買い物
物資補給エリアに到着した厘とヨル。まず目指すはヨルの履ける靴だ。抱えたままでは買い物ができないからな。
テーブルの上にはその日補充された物資が広げられ、それぞれ値段が貼られている。近くの住人も欲しい物資を確認しにきているので、この辺りはいつも賑わっているのだ。
靴の置かれた場所へ向かい、ヨルの履ける靴がないか探す。子供サイズの靴の売り場をようやく発見して、箱に乱雑に詰められた子供サイズの靴をひとつひとつ取り出してヨルの足に当てて確認する。
「ヨルの靴?」
「裸足じゃ歩けないからね。
……この靴のサイズが合いそう。履いてみて」
売り場近くには靴下も置かれている。同じサイズの靴下と共に、靴を履かせてみる。すると嬉しそうに、ぱたぱたと歩き回っている。
「走りやすい!」
「じゃあこれにしようか」
接客ロボットが近くにやってきて、ヨルの履いている靴と靴下をスキャンする。モニターに値段が表示され、思っていたより高くて一瞬驚く。が、仕方がない。必要経費だ。通信端末をかざすと支払い完了。これでヨルは自由に歩き回れるだろう。
「わあい!りん、ありがとう!」
「あと服も買わないとね。Tシャツのままじゃ、走り回れないから」
ぱたぱたと周りを走り回っていたかと思うと、足をぎゅうと抱きしめてくる。
走りやすそうで、なによりだ。
——————
接客ロボットに話を聞き、ヨルに合うサイズの服を見繕ってもらった厘。『コチラもいかがですカ?』とおすすめ商品としてモニターに、ヨルの服と同じデザインの服が映し出されるが、すぐさまいいえを押して進んでいく。
「一緒の、しないの!?」
「え。シャツたくさん持ってるし……」
いつのまにか身体をよじ登っていたヨルは肩ごしにモニターを眺める。すごい腕力だな……。
同僚には変わったデザインのシャツ集めてるの?とは言われるが気に入っているのだ。わざわざ好みでもないシャツを新しく買うなんて。それにお揃いなんて恥ずかしい。仕事が始まったらそんなに着る機会もないだろうし。
通信端末をかざしてヨルの服の会計を済ます。
「じゃあ、あれは?」
ヨルが指をさした方向はパジャマコーナーだ。確かにヨルのパジャマも購入しないといけないが……。
「一緒、一緒!」
「え、えぇ……」
——————
ヨルが欲しいと言ったのはあろうことか着ぐるみパジャマだった。パーカー付きのもこもこで頭にサメのようなヒレがついている。邪魔すぎるだろ……。
とんでもない値段がついていたが、ヨルのためにと購入に進むが、再びおすすめとして同じデザインのサイズ違いのものが表示される。
「りん、一緒のは……?」
「……」
再びよじ登ってきたヨルにお揃い攻撃を受ける。ヨルのために購入するのは構わないが、自分の分はいらないだろう。いいえを押そうとするが、首元の手がシャツの襟元をぐいぐいと掴む。
「りんー!一緒のがいいー!
サメパジャマー!」
「恥ずかしいだろ。俺はパジャマ持ってるし」
『暖かくて、着心地抜群。丸洗いも可能デス。新しいパジャマはこれデ決まリ』
音声認識を聞いたのか、接客ロボまで購入を勧めてくる。
『可愛い子供とお揃イをご用意。
こちらのサイズは、最後の1点デス。
次回補給予定、未定。未定。未定』
「……」
『お買い上げありがとうございマシタ』
「はあ」
「やったあ!」
ヨルは喜んでくるくると回っている。結局サメパジャマをお揃いで購入してしまった。またしばらく節約生活になりそうだ。パジャマの転送手続きを終えたので、帰宅したら届いているだろう。
「りんと、一緒ー!パジャマー!サメパジャマー!」
なんだか妙な歌を歌い始めている。ヨルには似合うだろうし、まあいいか。と通信端末をポケットにしまうのだった。
————————
それからも買い出しの続きをする厘とヨルだ。予想外の出費に財布に大ダメージを負ったが、必要な物は買わないといけない。自分の着ぐるみパジャマは必要かと言われると頷けないのだが。
ヨル関連の物は大体買えたので、数日分の食料と、日用品を見て回っていたところで果物が置かれている場所を見つける。
「果物が置いてある。珍しい……」
艶々とした真っ赤なりんご。貴重な物なのでこれも値段が高い。自分のためだけなら我慢したところだが……。
『貴重な果物。補給ありまシタ。お子様にも食べやすくて、おすすめデス』
相変わらず的確に接客ロボに宣伝されている。
1個だけ、買ってみるか……。
————————
「りんとお揃い、パジャマー!サメパジャマー!」
帰り道、ヨルは嬉しそうに謎のリズムに合わせて歌っている。
「まだ着るかは分からない」
「えぇ!?」
「着ようよー!」
「わっ」
ヨルがぴょいとジャンプしたと思ったら、胸元へダイブしてくる。まだ小さいのに、こんなに高く飛べるのか……。
「恥ずかしくなかったら、着るよ……。歩きにくいから降りて」
「むう」
シャツにしがみついたまま、降りる気配はなさそうだ。仕方なくそのまま歩き出す厘なのであった。
————
帰宅して、購入品をしまっていく厘。ヨルに着ぐるみパジャマを渡すと、床に転がりぎゅむぎゅむと抱きしめている。今のうちにと、裏庭に干された洗濯物を取り込んでくる。スーツの汚れを確認し、残り少ない洗剤でも汚れは落ちていたようだ。また着られるようでほっと安心する。
「りん、どこー?」
ヨルの声がする。裏庭に行ったことに気付かなかったのだろうか、洗濯物を急いで回収して、部屋に戻っていく。
「りん、りん。りん、どこ……」
「ヨル。ごめん、裏庭に……」
洗濯物を持って、部屋の中へと戻っていく。すると驚くべき光景が目に入る。
「え……」
そのターコイズブルーの瞳からぽろりと涙をこぼすヨル。こちらを振り向くヨルの身体は光り輝き、その背中からは翼が、光を放ちながら静かに羽ばたいている。
一つは白く輝き、一つは黒く濁っている。
ヨルの身体から——天使の羽根が生えているのだった。




