀬 ヨル』と記入されていたのだった。




