Case 2-2:鋼鉄の散弾(ヘヴィ・リフ) - 其の二 -
ズドンッ!!
精錬所の吹き抜けを揺るがしたのは、大砲と見紛うばかりの轟音だった。
ヴォルクスが構えた重散弾銃の銃口から、目も眩むようなマズルフラッシュとともに極太の散弾が放たれる。
装填された【Traditional Heavy Metal】のシリンダーから漏れ出る、地を這うような歪んだ重低音リフ。銃身を駆け抜けた音響エネルギーが鉛の粒に超質量を与え、散弾はまるで鋼鉄の杭の束となって敵集団へ着弾した。
ドガガガァンッ!!
前衛の迎撃スパイダー二機が、装甲ごと粉砕されて鉄屑へと弾け飛ぶ。
「がはは! 景気良く鳴るじゃねえか、デュークの親父のトラックはよぉ!」
反動で跳ね上がった巨躯を、ヴォルクスは太い両足の踏ん張りだけでねじ伏せ、即座にフォアエンドを引く。
ガシャン! と排莢された空薬莢から、シューッと白い煙が立ち上る。
「アニキ、左から二体来る!」
レイが叫ぶと同時に、低く身を沈めた。
哨戒サイボーグ二体がアサルトライフルの銃口をレイへ向ける。
「射撃タイミング、BPM 120の頭拍――照準固定」
敵の電子頭脳が導き出した射撃予測。
だが、レイは地を蹴らない。
一拍、あえて息を殺してタメを作り、規則正しい拍子の「裏」で横へと滑るようにステップを踏んだ。
絶対グルーヴ。
機械が「引き金を引くべき」と定めた座標を、わずかコンマ数秒、半拍のズレで置き去りにする。
「――エラー。標的、予測線より逸脱」
「お前の拍子、真面目すぎて読め読めなんだよ!」
すれ違いざま、レイは音叉ダガー『チューナー』を閃かせた。
キィィン!
澄んだ純音とともに、サイボーグの銃身が真っ二つに斬り落とされる。体勢を崩したもう一体の膝裏へ、右手のアナログ・ハンドガンを二連射。
パパァン!
関節の油圧チューブを撃ち抜かれたサイボーグが膝をついた瞬間、頭上から巨大な影が降ってきた。
「退いてな、坊主!」
ヴォルクスが肉薄し、重散弾銃の銃床をフルスイングでサイボーグの側頭部へ叩き込んだ。
バキィィッ!!
荒療治の衝撃波が首筋の音響支配インプラントを正確に粉砕し、サイボーグ二体が青白い火花を散らして沈黙する。
『二人とも、見事な連係よ!』
有線インカムからノアの弾んだ声が届く。
『そのまま中央の搬送クレーンを抜けて! 最下層の保管サイロまであと少しよ!』
「へっ、楽勝じゃねえか。資材を担いだら、今夜はジーナの肉団子で祝杯だな!」
ヴォルクスが豪快に笑いながら、重散弾銃のレバーを操作して次のシェルを送り込む。
だが――レイの耳が、精錬所の奥底から響いてくる「異音」を捉えた。
ガシン……ガシン……ガシン……。
地面を揺るがす重金属の歩行音。
だが、先ほどまでのドローンや一般兵とは違う。
重厚。冷徹。そして、一分の狂いもなく都市のメトロノームに支配された、完全なる四拍子の規則性。
「……待て、アニキ」
レイがダストコートの裾を抑え、足を止めた。
「来るぞ。空気が……重たい」
クレーンの隙間、最下層へと続く巨大な防壁シャッターが、油圧の力でゆっくりと押し上げられた。
立ち込める白煙の中から姿を現したのは、一台の「動く要塞」だった。
身長は二・五メートルを超え、全身を鏡面加工されたタングステン合金の重装甲で覆った巨躯。右腕には回転式の六連重ガトリングガン。そして左腕には、床に突き刺さんばかりの巨大なタワーシールドを掲げている。
胸部の識別プレートには、企業コンコードの刻印。
「旧第三精錬所・防衛哨戒部隊長。侵入者二名ヲ現行犯特定」
バイザーの奥で、無機質な二つの赤い光がギラリと点灯した。
「都市統治AIアポロンノ規約ニ基ヅキ――肉片トナルマデ完全粉砕ス」
『嘘でしょ……!?』
アジトのノアが悲鳴を上げた。
『旧式の重装甲歩兵隊長機よ! 全身のタングステン装甲は徹甲弾すら跳ね返すし、あの左手のシールドは指向性の衝撃波を完全に遮断する防壁プレートよ! 正面からの火力勝負じゃ勝ち目がないわ!!』
「勝ち目があるかどうかは、撃ってみなきゃ分からねえよ!」
ヴォルクスが吠え、重散弾銃を構えて前へ飛び出した。
ガガガガガガガガガッ!!
隊長機の六連ガトリングが火を噴いた。大口径の弾丸が猛烈な嵐となって吹き抜けを埋め尽くす。
鉄骨が削れ、火花が滝のように降り注ぐ中、ヴォルクスは遮蔽物の鉄柱を蹴ってジグザグに肉薄した。
「喰らいやがれッ!!」
ゼロ距離。シールドの隙間を狙い、重散弾銃を連射する。
ドォン! ドォン! ドォン!
【Heavy Metal】の爆音リフが連続炸裂し、超質量の鉛弾がシールドを激しく叩く。
だが――タングステンの盾は、火花を散らしながらもビクともしない。
「防御効率、九八パーセント。対象ノ火力、計算ノ範囲内」
部隊長が無機質に告げ、巨大シールドを力任せに前方へ突き出した。
シールドバッシュ!
「ぐあっ……!?」
凄まじい質量攻撃を受け、ヴォルクスの巨体が吹き飛ばされ、背後のコンクリート壁に激突した。
「アニキッ!」
レイが駆け寄ろうとするが、ガトリングの掃射が床を抉り、足止めを食らう。
「……ケッ、なんちゅう硬さだ……!」
壁を背にして立ち上がったヴォルクスは、口元の血を親指で拭い、再び銃を構えた。
「なら、これでどうだ……至近距離から、ありったけ叩き込んでやるよ!!」
ヴォルクスが散弾銃の機関部へ手をかけ、残弾すべてを連射しようと引き金に指をかける。
だが。
――ジュウウウッ!!
銃身から、異様な焦げ付きの白煙が吹き上がった。
過酷な連射と、【Heavy Metal】の極限の音響エネルギーに耐えきれず、散弾銃の鋼鉄のバレルが真っ赤に発熱していた。
カチリ、カチリ。
引き金を引いても、撃針が落ちない。
薬室が熱膨張で歪み、機関部が完全に噛み合って固着していた。
「……チッ、ジャム(排莢不良)だと……!?」
ヴォルクスの顔から、余裕の笑みが消えた。
その目の前で、重装甲の部隊長がガトリングの砲口をヴォルクスの頭部へとゼロ距離で突きつける。
回転を始める六本の銃身。
「対象ノ兵器、機能停止ヲ確認。――処刑ヲ執行ス」
『ヴォルクス!!』
ノアの絶叫がインカムを裂いた。
絶体絶命のコンマ数秒前。
立ち尽くすヴォルクスの視線と、背後から疾走するレイの視線が、火花散る闇の中で交錯した。




